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『追放者達』、装備を引き取りに行く

 


 各自それぞれの二人組にて互いに絆を深め合い、それぞれなりに休暇を過ごし、その後パーティーハウスにて互いが互いにニヤニヤしたりされたりを繰り返し、最終的には男子会、女子会にまで発展してそれぞれで何が在ったのか、何をしたのかを聞き出し吐かせあってから数日が経過した頃。



 彼らの姿は、揃って職人区画に存在していた。



 当然の様に、お目当ての行き先はドヴェルグの工房。



 なので、その道中は特に目もくれずにサクッと通り過ぎて行く。



 ……過ぎて行くのだが、数日前にタチアナとヒギンズがノミ市を回っていた場面だとか、アレスがセレンを抱き締めた後に手を繋いでいた場面だとかを目撃していた一般市民がそれなりにいたらしく、彼らの姿を見た者達は当然の様にソレについての噂話に花を咲かせ始める。



 流石に、それらの噂話に一々反応していられない為に足早に移動して行く彼らだが、森人族(エルフ)特有の耳の良さを持つセレンや、聴力に関してはそれに次ぐ獣人族(ベスタ)であるガリアン、スキル等の補正により同等の聴力を持つアレス等は、聞くつもりが無くてもそれらが耳に入ってしまい、勝手な物言いに顔をしかめたり、無遠慮な言葉に顔を赤らめたりしてしまう。



 ソレにより、更なる下世話な噂話が広げられて行くのだが、それらは名が売れてきている弊害だと割り切って今度こそ無視を決め込み、大通りを抜けて職人区画へと足を踏み入れ一路ドヴェルグの工房を目指す。



 相変わらずごちゃごちゃとした道をすり抜ける様に歩み、多少興味をそそられる光景が在ったとしても我慢してスルーしながら進んで行くと、こちらも相変わらず廃墟一歩手前と言った趣の工房が見えて来た為に、躊躇う事無く殴り付ける様にして扉を叩くアレス。




「おーい!爺!ちゃんと出来てるか!?出来てるんだろうな!?」



「うるっさいわ若造が!!そんなに怒鳴らんでもちゃんと聞こえておるし、品の方もキチンと完成しておるわ!!」




 そんなアレスの声に呼応する形でこちらも声を張り上げつつ、そのハゲ頭で陽光を反射させながらドヴェルグが扉を叩き開けて飛び出して来る。



 以前とは異なり顔は赤らんでおらず、瞳の濁りや足元の怪しさと言った要素は見られない事から、恐らく今日はまだ酒精を取ってはいないのだろうと言う事が察せられた。




「珍しい。今日はまだ呑んで無かったのか?」



「……はっ!前に依頼に来た時に、アレだけ言われりゃ儂とて少しは考えを改めるわ!

 それに、そろそろお主らが来る頃合いだと思っておったのだ。前回の様に唐突に、と言うのでなければ、流石の儂でも少しは控えると言うモノよ。

 まぁ、もう少し遅ければ、今日は来ないものと判断して酒瓶の栓を抜いておったであろうがな」



「……いや、まだ昼前処か、朝って言っても良い時間帯だと思うんだけど……?」



「喧しい!呑みたい時に呑む!それが岩人族(ドワーフ)の流儀と言うモノよ!」



「…………まぁ、良いや。爺の世迷い事は今に始まった事でも無いし、今回の本命には関係無いし。

 それで?依頼してた装備は出来てるか?出来てるよな?」



「何を当たり前の事を。引き渡しと調整とをしてやるから、さっさと入るが良いわ」




 そう言って、手振りで中へと入ってくる様に促すドヴェルグ。



 促されるがままに中へと入って行くと、奥の机の上には出来立てと一目で分かる、傷一つ無いきらびやかな装備の数々が並べられていた。




「取り敢えず、どれも以前図った時の通りのサイズや仕様になっとるハズじゃが、一応ここで合わせるだけでもして行くが良い。

 もし、万が一にも合わぬとなったら、この場で儂が手直ししてやるでな」




 そう言って、奥の方の部屋を指で示すドヴェルグ。



 着替えるのならばそちらを使え。



 会話の流れから、恐らくはそう言う事なのだろう、と判断した鎖帷子を注文していたセレンは、一応ドヴェルグに断りを入れてからそちらへと向かって行った。



 チラリと見えた限りであれば形は貫頭衣に近いモノであったが、その手の防具は余程慣れていない限りは一人では装備の脱着は難しいだろう、との判断から軽く握りを確認してドヴェルグに調整の指示を出してから、タチアナとナタリアの二人が補助の為にセレンに続いて奥へと向かって行く。



