『追放者達』、合流する
アレスの提案により、再集合の場所へと指定された玄関前エントランス。
そこに最初に辿り着いたのは意外な事に、ガリアンとナタリア、それにナタリアの従魔達の組であった。
「ライ、そのまま撹乱!レフはライの補助を!
テルとズルはナタリアの護衛役に徹底!ソコを動くな!
ポットとトレーは外側から回り込んで強襲!ルーニーとイブローは注意を内側に引き付けておけ!
ヴォイテクは当方と共に前に出ろ!行くぞ!!」
「「「「「「「「ウォン!!!」」」」」」」」
「ヴッ!!!」
二階への階段を玄関から見た方向を正面とするのなら、そこから見て右側の廊下から飛び出す様に多数の魔物を引き連れながらエントランスへと姿を現したガリアンは、広めの場所に出たと見るや否や、本職も顔負けな指示をナタリアの従魔達へと下して行く。
それにより、右耳と左耳がそれぞれ折れている森林狼がキリリと顔を引き締めて魔物の群れへと飛び込んで行き、足元を駆け回ったり攻撃を仕掛けるフリだけをして、魔物の群れが組んでいる隊伍を崩して行く。
同時に、尻尾と口元が白くなっている森林狼(基本的には黒か茶色、もしくはそれらの模様)が意気込んで無防備なナタリアの周囲に侍り、まだら模様の個体と縞模様の個体が殺気を漲らせながら外周へと脱出して魔物の背中へと襲い掛かり、鼻水を垂らしている個体と眉毛の様な模様が在る個体が何処かその間抜け面にも見える顔にて魔物の注意を群れの中心方向へと引き付けて行く。
そして、一旦自身の身体を用いて安全だと確認した壁際にナタリアを預けると、残った月紋熊と共に森林狼達に翻弄されている魔物群れへと、自身の得物である大盾と戦斧を振りかぶりながら突撃して行く。
全身鎧に加えて両手の得物の分の重量が加算され、その上でタチアナの支援術さえ掛けられてはいないものの、フルフェイス型の獣人族としての高い身体能力によって急速に加速されたその巨体は、まるでボーリングのピンやピンボールの玉の様に魔物の身体を粉砕しながら、呆気なく周囲へと撥ね飛ばして行く。
それにより、魔物達が組んでいた隊列が大きく崩れ、手近なガリアンへと攻撃しようとするモノ、乱れた隊列を元に戻そうとするモノ、目的も無く周囲を彷徨くモノ、と言った風に、アンデッド特有のノロノロとした動きにてそれぞれが勝手に動き始める。
当然、ソレを見逃すガリアンと従魔達ではなく、盾で殴り付け、斧で叩き斬り、引き倒して頸を噛み千切り、爪で引き裂き、豪腕で薙ぎ倒してその数をどんどん減らして行く。
……が、しかし、そうして魔物達を押せてしまっていたが為に、彼は自身の本来の役割を一時忘却してしまい、自らが守るべき存在の事を彼女が悲鳴を挙げるその時まで忘れてしまっていた。
「……きゃっ!?は、離すのです!!」
「……何!?おのれ!!」
ナタリアが挙げた悲鳴に気付いたガリアンが、周囲の魔物を薙ぎ払いつつ振り返ると、ソコにはゾンビ系の魔物に腕を掴まれ、必死に抵抗しているナタリアの姿が。
護身用として装備していた短剣を抜いて頻りにゾンビの腕に斬り付けてはいるが、元より矮躯で力が弱く、その上戦闘系のスキルはからきしであった彼女には、短剣術程度でも習得している者であれば容易く行えたであろう事すらも碌に実行する事は難しかった様子だ。
そんな彼女の近くでは、彼女の護衛として付けられていた二頭の森林狼である尻尾が白いテルと鼻面が白いズルが、ナタリアの腕を掴んで握り潰そうとしているのとは別のゾンビを相手に奮闘している処を見ると、恐らくは数に任せて突っ込んで来られた為に、対処しきれずに護衛を抜かれてしまった、と言う処だろう。
とは言え、要警護対象に危険がせまっており、その原因は自身であった、と言う事を認識したガリアンは、周囲に残ってた魔物を弾き飛ばしながら彼女の元へと走り出す。
が、しかし、魔物の方も、彼を放置して進ませる事は即ち戦力削減の機会を喪ってしまう事になる、と言う事には分かっていたらしく、ナタリアの腕を握る手には更なる力が込められ始め、ガリアンの前にはその身をもって立ち塞がってみせた。
彼は必死になって魔物を駆逐し彼女へと手を伸ばすが、二人の間には物理的な距離が立ちはだかっており、魔物が握り締めた彼女の腕が悲鳴を挙げながら皮膚を破られて出血して行く様を見せ付けられる。
