『追放者達』、決着を付ける
対『不死之王』戦、最終幕
はたして、どうなる?
『不死之王』がマルクス某の余計な介入によって強化されてから暫し経った頃、戦闘は佳境を迎えようとしていた。
「……がはっ…………!?」
「リーダー!?っぐ……!!」
「…………な、なはは……。
流石に、そろそろ不味いかもねぇ……」
「……くっ……!?私が魔力切れさえ起こさなければ……!!
なんで、こんな重要な時に……!?」
……とは言え、彼ら『追放者達』にとって優位な状況でも、ましてや拮抗している様な状況でも無く、当然の様に彼らにとっては圧倒的に不利かつ押されている状況である事は言うまでも無いだろう。
相手が強化されて初の交差にて軽くない手傷を負う羽目になった彼らは、途中から本格的にアンデッドの天敵と言っても良いであろうセレンを戦線へと投入する事を決定し、実行に移していた。
その決断が下された事もあり、彼女はアレス達に対して回復魔法を行使してから、その有り余る魔力に明かせて神聖魔法を連続で発動させ、『不死之王』に対して浴びせかける様に放って行った。
幾度も白銀の光に呑まれ、その度に畳み掛ける様にアレス達が飛び込んで行き、最初と同じ様に追撃や連撃を仕掛けて行ったのだが、どうやら強化されていたのは力だけでは無かったらしく、反応速度や耐久力、魔力の出力等も大幅に上がっていた為にその悉くを防がれ、反撃で薙ぎ払われた男性陣の何処かしらが欠損する、と言う事態が頻発する結果となる。
その為、彼らの回復だけでなく、適宜行われた防御の為の結界(殆どの場合一撃で破壊されてしまう事となる)や足止めの為の弾幕(負傷した男性陣を一時下げさせる為のモノ)によって、普段よりも格段に多い魔力の消費を強要されたセレンは、これまでは一度たりとも経験した事が無い、と豪語していた魔力切れを起こしてしまい、現在は地面へと膝を突く羽目となってしまっていた。
だから、と言う訳でもないのだろうが、彼女が戦線を離脱するのとほぼ同時に盾役としてその役割を十全にこなしていたガリアンがまず脱落し、戦闘から離脱させられてしまう。
次に、ほぼ一人でダメージディーラーとして奮戦を続けていたヒギンズが疲労から攻撃を受け損なって片腕を奪われて、そこから流れる様に片足、尻尾と格部位を欠損させられてしまったが為に、彼も戦線からの離脱を余儀無くされてしまった。
暗殺者らしく一撃離脱を繰り返していたアレスは意外な程に持った方だろうが、それでも彼が身に付けている膨大なスキルのパターンを解析され、手札として持ち合わせていた組み合わせとソレを切るタイミングを読みきられてしまい、最終的には仕掛けようとした段階にて捕まえられて攻撃を食らい、他のメンバーと共に地面へと沈まされてしまっている、と言う訳だ。
「……げほっ……これは、マジで死ねるな……。
俺とガリアンがボロボロで、セレンは魔力切れで碌に戦えないしそもそも動けない……。
オッサンに至っては、何で生きてんのか分からないレベルでの重傷。こんなん、どうやって勝てってか……?」
「……ぐっ、げほっ……!?
……はっ、はっ、はっ……確かにこれは……勝ち筋が欠片も見えては来ないな……」
「……痛っ!?あたたたたたっ!?!?
