『追放者達』、禍根の芽を摘む
「………………え、なにこれ……?」
見覚えの在る金髪が床にフルボッコにされた状態で全裸土下座をし、ソレを同じパーティーメンバーの女性陣が見ているこちらまで震えて来そうな程に冷たい目で見ている、と言った目の前の光景に、思わずそんな呟きを溢すアレス。
そんな彼へと、事の一部始終を見ていたらしい冒険者の一人が、何が在ったのかを語ってくれた。
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ソレによれば、まず最初はマルクズ某が彼も知っての通りの事を、声高に吹聴していたのだそうだ。
曰く、あのダンジョン踏破は基本的に自分の手柄である事。
曰く、自分と愛し合っている女性陣と協力してボスを討伐した(顔の傷はその時の名誉の負傷である)為に、彼女らと行動を共にしていた役立たず共(早い話がアレス達男性陣)は何もしていなかった事。
曰く、ギルドからもその功績を称えられており、近々数段階の昇格が約束されている事。
曰く、自分を愛する彼女らは、近い内にパーティーを離脱して自分と新しくパーティーを結成し、その中で今まで出来なかった分まで愛を育む事を約束している事。
そんな、自らにとって都合の良すぎる法螺話を周囲へと吹聴し、周囲も中途半端に在る実力と、実際にダンジョンへと赴いていながらこうして無事に戻ってきており、その上でこいつが戻って来たのと同じ様なタイミングから魔物が出なくなった、と言う話も聞いてきたが為に、その場の半数近くがその話を事実として受け止めるか、もしくは事実寄りの話である、と認識してしまったのだとか。
そんな中、アレスと別行動を取っていた他のメンバー達が騒ぎを聞き付けて酒場へと移動して来た為に、さも当然、と言わんばかりの馴れ馴れしさでマルクズ某が女性陣へと声を掛けて来たのだそうだ。
当然、女性陣も以前の接触やダンジョンでの多大なるやらかし等にて彼に対してあまり良い感情は抱いておらず、その為にやんわりと彼からの誘いを断ったり、遠回しに興味が無い、むしろ近寄って来ないで欲しい、と伝え、ガリアンとヒギンズも直接的な肉体的接触を防ぐべく壁となってくれていた様子。
故に、と言うわけでも無いのだろうが、マルクズ某が吹聴した話を鵜呑みにし、その上で不要な正義感を剥き出しにしてくれた複数の冒険者達が『愛し合う者達は一緒にいるべきだし、ソレを妨害する者には裁きを与えて然るべき!』と言った独善的な行動に出ようとしたのだとか。
その際に、女性陣へとそれまで吹聴されていた内容が全て伝えられる事となる。
当然、女性陣は激烈に抗議し、その上で事実と異なる法螺話の吹聴を辞める事と、自らの言葉が嘘である、として周囲へと拡散させる事を迫ったのだそうだ。
マルクズ某も、当たり前の様にその要求を却下。
それどころか、自身が口にした事が事実であるのは間違いない!とでも信じ込んでいたからか、自らへと向けられた弾劾の場を上手く誘導し、彼らの矛先をダンジョンでは全く役に立っていなかった、と言う説明を信じてしまった冒険者達をガリアンとヒギンズへとけしかけたのだ。
そして、当たり前の様にそれらを殲滅し、勢い余ってマルクズ某もボコボコにしてしまう二人。
その最中に二人が浮かべていた『素敵な笑顔』は、語ってくれた冒険者曰く『夢に出てこない自信が無い』と言う程に迫力の在るモノであったらしい。
しかして物理的にズタボロにされ、ほぼ単独でダンジョンの踏破に成功した!と言う自らが語る功績と、彼らが全くもって役に立っていなかった!と言う誹謗中傷に対して周囲が疑問を抱き始めた頃合いにて、それまで相手の言い分を額に青筋を立てながら無表情のままで聞きに回っていた女性陣が、それまで溜め込んだ不満やストレスを一気に解放する様に口撃を爆発させたのだそうな。
曰く、自分達は誰一人として貴方なんて存在を愛してはいないし、むしろどうでも良い存在だと認識している事。
曰く、あのダンジョンは『追放者達』のパーティーメンバーのみの単独で踏破したモノであり、そこに他の冒険者は誰一人として介入してきた事は無い事。
曰く、そもそも協力して、と言ってはいるが、実質的に不要に敵を強化してくれた上に、自身は一撃で沈んで戦線離脱してくれたので、文字の通りに『役立たず』でしか無かった事。
