『追放者達』、猛焔紅竜の逆鱗に触れる
「リーダー!?」
「アレス様!!それに、ヒギンズ様も!?」
「……良かった、生きてた……!
姿が見えなかったから、アタシてっきり……!」
「ガリアンさんの後ろに飛び込んで来ていなかったのは、アレを狙ってたから、って事なのですか!?」
墜落した『猛焔紅竜』が土煙を立てて姿を隠した事により、それまで受けていた威圧感から解放されたらしいメンバー達が、突如として飛び出してきて『猛焔紅竜』に対して強襲を仕掛け返したアレスとヒギンズの元へと駆け寄って行く。
彼らの表情には、無事であった事への安堵や彼ら本人への信頼、戦力としての頼もしさと、実際に目の前で飛んでいたドラゴンを撃墜せしめた実績による勝ち筋への光明が浮かんでいた。
……しかし、そうやって声を掛けられた方の本人達は、何処か浮かない表情を浮かべながら、未だに上がり続けている土煙へと視線を固定し続ける。
「…………なぁ、オッサン?アレで、殺れたと思うか?」
「……なはは、そうやって聞く、って事は、どうせリーダーも本気でそう信じてる訳じゃないでしょ?
それで、どうしようか?取り敢えず、逃げてみる?」
「……それこそ、まさか、だろうよ。こんな千載一遇のチャンス、見逃せるハズが無いだろう?
それに、オッサンだって、最初からそのつもりで動いてただろう?逃げるのが大前提なら、あそこで飛び出さずにケツ捲って逃げてれば、ソレだけで生還は確定してた。違うか?」
「なっはっは!流石に、リーダーは誤魔化せないか!
そりゃあ、ねぇ?以前ですら、命賭けで漸く倒せる相手だったけど、それでも倒せれば素材もお金も名声も欲しいまま。そんな相手が目の前に突然飛び出してくれば、そりゃあ枯れかけたオジサンでも思わず手を伸ばしちゃうのは仕方無いんじゃないの?」
「まぁ、そりゃそうよな。
なら、より確実に今後の戦闘を優位にする為に、取り敢えず追撃しておこうか!
『氷河よ!永久に変わらざる永劫なる氷河よ!その内に眠る原初の凍土を、今この場に顕現せしめよ!!『凍結する瀑布』』!!」
「なっはっは!ソレに関しては、オジサンも賛成さ!『龍闘法・翔貫』!『龍闘法・散牙』!」
アレスが長く呪文を詠唱する事によって発動された、大魔導級氷属性魔法である『凍結する瀑布』の魔法陣が上空に展開され、立ち上っていた土煙を押し潰しながら洗い流して行く。
氷属性魔法としては珍しく、氷を生成せずに永久凍土の奥底に眠る『液体として存在している超低温の水』を召喚するその魔法は、瞬間的な破壊力と言う意味合いに於いてはあまり高いとは言えないだろう。
……だが、他の同階級の魔法と異なり、例え相手に属性耐性が在ろうとも、強力な対属性を持っていようとも、強制的に凍り付かせる事を可能にし、最終的には氷の棺桶に埋葬される事となる。
その理由は、この世界では未だにハッキリとコレだ!と判明している訳では無い が、魔力による現象では無く物理的な温度による凍結現象である、と言うのが稀人による見解であるらしい。
限界を大きく下回る温度の激流に呑まれ、バキバキと凍り付く音を立てつつも、驚愕と苦痛の叫びを挙げる『猛焔紅竜』へと向けて、ヒギンズからも二つの技が放たれる。
片や、以前『神鉄鋼傀儡』と戦った時にも使用した、自身の龍気を飛ばす『龍闘法・翔貫』。
そして、もう片方は、他の技と併用し、相手の体内へと打ち込まれた龍気を故意的に炸裂させる事により、体内からまるで牙が飛び散って飛び出して来た様に見える状態となる、非常に威力の高い『龍闘法・散牙』。
半ば禁じ手と化している組み合わせによる追撃を切っ掛けとして、未だに頑固に残されていた土煙が内側から吹き飛ばされ、その中身たる『猛焔紅竜』の現状が顕になって来る。
