分断された『追放者達』~side:ガリアン&ナタリア
今回も少し短い……かも?
アレスとセレンが『ヨシュア=オブライア・グリント』の日記を発見し、資料の一つとして持ち帰ろうとしていたのとほぼ同時期、共に跳ばされていたガリアンとナタリアも漸く視界を取り戻し、周囲の様子を探っていた。
「……あの、そちらは大丈夫そうなのです?一応、この子達も危険な臭いはしてこない、と言っているのですが……」
「……うむ、恐らくは大丈夫であろう。当方にも、この近くにトラップが仕掛けられている風には感じられぬ故な」
「でしたら、多分大丈夫なのです!そちらに行っても良いのですか?」
「うむ、遠慮無く来られよ。
……しかし、こうして分断されると、普段からしてリーダーたるアレス殿に如何に頼りきりにしていたのかが顕著に理解出来るな……」
「……なのです……」
油断無く、慎重に周囲を探りながら動く二人は、揃って苦い顔で呟きを溢す。
彼らの表情が浮かばないのは、彼らには索敵・探知系のスキルが無い為に、こう言う場面に於いては大胆に動く事が出来ないから……と言うだけではない。
彼らが普段、ソレが可能であるから、と言う理由にて、その極端に神経を使う様な事柄を、リーダーたるアレスに対して無意識的に丸投げしていた、と言う事実に気付いてしまったから、でもある。
……彼ら『追放者達』に所属しているメンバー達には、とある共通点が存在している。
それは、かつての仲間達から、人ではなく道具の様にこき使われるだけ使われた挙げ句最後には棄てられる、と言う経験が在る事だ。
正確に言えば、個々人によってそこに至る経緯や事情は異なるのだろうが、大まかな認識としては大差は無く、全員がその枠に入る事になる。ソレを、本人や周囲がそうと認識しているかどうかは置いておくとしても、である。
それ故に、彼らは密かに心の内にとある誓いを立てていた。
『もう誰かに利用される事も、誰かを利用してしまう様な事も二度とはしない』
……自らの経験則から来る、青臭くも鉄錆びの味が纏い着いた、理想的な夢想とも現実的な反逆心とも取れる、そんな誓いを偶然にも互いに打ち合わせる事も無く、時は違えども同じ内容のソレを己の心に打ち立てていたのだ。
……それなのに、そうであったハズなのに、彼らは無意識の内に『周囲への警戒』と言う冒険者にとって最も重要かつ難易度の高い仕事を押し付け、こうして必要に駆られなければその事実に思い至る事も無かったと言う現実に打ちのめされ、こうして表情を苦々しくしている、と言う訳なのだ。
……人によっては、命懸けの状況に於いて何を軟弱な、使えるモノ、使い易いモノが在れば使うのが普通のハズだ、と言う者も居るだろう。
彼らも、ソレを否定するつもりはない。
そうやって、人を使う方が楽なのであろうし、効率も良いのだろう事も理解はしているからだ。
しかし。しかし、である。
だからと言って、道具として使い捨てられた者の痛みを、誰が癒してくれると言うのか?
だからと言って、省みられる事も無く、使い続けられる者の悲哀を、誰が晴らしてくれると言うのか?
誰が、誰が、誰が!誰が、今尚大きく開き、血を流し続けている彼らの心の奥底の傷を、拭い去ってくれると言うのだろうか?
故に、彼らは誓ったのだ。
二度と、己の味わった絶望を、痛みを、怒りを、与える様な事はするまいと、与える様な立場にはなるまいと。
しかし、彼らは無意識の内に、その『立つまい』としていた立場に、『するまい』としていた行動を取ってしまっていた、と言う事だ。
なれば、表情の一つも沈もうと言うモノだ。
とは言え、彼らが未だに居るのはダンジョンと言う危険地帯。
今の処、例の転移トラップ以外で言えば、魔物であろうともトラップであろうとも、彼らを害する事が出来る様なモノは出現してはいない。
しかし、何が在るのか分からないのがダンジョンでもある。
今この瞬間にも、彼らを絶望のドン底へと叩き落とせるだけの強大な魔物が出現する可能性も、一瞬で彼らを蒸発させる様な威力を秘めているトラップが彼らの足元に出現する可能性も、同時に『無い』とは言えないのが現状だ。
故に、彼らは慎重に足元に気を配り、一歩一歩確実に部屋の出口である扉を目指して進んで行く。
当然、先頭を歩いて最初にトラップが無いかどうかの確認を取るのは、この場に於いて最も頑強な肉体を持つガリアンだ。
とは言え、彼自身としては、そこまで手先が器用な方では無く、その上嗅覚は鋭いがこう言った場面での所謂『鼻が利く』と言った方向ではそこまで勘が鋭い訳でもないので、ある程度遠くから、たまたま跳ばされた部屋に在った飾り付けの槍で床や壁を軽く叩いてトラップが無いかの確認をしながら、最悪は自らの肉体で受け止める覚悟の上でジリジリと進んで行く。
「…………よし、どうやら、この部屋と扉にはトラップは無い様だ。ナタリア嬢、こちらに来ても、恐らくは問題ないだろう」
「……うぅ……こう言う時は、自分の紙耐久が怨めしくなって来るのです……。せめて、人並みの耐久力が在れば……」
「……それは、詮無き事では無いだろうか?
当方の役割は盾だ。時にこの身を敵前へと晒け出してでも、味方への被害を抑えるのが当方の仕事だ。
しかし、ナタリア嬢の仕事は違う。当方らに必要な物資の殆どを、一人で運ばせる形となってしまっている。
……それは、当方は以前から申し訳無いと思うのと同時に、羨ましいとも思っていたよ」
「……羨ましい、なのです?
ボクとしては、常に前線で戦えるガリアンさんの方が羨ましいしカッコいいと思うのですよ?」
「……そう、言って貰えるのであれば、身体を張っていた価値も在る、と言えるのかも知れぬな。
……しかし、正直な話をしてしまえば、当方は役割的にはそれなりに替えが利くし、何かしらの特殊な技能を修めている訳でもない、優秀な程度の盾役でしかない。それは、言ってしまえば、優秀な程度の盾役であれば、当方の替わりにはなる、と言う事なのだ。
ナタリア嬢を含めた他の皆の様に、替えが利かない、と言う訳ではないのだよ」
「……ガリアンさん、なのです……」
「……とは言え、別に己の職分に不満がある、と言う事ではないので安心して欲しい。
今のは、碌に見栄も張れない情けない男の愚痴だった、とでも思って貰えれば有難い」
そう締め括ったガリアンは、語るつもりの無かった内心を吐露してしまった事が恥ずかしかったのか、頻りにその獣耳をパタパタと動かして誤魔化そうとしている。
そんな彼の事を、元より自分の従魔達の様な外見と反応から好ましく想っていたナタリアは、胸の奥から沸いてくる暖かな感情と共に見ていたが、不意に視線の中に不自然なモノが在る様な気がしてきた。
故に、眼を凝らして周囲を観察し、何かおかしなモノが無いか、と探していると、それまで視界に入ってはいたのであろう場所の壁に、鍵が掛けられている事に気が付く。
普通であれば、用途不明な鍵なんて放置して目的地へと急ぐのがセオリーではあるのだが、現在彼らが置かれている状況自体が普通では無い為に、特に何かしらの確証が在っての思考ではなかったのだろうが、ナタリアはその鍵を回収してから移動を開始する事をガリアンへと提案するのであった。
おや?二人の様子が?(ニヤニヤ)
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