休暇を楽しむ『追放者達』~side:セレン&アレス
ナタリアが従魔達と戯れ、最初はブラッシング程度に付き合うつもりであったガリアンの方に、彼らの内の多くが行ってしまった事で嫉妬心を顕にし、わちゃわちゃと固まっていた彼らの中へと飛び込んで行ったのと同じ頃合い。
休暇を過ごす『追放者達』の中で残された最後のメンバーである二人は、表通りを連れ立って歩いていた。
「……なぁ、本当に良かったのか?俺の方に着いてきて」
「えぇ、もちろんですが、それが何か?」
「……いや、だって、休暇を過ごすって事なら、他の二組の方が余程ソレらしい事をしているんだから、そっちに合流した方が良かったんじゃないのか?
少なくとも、俺が行こうとしてる場所よりかは、何倍もマシだと思うんだが……」
「……リーダー!」
何時もの温厚な彼女からは想像も出来ない程に、鋭い声が飛び出して来た。
それに驚きを隠せなかったアレスは、半ば反射的に彼女へと向き直る。
普段の法衣と同色とは言え、多少肌を露出して年頃の乙女らしいお洒落をし、鐔広な帽子を被ったセレンは正に何処ぞの聖女様か天女様かな?と言った可憐さを発揮していた。
お化粧だって、普段は殆んどしていなかったにも関わらず、今回はうっすらながらも要所要所で行っていたらしく、何時もよりもその美しさに磨きが掛かっている様に見て取れた。
そんな彼女だが、現在は道のど真ん中にて腕を組み、目尻を吊り上げてさも『私怒ってます!』と言わんばかりの態度にてアレスを睨み付けていた。
元が美人である上に、女性としてはかなりの高身長であるセレンがそうすると迫力が在る上に、元々が大きな一部分が更に強調される形となるので、普段の柔らかな彼女の印象との違いに思わず気圧されてしまうアレス。
幼少より、女性と間近に過ごす羽目になっていた為に、女性に対しての耐性はそれなりに在る彼だが、彼女程に優しく柔らかく接してくれる女性も、自らが一緒に居たい、自らとのみ一緒に居て欲しい、と思ってしまう女性も彼女が初めてであったが為に、セレンに対してはどうにも雑に扱ったり強く出る事が難しくなってしまうのだ。
とは言え、今はそんな事情はあまり関係無く、セレンがアレスに対して抱いている不満が発露される。
「リーダー!リーダーは、私がただ暇を潰したいが為に、リーダーの外出に付き合っている、と思っておられるのですか!?
……なのだとしたら、私は悲しくなってしまいます……」
「……と、言われますと……?」
「……私とて、何も想っていない殿方相手に、時間が余っているからと言って、同伴して外出しよう、等とは思いません。
……それに、どうとも想っていない殿方相手に、頑張ってお化粧してみたり、肌が出る様な服装をしたり、そもそも何を買うつもりなのかすらも知らない外出に同行しよう、等と言う事なんて、したいともしようとも思いませんし、そんな事を軽々しく行う程に身持ちは軽くないつもりです……ここまで言っても、なお……ご理解しては、頂けませんか……?」
「………………」
最初の怒りから一変し、その瞳に深い悲しみを宿して涙を湛えるセレンの様子に、思わず掛ける言葉を失ってしまうアレス。
……自身が、その手の感情に疎いのだろう、と言う自覚は在った。
先程も述べた通り、アレスにとって良くも悪くも異性を意識した相手はセレンが初めてであった。
故に、彼女から向けられている感情が何なのか、それが理解できなかったのだ。
女性から憎悪や悪意を向けられる。それは、二人の幼馴染から常日頃から行われていた事であり、経験が在る故に理解できる。
女性から敵意を持たれて攻撃される。それも、二人の幼馴染が常日頃から口にして実行していた事でもあったが為に、理解できる。
女性に嫌悪感を抱かれて遠ざけられる。それも、二人の幼馴染と同行させられていた時に、希に知り合った女性とは二度と会う事が無く、攻撃と共にお前は嫌われているのだと二人に教え込まれた為に、理解は出来るのだ。
……だが、彼女の様に、敵意も悪意も憎悪も向けず、嫌悪感から遠ざける事も無く、怒鳴り付けも攻撃もせずに、傷付けば癒してくれるし心配までしてくれる女性は、セレンが今まで生きてきて初めてであったのだ。
