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『追放者達』、再び物件の内見(?)に赴く

 


 色々と想定外な出来事が在りつつも、結局は契約を結ぶ事になってから一夜空けた翌日。



 アレス達『追放者達(アウトレイジ)』のメンバー達の姿は、またしてもあの物件の前に存在していた。




「……ふむ?予想はしていたが、やはりこの前庭がベースキャンプの場として選ばれていたか」



「その様ですね。

 ……それにしても、ギルドもかなり大々的に人を集めた様ですね?流石に多過ぎでは無いでしょうか?」



「いや~、そうでも無いと思うよ?

 オジサンは何度か経験した事があるから知ってるけど、ダンジョンの初期攻略、って言ったら普通はもっと人数を投入する事も在るからねぇ。コレでも割りと少ない方だと思うよ?」



「なのです!?」



「これで少ないって、本来の規模だったら何処まで膨れるのよ……。

 アンタ、そこら辺は何か知らない?」



「……そう、だなぁ……。

 俺が見たことの在る事例で、即急にダンジョンを潰さないとならない、って事態になった場面に遭遇した事があるけど、その時はもっと居た様に思えるな。

 具体的に言えば、この倍位は居た気がする。しかも、全員が上位の冒険者だったと思う」



「……そんなに、ですか……?」



「まぁ、管理出来ないから潰そう、ってなる様なダンジョンって、基本的に難易度が極悪で資源利用も出来ない様な類いのヤツか、もしくは今回みたいに後天的に街の近くに出来ちゃって、体制的にソレを上手く利用出来なかったりする場合のどっちかだからねぇ。

 ギルドとしても、確実に潰したいから取って置きの戦力も投入するし、大々的に高位の冒険者にも声を掛ける事にするだろうからねぇ」




 そんな会話を繰り広げながらベースキャンプを進む彼らへと、周囲から様々な視線が注がれる。



『グリント邸ダンジョン』(ギルド命名)のダンジョン攻略に於いて、その最初期から携わっていた様な冒険者達からは、あんな連中居たか?と言った訝しいモノをみる様な視線を。


 中期の、ダンジョンの危険性が高い、と言う事が判明してから送り込まれた増援の冒険者からは、何を今更勿体付けやがって!と言った少なからず険の含まれた視線を。


 そして、彼らと同じく、最終的にギルドの方から個別で声を掛けられ、破格の報酬にて踏破を請け負った冒険者からは、競争相手にはなり得ないな、と言った値踏みと見下しと嘲笑の混じり合った様な視線を、それぞれにて向けられる事となっている。



 ……が、彼らはそうして注がれる視線を意に介する事も無く、完全に無視を決め込んでさっさとベースキャンプの中程まで進み出ると、そこに常駐しているギルド員へとシーラから渡された契約書を提出する。



 ソレを渡されたギルド員も、軽く目を通して本物だと言う事を確認すると、ソレと引き換えにする形でブレスレットの様なモノを全員に渡して来た。



 何度もダンジョンへと潜った経験の在る男性陣は、特に質問する事も無く装着していたのだが、あまりダンジョンに潜った経験の無い女性陣はソレがなんなのか、どうして着けるのかが分からずに手にしたままで固まってしまう。




「……?どうした?着けないのか?」




 ソレを見かねたからか、もしくは偶然気が付いただけなのか、固まっている女性陣へとアレスが声を掛けて問い質す。




「……いえ、そもそもコレはなんなのか?と思っておりまして……」



「なのです!!」



「アタシも。と言うか、なんでコレ着けなくちゃならない訳?」



「……あれ?もしかしなくても、こう言うダンジョン攻略って初めてだったっけか?」



「はい、その通りです」「なのです!」「アタシも初めてよ」



「で、在るのならば説明も必要か。

 コレは、着けている者が何処に居るのか、と言った情報を送る為の魔道具だ。この様な、個人やパーティーとしてダンジョンの攻略を目指すのではなく、ギルドがダンジョンの壊滅を目的に動く際には内部へと入る冒険者には装着が義務付けられる魔道具として有名であるな」



