『追放者達』、住居を手に入れる
ギルドのエントランスにて『追放者達』のメンバーが騒ぎ(?)を起こした次の日。
彼らは、予定の通りにギルドへと再度顔を出していた。
一応、受けてしまった以上は無視する事も出来ないし、する気もない為にわざわざこうして指定された集合場所へと赴いて来た彼らだったが、やはりその機嫌はあまり宜しくない様子。
とは言え、それも当然の事。
昨日の死闘に加え、その後の例の騒動も在ったが為に余計に蓄積していた疲労は、流石の彼らでも一昼夜にて抜ききる事は出来なかったらしく、覇気の無い表情や、若干引き摺る様にして重々しくなっている足取り等からも、それらの事情を窺い知る事が出来た。
ソレに加え、昨日の死闘の後にセレンの治療によって五体満足を取り戻しているメンバー達だったが、その時には既に彼女の魔力も殆んど残っていなかったので部位欠損の再生を最優先した為に、未だに彼らの身体には大小様々な負傷が残されており、それらを物理的に治療している包帯やガーゼに今も血が滲んでおり、より一層彼らの痛々しさを強調している。
「……申し訳ありません。昨日、私が魔力切れを起こさなければこんな事には……」
「そこは、謝る様な処じゃないだろう?昨日は誰も死んでいないんだし、多少跡が残ったとしても俺達は野郎なんだからそんなの気にしないけど、そうでないセレン達に跡が残る様な負傷が無くて良かったよ」
「まぁ、そこは仕方がないよ。受けた直後でも無い限り、時間が経ってから回復魔法で負傷を治すと、何故かその殆んどが大きな跡が残っちゃうからねぇ。
オジサン達は別段気にする程綺麗な身体じゃないから別に良いけど、タチアナちゃん達の肌に跡残すだなんて事は、出来ればあんまりやりたくないからねぇ」
「うむ、その通りである。
とは言え、ある程度自然回復させた後の傷であれば、跡を残す心配も不要であろう。それに、当方としてもアレだけの活躍を見せたセレン嬢に、そこまでの無体を強いるつもりは欠片もない故に安心召されよ」
「そうそう。むしろ、欠けた手足がこうしてキチンと揃ってるって方が余程重要だから、そんな事気にしなさるな。
と言うか、むしろあの状況だとセレンが居なかったら普通に全滅してたんだから、そんなに申し訳無さそうにしないで胸を張りなよ、胸を」
「……はい、リーダーアウトー!」
「ですです!リーダーにそのつもりは無さそうなのは分かるのですが、流石にそれはセクハラなのです!謝罪を要求するのです!!」
「……なん、だと……!?
あの程度で、か……!?」
そんなやり取りを挟みながらの会話の連続に、それまで自らの役割を果たせなかった、と沈んでいたセレンの表情が徐々に明るくなり、その顔にも微笑みが戻ってゆく。
「…………ふふっ、そう、ですね……では、私も自責の念に囚われるのは止めて、胸を張らせて頂きましょう。もちろん、物理的に、と言う訳ではないですけどね?」
「そうそう、その方が良いよ。美人さんは笑ってくれていた方が、オジサンを筆頭に野郎共は嬉しいからねぇ」
「オッサンと意見の一致を見るのは些か不本意だけど、そこは同意できる意見だな。
……さて、じゃあ、面倒な依頼をサクッと終わらせて、何処かで打ち上げでもするか?どうせ、幾らかは報酬も出るだろうしさ」
「「「「「応!!」」」」」
そうこうしている内にギルドへと到着した『追放者達』一行は、既にエントランスにて待機していた調査隊と合流し、例の物件へと向かって再度移動を開始する。
どうやら、彼らへと依頼を振ったシーラも同行する予定であったらしく、彼女も準備万端!と言った風体で待機していたが、既に事情を把握している『追放者達』からしてみれば子供が背伸びした様にしか見えず、また他の調査隊のメンバーからしてもあくまでも『護衛対象』であるらしく、苦笑いと共に生暖かく見守られていたのはここだけの話である。
