表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/220

『追放者達』、肩慣らしに向かう

 



「……ドラゴン、ですか……?」




 思わず、と言った感じでセレンが言葉を漏らす。


 しかし、それも仕方の無い事だろう。



 何せ、基本的にはドラゴンと言う魔物は人里の近くに出現しない。


 大概は、火山の火口や氷河のど真ん中。砂漠の最奥や大森林の奥地等にてその存在や所在が確認されたりするが、基本的にはそう言った僻地から外に出てくる事が無いのだ。



 しかし、だからと言って人類諸族にとって特に不利益が在る訳ではない。


 と言うよりも、寧ろそう言う場所から出て来られた場合、多大な迷惑を被る形となる、と言えるだろう。




 何せ、ドラゴンは持ちうる力の強大さにて有名な魔物だ。




 その巨体は歩くだけで地面を揺らす為に、人間では只近付く事すら難易度が急上昇する羽目になる。


 下手な大剣よりも長大な爪や牙は、人の手で作れる防具を紙屑の様に切り裂くし、体長の半分近くを占める尾の一振りで下手な街なら更地と化す事となってしまう。


 挙げ句の果てに、ドラゴンの代名詞でもある息吹(ブレス)を使われた日には、下手な規模の国であればその一撃で壊滅する羽目になりかねない、と謳われている程の威力が在る…………らしい。




 それ故に、その存在が確実なモノである、と断定された瞬間に、余程の僻地か、もしくは存在その物が変化して穏やかな気性を獲得している『龍』の眷属でも無い限り、国を挙げての大討伐作戦が迅速かつ徹底的に施行される事となる。



 そんな事態になりかねないワードが唐突に飛び出てきたが故の彼女の反応であったのだが、それに対してシーラは苦笑いにて返事とした。




「……とは言いましても、未だに当ギルドの方で確認が取れている訳ではないですし、それなりに遠く離れた場所ですので、仮に出現していたとしても人的な被害はそこまで心配しなくても大丈夫、と言う事情も在りまして、まだ討伐依頼が発行されてすらいない、と言うのが現状です。

 それに、ドラゴンが出た、と言う証言も、現地にて依頼を受けていた冒険者から寄せられたモノなのですが、その一人以外は今の処目撃した、と言う情報も遭遇した、と言う情報も上がって来ておりませんので、こうして注意喚起を呼び掛けるに止まるしかない、と言うのは些か歯痒いであるのは間違いない限りです……」



「……そう、だったのですか……。

 では、実際に出現する事は無い、と見てもよろしいのでしょうか?」



「そこも、今は正直不明な点ばかりで確約は出来かねますが、流石にギルドの方でもデマの類いでは無いのか?と疑っている状態でして……」



「まぁ、確かにフルフーレ山って言えば、結構危険度の高い場所らしいと聞いた事が在るし、ソレ関連で調査が進んでいない、って事で良いんですかね?」



「……お恥ずかしながら……。

 一応、目撃情報として寄せられた以上、ギルドとしても調査をせざるを得ませんし、そこに赴かれる冒険者様にも注意喚起をする義務がございまして……。

 これで、デマだと決め付けて通達せずにいたら本当に出現していた、となったら大問題ですので……」



「まぁ、知らずに遭遇したらそら確実に死ぬわな」



「えぇ、そうなるかと。当ギルドとしましても、有望な冒険者様方に亡くなられるとソレだけで大きな損失が発生致します。

 ソレだけでなく、調査もせずに放置していたら、いつの間にか人里の近くに移動していて……なんて事も『有り得ない』とは言い切れませんので、こうしてデマの可能性が高くとも注意喚起だけはさせて頂いている、と言う訳です」



「了解。じゃあ、取り敢えず『居るかも?』程度には気を付けてみますね」



「ご機嫌よう」




 そう別れの挨拶をした二人は、シーラから渡された依頼書を手に酒場で待つメンバー達の元へと向かって行くのであった。






 ******







「ゴアァァァアアアア!!!」



「ふんっ!!」




 咆哮と共に殴り掛かって来た『森林剛猿(グレートウータン)』の拳を、こちらも掛け声と共に新調した盾で受け止めるガリアン。



 剛猿(ウータン)と呼ばれる魔物の一種であるソレは、猿と名前に入っている通りに長い腕も使った変則的な四足歩行を行う魔物であり、前傾姿勢に於いても数メルトの体高を誇るその巨体に見合うだけの怪力が一番の特色である、と言えるだろう。