「コレの効果は、さっきガリアン君が言ってた通りに、装着している人の現在地とついでに装着者の生死とかの情報を周囲から収集して、ギルドが仮に置いた拠点に送って一括で管理する為の魔道具だね。

 そうする事で、不自然に反応の途切れた場所は危険だと分かるし、マッピングなんかも一々現地で地図を書き起こさなくても良くなるからね。

 管理する方としては、かなり楽になるんだよ。特に、生死の情報ってヤツは、誰かが持ち帰って漸く確定する、って類いの情報だから、コレを使わないと収集にも精査にも判断にも手間が掛かり過ぎるからねぇ」



「……攻略を効率化する為、と言うことでしょうか……」



「……なんか、冒険者の命を浪費して効率を高めてるみたいで、アタシはあんまり好きじゃないかな、そのやり方……」



「とは言え、種類によっては複雑怪奇に入り組み、最早内部に居る冒険者その者にすら現在地の把握が出来なくなる場合も在るのがダンジョン攻略故な。

 一刻も早く排除したい、との事情があれば、その様な選択をしたとしても早々に恨む事も出来まいよ」



「……なのです……」



「まぁ、そうやって集められた情報は、ギルド員に聞けば教えてくれるし、ソレを着けた状態で広範囲に渡って探索を行えばソレだけで褒賞金として金一封が出される事も在るんだから、一概に『悪い』とも言えないんだけど、ね?」




 そこまで言い募ってから肩を竦めて見せるアレス。



 その瞳には、世の中の不条理を垣間見て来た者特有の闇が渦巻いており、タチアナとナタリアは思わず気圧されて一歩後ろに下がってしまう。


 しかし、そんな彼の淀んだ瞳を見ながらも、むしろ彼の事を癒したい。彼の心に残り続ける澱を取り除いて上げたい、と言う胸の奥底から沸き上がって来た衝動と共に、自身でもイマイチ理解しきれない感情と共に一歩前へと踏み出し、繊細な細工物にでも触れようとするかの様な優しい仕草にて彼へと手を伸ばすセレン。



 自身へと伸ばされるその繊細な手を、ひたすら不思議そうに眺めていたアレスだったが、彼の背後からギルド員が彼に声を掛けて来た事によってアッサリとセレンと交わらせていた視線を外し、背後へと振り返ってしまう。



 それにより、意識が現実へと戻ってきたセレンは、自らの行動に強い驚きと戸惑いを見せつつ顔を赤らめながらも、何処か残念そうな表情を浮かべて彼の背中へと視線を送り続ける。



 しかし、彼がギルド員から受け取ったモノを確認しながら苦虫を噛み潰した様な表情にて振り返った時には既に、セレンは普段の通りに穏やかな微笑みを浮かべていた。



 それに気付く事もなく、仲間である『追放者達(アウトレイジ)』のメンバー達へと向き直ってから言葉を告げる。




「……さて、諸君。悪い知らせだ。

 さっき、ギルド員の方に話を通して、現段階で集まってる情報の写しを見せて貰ったんだが、基本的に俺達が最初に探索した分とほぼ変わっていない事が判明した。

 多少探索範囲は広がってるみたいだし、新しく判明したトラップも在るみたいだけど、ほぼ分かってる範囲は変わっていないと見て間違いは無いだろう。

 だから、今回の探索では殆ど前回の続きと言っても良いだろう地点からのスタートになると思って欲しい。

 最後に点検しておくが、各員最低限の荷物は自分で持っているな?では、サクッと行ってサクッと終わらせるとしましょうかね!」




 そうして彼らは、グリント邸へと手早く攻略する!との思いを一様に胸に秘めながら、またしても彼の邸宅へと足を踏み入れるのであった。

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