『追放者達』、猛焔紅竜との戦闘を継続する
「取り敢えず、最初みたいな上空から息吹の一撃で一掃、ってふざけた真似はもう出来ないハズだ!
だから、何時も通りにガリアンとオッサンが最前衛!
セレン、タチアナは適宜回復魔法と支援術・妨害術を使用して援護を!
ナタリアは隙を見て従魔達に攻撃の指示!俺は遊撃に回る!
……生きて帰って名を上げて、俺達を追放してくれた奴等に吠え面を掻かせてやるぞ!だから、全員死ぬなよ!!」
「「「「応!!!」」」」
「はいはい、了解~。オジサン、頑張っちゃうよ~!」
駆け出しながら指示を出すアレスに対し、威勢良く応答するメンバー達。
その声からは、少し前迄の茫然自失としていた様子は感じられず、戦場を駆け抜ける頼もしい戦士達の気迫が感じ取れた。
同じ様な考えでアレスと共に強襲を仕掛けたヒギンズも、彼らの良い方向への変化に笑みを溢し、最前衛でのアタッカーを担う身として一人戦列から突出して行く。
ソレを迎え撃つかの様に、四足歩行状態から立ち上がり、二足二腕状態へと移行してから爪を振り上げる『猛焔紅竜』。
一見無造作にも見える動作にて振り下ろされたその前足は、比較的遠くから見ているハズのガリアンをしても霞んで見える程の速度で振るわれる。
その為、前足に生えている四本の巨大な爪の内の一本でも身体の何処かに掠めでもすれば、それだけで命の危機が訪れるであろう事を、容易に予想させていた。
が、しかし、ソレはあくまでも彼以外の者が対峙していた場合、の話となるだろう。
何せ、彼はあまり自身が挙げた過去の手柄話を語りたがらないが、元冒険者としての最高峰に位置するランクに席を置き、数多の戦場を駆け抜け、幾頭もの竜を屠って見せた実績の持ち主である彼が後ろ足で立ち上がった時点でソレに気が付かないハズが無く、その場で軽く跳び跳ねる事で爪と爪の隙間に身体を通し、接近する足を止めずに華麗に攻撃を回避して見せる。
そうして神掛かった回避を披露したのも束の間に、今度は着地と同時に強烈な踏み込みを仕掛けて接近し、『猛焔紅竜』の懐へと飛び込んで攻撃を無力化してから腹部への攻撃を敢行しようと試みる。
しかし、ソレを予測出来なかった訳が無かろうが、と言わんばかりに残された片目を細めた『猛焔紅竜』は、その場で軽く身体を捩ると、背後から猛烈な勢いで振り回された尻尾が、途中に在った何もかもを薙ぎ倒しながらヒギンズの元へと殺到する!
流石に、既に全力で前へと踏み出してしまった彼に、一時停止して回避する事も、また後退してやり過ごす事も不可能に近い状況であり、そのまま巨体を支える超筋力による大質量攻撃が直撃すれば彼で在っても落命は必須か、と思われたその時。
「……当方がまだ五体満足で立っていて、そんな大雑把な攻撃を通すハズが無かろうが!!」
隊列の先頭付近に居た盾役たるガリアンが、気焔を挙げながら『猛焔紅竜』とヒギンズとの間に得物を掲げた状態にて飛び込み、その場で腰を落として重心を固定し、ドッシリとした構えを取って見せる。
ソレを目にしたヒギンズは、信頼から来る微笑みを口許に浮かべると、ソレまでよりもより一層強く踏み込みを仕掛け、更に移動する速度を上昇させる。
一方、突如として飛び込んで来た小さきに、『猛焔紅竜』は若干ながら不快感を抱いていた。
盾に籠る事しか出来なかった小物が、卑劣な奇襲でとは言え自身に傷を負わせた者との戦いに割り込んで来るとは、身の程を知れ!!
