分断された『追放者達』~side:アレス&セレン
跳ばされて分断された彼らの運命は!?
足元の魔法陣から放たれた目を貫く強烈な光に、半ば反射的に片手を翳して視界の保護を試みるアレスとセレン。
それにより、眼を灼かれることは辛うじて防ぐ事には成功したが、展開した魔法陣の発動から逃れる事には失敗してしまう。
そして、発光が収まり、白濁していた視界が元の状態に戻った時には、既にそれまでいた階段の踊り場では無くダンジョンの中の何処かへと跳ばされてしまっていた。
咄嗟に得物を構えて周囲へと警戒の視線を配りつつ、探知系のスキルも複数発動させて安全確認を行うアレス。
それらにより、一応は安全、と判明すると同時に吐き捨てる様に悪態を溢す。
「……クソッ!!何だってこんな処に、あんな面倒なトラップが仕掛けられていやがる!?
何処のどいつが仕掛けやがったのかなんざ知りやしないが、流石に悪意が強すぎるだろうが!?」
「……あの、私は、基本的にダンジョンには潜る事は少なかったのですが、あのトラップは、そこまで珍しいモノだったのでしょうか?」
「………………ふぅ~~~っ……。
……悪い、突然怒鳴り出したりして。流石に、精神的な許容量を越えそうになっててな。少し吐き出させて貰ってた……」
「……いえ、アレス様も人間。しかも、まだお若いのです。
私達の様に、癖の強い方々を纏められるのには、相当に神経を使われるハズです。
ソレを吐き出さずに溜め込まれる方が、結果的に良くない事が起きるかと……」
「……そう言って貰えると、大分楽になるよ。ありがとう。……あいつらにも、あんたみたいな優しさの欠片でも備わっていたのなら、な…………。
……っと、悪い。それで、あのトラップがどう言う類いのヤツなのか、って話だったか?」
「ええ。ああ言ったトラップは、比較的多く仕掛けられている様なモノなのでしょうか?」
「いや、そうほいほい仕掛けられている様なモノじゃあない。むしろ、珍しいモノの類いと言っても良いと思う。
ソレに、さっきのみたいに確認したハズの場所に後から仕掛けられたみたいに出現する『時間差出現型』だとか、俺達の現状の原因の『転移トラップ』だとかは、こんな規模の小さなダンジョンだとまず出現しない様な、珍しい上に凶悪なトラップだ。
……本来だったら、まだ誰も踏破出来ていない極悪な難易度を誇るダンジョンだとか、神々が試練を与える為に建てたって専らの噂の『試練の塔』だとかみたいな処で無ければ、そうそうお目にかかる様な機会なんて巡って来ない様な、そんなレベルの珍しさのハズなんだがなぁ……」
「……では、ああ言ったトラップは……?」
「普通ならもう出て来ない……ハズ。
多分。きっと」
「…………そこは、もう出て来ない、と断言して頂きたかったのですが……?」
「いや、流石に不確定な事柄を断言は出来んし。
ああ言った事が一度きりなら良いけど、また起きんとも限らないんだから尚の事、ね。
まぁ、同じ様な事がもう一度あったとしたら、その時は完璧に解除してやるけど」
口調は軽いが、自身の斥候職としてのプライドに賭けて口にしている事は自ずとセレンには伝わっていたらしく、若干ながらも安堵した様な雰囲気が彼女を包む。
しかし、未だに危険地域に居ると言う事を思い出したらしく、首を一振りするとそれまで纏っていた戦闘時の引き締まった空気を纏い直し、周囲へと視線を巡らせながらアレスへと問い掛ける。
「……私は、あまり見覚えの無い様な気がするのですが、アレス様はどうですか?