まぁ、でも、降参したからって、許してくれる雰囲気でも無いんだから、どうにかするしかない、でしょうよ……!」
「……はぁ、はぁ、せめて、あの扉が開けば……」
未だに戦意は衰えていない彼らだが、状況としてはどうにもならないだろう事は、自身の現状である以上は痛いほどに理解している。
しかし、彼らが入って来た扉は開かず(ナタリア達が一応試しているのが横目に見えていた)、余計な事をしてくれやがった張本人は壁際で延びているだけで使い物にならないし、仮に健全だったとしてもあの時の様子からして戦力になったのか?と問われれば首を横に振らざるを得ない。
なれば、なればこそ、逃げる事も援軍を望む事も出来ないのであれば、前に出て敵を倒す他に生きて帰る術は無いのだ。ならば、戦うより他に選択肢は無い。与えられていないのだ。
それ故に、彼らは途切れそうになる意識を無理矢理繋ぎ、震える膝を叱咤して立ち上がり、半ば壊れかけている得物を構えて前へと進んで行く。
そうして、幾度目か分からなくなった激突をしようとしたその時。
『追放者達』のメンバーに残されていた最後の希望であり、これまで膝を折っても立ち上がれた理由であり、今の今まで戦えていた原動力であった『福音』が、彼らの元へともたらされる事となった。
「…………あ、あった……!あったのです!見付けたのです!!このダンジョンの『コア』を見付けたのです!!!」
ボス部屋の中に響き渡ったその声に、片腕を失ってバランスを取る事に難儀していたアレスが
既に幾条ものひび割れが入れられてしまっている大盾を構えていたガリアンが
片手片足を失いながらも尚戦意を喪わずに地を這うようにして移動していたヒギンズが
尽きた魔力を汲み上げんとして吐血しながら精神集中を試みていたセレンが
そんな彼らを迎撃しようと前傾姿勢で構えを取っていた『不死之王』が、その声に釣られて反射的にそちらへと視線を向けてしまう。
すると、その先には、とある壁際にてワタワタしている少女にしか見えないナタリアと、その口をどうにか抑えて存在感を消そうとしているタチアナの姿だけでなく、その周囲へと散会して及び腰ながら『不死之王』へと唸り声を挙げて威嚇して見せる、それまで必死に部屋の中を探索して目的のモノを発見して見せた森林狼と月紋熊の姿と共に、彼らの奥に位置する壁に埋め込まれ、その周辺にソレを隠していたのであろう展開されたギミックの残骸が残されているのが見てとれた。
「……バッ、バカ!!そんな大声だしたら気付かれるでしょうが!?
バレたらアイツら諸とも一貫の終わりだって、アンタも知ってるでしょうに!?」
「な、なのです!?そうなのです、そうなのでした!!
早くこの『コア』を破壊して、ダンジョンの機能を停止させるのです!そうすれば、リーダー達から聞いていた話の通りなら、あの『不死之王』も倒せて扉の仕掛けも解除される事になる、ハズ……なのです…………?」
アワアワしながらタチアナと会話し、剥き出しにされたコアを目の前にして護身用の短剣を取り出したナタリアは、不意にそれまで鳴り響いていた戦闘音が止んでいるだけでなく、何やら自身へと視線が集中している様な気がして視線を周囲へと巡らせる。
すると、アレス達だけでなく、『不死之王』からも自身へと視線が注がれている事を否応なしに理解する羽目になってしまう。
慌てて逆手に握った短剣を振り上げるナタリアだったが、それに合わせて残像すらも霞んで見える程の速度にて彼女へと迫る『不死之王』。
そのまま通してしまえばナタリアの身が危ないだけでなく、彼らの勝ちの目が欠片も無くなってしまう事になる為に、怪我で碌に動けないハズの身体に鞭を打ってその進路上にひび割れた盾を構えて割り込むガリアン。
当然、そんな状況であれば真っ正面からのぶつかり合いで勝てるハズも無く、一瞬のみ足を止めさせる事には成功しはしたが、腕の一振りにて構えていた盾を砕かれ身体を不自然な方向に折れ曲がらせながら壁へと吹き飛ばされて亀裂を刻む。
とは言え、一瞬とは言え足を止める事に成功した為に、そのタイミングを狙って地面を這いつくばっていたヒギンズが相棒たる得物を『不死之王』へと目掛けて投擲する!
