『追放者達』、余計な事をされる
やったか!?(フラグ回収?)
「『神よ!敬虔なる貴方の子等の祈りに応じ、その神聖なる力にて不浄の悉くを打ち払いたまえ!『神の怒りによる神罰』』!!」
「これもオマケよ!『精神よ、減衰せよ!『抗魔力弱化』』!『四重弱化』!」
アレスの指示により、今の今まで魔力を込めて準備を続けていたセレンの神聖魔法が発動し、それに合わせてタチアナによる魔力に対する抵抗力を削ぎ落とす妨害術が『不死之王』へと降り掛かる。
わざと前衛として三人が突出し、敢えて援護も殆ど飛ばさせない事で『不死之王』の意識から後衛たる三人の存在を霞ませ、ここぞと言う時にのみ最大の効果を発揮出来る様に、と言う企みは功を奏したらしく、タチアナの妨害術も抵抗される事無く発動し、その上で膨大な魔力を注ぎ込まれた白銀の光が『不死之王』の頭上から瀑布の様に降り注ぐ!
そして、神聖魔法と言う、対アンデッドに特化した魔法を行使していると言う事もあり、基本的にはそこまで効果の波及しない人間であるヒギンズは、セレンの『神の怒りによる神罰』が発動している最中にも、そのまま急所である球体へと届かせた攻撃の追撃を仕掛ける為に光の中へと生身で飛び込み、アレスもそれに続く形で飛び込んで行く。
眩い光の中で幾条もの刃閃が煌めき、それに対応する様に暗く濃い黒色の光の玉に見えるモノが白銀の光の柱の中にて舞い、その度に甲高い金属音と鈍い打撃音が周囲へと響き渡る中、少ししてから白銀の光が弱まりつつなる柱の中から三つの影が飛び出して来た。
その内の二つは、言わずもがなではあるが、アレスとヒギンズの二人。
双方共に、全身や装備から僅ながらに白煙を棚引かせているが、目立つ負傷としては白骨の拳の形に凹まされた装備や、同じ様な形の後が肌に残っている部分の方が余程大きなダメージを負っていると見て間違いは無いだろう。
対して、もう一つの影である『不死之王』。
こちらは二人とは異なり、右腕の欠損、複数本の肋骨の欠損、左上部の頭蓋骨の消失、纏っていたローブ大半の消失並びに、オーラの様に纏っていた闇属性の魔力の著しい低下、と言った見た目からして大きなダメージを負っている事が窺える状態と成り果てていた。
そして、一番大きな負傷として挙げるとするのなら、アレスによるモノかそれともヒギンズによるモノかは判断し難いが、彼の『不死之王』の胸骨の中に収まる深紅の球体に刻まれた、斜めに横切る様な大きな亀裂だろう。
そこが急所である、と言われていただけの事はあり、それまでは攻撃を貰っても特に堪えた様子を見せなかった『不死之王』が膝をついて警戒を露にしながら『追放者達』のメンバー達を虚ろな眼窩にて睨み付けている。
攻撃により亀裂が入れられた球体は、その割れ目から闇属性のモノと見られる黒色に写る煙の様な魔力を漏れ出させており、全く違うモノであるハズのそれは、末期の致命傷を負った際の出血の様にも見てとれた。
…………これは、もしかして勝てた、か……?
そんな思いが、慎重なアレスや経験豊富なヒギンズを含めた全員の脳裏を過る。
見るからに弱っている事もそうだが、先の一撃によって己の危険度を数段跳ね上げたであろうセレンやタチアナに対して攻撃を仕掛けようと言う意図が見えて来ないし、何より目の前で回復されている二人と、その間に割って入りつつあるガリアンに対しても、先んじて攻撃を仕掛けようとしてきていないと言う事から、最早碌に行動する事も出来ない程に弱っているのでは?と言う考えが皆の胸中に浮かんで来る。
……これは、さっき出しておいた指示は無駄になったかな……?
なんて事も、指示を出していたアレスの脳裏を過るが、取り敢えずは目の前の強敵をさっさと片付けてしまう事が先決か、と思い直し、セレンによる治療を受けて万全に近くなった身体にて再度得物を握り締め、いざ決戦!となったその時出合った。
突然
…………バンッ……!!!
「……どうやら、待たせてしまったみたいだね、子猫ちゃん達!でも、もう大丈夫だ!
