『追放者達』、装備の新調を依頼する
「……それで?何持ってきたってか?
あれだけデカイ口を叩いたんだ。生半可なモノ持ち込みやがったら、テメェのそのケツ叩き割ってから、蹴り出してやるから覚悟しておきやがれよ!?」
そう言うと老人ら、建物の中で唯一の椅子にドカリと座り、自身の禿げ頭をツルリと撫でながら、近くに積まれていた酒瓶をラッパ呑みにして数秒で空にすると、他の空瓶と同じ様に無造作に床へと投げ棄ててしまう。
一応アレスの知り合いだから、と通されていたメンバー達は、そのあまりと言えばあまりな光景に言葉を失い、呆然として固まってしまう。
が、アレスとしては『何時もの事』なのか、特に慌てる様子も驚く様子も無く、ただただ呆れた様な視線を向けながら口を開く。
「おいおい、何客目の前にして昼間っから呑んだくれてんだよ。そんなんで、本当に鎚が振るえるんだろうな?
折角お望みの通りに神鉄鋼用意して来たって言うのに、酔っ払ってナマクラ打たれちゃ困るんだが?」
「……なんじゃと?今お主、神鉄鋼と抜かしおったか?偽物では無く、本物の?それに、酔っていたとしても、お主にくれてやったモノ程度であれば幾らでも打ってやるから心配するでないわ!
それよりも、神鉄鋼の方が先決じゃ!ちゃんと、本物を持ってきたのであろうな!?」
「本物も本物、確実に本物さ。おまけに、純度に量はお墨付きだぞ?何せ、『神鉄鋼傀儡』から採れた神鉄鋼だ。
これで神鉄鋼じゃ在りませんでした!とか言う事は有り得んと、そう断言出来る程度には信頼出来るハズだけど?」
「……あぁ、なら、品質に関して言えば取り敢えずは安心(?)出来るだろうよ。名前や性別程度なら欺けても、種族ともなればギルドの鑑定器具を欺く事は出来ぬだろうからな。
そんな事情ならばどうせ、先んじてコアだけでも鑑定させたのであろう?大方、討伐してきた証拠として提出した、と言った辺りであろうよ?」
「はっはっはっ!!大正解だ。
で?結局の処としてはどうなんだ?ちゃんと鍛えられるんだろうな?無理なら無理で、俺達は他の鍛冶師を探す必要が在るんだが?」
「ハッ!!誰にモノ言っとると思っとるか!!
『岩人族にその人在り』『至高の鍛冶師』『天鎚』と謳われた儂を除いて、この辺りに神鉄鋼を扱える鍛冶師も、ソレを成せるだけの設備を持つ者も居りはせんわ!!」
「……『天鎚』?それってオジサンの記憶違いじゃなければ、確か『大鍛冶師長』のドヴェルグが持ってる称号の一つじゃなかったかい?」
「……ほ?お主、何故ソレを知っておる?
得ている儂が言うのもアレじゃが、そこまで広く認知されておるモノでも無かったハズじゃが?」
「……まぁ、昔少しばかりそっち方面について調べていた事が在ってねぇ。
……で、その称号なんだけど、確か岩人族達の中でも最も優れた武具を打ち上げ、神器に匹敵する域にまで高めた鍛冶師に贈られる称号だったハズなんだけど、オジサンの記憶だとソレを持っていて存命なのって、『当代一』と言われたドヴェルグって鍛冶師だけだったハズなんだよねぇ。
まぁ、新しく授けられた誰かさん、って可能性は在るけどさ?」
「………………」
何か引っ掛かる部分が在ったのか、唐突にヒギンズが二人の言い合いに割って入って行く。
そして、自らの得た知識によって、老人の溢した言葉尻を捉え、彼の正体を探って明らかにして行く。
しかし、その表情には猜疑心や疑惑と言ったモノは浮かんでおらず、どちらかと言うと『有名な芸術家に偶然会えたファン』と言った趣の色が強い様にも見て取れた。
そんな視線を向けられた老人改めドヴェルグは、少々気不味そうに視線を逸らし、新たな酒瓶を手にしてラッパ呑みをし始める。
詮索を良しとしていない事が容易に判断出来るその雰囲気に、先程まで饒舌に言葉を回していたヒギンズも黙り込んでしまい、暫し建物の中に沈黙が横たわる。
……が、そんな空気の中であったとしても、わざわざソレを考慮するつもりの無い男が微妙な雰囲気を無視して口を開く。
「それで?結局の処、作れるんだろうな?
