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『追放者達』、猛焔紅竜と決着を付ける

対ドラゴン戦、最終

 



「『龍闘法・奥義の三・地崩し』!!!」




 大上段に振り上げた得物を、自らの足で立つ『猛焔紅竜(レッドドラゴン)』の頭部目掛けて振り下ろすヒギンズ。



 非常に高い身体能力に加え、タチアナによる支援術と自身の龍気によって強化されたその一撃は、振るわれている得物の穂先が音速へと迫り、空気の壁を可視化させる程のモノとなっていた。



 既に必中の間合いに於いて、万全を期して放たれた奥義。



 しかし、位置的にもソレを成す術無く受けざるを得ない側であるハズの当の『猛焔紅竜(レッドドラゴン)』は、特にその一撃に対して警戒してもいなければ、碌に意識を割くことすらしていなかった。



 理由としては、単純明快。



 己の身体を覆う鱗の強度と、その下に存在している強靭な筋肉に、自身の身体の中でも最も骨の硬度が高く、それでいて体表に近しい部分まで存在している頭部に対し、如何なる攻撃であれ、それが物理的な攻撃であるのならば確実に無効化出来る、と言う自信が在ったからだ。



 現に、不遜にも自身の頭部を足蹴にしてくれているこの小さき者は、高硬度を誇る角を避け、ソレ以外の部分へと得物を振り下ろそうとしている。


 それは一重に、自らの得物と力量では、それらを破壊する事が出来ないのだ、と自ら喧伝しているのに等しい。



 そんな思考も在ったが故に、ヒギンズの所在が明らかになっていたとしても、特に意識を向ける事もせず、注意を払う事もせずに、むしろ視線と注意は先の目眩ましによる不遜と、回復役と言う面倒そうな役割と言う事もあり、この場に於いてはセレンの方へと集中していたと言えるだろう。




 故に、その慢心により、鱗を貫き、筋肉を抉り抜き、頭蓋を割り砕き、脳へとその威力と衝撃を伝播させ、余波にて王冠の様に並び立っていた角を根本から折り砕く一撃が炸裂した際には、何が起きたのか、何処からそんな衝撃がもたらされたのか、を把握する事が出来ずに意識に多大な空白が作られてしまう。




 自らの足元に放つ攻撃、と言う事もあり、あまり使い勝手の良い技では無い代わりに、他の追随を許さない程の絶大な威力を誇る『龍闘法・奥義の三・地崩し』。


 元より、地面へと放てば山であれば地滑りが起きて地形が変わる、とまで言われるその一撃を、様々な要因による強化を受け、並みの武具では追随を許さない程の性能を持つ、嘗て踏み入ったゾディアックのダンジョンより持ち帰った相棒を用いて行われたのであれば、只の一撃にて致命傷に近しいダメージを叩き出す事も不可能では無いのだ。



 現に、慢心からその一撃を無防備に急所へと受けてしまった『猛焔紅竜(レッドドラゴン)』は、意識を喪失したのか残されていた金色の瞳を反転させて白目を剥き、後ろ足で立ち上がった二足歩行の状態で在ったが、全身から力が抜けているのか膝から崩れ落ちてしまう。



 ……しかし、流石は大陸の覇者の一角、と言うべきか、その膝が地面へと付けられる寸前に意識を取り戻し、ギリギリの処で体勢を維持すると、急激に頭部を振り回して最重要警戒対象(目下最大の敵)として認定したヒギンズを無理矢理振り落としに掛かる。



 当然、彼も自身の攻撃によって空いた風穴により、目の前で急所()が剥き出しになっている好機を逃すハズも無く、そのまま振り落とされてなるものか!と必死に踏ん張る。



 しかし、負傷箇所から脳髄が溢れ落ちるのも厭わない程の勢いにて振り回されて、敢えなく足場としていた角から振り落とされてしまい、成す術無く地面へと落下させられてしまう。



 咄嗟に空中にて身体を捻り、姿勢を整えて足から落ちようと試みるヒギンズだったが、ソレをむざむざ見過ごすハズも無く、脳に直接叩き込まれたダメージによって血涙を流しながら、『猛焔紅竜(レッドドラゴン)』はその前足を振るって未だに空中に在ったヒギンズを薙ぎ払う!




