『追放者達』、強襲される
依頼に在った『森林剛猿』の群れを殲滅し、素材として使える部位を解体してナタリアの橇に積み込み終えて一休みしていたその時、唐突にアレスが怪訝な表情をしながらポツリと呟きを溢す。
「…………ん?なんだ、コレは……?」
普段から、念のために、と気配察知系のスキルを発動させていたアレスは、休憩中の哨戒に出ていた従魔達や、五感の鋭いガリアンや勘の良いヒギンズよりも先に近付きつつ在る『ソレ』の気配を察知する事になり、出所を探して視線を周囲へとさ迷わせる。
が、しかし、察知したとは言え対象との距離が開き過ぎているからか、ハッキリとした方角までは判別する事が出来ず、どの方角を見回しても『こっちだ!』と言う普段から馴染みの深い感覚が沸き起こって来ない。
そうして周囲を見回している内に、ヒギンズ、従魔達、ガリアンの順に何かを感じ取ったらしく、休めていた身体を跳ね起きさせて得物へと手を掛け、周囲へと視線を走らせ始める。
だが、アレスと同様に確たる証明は出来ていないらしく、視線や鼻先をあちらこちらに向け回し、気配の出所を探して行く。
そんな彼らの姿を見たからか、それまでは座り込んで身体を休めていた女性陣も、何事か!?と意識を戦闘時のソレへと変化させながら立ち上がり、アレス達と同じ様に周囲へと視線を配り始める。
自然と背中合わせになり、周辺へと視線を投げ掛けて気配の出所を探る内に、何かの物音が聞こえて来始めた様な気がしてくる。
俄に警戒の度合いを強めたアレスに倣って警戒度を高める他のメンバー達の耳にも、何かが羽ばたく様な正体不明の物音が聞こえ始めた。
それにより、半ば反射的にアレスとヒギンズが、一拍遅れてガリアンと従魔達が視線を横方向では無く縦方向へと移動させ、自分達へと向かって飛来してくる一つの『影』を視界に納める。
メンバー達の大半が初めて目にするその姿に、思わず思考が停止してその場で棒立ちになりかかるが、彼らの方へと目掛けて飛来して来ているらしい『影』が、その大きさをぐんぐんと大きくしてきてくれている事を理解した途端、背筋を極大の悪寒が貫いて強制的に身体が本能にて無意識的に死なない様にする為の最善の行動を取り始める。
「皆!当方の背後に回れ!死にたくなければ、急がれよ!!『タウント』『オールガード』『リスクカット』『フォートレス』『ポイントロック』!
……これで、持ってくれればよいのだが、な……!」
「くっ……!?マジかよ!?」
「え、『頑健強化』!『四重強化』!『全体波及』!!『魔力強化』!『四重強化』!!
セレン!早く、結界だか防壁だか張って頂戴!早く!!!?」
「解ってます!!『神よ!敬虔なる貴方の子らに、災厄から身を守る為の清く強靭な傘を貸し与えたまえ!『天の慈悲による隔壁』』!!」
「……き、君達も、早くこっちに来るのです!?早く、早く!!!?」
盾を構え、その場から動けなくなる代わりに絶大な耐久性を得るスキルや、仲間と認識した者へと敵の注意が向きにくくなるスキル、実際の盾の大きさよりも広い範囲を防御出来る様になるスキルや、どんな種類の攻撃でも防御を可能にするスキル、毒や混乱等の状態異常になるリスクを抑えるスキル等を発動し、自らの背後へと逃げ込め、と呼び掛けるガリアン。
必死の形相にて呼び掛ける彼に呼応する様に、練度が高まった事によって詠唱を省いて支援術を発動させられる様になり、更に全体強化もできるようになったタチアナがガリアンへと四重に頑健さを強化し、その効果を全員へと波及させて行く。
更に、だめ押しとばかりに、セレンが現状使える中で、最も上空からの攻撃に対して高い防御力を持つ結界を発動させ、彼方の影が放っている『紅蓮の輝き』に対しての最初の防備として翳して行く。