そんな思考と共に、その背後で加速を始めたヒギンズごと粉砕するつもりで尻尾が振るわれる。
仮に直撃すれば、その瞬間に彼らの肉体的な強度では寸毫たりとも耐える事は出来ず、即座にバラバラになる処か肉片の混じった血霞となる事は間違いない攻撃を、手にした盾と発動させたスキルの数々を信じてガリアンは受け止める!
ギャバッジャーーーーーーーン!!!
甲高い金属音の様であり、かつ水気を含んだ肉がぶつかり合った様でもある大音響が周囲へと響き渡る中、『猛焔紅竜』の残された片方の瞳が驚愕によって大きく見開かれる。
何故なら、自身の力を振るって直撃せしめたハズの相手が、その場で水袋を破裂させた様に弾けるハズの相手が、未だに両の足にて地に立ち、その両手に構えた盾にて自らの尾を受け止めて見せて居たのだから。
もちろん、受け止めたガリアンは無事では済んでいない。
自身の足で未だに立っているし、確かに結果としては『猛焔紅竜』が本気で振るった大木の様な尾の一撃を、見事に受け止めきって見せている。
……しかし、その実としては『受け止めきった』だけで既に彼の身体はボロボロであり、最早立っているのがやっと、と言った状態へと成り果てていた。
今は、『猛焔紅竜』が『受け止められるハズが無い攻撃を受け止められた』と言う事実に衝撃を受けて暫し呆然としている故に未だに襤褸が出ずに済んでいるが、良く見てみればその足元には鎧の隙間から流れ出して来た出血によって赤い水溜まりが大きくなりつつあった。
故に、後一撃でもこのままの状態で加えられてしまえば、彼は成す術無く打ち倒され、その命の灯火を呆気なく散らす事となってしまうだろう。
辛うじて意識は残されているが、身体を動かしたり反撃を加えたりする余力はもう……と言った状態となっていたガリアンの背中へと
「……良くやった!それと、肩借りるよ?」
とのセリフと共に、肩へとそれなりに強い衝撃が加えられる。
その衝撃により、既に身体に力が入らなくなっていた為に、思わずその場で膝を突いてしまうガリアン。
ソレにより、この戦場にて大きな動きを見せたのは僅かに三つ。
一つは、自身の役割を果たすべく、一刻も早く仲間を救うべく、大急ぎで彼へと複数の回復魔法を飛ばすセレン。
もう一つは、攻撃を受け止められた事による驚愕から放心していたが、アレも相応以上のダメージを負っていた、と言う事を確認して正気を取り戻すと同時に目の前に影が迫っていた事に再度驚愕する『猛焔紅竜』。
そして、最後の一つが、ガリアンが攻撃を受け止めてくれたお陰で減速する必要が無くなり、必要な分の加速を十二分に取れた上に、彼の肩を踏み切り台として利用して『猛焔紅竜』の眼前へと躍り出たヒギンズであった。
半ば反射的に、目の前へと飛び出して来たヒギンズに対してその顎を開き、下手な長剣よりも鋭い牙にて引き裂こうと首を自ら伸ばして来る。
普通であれば、大空を舞う処か空中にて姿勢を整える事すら出来ない人間相手に外すハズも無く、外れるハズも無い絶対の間合い。
目を瞑っていたとしても、外し様も無い必殺の一撃。
しかし、その外し様の無いハズの攻撃は、突如として視界を染めた強烈な閃光にて半ば無理矢理挙動をずらされ、呆気なく空を噛む事となる。
次の瞬間には順応を取り戻した『猛焔紅竜』の残された瞳には、自身へと手にした杖を掲げて向ける耳長のメスの姿が写し出されていた。
自身の行動を、高々目眩まし程度で邪魔してくれたのか!?と激昂し、怒りの咆哮を挙げる『猛焔紅竜』だったが、その頭部に先程飛び込んで来ていたヒギンズが飛び乗っており、手にした得物を大上段に振り上げて、自身の体内に満ちる龍気を最大まで高めてから『龍闘法』の中でも奥義に分類される技を繰り出すのであった。
「『龍闘法・奥義の三・地崩し』!!」
もう一話続きます
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