「ヒギンズ!!??」



「ヒギンズ殿!!」



「ヒギンズ様!?」



「ヒギンズさん!!」




 四者四様に声が挙げられる。



 中には、悲壮感に満ちた、半ば悲鳴染みたモノも混ぜられていたりもしたが、ソレに構う事無く『猛焔紅竜(レッドドラゴン)』は自身の頭部の負傷へと魔法陣を展開すると、淡い燐光をその場に宿し始める。




「……これは、不味い。回復しておるぞ!」




 ソレは、彼ら『追放者達(アウトレイジ)』に取っては見慣れた光景であり、通常であれば絶望的な光景でも在った。



 本来、ドラゴンとはその種族の特性として膨大な迄の魔力を保有しており、必然的に魔法の扱いが巧みになる。


 故に、人間であれば適性が無ければそもそも使用する事の出来ない回復魔法でも難なく使用する事が可能であるし、通常であれば小規模な現象を励起させるだけの魔法でも大規模殲滅用のソレと変わらぬ威力を発揮する事になるのだ。



 今回彼らと対峙している『猛焔紅竜(レッドドラゴン)』も、ドラゴンとしてその法則から外れる事は無く、魔法も普通に扱えたのだが、これまでは彼らを嘗めきっていた為に使用していなかった、と言う訳なのだ。



 とは言え、既に致命傷に近しい攻撃を受け、更に言えばそこから回復するが為に魔法を使わされた(・・・・・)が為に、それまでの慢心は鳴りを潜め、目の前に在る彼らを『踏み潰す虫けら』から『打倒すべき敵』へと格上げしていたので同じ轍は二度と踏む事は無いだろう。



 そんな事情も在ってか、最低限頭部の致命傷を治療し終えた『猛焔紅竜(レッドドラゴン)』は、その未だに片方しか残されていない瞳にてこの場に於ける(最優先)最も厄介な存在(排除対象)である耳長のメス(セレン)を視界に納めると、何の躊躇も遊びも無く排除する為に振り上げた前足を振り下ろして行く。



 咄嗟に、間に割り込む様にセレンの回復魔法で復活を果たしていたガリアンが盾を構えて飛び込み、それと同時に『猛焔紅竜(レッドドラゴン)』の気を引く為にナタリアの従魔達が左右の後ろ足へと別れて飛び掛かって行く。



 しかし、幾ら復活を果たしているとは言え、既に多大なるダメージを心身ともに受けているガリアンでは、盾として背後に庇ったセレンへと攻撃を通さずに済むかどうかは少々心許ない。


 そして、『猛焔紅竜(レッドドラゴン)』の気を引く為に散開し、左右の後ろ足を攻め立てている従魔達も、新しく作られた神鉄鋼(オリハルコン)製の武具によって鱗を傷付け、その下の皮膚や肉を切り裂いて出血を強いる事に成功はしているが、言ってしまえばその程度。辛うじて傷を付ける事には成功しているが、それでも意識を割かれる事すら無い程度のモノでしかない。



 どうにかしてセレンを救おうと、タチアナとナタリアがセレンの元へと駆け出すが、到底間に合うハズも無い程度には距離が開いているし、何より二人ではその身を呈して盾となったとしても土壁処か木戸以下の耐久性しか無い為に、あまり効果は無いと言わざるを得ないだろう。



 しかし、それでも、彼女さえ生きていれば、蘇生魔法を扱えるセレンさえ生きていれば、この場で全滅したとしても、まだ再起する目は残される。


 だから、振り払われて生きているかも分からないヒギンズも、いつの間にか姿を消してしまっているアレスも頼りに出来ない以上、その身を呈してでもセレンを救うことこそが、生還する目を生み出す事となる。



 そんな思いから駆け出した二人だが、やはり距離が離れていた為セレンの盾になることも、また突き飛ばして救い出す、と言った事も出来ず、ただただ振り下ろされる前足の爪の間合いの内側へと踏み込んでしまっただけであった。



