『追放者達』、受付嬢に相談する
「…………武具の素材になりそうな魔物の討伐依頼、ですか……?」
「そう。それも、今の俺達のランクで受けられそうなヤツ。在りそう?」
「……そう、ですね……。
少し、調べてみますので、少々お待ち頂けますか?」
そう言い残し、奥へと引っ込んで行くシーラ。
ソレを見送るアレスは、つい先程まで彼女の居た受付のカウンターへともたれ掛かって肘を突きながら、先程まで眺めていた掲示板へと再度視線を向ける。
普段であれば、この時間帯(昼前)であってもそれなりに種類も量も残されている依頼掲示板なのだが、ここ数日はもっと早い時間帯でないと好みの依頼を選び取る事が難しくなってしまっていた。
それは、何故なのか?
幾つか理由は在るだろうし、人の営み故に確たる『コレだ!』と言うモノは無いだろうが、大きな理由の一つとしては西側の大街道の安全が確保されたから、と言うモノだろう。
以前、彼ら『追放者達』のメンバーが依頼として引き受け達成した『単眼巨人』の討伐。
アレが、ギルドが出していた調査隊によって正式に達成したと認められ、その情報が最近になって漸く商人達に認識されて世の中へと浸透して行った結果、それまで止められていた西側の大街道に関連した流通や、その先に在るアンドラス大森林に関連した依頼が急増する事になったのだ。
幾ら他の三方向の大街道と比べると廃れ、その行き先にも一般的には『特にコレ!』と言った目ぼしいスポットが在る訳でもないとは言え、それでも一つの国の首都から伸びる大街道の内の一つが再度使える様になったのだ。
使えなくなっていた間に仕入れられなかったモノ、通商先で枯渇し強烈に求められているであろうモノ、時期的にコレから双方向で求められる様になるモノ。
それらを求めて、半月程前から西側の通用門は出入りがし辛い程の大盛況を見せていた。
必然的に、人の往来が増え、ソレによって新規登録した冒険者も、ギルドへと寄せられる依頼も増えたのだが、同時に護衛依頼の様な長期間拘束される依頼も急増した。
行き先は、皆揃いも揃って西側の大街道から繋がる方面であり、中には浅層ながら、アンドラス大森林を通り抜ける、と言う無茶苦茶な手段に出るモノも在ったのだとか。
当然、そうして寄せられた以上、受けてこなす冒険者も存在している。しかも、護衛依頼は依頼料をケチられる事が少ない上に、道中の費用も依頼者持ちと言う事が多かった為に、時には競争になる勢いで奪い合われたのだ。
そうなれば、普段行かない遠方での討伐依頼をついでに受けたり、暇な期間の間に可能な採取依頼を受けたり、と抱き合わせで複数の依頼を受注する者が増え、あっと言う間にそれまでストックされていた依頼が消費された事により、こうして掲示板が寂しい状態になっている、と言う訳なのだ。
これまでであれば、あんまり行った事の無い場所だから、とか、向かおうにも足が無いし……とかで、受け手が居らずに半ば塩漬け案件と化しかけていた様な依頼もドンドンと捌けて行き、ギルドとしては嬉しい限りなのだろうが、彼ら『追放者達』の様に一定の事情から普段とは異なる傾向のモノを受けてみようかな?と思っていた者に対しては、中々に厳しい状況になってしまっていたりもする。
とは言え、ソレはあくまでも『依頼を受けて討伐する事』に拘る場合のお話。
別段、魔物を狩る事自体は何ら罪ではないし、ギルドを通さずに行動したからとて何か罰則が在る訳でもない。
精々が、依頼を受けていれば得られた報酬金が得られなくなる、だとか、ギルドによる出現場所の情報等のサポートを受けずに行動する羽目になる、程度の支障は出るが、言い換えればその程度でしかないのだ。
が、しかし、彼らとしてはそれなりにギルドには世話になっている(その分色々と働きで返してはいる)ので、あまりそう言う横紙破りで不義理な事はしたくないし、今は装備を新調した上で更に『その上』を求めている状態なので、少しでも稼いでおきたいと言う事情も在ったりするのだけれど。
なので、掲示板で良さげな依頼が無いかを見てみた処、先の事情により目当ての類いの依頼が無かった為に、丁度受付にいた馴染みの受付嬢であるシーラに相談してみた、と言う事の流れだったりする。
そんな訳で、それなりに顔も売れて来た事もあってか周囲からの噂話や囁きに耳を傾けながら受付で暫し待っていると、奥に引っ込んでいたシーラが分厚いバインダーを抱えてカウンターへと戻って来た。
横合いから挟み込まれた用紙が見えていたが、比較的新しい白い用紙と共に、若干ながらも変色している古いモノと思われる用紙も挟まれており、昔から置かれているモノである事が予測された。
「……よいっしょ……っと!
