『追放者達』、休暇を取る事を決断する
取り敢えず、未だに瓦礫と言っても良い状態に在る神鉄鋼をドヴェルグへと預け(丸投げとも言う)た『追放者達』のメンバー達は、一旦パーティーハウスである旧グリント邸、現『追放者達』邸へと戻って来ていた。
特に戻らなければならない重大な理由が在ったと言う訳でも無いが、元よりギルドを出発したのが昼過ぎだったが為に、ドヴェルグとの打ち合わせや注文を終わらせた頃には既に日が傾いて来ていたので、そのまま帰って来た、とも言えるのだけれど。
各自の部屋にて楽な格好に着替えた後、食堂にて再度集合する『追放者達』のメンバー達を見回し、軽い感じでアレスが口を開く。
「はい、取り敢えず皆さんお疲れ様。
昨日の今日で動き出してみた訳だけど、予想外に時間が空きそうで、かつその間に必要になる素材を取りに行く、って事も出来なさそうだから、もう一層の事その辺りは各自の判断に任せて基本は休みにしちゃおうかな?と思ってるんだけど、皆はどう思う?」
「……ふむ?良いのでは無いか?
これまで基本、長期の休みは取らずに働き詰めであった故な。たまには良いのでは無いか?」
「そうですね、私も賛成です。
たまには休みを、と言うのもそうですが、現在アレス様とガリアン様の装備が欠けており、戦闘には従事して頂けません。
お二人は前衛の要。どちらかお一人だけであれば、私達もその穴埋めをする事は不可能ではないですが、お二人共に、となられれば、流石にソレを穴埋めしながら依頼をこなすのは、少々手に余る事かと……」
「……まぁ、そうよねぇ……。
どっちかならまだしも、二人とも同時に落ちられると穴埋めしながら、なんて事は出来なさそうだし、出来ても面倒だからあんまりやりたくないわね。
それならいっそ、リーダーの言う通りに休みにしちゃうのもアリなんじゃない?」
「ボクはまだ新入りだし、この子達の事で色々と迷惑を掛けっぱなしだからこんな事を言う権利は無いのかも知れないのですが、やっぱり少しは休んだ方が良いと思うのですよ?
……でも、装備が出来きるまで休みとなると、何をしたら良いのです?前のパーティーの時は、パーティーとしては休みでもボクはやらなきゃならない仕事が沢山在ったから、休んでなんていられなかったので休み方が分からないのです……」
「まぁ、流石に一月も休むとなれば話は別だけど、高々延びても一週程度でしょ?なら、リーダーが言う様に休んじゃっても良いんじゃないのかなぁ?
良い冒険者は、適度に休憩を入れて、必要な時に必要なだけ実力を発揮する者の事だ、って言う位なんだし、良いんじゃないの?」
「……なら、満場一致で装備の調整が整うまで休み、って事でよろしく。
出掛けるのは構わないけど、取り敢えず大雑把な行き先と帰還の目安だけは伝えておくようにね?
はい、解散!!」
リーダーたるアレスの号令により、半ば強制的に冒険者としての活動を休止する事になった『追放者達』。
とは言え、無期限と言う訳でも無いし、個人で依頼を受けてくるのに対して特に制限も掛けていないので、そこら辺は割りと自由になっている様子だが。
そうして、取り敢えず集まった理由も解決した事で各自で寛ぎ、そろそろ飯時だから、と言う事でアレスが台所に立つ中、とある疑問をふと思い出したらしいガリアンが、鼻先が白い森林狼の個体にブラシを掛けながら、対面に座って月紋熊を撫でていたヒギンズへと問い掛けた。
「……そう言えば、ヒギンズ殿はドヴェルグ殿の処で何も注文せなんで良かったのか?
確か、鎧が一部破損していて修理する必要がある、と嘆いていた様に記憶しているのだが……?」
「……ん?あぁ、そう言えば、そんな事も言ってたわね。
と言うか、あの時のあの様子だったら、必要無いモノまで注文しそうな雰囲気だったけど、結局なにも注文しなかったわよね。何でなの?」
「……あぁ、その事?」
二人と同じ様に、食堂で寛ぎながら台所の方を眺めていたタチアナも、ガリアンから投げ掛けられた疑問に乗っかる形で質問を投げ掛ける。
アレだけドヴェルグの来歴に対して詳しかったのであれば、必要が無かったとしても短剣の一つや二つは注文するのではないか?それが出来ない程に、懐が寂しい訳でも無いのだろう?
