『追放者達』、探索を開始する・2
今回は少々短めです
いつぞやと同じ様に古びた扉を押し開き内部へと踏み入ると、そこは古ぼけた外観からは想像も出来ない程に洗練され、程好く手入れをされている事を伺わせる異空間であった。
彼らの目の前に広がるエントランスでは、ここに初めて足を踏み入れたのか、呆気に取られた様な表情にて固まる冒険者達も少なくは無く、そのせいもあって前庭のベースキャンプよりも若干ながら混雑している様な印象を受ける。
とは言え、このダンジョンの第一発見者にして、既に死線を越える体験を済ませている彼らにとっては、目の前に広がる光景に特に抱かされる様な感慨は無く、見惚れる様な事にもならずに未探索区域の多い二階へと進める階段を目指して歩んで行く。
「念のため確認しておくが、各員準備は万全だろうな?」
「当然」「もちろんです」「当たり前でしょう?」「なのです!」「オジサンも大丈夫だね」
「よし、じゃあ、昨日みたいなのに絡まれる前に、さっさと探索を始めちまおう。あんな、何処ぞの誰とも知れんような輩に絡まれて、無駄に体力を消耗するのはゴメンだろう?」
「……うむ、誠にその通りよ。
そう言えば、あやつは自らの名が知れ渡っている事を前提に話していた様にも見えたが、皆はあやつの事を知っていたか?
当方は、寡聞にして耳にした事が無かった気がするのだが?」
「……そう言えば、私は聞いた覚えが無いですね。なんと仰いましたっけ?」
「……さぁ?アタシは聞いた事無かったと思うけど、確かマルクズじゃなかったかしら?」
「マジクズじゃなかったのです?ついでに、ボクも聞いた覚えが無いのです」
「……オジサンも、残念ながら覚えが無いねぇ。
そう言えば、リーダーはこの辺りで活動してたんだったよね?一度くらいは、彼について耳にした事って無かったかい?
例の……えっと、確か……ゴミクズ君だったっけ?」
「……マルクス、ね。
一応は、俺も名前位は聞いた覚えが在るよ。
まぁ、とは言っても、それはあくまでも『困難な依頼を達成した』だとか『こんなに強いらしいぞ!』だとかの良い意味合いでの噂じゃないけどな」
「……ふむ?では、あの時シーラ嬢が言われていた、良くない噂、と言うのはそれらの事を指していた、と言う事か?」
「なんじゃない?
『~~の彼女が寝取られた』とか、『~~で女を嵌める様に仕組んでいた』とか、『~~にあの女冒険者を堕とそうと狙ってる』だとかの噂は以前は良く聞いたよ。
でも、一時期はパタッと耳にしなくなったから、死ぬか改心するか、もしくは玉でも潰されたんじゃないのか?と思ってたんだけど、昨日の様子を見る限りだとそのどれでも無さそうだな」
「……おいおい、それって結構ヤバいんじゃないの?
少なくとも、昨日の様子を見る限りだとこの娘達に狙いを付けてる様な感じだったけど、大丈夫なのかい?オジサン結構不安なんだけど?」
「狙われてる、ですか?
……でも、私としましては、あの様なタイプの男性はちょっと……その、好みではないと言いますか……どちらかと言うとアレス様の方が……って!いえ、なんでも在りません!在りませんとも!ええ!!」
「…………いや、別に何も聞いてないんだけど……?」
「……まぁ、そうよね。アタシも、あんなチャラついた様な感じで、口先だけの男ってあんまり好きじゃないから大丈夫でしょ?
どっちかって言うと、ちゃんと守ってくれるだけの実力が在って、アタシの事も気に掛けてくれる、頼り甲斐と包容力の在る年上の方が……って、なに言わせてくれてんのよ!!」
「ちょっ!?別に、オジサンが聞いた訳じゃないよね!?」
「ボクとしても、ああ言う『女は全員自分に靡いて当たり前』とか思ってるタイプは好きじゃないのです。
それよりも、ボクも腕っぷしと頼り甲斐が在って、その上で弱い面も見せてくれる様な男性が良いのです。
ついでに言えば、何やかんやと言っても、ボクが頼めばモフモフさせてくれる様な、そんな人が理想的なのです!」
「…………わざとらしくこちらを見ながら、覚えの在る要素を並べられても困るのだが……?」
例の乱入者に関しての会話だったハズが、何故か途中から女性陣による『好みのタイプ』暴露大会に発展してしまう。
そこで、顔を赤らめたり、瞳を潤ませたり、妖艶な笑みを口許に浮かべたりしたそれぞれが、取り様によってはある種致命的な会話を繰り広げた事を認識し、その流れ弾的な感じで巻き込まれた男性陣が自身へと迫る理不尽な扱いに対して戸惑いと抗議の声を挙げる。
そんな彼らへと、周囲の光景が与える衝撃から立ち直っていた冒険者の内、少なくない数が嫉妬や殺意と言った黒い感情を向けて行く。
その中には、昨日彼らが遭遇し、半ば無理矢理彼らへの依頼を横取りしようとしていた自称『英雄候補』のマルクスの姿も在った。
とは言え、彼の場合他の冒険者の様に『綺麗処と仲の良い様子を見せ付けてくれている野郎三人』へのそれでは無く、『既に自分に惚れているのに、わざと他の男と近しい様子を見せて嫉妬させようとしている女性三人』に対して向けているモノであり、アレス達三人に対しては、むしろ優越感すら漂っている様な視線を送っていたりする。
……どうやら彼の中ではセレン、タチアナ、ナタリアの三人は既に自身に惚れており、特にどうとも思っていない彼らと共に行動しているのは、いじらしくも自身へとその恋心をアピールするためなのだ、と言う妄想が事実として認識されている様子だ。
その為に、舐め回す様な粘着質かつ色欲にまみれた視線を彼女らに送り付け、ソレによって寒気を感じ始めたのか鳥肌を立てたり男性陣へと近寄って行く女性陣。
その光景を目にし、より一層興奮を昂らせ、腰鎧の前垂れで隠されてはいるがズボンの胯間部分にテントを張っている変態。
気配によってその存在を察していた男性陣も、その方向へと注意を向けながらも、取り敢えず契約した以上は目に見える形で成果を残さねばならない故に、女性陣を促してさっさと階段を登りきってしまう。
そして、こうして全員での探索は初めてとなる二階へと足を踏み入れる『追放者達』一行。
踊り場にて二方向へと分岐していた階段は、吹き抜けとなっている二階部分をグルリと囲む通路へと繋がっており、そこにはやはり一階と同様に玄関を正面と見て左右に対して長く永く廊下が続いていた。
……事前にある程度の情報をヒギンズとタチアナから聞いてはいたし、ギルド員から貰ってきた情報と地図にもその様に書き込まれていはしたものの、それでもただ聞いただけなのと実際に目にするのとでは精神的に来るモノが異なる為か、まだ探索を始めてもいないのに重苦しい溜め息を溢すリーダーのアレス。
しかし、その溜め息にて気持ちの切り替えを行ったのか、俯き加減に下げていた顔を上げると、罠察知や危険察知等のスキルを発動させて安全を確保しながら隊列を組ませて探索を始めるのであった。
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