『追放者達』、無茶な注文をしてみる
誤字報告して下さる方々に感謝ですm(_ _)m
「……既に在る武具を強化出来るか、だと……?
打ち直しや仕立て直しじゃあ無く、強化しろ、って言ったのか?」
そのアレスによる発言を受けたドヴェルグは、呆れもそうだが訝しみの強く出た視線を、メモ書きをする為に髪を挟んでいたボードから上げてアレスとその横にいるガリアンへと向ける。
彼がそんな反応をした事には、それなりに理由が在る。
この世界の常識に於いて、武器を新調する場合主に手段は二つのみとなる。
一つは、今彼らがしている様に、素材を持ち込んで新しく仕立てるか、もしくは店売りのモノを購入すると言った、所謂『乗り換え』『買い換え』と言われる方法。
もう一つは、それまで使っていた装備を鋳潰したり解体したりしてから素材の一つとして使用し、新たに他の素材も足してから新しく打ち上げると言った、所謂『打ち直し』『仕立て直し』と言われる方法だ。
一応、より細分化すれば『ダンジョンで得た装備に持ち代える』だとか『知り合いから譲り受ける』だもかも在りはするが、基本的には上記の二つの内のどちらかとなる。
どちらがより良い方法なのか、と言う点はまだ誰も答えを出せていない難問であり、どちらにも明確なメリット・デメリットが存在する。なので、どの様な結論をだしたとしても相手方の尊厳を著しく貶める結果となってしまうが為に、一部の地域ではそう言った論争が発展しない様に、と監視を強めている場所も在るのだとか。
そんな事情も在る故に、当然の様な顔をしながらぶっ飛んでいる事を聞いてくるアレスへと、半ば反射的に訝しみが多大に混じった声を上げたドヴェルグは、互いに足りていなかった言葉を補う為に再度口を開いて言葉を紡いで行く。
「……一応聞いておくが、一体何のつもりだ?そりゃ。
確かに、儂なら出来なくもないが、だからと言ってそんな御法度な事をするつもりは無いぞ?」
「……ん?御法度?不義理とかじゃなくてか?」
「あぁ、そうだ。
一応、それなりの腕が在れば、装備や武具をベースに使ってソレの強化形を作る事は出来る。じゃが、ソレをするのはあくまでもベースになる装備を自分で作っていた場合のみじゃ。
流石に、他の職人が心血込めて作り上げた作品を、幾ら自分ならば更に上の性能にしてやれるから、と言って手を出すのは、横紙破りも甚だしい故な」
「……それって、不文律的にそうなってる、って感じな訳か?
『強化を施すのは自分で打ったモノのみ』みたいな?」
「正確に言えば『他人が打った作品に手を付けるべからず』と言った具合じゃがな」
「……ふ~ん?じゃあ、大丈夫だな」
「………………は?お主、儂の言葉をちゃんと聞いておったのか?」
「大丈夫大丈夫、バッチリ聞いてたから。
と言うよりも、現物を見せた方が早そうだし、取り敢えずコレを見てくれ。どう思う?」
会話を始める前よりも更に訝しむ色を強めた視線を送るドヴェルグに対し、飄々とした態度を崩さずに自身のアイテムボックスから二つの物品を取り出すアレス。
それなり以上に重量の在るそれらが置かれた机が軋んで悲鳴を挙げるが、当の持ち主はそちらに寄せる関心が無いのか出された物品に不自然な迄の集中力で視線を向けていた。
「……お、お主、これは……!?」
「あぁ、ソレこそが今回あんたに強化を依頼したい品物であり、俺達が神鉄鋼を入手する事になった『神鉄鋼傀儡』が持ってたのを滷獲してきた二振り、正確に言えば長剣一振りと盾一つだ」
「素人目に見ても中々に『良い物』であったが故に、そのまま使う事も考えたのだが、どうにもそっくりそのままでは少々使い勝手が合わぬでな。
多少調整する、と言った程度でどうにかなれば良いのだが、それでは済まぬ可能性も高い。故に、どうしようか、とリーダーと共に頭を悩ませておったのよ」
「そこで、俺があんたの事を思い出した、って訳さ。
以前から、素材さえ持ってくれば神鉄鋼だろうとキッチリ得物に仕上げてやる、って言ってただろう?