移動する道中、何処かビクビクした様子を見せていたシーラだったが、アレス達の機嫌が昨日のやり取りで言っていた程に悪くなっている訳ではない事を理解したのか、徐々に怯えが取れて普段のソレと変わらない様子になってゆく。
「……じゃあ、あのマルクスだかマルクズだか言うヤツの処分は決定した、って事で良いんですかね?」
「えぇ、そうなりますね。
流石に、今迄寄せられていた素行不良と共に、今回ダンジョン踏破の功績を奪う様な事を吹聴したり、内部で勝手な行動を取ってギルドとして有望視している皆さんを意図的に危機に陥らせたり、と罪状としては十分ですし、おまけにギルドが保管していたアイテムを勝手に持ち出す、と言う犯罪行為までやってくれましたからね。
ギルドとしましても、そこまでやらかしてしまったマルクス様……いえ、もう『マルクズ』で十分ですね。例のマルクズを庇い立てる義理も理由も無くなりましたし、アレを庇い立てて有望株である皆さんとの関係を危うくする事はあり得ませんので、ギルドからは永久追放処分にした上に騎士団へと犯罪者として突き出しました。
アレの罪状から鑑みれば、恐らくは生きて出てくる事にはなるでしょうが、アレの様な犯罪履歴の持ち主は監獄では嫌われる傾向が強いので、身体は無事でも嗜好までは無事なままで出て来られるかは保証しかねますけどね?」
「……?嗜好、なのです?」
「……あぁ、まぁ、分からないなら知らないままで良いんじゃないのか?多分だけど」
「……知らぬ方が良い世界と言うモノも、在るのだよナタリア嬢……」
「……君は、そうやって汚れを知らないままでいてくれる方が、オジサンは嬉しいかなぁ……」
「…………なのです……?」
「……まぁ、どうしても知りたければアタシが後で教えたげるから、今は流しておきなさい。良いわね?」
「あ!でしたら、私も一緒にお願い致します。
正直、今の話を聞いていて、その部分だけ良く分からなかったので気になっていたのです。よろしいでしょうか?」
「……それは、リーダーに聞いてからの方が良さそうね……」
そんな会話を挟んでの移動は順調に進み、例の物件へと到着する。
そこは、以前までの様に錆びた問が閉ざされている訳でも無く、ギルドが仮拠点を築いている訳でも無く、玄関脇に見張りが二人立てられているのみであった。
これは、このダンジョンが攻略された、と言う事を知ってか知らずか内部へと入ろうとする冒険者や、内部にはもう魔物は出てこない、と言う事を聞き付けて、罠だけならばどうとでも探索出来る!と残された宝箱目当てで内部を探索しようとする冒険者達を押し止め、彼ら『追放者達』に対して約束された報酬を無事に引き渡す為に配置された人員である様子だ。
そんな彼らへと目礼をしてから扉を開けて貰い、調査隊と共に入って行く『追放者達』。
以前と同じく拡張された空間を保っていたエントランスに圧倒される調査隊とシーラへと声を掛けて現実へと連れ戻し、階段を上って目的のボス部屋へと誘導して行く。
そのまま残されていたボス部屋へと到着し、その内部へと踏み込んだ調査隊のメンバー達は、展開されたまま放置されているギミックと、砕かれたまま散らばり放置されている大小在るコアの破片。それと、崩れ落ちたままになっている『不死之王』の残骸を目の当たりにすると同時に、彼らの言葉が本当であったのだ、と判断する。
その後も、彼らの供述の通りにトラップが不発状態であるのを確認したり、『追放者達』のメンバーが同行していないと発動する、と言う事を検証したりした結果、彼らの言っていた事が全て真実であった事が判明した為に、予てより約束されていた報酬としてこの旧グリント邸は即日で彼らへと引き渡される事になるのであった。
やったね!お家(ただし迷いかねない程に広くて侵入者対策バッチリ)が手に入ったよ!(棒読み)
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