流石に、ヒギンズ程の手練れが放った攻撃を回避するのは難しかったのか、その場に留まり腕を振るって飛来した槍を叩き落とす。
骸骨でしかないハズのその顔は、何処か苛立ちを周囲へと振り撒いている様にも見えたが、ガリアンが稼ぎ、ヒギンズが確定させた事によって『不死之王』の足が、僅かな時間ながらも完全にその場に止まる事となる。
その隙を突き、決死の相討ち覚悟で飛び掛かるアレスとナタリアの従魔達。
その殆どが『不死之王』に到達する前にその拳によって迎撃され、残ったモノも苛立ち混じりに力ずくで振り回された手足にて弾き飛ばされてしまったが、真っ先に飛び込んだアレスと、彼女の従魔の中で唯一の月紋熊である『ヴォイテク』と呼ばれる個体が拳撃の嵐をギリギリで耐え抜いて『不死之王』へと取り付いて、ガリアンとヒギンズが産み出した僅かな時間を最大のモノへと引き伸ばして行く。
そうして産み出された時間により、何度も振り上げた短剣を振り下ろして行くタチアナとナタリア。
彼女らが比較的非力である、と言う事も無関係では無いのだろうが、ソレを差し引いてもダンジョンの急所にして活力の源であるコアが一際頑強である、と言う事も関係している事だろう。
そうして何度も振り下ろす事で、漸く僅かに皹を入れる事に成功する二人。
しかし、そんな僅かな傷を入れる為に掛かった時間にて、アレスとヴォイテクの二人(?)は拘束している『不死之王』の攻撃を受け、最早息も絶え絶えな状態になってしまっている。
…………万事休す、か……。
誰もがそう諦感染みた所感を抱いてしまったその時、それまで皆が動きを見せていた中で一人だけ動かずに回復に努めていた彼女が突如として立ち上がって駆け出し、今も必死の形相にて切っ先が欠けて潰れた短剣を振り下ろしていた二人の元へと辿り着く。
「二人とも、離れて!『神よ!敬虔なる貴方の子らの祈りに応じ、その手に握りし裁きの鉄槌を振り下ろしたまえ!『神の怒りによる鉄槌』』!!」
そして、彼女の持ちうる魔法の中で、唯一杖が触れている事が発動条件として設定されている代わりに、最大の破壊力を持つ魔法の詠唱をすると同時に、二人が着けたひび割れ目掛けて全力で手にした杖を振り下ろす!
ソレを驚異だと判断したからか、何処か焦った様子にて一際激しく暴れまわり、自身に取り付いていたアレスとヴォイテクを弾き飛ばし、セレンの元へとそれまでの中で最速のスピードで迫って行く。
…………しかし、ほんの僅かな時間。それこそ、ガリアンかヒギンズかはたまたアレスか、彼らの内の誰かによって足を止められる事が無ければ間に合っていたハズの、そんな僅かな時間の差により、彼女へと手が届く寸前にて彼女の杖がコアへと到達し、杖が叩き付けられると同時に白銀の光が周囲へと爆散する!!
暫し経過し、轟音と強烈な光が晴れて視界と聴覚が回復した時には、杖を手にして倒れ付すセレンと立ち尽くす『不死之王』と、コアが在ったハズの場所が大きく抉れた壁のみを残して跡形も無く破壊され、その痕跡を残す事無く消滅したコアのみであった。
そして、立ち尽くしていた『不死之王』が力無く崩れ落ち、カシャカシャと軽い音を立てながら崩壊した事により、漸く『追放者達』のメンバー達の胸中にも、戦いが終わったのだ、と言う実感が広がって行くのであった。
「……おいおいおい、マジで!?あのトラップで超強化されたジョシュア君を、ダンジョンコアを破壊するなんて裏技も良い手段を使ったって言っても倒しちゃったって訳!?
有り得ねぇ!マジで有り得ねぇ!!何なんだよお前ら!?良い意味でワケわからねぇよ!!!」
対『不死之王』、決着!
……しかし、最後に出てきた台詞は一体……?
もう一話二話位でこの章は終わりになる予定です
何時もの通りに閑話を挟んで次の章に移る予定です
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