作れるのなら、今の内から素材として渡しておくが?とは言っても、どの道インゴットに加工して在る訳じゃないから、残骸から錬成して貰う事になるけど」
「……あ゛ぁ゛ん?テメェ、今なんと言った?
今、儂の腕を疑う様な世迷い事を抜かしてくれおったか?おぉん??」
「あぁ、間違って無いぞ?酔っ払った爺に任せて素材を無駄にされる位なら、その辺で腕の立ちそうな職人の工房に突撃噛ます、とそう言ってるんだよ。
今の状況、何も間違っちゃい無いだろうが」
「……ぐっ……!?」
「…………それで?やれるんだろうな?
ミスは許さないぞ?」
自分で煽る様な事を言っておきながら、最終的にはやはり任せる、と言うポーズを取って見せたアレスに、途中で言葉に詰まっていたドヴェルグは唐突な迄の手の平返しに今度こそ言葉を失ってしまう。
が、取り敢えずは目の前の若造は自分に対して仕事を投げようとしている、と言う事だけはハッキリしていた為に、半ば癖で傾けようとしていた酒瓶を下ろして机に置き、その禿げ頭をツルリと撫でてから、元より影響の無さそうだった酒精を完全に消滅させ、表情を引き締めてから再度口を開く。
「……当たり前よ。
それで?インゴットでなくて、瓦礫だとかに近い状態だってのは分かった。ちと面倒じゃが、一旦鋳潰せば幾らでもどうにでもなろうよ。
それで?作れと言うからには、何かしらの注文は当然在るのであろうな?何も無い、お任せで、とか抜かしおったら、本当にそちらの都合を無視して適当に打ってやるから、そこだけは肝に銘じておけよ?」
「それは、当然よ。
取り敢えず、俺様に軽鎧の類い一式と、後は盾役のガリアン用に全身鎧を一組と手斧をセットで。これは、大至急で」
「まぁ、それは構わぬが、幾ら急いでも三日は掛かるぞ?それでも構わぬか?」
「上出来。後は……どうする?」
「じゃあ、短剣もお願い出来る?
護身用だけど、この間の依頼で刃先潰れちゃってさ」
「あ!じゃあ、ボクにも短剣をお願いしたいのです!
それと、ボクの従魔達様に、鎧と爪当てを作ってあげて欲しいのです!」
「……あ?従魔用の装備、だと?
……まぁ、やってやれん事は無いじゃろうが、作った事は無いからイマイチ勝手が分からぬし、そもそも装備させる従魔がおらぬと寸法を図る事すら出来ぬから、基本的に後回しになるが構わぬか?」
「なのです!じゃあ、今度連れてくるのです!」
「……あの、では鎖帷子は可能でしょうか?
もしくは、ブーツ型のグリーヴをお願い出来ないでしょうか?」
「まぁ、多少手間では在るが、儂の手に掛かれば一日も在れば事足りるじゃろう。
しかし、そうなると寸法を測る必要が在るが、それは構わぬのか?構わぬのなら、今日このまま測ってしまうが?」
「え、えぇ、では、後程お願い致します」
「……まぁ、よいじゃろう。
しかし、注文の中にお主の得物とソコのデカブツが使うであろう盾が無かったが、そちらは良いのか?
大方、もうガタが来ておるのであろう?」
そう言いながら、アレスが腰に刺しっぱなしにしていた長剣と、ガリアンが一応背負っていた盾を指差すドヴェルグ。
彼の指摘の通り、確かに彼らの得物は『神鉄鋼傀儡』とのたった一回の戦闘でボロボロに草臥れてしまっている。
手に馴染んでいると言うのならばまだしも、見た処そこまで使い込まれたモノでもない。であれば、他のモノを新調するのならば同時に新調するか、もしくは真っ先に代えるべきモノであるハズなのに、二人は何も注文を付けようとしていない。
そう判断しての彼の指摘だったのだが、そこに思わぬ返答が返される事になるのであった。
「あぁ、それは一応もう持ってるんだ。
……で、相談なんだが、あんたってもう在る武具を、更に強化する事って出来るか?」
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