 更に言えば、中途半端に知恵が在る為に、そこら辺の木を引き抜いて即席の棍棒を作って振り回す、と言った行動にも出る為に、一頭だけでもAランク指定を受け、群れで行動している時は群れの規模によってはSランクの指定すら受ける事の在る、遭遇は死に直結すると言われる魔物の内の一つである。



 そんな、腕力特化の魔物の一撃を真っ正面から受けてしまったガリアンだったが、当然の様に無傷であるだけでなくその場から動く事も無く受けきって見せた。



 以前であれば、タチアナからの支援術が在ればソレと同じ事も出来ただろうが、今回はソレすらも無い生身の状態にてやりきって見せていたのだ。



 それにより、自らの豪腕の一撃にて砕けない小さきモノがいる、と言う事実に、驚愕から目を見開いて一瞬固まってしまう『森林剛猿(グレートウータン)』。



 寧ろ、そうして殴り付けた拳の方が悲鳴を挙げ、固められていたハズの拳は幾本かの指が砕けて通常とは逆の方向へと曲がり、耐え難い程の激痛を放っていた。



 ソレを認めたく無かったのか、更なる咆哮と共にもう片方の拳を振り上げた『森林剛猿(グレートウータン)』だったが、緩慢な動作と動揺を晒していた隙をガリアンがみすみす見逃すハズも無く、がら空きとなっていた顔面へと盾による殴打が入れられ、悲鳴を挙げながら両手で顔を覆ってたたらを踏んでしまう。



 両腕は上げられ、周囲への注意も散漫。おまけに、既に戦意も喪われつつ在る。



 最早、先程までの戦士から只の獣へと成り下がった『森林剛猿(グレートウータン)』へと、何処か冷めた視線を兜の奥から向けたガリアンは、そんな隙だらけな獲物の急所へと手にした斧を叩き込んでこの戦闘を恙無く終了させる。




「…………ふぅ。どうにか、大禍無く倒しきる事が出来た、か……。

 しかし、この装備は凄いな。アレだけの攻撃を受けてなお、びくともせぬとは、恐ろしい程の性能であるな。

 ……コレにかまけて傲ってしまっては、堕落は免れまい。慢心せずに、コレらを扱える様に精進せねばな。

 ……そう言えば、リーダーの方はどうなって……っと、言っている間に片が着いたみたいであるな」




 止めを刺した事で一息着いたガリアンが、アレだけの攻撃を受けたにも関わらず傷一つ付いていない装備の表面に視線を向け、一人背筋を冷たくしながら回りを見回す。


 すると、丁度一頭の『森林剛猿(グレートウータン)』の後頭部から得物の刃を突き刺し、突然の出来事に呆然として事態を把握出来ていない様子の『森林剛猿(グレートウータン)』が崩れ落ちて轟音を上げている背後から、滲み出る様にしてアレスがその姿を顕にする。




「……コレ、ヤベェなマジで。

 切れ味だとか、耐久性だとかも今までのヤツよりも段違いだけど、何より魔力の通りが桁違い過ぎる。こんなの、ホイホイ使って良いモノじゃねぇだろうがよ。

 あの爺、なんてモノ作ってくれやがったんだよ……!?」




 その顔には戦慄の色が刻まれており、額には自らが握っている得物に対しての冷や汗が浮かんでいた。



 そして、似た様な表情を浮かべて顔を強張らせているガリアンが視線を向けて来ていた事に気が付き、恐らくは似た様な事を考えているのだろう、と当たりを付けると、視線を合わせたまま無言で頷いて見せる。




 装備に傲らず、堅実に。




 互いに認識を視線にて交わらせた二人は、ソレを固く心に誓うと、性能を試す為に一対一の状況を作るべく他の『森林剛猿(グレートウータン)』を引き受けてくれていたメンバー達の援護へと向かうのであった。













 …………その様子を、フルフーレ山の山頂から眺めている一つの大きな影に気付く事も無く。





面白い、かも?と思って頂けたのでしたら、ブックマークや評価等にて応援して頂けると励みになりますのでよろしくお願い致しますm(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