だから、装備を作るのとついでにこいつらを俺達が使い易い様に改造して貰って、そのついでにより強力な逸品に強化して貰おうかな?と考えたって話なのさ。
それで、どうだ?やれるか?」
「………………やれるかどうか、と問われれば、答えは『やれる』以外に在るまいよ」
「お?じゃあ!?」
「……じゃが、今は『無理』じゃな」
「………………あん?」
ドヴェルグの不可思議な言い回しに、今度はアレスが首を傾げる事となる。
しかし、ハッキリと『否』との返答を出したハズのドヴェルグは、それまでは眺めるだけであった二振りを既に自らの手に取り、その拵えや刃の造り等を備に観察し始めていた。
明らかにこれから手を出す逸品の構造を理解しようと観察している、としか見えないその姿に、一体さっきの返答は何だったのか?と更に首を傾げるアレスとガリアン。
そんな二人へと、一通りの観察を終えたらしいドヴェルグが、いつの間にか嵌めていた片眼鏡の様な道具を外して懐へと仕舞い込みながら口を開く。
「お主らが何を勘違いしておるのかは知らんが、強化自体は出来るぞ?幸いにして、コレ自体は何処ぞの誰かの作品と言う訳でも無いみたいじゃし、儂らの不文律にも触れぬであろうからそれはもうお主らの要望を取り入れるだけ取り入れた、特別な一品として仕上げてやれるぞ?」
「……いや、さっきと言ってる事逆じゃないか?」
「じゃから、言っておるであろう?『今は』と。
強化する、と一口に言っても、元となる装備さえ在れば良い、と言う訳では無いのじゃぞ?そこら辺解って言っておるのか?」
「……ぬ?違うのか?」
「そんな訳無かろうが、この戯けが!
装備を一から作るのと同じく、強化するにも素材が必要になるじゃよ!しかも、元にした武具の格が高ければ高い程、求める性能が高ければ高い程、より稀少でより高価な素材を必要とするんじゃよ!
それらが無ければ、幾ら儂でも強化なんぞ仕様が無いから今は無理じゃ、と言うておるのだろうが!」
「……それならそうと、最初から言えよ……」
「因みに、必要とされる素材とは何なのだ?
こう言っては何だが、当方達はそれなりに腕が立つ。故に、モノさえ教えて貰えれば持ってくる事も不可能ではないと考えるが、如何に?」
「あん?なら、今すぐドラゴンの素材でも持ってきて貰おうかの?
ベースとなる装備が神鉄鋼故に、まともに強化して性能を引き出そうと思うとそのレベルの素材が必要になるのだが、用意出来るのであろうな?」
「「流石にドラゴン素材は無理!」」
「で、あろうよ。
まぁ、数は少ないが希に市場に流れぬ事もない素材じゃから、ソレを狙うか、もしくは自力で倒せる様になってからの話としておくが良いわ。
取り敢えず、多少手を加えて使い勝手を良くする程度であればそんなに掛からずにしてやれるが、どうするかね?」
「……じゃあ、そんな感じで」
「うむ、了承した。
まぁ、儂とて早々容易に手にするとは思っておらぬし、まだまだくたばるつもりも無い故な。手に入れたら持ってくるが良いわ。そうしたら、儂の技術の全てを注ぎ込んで最高の武具を仕立て上げてやるわ」
「……へいへい。じゃあ、取り敢えず今出来るヤツだけで頼むわ。
料金を払い渋るつもりは無いから、安心して良いぞ?」
「はっ!『神鉄鋼傀儡』一体分以上の神鉄鋼を溜め込んでおるのだろう?であれば、儂への支払いなんぞ端金であろうよ!」
そう言って、豪快に笑いながら禿げ頭を撫でるドヴェルグを前にして、予定が狂ってしまったアレスは苦笑いを浮かべるのであった。
……そう言えば、少し前にも似た様な話題が出た様な……?
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