 ソレを目の当たりにしたセレンは、咄嗟に二人も範囲に納める形で結界を構築する。


 ……しかし、急拵えのモノではドラゴンによる一撃を完全に防ぐ事は叶わず、僅かな時間攻撃を留め置く事しか出来ずに澄んだ音を立てながら、アッサリと粉砕されてしまう。



 そして、立ちはだかったガリアンが腕を切り裂かれながら吹き飛ばされ、従魔達も身動ぎ一つで弾き飛ばされてしまう。




 …………あぁ、これは、もう死んだな……。




 そんな考えが女性陣三人の脳裏を過り、彼女らの視界に迫り来る爪が一杯に広がりつつ在ったその時。






「…………テメェ、何そいつに手出そうとしてくれてやがるんだ?

 そいつは『俺の』だ!!テメェみたいなトカゲモドキが手出して良い様な、そんな安い女じゃねぇんだよ!!!」






 そんな、怒りと殺意に満ちた怒声が響き渡ると同時に、治癒しかけていた『猛焔紅竜(レッドドラゴン)』の頭部の傷口に深々と刃が突き入れられる。




 ギ、ギャォォォォォオオオオオオン!?!?




 あまりにも唐突な事態に、驚愕と苦痛の叫びを挙げる『猛焔紅竜(レッドドラゴン)』。



 そして、目の前で迫り来つつあった爪が急停止し、その後メチャクチャに振り回され始めた事で、半ば腰を抜かしながらどうにか間合いから逃げ出した女性陣の目には、狂乱して暴れまわる『猛焔紅竜(レッドドラゴン)』の姿と、その頭部にて刃を突き立てながら徐々にその姿を顕にし始めているアレスの姿が写り込む。



 右に左に振り回されつつ、必死に得物の柄にしがみつき、振り落とされまいとしながらも突き立てた刃をこじってダメージを与えながら悪態を吐く。




「……クソッ!このクソトカゲ、いい加減にくたばりやがれ!!

 こちとら、『バックスタブ』やら『急所抜き』やらも併用してるって言うのに、何でまだ生きてやがるんだよ!?とっととくたばりやがれ!!

 オッサンも、そろそろ行けるんだろ!?最後の美味しい処はくれてやるから、さっさと止め刺しちまえよ!!!」





「…………なははっ、言われるまでも無いさ!!!

 これで、終いだ!『龍闘法・奥義の一・天砕き』!!」





 吹き飛ばされた先の森から、ヒギンズが飛び出して来る。



 その姿は正に満身創痍。


 左腕は上腕の部分で変な方向に曲がっており、顔面の左側は何かに擦り付けたのか一様に赤黒く濡れた肉塊と化していた。



 しかし、その瞳には未だに闘志が燃え滾り、口元には戦悦による笑みが貼り付けられて半月模様を描いている。



 そして、飛び出して来た勢いのままに『猛焔紅竜(レッドドラゴン)』の懐へと駆け込むと、その場で尻尾をたわめて垂直に飛び上がり、その喉元に生えている逆鱗に対してそれまでの勢いの全てを叩き込む!!



 対地に特化した『奥義の三』に対し対空に特化した『奥義の一』を使用し、ドラゴン共通の急所である逆鱗を撃ち抜くヒギンズ。



 それに合わせて呪文を詠唱し、いつぞやと同じ様に脳内へと直接魔法を叩き込もうとするアレスだったが、その前に『猛焔紅竜(レッドドラゴン)』がその身体を突然大きく揺らした為に発動させる前にヒギンズ諸ともに振り払われてしまったのだが、『猛焔紅竜(レッドドラゴン)』自体がそのまま地面へと崩れ落ちてしまう。




猛焔紅竜(レッドドラゴン)』の巨体が崩れ落ちた事により、再度立ち込める土煙。


 それが晴れた時、そこには崩れ落ちたままの体勢でピクリとも動かなくなっていた『猛焔紅竜(レッドドラゴン)』の姿が存在していたのであった。










………………そして、彼らの元へと、もう一つの影が静かに迫りつつ在るのであった。




取り敢えず、今回でドラゴン戦終了

次で締めてその次に閑話を挟んで次章に行く予定です



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[気になる点] 何か「俺の女に手を出すな」的な発言で後は既成事実でアレス君が尻に敷かれる未来がw
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