アレスの保有する魔力の大半を込められた魔法の連発により、鱗に覆われず比較的『柔』な体表である翼膜は所々に大穴が空き、とてもでは無いが飛行は不可能に思える。
おまけに、翼その物もアレスの魔法によって凍り付いており、こうして見ている間にもその凍結している範囲を僅かずつながらも広げ始めていた。
嘗て彼らを睥睨していた瞳の内の片方にどうやらヒギンズの一撃が偶々命中していたらしく、まるで内側から爆破された様に割れ砕けており、虚ろになった空っぽの眼窩から血液やその他の液体を、まるで涙の様に流していた。
大空と言う絶対的なアドバンテージを喪い、このまま放置し続ければ確実に命に届く負傷を既に受けている。
おまけに、その金色の瞳は偶然とは言え一つ潰されており、戯れに手を出してみた『彼』の面子をズタズタに引き裂くと同時に、『彼』のプライドも粉々に粉砕されてしまっていた。
……それ故に、『猛焔紅竜』の残された瞳には、未だに戦意が、敵意が、闘志が宿ったままであった。
怒気と殺意で黒く染まる視界にて、『猛焔紅竜』は思考する。
戯れに手を出してみた小さきモノ達が、その弱さに同族の中でも定評の在る矮小なる存在が、大空を舞う手段すら持たない下等生物が!
未だに末席に過ぎないとは言え、誇り高き竜の一員たる自分の自慢である翼を奪い!あまつさえ、竜の貴種の証である金色の瞳を卑劣な手段で奪ってくれたのだ!!
なれば、なればこそ、ここでおめおめと尻尾を巻いて逃げ帰る、等と言う事は断じて出来ない!するつもりも無い!!
いずれ、時が立てば双方ともに治癒する程度とは言え、自らの自信と、種族としての誇りを傷付けられたのだ。この怨み、この怒り、この殺意!断じて晴らさずにはいられない!そうでなければ、竜として今後生きて行く事は出来ない!!
そんな、赫怒と殺意が入り交じり、その鱗すら赤黒くなって見える様な錯覚すらしてくる程の空気を周囲にバラ撒きながら、物理的な圧力すら感じる程の咆哮を挙げる『猛焔紅竜』。
確実に骨まで蝕む凍気に犯され、既に肉や鱗は凍り付いているハズの翼を大きく広げ、貫かれ割り砕かれた眼窩から様々な体液を滝の様に流しながらも、その堂々たる偉容から発せられる圧力は僅かにも減じておらず、思わず女性陣は揃って一歩後退ってしまう。
しかし、アレスとヒギンズは、コレで逃げられる事は無い、と普段のソレとは掛け離れた好戦的で狂戦的な笑みを浮かべ、ガリアンはガリアンでアタッカーの二人が居るのであれば、恐らくはどうにでも出来るだろう、と僅かに諦めも滲んだ獰猛な笑みを口許に浮かべて得物たる盾を握り直す。
それに釣られる形で、まずセレンが己を取り戻し、全員に対して『恐慌を静める天の祝福』の魔法を施し、次いでタチアナが全員に『胆力強化』を掛けて少し前の様に戦意が挫ける事や、『恐慌』の異常状態にならない様に防止を施す。
こうする事で漸く、並みの鋼鉄よりも頑丈な鱗を持ち、異常な迄の筋力と無尽蔵の魔力、天を駆け巡る翼に、意思の弱い者であれば恐慌をもたらす瞳を兼ね揃える存在であるドラゴンと相対する準備が辛うじて整う事となる。
更に言えば、先の奇襲で翼を潰した事で漸く、本当にその段迄運んでやっと、僅かに彼らにも勝ちの目が出る可能性が見え始めるのだ。
そんな、本来であれば彼らであったとしても勝ち目の薄い、本当に僅かにしか勝ち筋の無い戦いへと嬉々として挑んむべく、全員で揃って大きく『猛焔紅竜』へと向けて駆け出して行くのであった。
取り敢えず、次かその次辺りで片を付ける予定です
伸びたらごめんなさいね?
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