『追放者達』、ギルドに色々提案する
「――――って訳で、取り敢えず倒して来ましたよ。既に昨日の話になるけど。
んで、コレが討伐証明部位のコア。ちゃんと、報告の通りに五つ分在るでしょう?」
「…………はい。多少砕けてはいますが確かに、神鉄鋼傀儡のコアが五つ、ですね。
アレス様を疑っていた訳では無いですが、ギルドではそこまでの数が出現していた、と言った情報は掴んでいなかったので、正直な話を致しますと半信半疑だった、と言うのは否定致しません。
コレは、下手をしなくても内部監査とかが発生する可能性が在りますよねぇ……」
「……内部監査?今回の依頼人への調査が甘そうだって事は分かるけど、その調査部門以外にまで波及させる様な、そんな大層な事にまで発展しますかね?この程度で?」
「えぇ、そうなるかと。
『追放者達』の皆様だからどうにか無事にやり遂げる事が出来ましたが、普通はこんな『騙して悪いが!』と言った様な事態になれば全滅して当然ですからねぇ」
「……まぁ、その点を否定はしないし、ぶっちゃけあの依頼自体が地雷臭いと言うか、罠っぽかったのかは否定しないけど、あいつならどうせ死なないから良いや、とか言う嫌な信頼感が感じられた気がするんだけど……?」
「さぁ?気のせいでは?
それと、依頼自体が罠っぽかった、とは一体?」
「ん?いや、そのまんまの意味だけど?
例の『神鉄鋼傀儡』が居た最奥までの道中で、かなりの金額に昇るハズの稀少鉱石が鉱脈のまま手付かずで残されていたりだとか、最奥が不自然な迄の広さと整えられ方をしていたりだとか、その癖して更に奥の方にわざとらしくあんまり草臥れていない工具の類いが転がされていたりだとか、そこら辺が理由かな?
まぁ、その最たるモノが例の『神鉄鋼傀儡』の存在自体なんだけどさ?あんなのが居たなんて見た事も聞いた事も無いし、何か意味在りそうな事も喋ってたからどう見ても自然発生したモノじゃないでしょうよ?」
「……それは、確かにそうですね。
私も、そこまで長くこの仕事をしている訳では無いですが、それでもこうして冒険者の方々と最も身近に接する立場に在ると自認しています。
……ですが、そんな私でも、自然発生した傀儡種が言葉を話すなんて事も、ましてや複数のコアを持っていて、それを使って分裂する、なんて事も聞いた事は一度も在りませんから、やはり分類としては『異常事態』であり、かつ何処かの誰かによる『作為的な現象』である事は、否定出来なさそうですね……」
「でしょ?だから、って訳でも無いけど、取り敢えずあの依頼出した依頼人の事、ギルドの方で少し調べて貰えない?
俺の所見的に、あの鉱山自体がなんだか『それっぽく整えた舞台』っぽく見えてね?そんな大掛かりな仕掛けが出来るのなんて、あの鉱山の持ち主の依頼人位じゃない?」
「……これから起きうる内部監査が『やり過ぎじゃない?』とあまっちょろい考えをしていたハズの人から、なんでそんな台詞が出てくるのかちょっと理解し難いですが、どのみちあの依頼人は再調査が入るでしょうから、ついでで良ければ調べておく様に言っておきます。それで、良いですか?」
「了解。
じゃあ、取り敢えず報酬金は残りの神鉄鋼を売却しに来た時に纏めて、って感じでよろしく」
「えぇ、了解しました。
ギルドとしては、神鉄鋼を卸して頂けるのであれば、その辺はどうとでも致しますのでよろしくお願い致します」
そう言葉を締め括りながら頭を下げるシーラの姿を受付を後にして、昨日終えた依頼の説明義務を果たしてから、何時もの通りに酒場で待機していたメンバーと合流するアレス。
しかし、何時もならばそのまま打ち上げないし、何かしら頼みながらの反省会となるのだが、今回はそうせずに場所代として硬貨を何枚かテーブルに置き、足早にその場から移動する『追放者達』。
時折、同業者の冒険者達や、一般の市民達(特に子供)が彼らへと様々な声を掛けて来る。
それは、時に功績への称賛であったり、純粋な憧憬であったり、結果への感謝の声であったり。