……本来であれば、コレだけの装備と支援と準備を終えての防御陣ならば、大半の魔物からの攻撃は完全に無効化出来ただろう。
それこそ、直近の戦闘で言うのならば、『神鉄鋼傀儡』の攻撃程度であれば無事に耐えきり、彼の『不死之王』であったとしても強化後の状態での全力攻撃以外であれば、完全崩壊せずに耐え続ける事が出来たであろう程の強度と防御力を持っている。
……持っているのだが、上空から飛来した紅蓮の輝きを纏った『ソレ』が直撃した事により、分厚く張られた氷にひび割れが発生する時と同じ様な音を立てながら、着弾した場所から徐々に亀裂を結界全体へと波及させて行く。
術者たるセレンも、歯を食い縛って魔力の出力を上げて結界を修復し、必死に耐えようと試みるが、修復されて行くよりも亀裂が広がって行く速度の方が早く、結果的に結界を破壊されてしまう。
「……そ、そんな……!?」
「えぇい、まだだ!まだ当方が居る!諦めるでない!!」
思わず悲嘆の声を挙げてしまったセレンに対し、相棒たる盾を構えてその場で踏ん張りながら叱咤の声を挙げるガリアン。
そして、裂帛の気合いと共に、少しでも飛来した『ソレ』の勢いを殺すべく、着弾に合わせて盾を突き出して多少なりとも相殺するべく試みる。
上空より飛来した、紅蓮の焔の塊である『ソレ』と、数々のスキルによって強化された岩人族の名工ドヴェルグの手が入れられた逸品である盾がぶつかり合い、周囲に強烈な閃光と轟音が響き渡る。
「…………ぐっ、ぐおおおおおおおおっ!!!」
直接ぶつかり合っている盾を支え、自身もその肉体にダメージを受けながら耐えて行くガリアンが、『追放者達』が結成されてから今に至るまで溢したのを聞いた事が無い苦悶の声を周囲へと響かせる。
しかし、盾を回り込んで身を焼きそうな焔も、ソレによってもたらされる熱も、彼が発動させているスキルによって彼がその身一つで全て受け止めている為に、背後で守られている女性陣には一切の影響がもたらされる事は無く、ただただ目の前で地獄の様な光景が繰り広げられて行く。
当然、ただただその背中を見ているだけではなく、セレンは回復魔法にてガリアンが負ったダメージを受ける端から回復して行き、タチアナは追加で支援術を重ね掛けして行く。
こう言った場面では何も出来る事の無いナタリアは、一人だけ彼にして上げられる事が無い、と言う事実に悔しさから唇を噛み切ってしまい、同じく彼の背後に回っていた従魔達に心配されてしまう。
そうしている内に、上空から照射されていた『ソレ』が途絶えたらしく、徐々に正面に広がっていた紅蓮の地獄が薄くなって行き、更に時間の経過で完全に薄れて行く。
その段になって漸く未だに構えていた盾を下ろし、全身から煙を上げながら苦鳴を挙げつつ膝を突くガリアン。
そんな彼へと、彼の背後に庇われていた全員が駆け寄り、手にした水筒から水を振り掛けたり、回復魔法を使ったりして彼が負った火傷等の治療を進めて行く。
未だに危険地帯に居る、と言う事もあり、鎧を脱がして直接処置する、と言う事が出来なかった為に、少しでも彼の苦痛を和らげるべく持ち込んでいた水を頭から被せて鎧を冷やし、全身に対して回復魔法を掛けて負っているであろう火傷を治療する。
そうしている内に、彼らの上空から大きな羽ばたきが聞こえて来るのと同時に、周囲が突如暗くなった事に気が付く一行。
…………上に、何か居る……!?
そんな共通認識の元に視線を上げたメンバー達の視線の先には、この大陸の覇者。大空の王。最強種の一角である、堂々たるドラゴンの偉容が惜し気もなく空中に晒されていたのであった。
フラグ、回収
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