現在地の見立て等は、どうでしょうか?」
「……いや、残念ながら、俺としてもサッパリだな。
まぁ、ここまで見事に見覚えが無いとなると、ほぼ確実に二階部分なんだろう。
三階、って可能性も無い訳じゃないけど、ソレは調べてみないとハッキリは言えないかな?」
「……そう、ですか……。
……私達は、幸いにして無事ですが、他の皆様は大丈夫でしょうか……」
「そこは、信じるしか無いでしょ。
もっとも、そこまでバランスは悪くない組み合わせになったみたいだし、俺達みたいに接触し損ねてバラバラに飛ばされた、とか言うオチが付かない限りは、まぁ大丈夫なんじゃない?多分だけど」
「……そう、ですか。そう、ですよね。私達が信じないで、誰が皆様方を信じると言うのか。そう言うことですよね!
…………あら?これは、何でしょうか?」
皆の無事を信じる、と言う方針を固めたセレンが、トラップによって飛ばされた部屋の中に在った机の上に、一冊の本が置かれている事に気が付く。
その本の背表紙には何も書かれてはおらず、表紙に『ヨシュア=オブライア・グリント』と、人名と思わしいモノが書き込まれていた。
意味在りげにそこに置かれていたその本を、何の気無しに手にとってページを捲るセレンと、ソレに気が付いて慌てて近寄って行くアレス。
「ちょっ!?ダンジョンで見付けたモノをいきなり使おうとするでないよ!?
見た目通りの効果や使い方でなかったり、ヒギンズのオッサンみたいに呪われたりする事も在るんだからな!?」
「……いえ、その心配は無用かと。これは、幸いにして只の日記の様です。それも、このダンジョンの元になった建物の元住人の」
「……まぁ、こんな状況で、ここの元住人の以外の日記帳が出てくる方がおかしいだろうけど、良く『日記』だって分かったな?」
「そこは、ページ毎に日付が書き込まれていましたので、恐らくは、と。
とは言え、日常的な事はほぼ書かれてはいない様子なので、どちらかと言うと日誌の方が近いかも知れませんが。
……そう言えば、アレス様はこのアルカンターラ周辺で活動されていたのでしたっけ?」
「まぁ、大体は?正解に言えば、北の方にあるアルゴーが主な活動拠点だったけど、ソレがなにか?」
「いえ、もしアルカンターラの事情や情報に詳しいのでしたら、この日記を記した人物であるらしい『ヨシュア=オブライア・グリント』について何かご存じではないか、と」
「ヨシュア……何だって?」
「ヨシュア=オブライア・グリント、ですよアレス様」
「ヨシュア、ねぇ……どうだろう?
中間姓が在るって事は、多分そいつは貴族の類いだろう?でも、ここ最近では『グリント』なんて貴族家の話は聞かないし、ヨシュアって名前も聞いた覚えは無いなぁ……」
「…………そう、ですか……。
何やら、意味在りげに置いてありましたので、何かしらのヒントにでもなるかと思っていたのですが……」
「まぁ、何にしても無駄にはならんでしょうよ。
折角見付けたんだから、取り敢えず持って行って合流してから詳しく調べれば良いんじゃないんで?」
「………………ふふっ、そうですね。
私としました事が、今すぐにお役に立てなければ意味が無い、等と、昔の事を引き摺っていた様子です。慰め、ありがとうございます。
…………あの方々に、貴方の優しさ、思い遣りの一欠片でも備わっていれば、もしかしたら……いえ、仮定の話をしても意味の無い、詮無き事でした、ね……」
セレンの最後の呟きを、わざと聞こえていない振りをしながら部屋の出口へと近付いたアレスは、何処か儚げな雰囲気で微笑みを浮かべているセレンへと手を差し伸べる。
「……取り敢えず、皆と合流して、戦力的にも余裕を持たせてからその日記を調べる事になる。
だから、早いところ合流してしまおう。
この付近にはトラップは無いみたいだけど、さっきみたいな事にならない様に、慎重に着いて来て欲しい。良いよな?」
そんな彼の事を、何故か眩しそうに眺めながら、彼女は彼に了承の意を返しながら部屋を出て、廊下にて待ち構えていた魔物達を蹴散らしに掛かるのであった。
次回、あのコンビのsideストーリーになります
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