それ故に、彼はそう言う女性に対して、どう接して良いのか分からない。
何故自分に良くしてくれるのか理解できないが為に、彼女が何故同行したのか、分からない。
何故、彼女がここまで悲しんでいるのか、本当の意味で理解出来ていないのだ。
……だが、そんな彼でも、ここで彼女が悲しむのは良くない事だと理解出来た。
彼女には、普段の様に微笑んでいて欲しいのだと、何故か感じられた。
このまま彼女に涙を流させるのは、絶対にしてはならない事なのだと、知らぬ間に確信していた。
なので、表面上は普段と一切変わり無いままでありつつも、内心はぐちゃぐちゃで、自らの想いも良く分からない状態のままでセレンを抱き締める。
「…………え?」
突然の事態に、思わず言葉を溢しながらも目を見開いて固まるセレン。
周囲から、美人が泣きそうになっているのは何事か?と野次馬根性丸出しで覗き見ていた一般人も、その突然の行動に驚愕と困惑とどよめきを強めて行く。
「…………済まない。俺も、言葉と配慮が足りなかったみたいだ。
俺は、俺自身が好かれる様な人物では無いと、人格では無いと思ってる」
「……そ、そんな事は……!?」
「まぁ、少し聞いてくれないか?頼むから。
……能力的に見れば有用なのだろうさ。周囲からの評価も、良いのかも知れない。
でも、人物的な面では、昔から否定しかされて来なかったんだ。だから、俺は俺自身に対して向けられる好意だとかが理解出来ないんだ」
「………………」
「……今回だって、ただの買い出しに過ぎない俺と一緒にいるよりも、他の二組に混ざる方が休暇の過ごし方としては適正だろうと思っていたのは否定出来ないけど、本心としては『なんで着いてくるんだろうか?』って戸惑いの方が強かったんだよ」
「……そう、だったのですか……?」
「そうだったんです。さっき説明されるまで本気で分かって無かったし、ついでに言えば何で優しくしてくれるのかね?とも思ってた位なんで。
……まぁ、仲間だから、って言うにしては、何だか距離感が近い様な気も?とは思ってたけど、ね?」
「…………そ、そこまで気付かれていたのであれば、全部ご自分で気付いて頂きたかったのですが……!?」
「無茶言わんで下されよ。さっきも言った通りに、こちとら好意とは無縁の人生歩んで来たんだ。知らないモノをいきなり突き付けられたとして、ソレをいきなり理解しろ、って言われても困るでしょうよ?」
「……あの、以前パーティーを組んでらしいお二人は、違ったのでしょうか……?」
「……あの二人?
いやいや、アレこそ正に『有り得ない』でしょうに。
アレらは、今思えば昔の恩を何時までも引き摺ってた俺を体よく利用していた、ってだけで、何かしらの特別な感情有りきで居た訳じゃないんじゃ?
昔助けて貰ってた時ならいざ知らず、今は違うでしょ。これは、間違いなく」
「………………なら、良いのですけど、ね……」
「……いや、何意味深な呟き溢してくれてるんですかね……。
…………と、処で、取り敢えず俺の事情は説明したので、何やら与えそうになってた誤解は解けたって事で良いですかね?
解けたのなら、場所も場所なんでもうそろそろ……」
「……………………え?き、きゃあ!?」
アレスに促されて周囲へと視線を配ったセレンは、自身が周りから視線を集めていることと、本人曰く『何とも想っていない訳ではない』異性であるアレスに抱き締められているだけでなく、自分からも抱き締め返していた事に、今更ながらに気が付いて可愛らしい悲鳴を挙げ、それまでとは別の意味合いで顔を赤らめさせてしまう。
咄嗟に顔を覆ってその場に踞りそうになるセレンだったが、横合いからその手をアレスが引いて、周囲を囲っていた人波を掻き分けて強制的に踏破して行く。
それにより、二人の姿を見失ってしまう民衆であったが、その最後に写った後ろ姿は、二人の手と手が確りと繋がれたモノであったのだとか。
……青春、だねぇ……(遠い目&喀血)
次回位から章タイトル回収に動く……かも?
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