曰く、更に言うのであれば、自分達はあくまでも補助や支援の類いしか出来ておらず、基本的に前線で身体を張って戦ってくれたのは仲間の男性陣であり、ソコのゴミの様に一撃で戦線離脱する事も無く、本当に漢らしく雄々しく最後まで倒れること無く戦ってくれていた事。
それらを滔々と語り出し、ボコるだけボコってから女性陣の背後に控えていたガリアンが赤面して顔を背け、ヒギンズが苦笑しながら恥ずかしげに後頭部を掻く中、徐々に周囲の冒険者達の顔付きと空気が変わって行く。
自らの旗色が悪くなったと判断したらしいマルクズ某が、反論する為かもしくは無理矢理何かしらの手段でどうにかしようとしたのかは不明だが、二人にボコボコにされた状態にてどうにか立ち上がったのだが、丁度ボコされて痛んでいたらしいベルトが外れ、ズボンが落ちる事になったのだそうだ。
下半身を露出する形になったマルクズ某は、自らの持ちモノに自信が在ったらしく、微塵も隠す素振りを見せず逆に女性陣へと見せ付ける様に振る舞おうとしたらしいのだが、ソレを目の当たりにした女性陣三人は特に慌てる事も、顔を赤らめる事もせず、まるでこの世で一番つまらなく下らないモノを見た、と言いたげな目をしながらそれぞれこう言い放ったと、彼は自らの股間を押さえつつ涙目になって震えながらアレスへと語っていた。
『…………おやおや、随分と可愛らしいモノですね?そんな、子供と変わらない様なモノを世間へと恥ずかしげも無く晒せるとは、随分とご自信がおありなのですね?
まぁ、私がお相手するのは、断固としてお断りさせて頂く所存ですが』
『……?ねぇ、アンタのソレ、なに?まさか、ナニだとか言いたいわけ?
ごめん、小さすぎてナニだって気が付かなかったわ。玉の方も小さすぎるし、アンタもしかして精通すらまだなんじゃないの?
だったら、その汚ならしいのさっさとしまっておけば?戦闘だけじゃなくて、そっちまで『役勃たず』だってバレるんじゃないの?』
『…………はぁ、アレだけ豪語していたのですから、嘸やそちらは立派なモノをぶら下げているのかと思っていたのですが、大した事は無いのですね?
別段期待していた訳でもないのですが、敢えて言うなら『期待外れ』と言うのが正直な話なのです。そんな粗末な道具で、どうやって女を虜にしてきたのです?
もしかして、相手が演技してたのを本当に感じていたと勘違いしていたりするのですか?だとしたら、とんだ道化なのです』
女性陣が放った一連の口撃により、雄としての自信の尽くを破壊し尽くされたマルクズ某は、その場で奇声を挙げながら崩れ落ち、どうか勘弁して下さいお願いします、と泣きながら全裸のままで土下座を敢行し、ソレを女性陣が更に冷たい目で見下ろしている場面にてアレスが到着した、と言う訳であったのだ。
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それらを知ったアレスは、若干マルクズ某に対して若干の憐れみを抱かなくは無いシチュエーションであったとは思ったが、ソレよりも前にやらかしていた事が事だけに彼としても鬱憤の類いは溜まっていたので、特に取り成す様な事をするつもりは更々無く、再度人混みを掻き分けてメンバーの元へと進んで行くと、未だに全裸土下座を敢行しているマルクズ某を故意的に踏んづけてから皆と合流し、明日以降の予定を伝えながら、最後に振り返ってこう口にするのであった。
「それで?都合良く利用しようとした相手に、全くもって歯牙にも掛けて貰えずに捨て置かれる気分はどうだ?
まぁ、ソレを今更知った処でどうにもならんだろうし、この件は正式にギルドへと抗議させて貰うから、後で処分が下ると思っておくことだね。
あぁ、それともう一つ。俺の仲間に手を出そうとしやがったんだ、この程度で終わらせてやるつもりは更々無いから、覚悟しておけよ?産まれてきた事を後悔する事だけは、保証してやるから、さ?」
その場面を見ていた冒険者達は、彼の瞳に宿っていた確かな赫怒を目の当たりにし、揃って
『あいつらを敵に回すのだけは止めておこう』
と誓ったのだそうな。
なお、作中での『マルクス』を『マルクズ』と呼称しているのは故意ですので悪しからずm(_ _)m
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