俺が!君達を!助けに!来たからな!!」
と、派手に音を立てながら、閉ざされていたハズの扉を押し開けてボス部屋へと乱入してくる何者か。
……正直な話をすれば、その声には悪い意味で聞き覚えが在ったが為に振り返りたくは無かったアレスだったが、一応目の前の強敵は身動きの出来ない状態に在るハズ、と言う事も在り、不確定要素を排除する為にも背後へと振り返る。
するとそこには、案の定想像の通りにいつぞやギルドにて遭遇した、自称『次世代の英雄候補筆頭』であり、『アルカンターラの女性が取り合う色男』でもあるらしいマルクス某が、気障ったらしい仕草にて髪を掻き上げながら、扉の近辺にて固まって待避していた女性陣へと馴れ馴れしい動作にて近付いて肩を抱き寄せようとしている姿が在った。
こんな場所でまで、そんな事を優先するか普通?
と言うか、どうやってここまで来たんだあいつ?
他に誰も居ないって事は、一人で来たって事か?
あの扉の仕掛け、どうやって解除したんだ?
そんな疑問が皆の脳裏にて渦巻く中、下心満載と言った様子にてセレンの肩や腰に腕を回そうとし、険しい表情にて振り払われたマルクス某は、まるで『仕方無いなぁ』とでも言いたげな表情と仕草をしながら口を開く。
「……まったく、俺の新しい子猫ちゃん達は、勿体付けるのが好きらしいね。
余程、俺が活躍を見せ付けて、元とは言えパーティーメンバー達が格の違いから絶望する姿を見ないと素直になって、俺からの愛に応える事が出来ないみたいだ。
まぁ、でも良いさ。俺には、このダンジョンをクリアする為のアイテムが揃ってるんだからさ!」
何故かドヤ顔にてアレス達へと視線を送りつつそう宣ったマルクス某は、魔法も使えるのかアイテムボックスへと手を突っ込んで何かを取り出して見せる。
……その『何か』は、彼らとしては凄まじく見覚えの在るモノであり、何となくヤバそうな気がしたので自ら調べる事はせず、ギルドの方に丸投げをしたアイテムその物であった。
「……ふっ!どうやら、驚いて声も出ないみたいだな!
これは、回収したが価値の理解出来なかった低能冒険者がギルドへと預けていた、このダンジョンを攻略する為のアイテムだ!
この鍵はそこの扉を安全に開ける為に用意されたモノ!そして、この日記はそこのボス、アンデッドの正体とその倒し方が綴られていた!
そして!この宝玉こそ!そのボスを安全に処理してこの依頼を完遂する為に必要不可欠なアイテムであると、この日記にも記されていた超重要なアイテムだ!
まったく、これを手放した低能冒険者も、こんな状態にするまで高々アンデッド一体に手こずる君達の様な雑魚冒険者が、彼女達みたいな極上の女性と一時的とは言え行動を共にしている事も理解出来ないね!彼女達みたいな俺の子猫ちゃん達は、俺と一緒にいて、俺からの愛を受け止めてればそれで良いっていうのにさ!
……まぁ、そこは今は良いや。今は、さっさと目の前で『偶然弱ってた』ボスを討伐して、見込み違いの冒険者に提示していた破格の報酬を手にする事が先決だからね!と言う訳で、俺と子猫ちゃん達との甘い新生活の為にさっさと消えな!!」
特に誰も聞いていないのにベラベラと自慢気に色々話してくれたマルクス某は、アレス達『追放者達』が追い込んで弱らせていた『不死之王』に向けて、手にしていた宝玉を掲げて魔力を込める。
すると、それまで透明であった宝玉が眩く輝き、『不死之王』へと光が放たれた塵も残さず消滅させる!…………等と言う都合の良い事が起きてくれるハズも無く、掲げられた宝玉は闇属性の魔力の特徴である黒色の光を強く放ち始める。
「…………なっ、なんだよこれ……!?こんな事、日記には書いてなかった……グベッ!?」
予想とは異なる結果がもたらされたからか、それまでとは打って変わってみっともない程に取り乱し始めたマルクス某は、唐突に活力を取り戻して急速に駆け出した『不死之王』によってその自慢の顔面を殴り飛ばされ、黒い光を湛え始めた宝玉をアッサリと奪われてしまう。
そして、そうやって宝玉を奪った『不死之王』は、みずからが殴り飛ばして壁際まで吹き飛ばしたマルクス某にも、比較的近くに寄られてしまったが為にマルクス某とは逆側の壁間近まで下がっている女性陣にも、それまで死闘を演じていたアレス達男性陣にも興味を示す事はせず、真っ先に手にしていた宝玉を、自らの胸骨の内側に存在する亀裂の走った球体へと押し当てる。
……それにより、闇属性の魔力特有の黒色の光が爆発的に周囲へと広がると同時に、その中央に在るハズの『不死之王』の気配をより一層禍々しく荒々しく変化させて行くのであった。
あの野郎余計な事してくれやがって!?
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