それは、時に見当違いな嫉妬であったり、無責任な謗りであったり、自尊心を癒す為の貶しであったり。
真っ正面から向けられたり、影で自らの発言とは分からない様に溢される言葉であったり、と言う差は在れども、最近の働きによって知名度が上がった結果である、との理由から、悪意によって向けられたモノ以外には、出来る限り丁寧に対応するが、決して足を止める事をしようとはしない一行。
そんな一行に彼らも若干訝しむ様な視線を向けながらも、この後何かしらの予定でも入っているのだろう。もしかすると、また偉業を打ち立てる為に依頼を受けているのでは!?との噂話に花を咲かせ、深く追求しようとする者はそう多くはいなかった。
移動する先々で似た様な事になりながらも、その尽くを回避して道行きを急ぐ一行は、アルカンターラの中心街から徐々に外れて行く。
そして、最終的には外周に程近い商人達が日夜鎬を削るアルカンターラに於ける商店の集まる商店区画と呼ばれる場所の更に奥。
商店へと商品を卸す職人達がその腕を競い合う、カンタレラ王国でも有数の職人が集まる一種の『聖地』である職人区画と呼ばれる場所へと辿り着く。
処狭しと建物が乱立し、様々な騒音が響き渡るその区画は、その乱雑な佇まいから一見スラム街か何かの様にも見えるし、実際にそこまで治安が良い、と言う訳では無い。
しかし、この職人区画はスラム街とは異なって必要最低限の清潔さは保たれているし、行き交う人々の顔にも疲労は在れども活力に満ち溢れ、その瞳には好奇心の輝きと、胸に抱いた『夢』によって灯された光が宿っており、絶望と徒労によって曇った瞳のスラム街の住人達とは全く違うと言えるだろう。
そんな人波を掻き分け、物珍しそうに周囲をキョロキョロと見回すセレンとナタリアを誘導しつつ、時折近寄ってくる掏りや物乞いを眼光のみで追い払いながら進むこと暫し。
彼らは、目的地でも在った、この職人区画の中でも一際オンボロ…………趣の在る建物の前へと到着する。
「…………ねぇ、リーダー?本当にここな訳?」
「廃屋の間違いなのです?人の気配もしないのですよ?」
「……アレス様?人間、間違える事も当然在ります。ですが、それは恥であっても罪では在りません。
ソレを恥ずかしがって嘘を吐く事こそが、人間が犯す罪なのです。ですのでどうか、本当の事を仰って下さっても良いのですよ?誰も、怒りませんから、ね?」
「……いや、別段廃屋って訳でも、間違えてる訳でも、嘘吐いてる訳でもないからね?
ちゃんとここが目的地の『鍛冶屋』で合ってるから。間違いなく。因みに言っておくと、セレンと来る、って約束したのもここだからね?」
「……え?ここだったのですか!?」
嫌そうな顔をしながら説明したアレスは、そこで一旦言葉を切ると、未だに訝しむ視線を向けているタチアナと、不安そうに建物を見るナタリア、驚愕に目を見開いているセレンを放置したまま、古びて今にも崩れて来そうな扉を叩きながら建物の内部へと怒鳴る様に声を掛けるのであった。
「……おい!爺!俺だ!アレスだ!
言われた通り、素材持ち込んでやったぞ!約束の通りに、コレで武器を打って貰うからな!!
おい!返事くらいしたらどうなんだ!?そもそも、まだ生きてるんだろうな!?おい、爺!!」
「……うるっさいわボケェ!!そんなに怒鳴らんでも、嫌でも聞こえておるわ!!
そんなに偉そうに抜かしおると言う事は、生半可な素材を持ち込んだのでは無いのだろうな!?
もしそうでなければ、また尻を蹴飛ばして叩き出すぞ!!?」
……そして、ソレに呼応する形で、まるで樽の様な体型をした小柄で筋骨隆々な白髭に顔を覆われた老人が、彼の怒鳴り声に負けじと声を張り上げながら、自ら崩れ掛けている扉を破らんばかりの勢いで叩き開けて飛び出して来るのであった。
……な、何か出たぁ~!?
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