休暇を楽しむ『追放者達』~side:ナタリア&ガリアン
タチアナとヒギンズがノミ市を散策し、時折露店を覗いては互いに、ああでもないこうでもない、と会話をし、希に店主に対して問い掛けたり値引きの交渉をしたりしていたのと同じ頃。
『追放者達』の拠点たるパーティーハウスに残っていたガリアンとナタリアの姿は、未だに鬱蒼と繁ったままとなっている裏庭に存在していた。
片や、ガリアンは普段からして着込んでいた鎧を脱ぎ去った私服姿。
季節が移ろって行くせいか、気温が上がり始めている昨今に適応した服装となっていたが、あまりに普段の装い(基本的に鎧姿か、もしくは鎧下(鎧の下に着けるインナーみたいなモノ)のどちらか)と違いすぎた為に、朝から起きてきて顔を合わせたメンバーの内で二度見されなかったのはナタリア位のモノであったりする。
片や、ナタリアは普段の少年の様な装いから一変し、女性らしさの出ている可愛らしい服装。
何時もは、依頼に出る事も合わせて、汚れても良くて動きやすい服装を、と言う事に意識が傾いており、まるで何処ぞの少年冒険者かな?と言わんばかりの装いばかりしていたので、性別と年齢を間違われる事が多かったのだ。
なので、こうしてキチンと着飾れば、背丈とスタイルこそは誤魔化し様は無いものの、ちゃんと大人の女性であると周囲に認識させる事が可能と言う訳だったりする。そう、実は彼女は『『出来ない』のではなく『しない』のだ!』と言うのを地で行く女性だったのだ。
そんな二人が、ある程度ギルドの方で手を入れているとは言え、未だに密林一歩手前な状態であるのには変わり無い裏庭に何故居るのか?と言えば、二人の目の前で揃ってお座りし、期待に満ちたキラキラとした瞳にて彼らを見詰めている従魔達が何よりも雄弁に語っているだろう。
そして、その手に持たれた魔物素材由来のボールと、特大サイズのブラシへと視線が注がれている、と言えば、最早語る必要すら無いと言えるかも知れない。
まぁ、要するに、今の今まで碌に構ってやる事の出来なかった従魔達を、コレを期として思う存分構い倒して遊んでやろう、と言う事なのだ。
ナタリアの忠実な配下として、時に多大なる重量を運搬する脚となり、時に敵に食らい付き引き裂く牙となる彼ら。
しかし、そんな忠実かつ勇壮な彼らを、今まで彼女は十二分な待遇にて扱って上げる事が出来ずにいた。
食事とて、量はどうにか揃える事が出来ていたのだが、ほぼ食堂の残飯、と言った様なモノしか与えてやる事が出来ず、忸怩たる想いが彼女の中に溜まり続けていた。
寝床とて、雨止まぬ中吹き晒しで野宿、と言う事は辛うじて行わずに済んでいたが、それでも基本はギルドに併設された従魔舎に預ける、と言う事しかしてやれず、常に共に在りたかった彼らも彼女も、互いに寂しい思いをしながら夜を明かす事になっていた。
……しかし、今は違う。
慈悲……とも厚意……とも違うのだろうが、幸いにしてリーダーのアレスによる取り計らいにより、食事はまともなモノを提供して上げる事が出来る様になった。
寝床も、基本は野外だが、一応は東屋の様な屋根と壁が在る場所も在る為に、雨風に晒される心配は無いし、そのつもりになれば、一階かつ裏庭へと勝手口が近い自身の部屋へと招き入れる事も可能となっている。
故に、彼らが抱いているであろう不満の大半は、彼女自身の手によってでないのが多少悔しさが残る事ではあるが、既に解決している、と言っても良いであろう状態となっている。
で、在るのならば、彼らに残っているであろう最後の不満。
『主人と思う存分触れ合いたかった』
コレを、自らの手で解決する!そうすれば、他のメンバー、特にリーダーへと傾きつつ在った彼らの忠誠心(又の名を『懐き度』とも言う)を自らの方へと引き戻す事が出来る!……ハズ!!