そして、そのまま彼女の腕が握り潰され、痛みによって硬直している間に頭部を掴まれてそのまま…………と言う処までを幻視したガリアンであったが、そうはならずにナタリアの腕を掴んでいた魔物は魔核を残して消滅する。
「……まったく、ダメじゃないか。盾役の君が、守るべき対象を放置して前に出過ぎちゃ。
でも、状況的には仕方無かった、って事で、お小言は此処まで。ガリアン君は本来の役割に戻って、ナタリアちゃんを守ってあげなよ?後は、オジサンが引き受けるからさ!」
何故なら、二階部分から飛び降りて来たヒギンズが、自重で押し潰す様な形にて手にした槍の穂先で魔物を貫き、寸での処でナタリアを救出していたからだ。
「…………感謝する……!」
「なははっ!コレが終わったら、一杯奢ってよ?」
盾役としてのプライドと、ソレを抜かれた慚愧、そして守護対象であったナタリアが無事であった事に対する安堵と言った、複数の感情が入り雑じった複雑な表情を浮かべながら投げ掛けたガリアンの言葉に対し、わざと軽い感じで返して言外に『気にするな』と宥めるヒギンズ。
そんな二人は、特に打ち合わせる様な事もせずに同時に駆け出すと、比較的魔物の群れが手薄になっていた部分へと同時に突撃を掛け、外と内の両方から猛烈な勢いにて魔物を削り取り、あっと言う間に貫通させるとその勢いのままに両者の位置を入れ替えるべく駆け抜けて行く。
それにより、それまで魔物の群れの最中にいたガリアンは、ナタリアとヒギンズによって運搬されていたタチアナの側へと移動して、襲い来る魔物達へと向けて仁王立ちとなり。
タチアナをナタリアの側に置いて来たヒギンズは、ガリアンと交代して魔物の群れのど真ん中へと月紋熊のヴォイテクと共に残り、中を幸いとして手当たり次第に近くの魔物から屠殺して魔核へと変えて行く。
龍人族としての高い身体能力に加え、予めタチアナから支援術を受けて大幅に強化されている上に、彼自身が習得した技術としての槍術と、今までの人生に於いて『槍聖術』に至る迄に練度を積まれたスキルが合わさり、正しく鬼神の如き圧倒的な戦力にて魔物達をあっと言う間に魔核へと変えて行くヒギンズ。
そんな彼の姿を目にし、何処か悔しそうな、それでいて憧れる様な視線を向けていたガリアンだったが、彼の背に守られている二人から向けられる信頼の視線により自身の内に在った何かを吹っ切ったのか、表情と雰囲気を一気に切り替えて近くに共にいる森林狼二頭と共に、二人の護衛に専念して行く。
そうして魔物の殲滅を続けて行く四人であったが、時折地面に描かれる魔法陣から定期的に魔物がエントランスへと補給される為に、中々減っている様には見えて来ない。
幾ら、一体一体は大した事は無く、問題なく対処出来る程度では在ったとしても、目に見えて減っていないとなれば精神的な疲労は溜まるし、物理的に動き続けていれば身体にも疲労が溜まって行く。
故に、持ち前の身体能力に任せて暴れまわっていたヒギンズが、まず地面へと膝を着いた。
次に、護るべき仲間達の為に敵の攻撃を一身に受け止め続けたガリアンが、襲い掛かって来た敵の攻撃を受け止めると同時に、その衝撃を受け止め切れずに膝を折ってしまう。
ガリアンの指示によって戦い続けて来た従魔達も、魔物から受けた負傷や疲労により、その足を痙攣させて次第に動きを鈍らせて行く。
比較的元気の残されているタチアナとナタリアだが、彼女らに直接的な戦闘を求める事の方が酷と言うモノだろう。
故に、彼らの脳裏には『全滅』と言う単語が過り始める。
が、そうして悲観的な思考に陥りかけた正にその時。
「纏めて消し炭になりやがれ!『灼熱の波頭よ、全てを呑み込め!『業火の奔流』』!」
「皆さん、大丈夫ですか!?『神よ。敬虔なる貴方の子らに、身体を蝕む疲れを取り去り、再び立ち上がる力を授けたまえ!『天の恵みによる強壮』』!」
突然、灼熱の奔流が魔物の群れを呑み込んで魔核へと変え、ガリアンやヒギンズへと頭上から光が降り注いで彼らに蓄積した疲労を打ち消して行く。
それにより、声が響いて来た方へと顔をむけた彼らの視線の先には、このエントランスを集合場所へと指定した張本人であり、未だに合流を果たしていなかった二人組が、二階へと続く階段の裏側からその姿を現して来たのであった。
面白い、かも?と思って頂けたのでしたら、ブックマークや評価にて応援して頂けると励みになりますのでよろしくお願い致しますm(_ _)m