そんな疑問が言葉の裏側に隠された質問に対し、当のヒギンズはヴォイテクの耳裏を擽る手を止めず、草臥れた雰囲気を纏うその顔に苦笑を浮かべながら返答する。
「なはは、まぁ、その辺は否定しないけど、流石にねぇ?
オジサンとしては、リーダーみたいに金属鎧で、って言うのは、若かった時から何となく肌に合わなくてねぇ。
でも、流石にドヴェルグ師に畑違いな革鎧についての依頼を出す訳にも行かないでしょ?
それに、オジサンも手持ちの素材じゃあ鎧修理するのは難しい、って言うのは理解してるから、あの時は注文しなかったのさぁ」
「……ふむ?そう言えば、その様な事もあの時に溢していた様な……?」
「じゃあ、アタシがした方の疑問はどうなのよ?
実際、やろうと思えば幾らでも……とは行かなかったかも知れないけど、それでも幾つか買い漁る位は出来たんじゃないの?」
「まぁ、ソレも否定はしないかなぁ。
あの人、ドヴェルグ師の作品は以前目にした時から、その端整な拵えと相反する大胆な仕上げに惚れちゃってねぇ。以前は幾つかコレクションしてたんだよ。
……でも、前のパーティーから追放された後に生活に困って売りに出したんだけど、どれもこれも二束三文で買い叩かれちゃってねぇ。
幾らオジサンがアイテムボックス使えなくて、荷物を圧迫していたからって、もう少し取っておけば良かったかな?と思うくらいに、それはそれは悲しくなる位の安値で買い叩かれちゃったのさぁ……」
「…………だから、必要最低限しか持とうとしていない、って事……?」
「そんな処さぁ~。
まぁ、リーダーがこうして拠点を手に入れる事を提案して、ソレを実行してくれたお陰で手狭な宿屋暮らしとはおさらば出来たし、その日その日の宿代に頭を悩ませなくても良くなったから、純粋にコレクション目的か、もしくは価値の分かる人相手向けに資産として集めておくのも良いかも知れないけど、今の処はそう言う食指は動かないかなぁ。
まぁ、いつか気が向いたら、また集め始めるかも知れないけどねぇ」
「…………そう、なんだ……」
そこで一旦言葉を切るタチアナ。
それとタイミングを同じくして、台所に立っていたアレスと、その手伝いをしていたセレンが出来上がった皿を手にして、食堂のテーブルへと次々に運び込んで来る。
皆で揃って席に着き、それぞれの作法にて食前の祈りを済ませてから、各自で大皿に盛られた料理を取り分け会話をしながら和やかに食事を進めて行く。
「取り敢えず、俺明日少し出掛けて来るつもりだけど、皆はどうする?」
「……では、ご迷惑で無ければ、その用事に私も同行してもよろしいでしょうか?」
「…………まぁ、良いけど?
でも、着いてきてもあんまり面白くは無いと思うけど……?」
「それでも、です♪」
「……ふむ、なれば、当方はどうするか……」
「では、ガリアンさんはボクとお留守番してはどうなのです?
最近あの子達にあんまり構ってあげられていなかったので、コレを期にもっと遊んで上げたいのです!」
「……いや、まぁ、別段構いはせぬが……?」
「いやいや、皆、若いって良いねぇ~青春だねぇ~。
……さて、オジサンはどうしようかねぇ……」
「……あ、あのさ!」
「うぉう!?
な、なんだい、タチアナちゃん?」
思わず、と言った具合で、机に身を乗り出す程の勢いにて、食い気味にヒギンズの言葉へと反応するタチアナ。
若干驚いた様子で、それまで肘を突きつつ他の四人のやり取りをニヤニヤしながら眺めていたヒギンズは、思わず肘を外して目を丸くしながらタチアナへと問い掛ける。
そんなヒギンズに対し、タチアナは何か覚悟を決めた様な表情を浮かべながらこう誘い掛けるのであった。
「…………あ、あの、さ……。
明日、明日暇だったら、一緒に、その……一緒に探しに行ってみない?ノミ市に、例のお爺さんの作品を探しに、さ?」
……おや?デートフラグかな?
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