そんな、純粋なのか不純なのか良く分からない理由を原動力として、彼女は行動しようとしているのだ。
……まぁ、とは言え、そもそもの話として従魔である彼らがそんな不満を溜め込んでいるのか、だとか、そうやって不満を溜め込んでいるのであれば幾ら主人の命令であっても死地には飛び込まないのでは?だとか、そう言う事をしたいのであれば隣に彼らが懐いているガリアンが居るのは良くない様な……?と言った諸々の指摘点は在るだろうが、彼女はそんな事は気にしていない。
いや、気にしていられない、と言うべきかも知れないが。
とは言え、彼女自身も、彼らに対しての罪悪感からこんな事をしている、と言う訳でもなく、彼女本人が彼らと遊びたいから、と言う理由も在るのだけれど。
そうでも無ければ、こうして汗を流しながらボールを全力でぶん投げては、尻尾を振りながらソレを追い掛けて行く彼らの姿や、取って来た個体が浮かべるドヤ顔をみて、ここまで満面の笑みになりはしないだろうから。
……そして、これは彼女も知らない彼らの話となるのだが、実は元々従魔達もそんな事を、彼女が気にしている程にまで気にしてはいなかったりする。
何故なら、彼らは愛して止まない主人と共に在れればそれで良いのだから。それで良かったのだから。だから、こうして彼女の元に残っていたのだから。
だから、たまに彼女の手から、直接餌を貰えれば、彼らはそれで満足なのだ。
だから、たまには彼女も一緒に皆で丸まって眠れれば、彼らはそれで十分なのだ。
だから、たまにこうして、彼女が笑顔を彼らに見せ、共に遊んでくれるただソレだけで、彼らは満ち足りるのだから。
とは言え、彼らもまた本性は野性を残す獣の一種。
基本的に望み以上の事は求めないとは言え、それでもその欲求が弱かったり無かったりする訳ではない。
おまけに、比較的理性的とは言え、彼らはやはり獣の一種。欲する事を我慢するつもりは無いし、目の前に在れば当然の様に飛び付く事になる。例え、そうする事で、後がどうなろうとも、だ。
…………そう、具体的に言うのであれば、待遇に満足しているからと言って、彼らの愛する主人が、こうして遊んでくれると言うのであれば、ソレを求めず飛び付かない、と言う選択肢は彼らの中には存在しないのだ。
更に言えば、その敬愛して止まない主人を地面へと戯れに押し倒し、服を汚したり顔をヨダレまみれにして、後で確実に怒られる、と言う状態にしたとしても、彼らには一片たりとも後悔の念は存在しないだろう。
ましてや、彼らが自然と自らの上位に位置する存在である、と認定している(してしまっている?)ガリアンに対して身体を擦り付けてブラッシングをねだったり、撫でて欲しさに足元に絡み付いたりしたとしても、それは仕方の無い事だと言って良いだろう。
しかし、それはあくまでも彼らの場合の話。
「……くっ!予想通りで想定していた事ではあるのですが、やはりこの子達ガリアンさんに懐きすぎじゃないのです!?
この子なんて、ボクには見せた事の無い様な表情で、ボクが仕込んだ覚えの無い芸を披露してナデナデをねだっているのです!?
……これは、一体どっちに嫉妬すれば良いのです……!?」
「…………その様な事、当方に言われても困るのだがなぁ……。
当方としては、特に何をした、と言う訳でも無いと思っておるのだが、はてさて一体……?」
羨ましそうに、若干ジトリとした視線を向けるナタリアと、自らの事ながら不可思議な現象の発生に、戸惑いを隠せないガリアン。
そんな中でも、特に険悪なムードになる事も無く、『遊んで下され!!』と言う様に近寄って来る従魔達を撫でたりブラッシングしたりボールを投げたりする為に、彼は再度彼らと向き合うのであった。
さて、残すは後一組
果たしてどうなる!?
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