 結局、揃って奥へと引っ込んでしまった女性陣を見送った男性陣は、普段から装着する事に慣れている事もあり、どうせ野郎の着替えなんて覗いて喜ぶヤツはいないだろうから、とその場で適当に着替え初めてしまう。



 部分部分でバラバラに装着出来る軽鎧を注文していたアレスは当たり前として、基本的に一人で着脱する事を考えられていないハズの全身鎧を注文したハズのガリアンすらも、並べられていた部品を次々と装着して行き、最終的には二人揃って誰の手も借りずに装着を終えてしまう。



 そんな状態のまま、その場で軽く屈伸したり、跳び跳ねて見せる二人。


 特に注文していなかったヒギンズは、外で待機していたナタリアの従魔達に軽く装着させてから本来のサイズに戻らせたり、と言った試運転をしてから中へと戻って来て、そのついでに、と言わんばかりの流れで調整に出されていた長剣と盾を二人に渡して行く。



 感謝の言葉と共にそれぞれで受け取ったアレスとガリアンは、鎧を装着した状態で受け取った得物を構え、実戦にてそうしている様に振るい、調子と重心と重量とを確認して行く。



 構えてから、薙ぎ、突き、切り裂き、殴り付け、受け止め、受け流す。



 実際の戦闘に於いては、臨機応変さこそが生き残り相手を打ち倒すのに必要なモノであるが為にその動作は不規則だが、それ故に二人が真剣に装備を試しているのだと言う事が伝わって来る。



 そうして、二人が得物を振るう事暫し。



 使い辛いから、と言う理由で調整に出されていた二振りの得物をそれぞれ腰と背中に納めた二人は、その瞳に満足の光を宿しながらドヴェルグへと向き直る。




「流石、言うだけはあるな。俺が使うには絶妙にズレていた重心は、見事に俺好みに調整されているし、刀身の長さもバッチリ好みのドンピシャど真ん中だ。鎧の方も問題無いし、言う事無しだな!

 まぁ、得物を強化出来なかった事だけが、心残りと言えば心残りだけどな」



「うむ、流石であるな。当方の鎧も、関節の軋みや擦れは無いし、可動域が狭まっている処も見受けられぬ。

 それに、窮屈な場所も緩すぎる場所も無い、絶妙な仕上がりだ。

 盾の方も、十二分に取り回しが利くにも関わらず、その中でも最大であろう大きさに仕上げられ、更に言えばこの重量も当方好みのモノとなっている!正しく、匠の業、と言うモノであろうよ!

 まぁ、贅沢を言うのであれば、リーダーの言う通りにコレの強化まで済ませてしまいたかったのだが、そこまでは求めまいよ」



「はっ!一体誰が作り上げてやったと思っとる!

 儂が作る以上、そんな素人みたいな失敗をする訳が無かろうが!

 まぁ、とは言え、幾ら儂でも無い物ねだりをされては困る。お主らなら、モノさえ揃えれば強化してやると言っておるのじゃから、次来る時はちゃんと持ってくるのじゃぞ?

 ……それと、一応老婆心からの細工じゃが、装備の方は全てお主から預かっておった真銀(ミスリル)でコーティングしておる。

 お主らがそれなりに名が売れて来ておると言う事は承知しておるが、流石にまだBランクのパーティーでしかないお主らが、総神鉄鋼(オリハルコン)装備で固めていれば、要らぬ争いを招く羽目になるであろう?真銀(ミスリル)装備であれば、Bランク位でも背伸びした極一部の冒険者であれば所持しておる装備であるが故に、多少の目眩ましは出来るであろうよ」



「……爺さん……」



「……ご老人……」




 思わぬドヴェルグからの気遣いに、若干ながらもクるモノを感じる二人。


 その横で、まさか有り得ないだろうけど神鉄鋼(オリハルコン)の使用量を誤魔化す為に真銀(ミスリル)でコーティングして誤魔化した、とか言う事じゃないよねぇ……?と一人穿った物の見方をするヒギンズ。



 しかし、彼の鑑定眼で観てみた限りでも本物の神鉄鋼(オリハルコン)を必要量以上に使っている事は確かである様子であった為に、故意的に口にする事は控え、当初の予定よりも多くの報酬を支払うアレスの姿を見守るのであった。








 …………なお、この後セレンが『鎖帷子のサイズが合わない』と言って奥から顔を出すのだが、そうなってしまったのはドヴェルグが調整を間違えたからではなく、未だに成長を続けていたらしいセレンの極一部分のせいであった、と言う事が暴露されるのだが、それはまた別のお話であったりする。





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― 新着の感想 ―
[一言] そして、セレンの成長を聞いたタチアナが発狂するんですね、わかりますwww
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