取り敢えず、掲示板に張り出していない高難易度指定されてる依頼を持ち出して来ましたけど、武具の素材になりそうな魔物、と言う事でしたが、ソレ以外に条件は何か在りますか?
より具体的な要望が在った方が、絞り込みがしやすいのでご希望に沿ったモノをお勧め出来ますよ?」
「……そう、ですね……。
取り敢えず、最優先は俺の長剣とガリアンの大盾なんで、そこら辺に使えそうな魔物だと有難いですかね?
それと、盾役のガリアンの装備がまだ微妙なんで、あんまり特殊な攻撃を仕掛けて来る様なヤツでは無い方が良い、かな?
……でも、そんな都合の良い相手なんているんですか?そんなのいても、高難易度指定もされてないだろうし、そうやって塩漬け案件になったりもしてないと思いますけど……?」
「まぁ、あんまりこのバインダーの存在自体を知ってる方もおられませんし、本支部とは言えそこまで沢山高ランクの方がおられる訳でも在りませんので、意外とこう言う依頼が溜まりやすいんですよ。
それで、『盾や剣の素材に使われる』モノで比較的『特殊な攻撃を仕掛けて来ない相手』となりますと…………あっ、コレなんてどうですか?」
「……これは……?」
渡された依頼書を受け取り、内容に目を通す。
まず目についたのは、依頼書に大きく書かれている討伐対象でもある『神鉄鋼傀儡』の名前と、受注資格の欄に記入された『Aランク』の文字。
次いで、達成期間は未設定ながらも『可能な限り早く』とされており、依頼先は現在は閉鎖されている鉱山の奥底。更に言えば、依頼の途中で鉱石の類いを採掘しても良いとされており、それも報酬の一部として設定されていた。
最後に報酬金の欄へと視線を向けると、ソコには大金貨二枚の文字と、討伐対象である『神鉄鋼傀儡』の残骸その全てを引き渡す、と記されていた。
……正直、売り払えば人生を遊んで暮らせる様になる『神鉄鋼』の塊である『神鉄鋼傀儡』を討伐しろ、と言う依頼を出しておきながら、その残骸をそのまま渡してくる、と言うのが腑に落ちないが、美味しい依頼であるのは間違いないだろう。
むしろ、こんな依頼が今まで残されていたと言う事実の方が、アレスにとっては驚きに値した。
「……確かに、俺達が求めているレベルの素材は手に入りそうですが、良いんですか?こんな依頼を回して貰っても?」
「えぇ、もちろんです。
知っての通りに『神鉄鋼傀儡』はその比類無き防御力と剛力に特化した魔物となっております。
ですので、圧倒的な攻撃力で相手の防御力を貫ける方か、もしくは物理的な防御力を魔法等の手段で無効化出来る方で無ければそもそも相手になりませんので、そもそも受注しても達成出来る方が少ないのです。
それに、この依頼自体は魔物に住み着かれてしまった鉱山主が、鉱山を再稼働させたくて発注した依頼なので、確実に達成出来る方であれば誰でも良い、と言付かっておりますし、皆様は先の依頼の報酬によりパーティーランクが『Bランク』に上昇されておりますので、十分に資格は満たしておりますよ。
それで、如何なさいますか?」
「……分かりました。その依頼、受けさせて頂きます。
詳しい依頼先の位置をお願いします。あと、コレって依頼主に顔出ししておいた方が良い、とかありますか?」
そうしてアレスは、他のメンバーには事後承諾する形になってしまったが、結局依頼を受けることに決めたのであった。
初のAランクの依頼、はたしてどうなる!?
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