『追放者達』、家を探す
予告通りに新章開始です
「それで、拠点として家を借りる事になった訳だが、何かリクエストの類いは在るか?取り敢えず、一人一部屋と共用スペースとしてのリビングにキッチン付きは確定事項なんで、ソレ以外の意見が在れば申告よろしく」
皆の前で考えを披露し、若干一名を除いた全員から賛同を受けた為に、取り敢えずと言う体で皆から意見を募るアレス。
一応、パーティー資金として貯めていた金額として、一般的に六人で住める程に広い家でも相場的には借りられるだろう、と言うだけの額は在るのだが、ソレはあくまでも平均的な物件での相場の話。
なので、適当に値段だけで借りてきたとしても、それぞれの要望に合ったモノでなければ使い難いだけだろうし、各自での不満が溜まる事になる。
何より、拠点とは言えそれから暮らす事になるハズの家なのだから、やはりリラックスして寛げる場所であるべきだろう。
ならば、皆の意見を聞き届け、その上で相反する要素はどうにか落とし処を探り当て、それでもダメならリーダー特権でゴリ押しする必要が在るので、こうして尋ねている、と言う訳だ。
……まぁ、身も蓋も無い言い方をしてしまえば、後から『なんでアレは無い』だとか『アレはあって当たり前だろう?』だとか『こんなハズじゃ無かった!』だとかの泣き言や後出しでのアレコレを聞かされるのが面倒で不愉快だから、と言う考えが無いでも無い訳なのだが、ソレは仕方の無い事だろう。
リーダーとて人間だもの、その程度の危機回避をした処で、前のパーティーでは無いのだから、誰も咎めはしないハズだ。
そんな訳で、メンバー達へと希望する条件を出すように促すアレス。
「ちなみに、俺としてはキッチンが広いと良いな。あと、魔道具の『レイゾウコ』ってヤツが買えたら良いな、とも思ってる。
まぁ、バカ高いみたいだからそこまでのワガママを通すつもりは無いけど」
「……ふむ?であれば、当方としては鍛練に使える場所が欲しいな。
ソレ専用の部屋か、もしくは庭の類いでも有りだ」
「私は、そうですね……特に要望が在る訳ではありませんが、倉庫、とまでは行かずとも、それなりにモノをしまっておけるスペースが在ると良いかも知れませんね。
共用にするかどうかは議論の余地が在る、とは思いますけどね?」
「……じゃあ、アタシは部屋にクローゼットが据えられてる物件で。
手持ちの服が結構な量になるから、それらをしまっておける位の大きさは欲しいわね」
「ボクは、あの子達がのびのびと過ごせて放し飼いに出来る、広目の庭が在ると嬉しいのです。
そう言う意味合いでは、ガリアンさんと一緒なのです!」
「なら、オジサンとしてワガママを言わせて貰うとすれば、やっぱりお風呂は欲しいよねぇ。
そこまで広くなくて良いから、軽く手足を伸ばしながら浸かれる程度の大きさは在ってくれると助かるかなぁ?」
その他にも、家具はある程度自由に選びたい、最低限在れば良いけどそれでも部屋は広いと嬉しい、立地に関してはあんまり気にしていない、設備は魔道具に出来ればしておきたい、等の意見が出され、それらをアレスが用意しておいたメモ用紙に書き留めて行く。
箇条書きの上聞き取りをしながらの走り書きではあった為に、多少筆跡が乱雑なモノにはなっているが、それでも特定の誰かしか読めない様な状態では無いし、一目で何が書かれているのか判断出来る程度には整った文字が記されていた。
「……ふむ?意外であるな。
リーダーは孤児院の出身と聞いていた故に、読み書きの方も出来ない、とは言わぬまでも最低限程度であるのかと思っていたが、中々に流麗で趣の在る字を書くのだな?」
「まぁ、そこら辺は、ねぇ?
あの孤児院の院長先生が、そこら辺厳しい人だったからね。
口癖みたいに日頃から
『日頃の言動を整え、丁寧な行動を心掛ければ、必ず自分にとっても大事な人にとっても良い結果を迎えられる』
とか言ってた位だから、ね。
おまけに、その本人に習ってると、自然とそう言う風にしておこうかな?って考えになって今に至る、って訳さ」
「まぁ!とても、良いお言葉ですね!私、感銘を受けました!
確か……タウロポロス孤児院、でしたか?」
「おや?覚えてたんで?一度しか話さなかったのに、良く覚えてましたね?」
「…………はて?そう言えば、そうですね?
何故か、耳に残っていたみたいです。何故でしょうね?」
「まぁ、たまたま覚えてた、って事で良いか。
……院長先生か……。
今度、暇な時にでも一回顔見に行ってみようかなぁ……」
「あら!でしたら、是非とも同行させて頂けませんか?
とても素敵な教えでしたので、私も直接ご教授お願いしたいのです」
「俺は構いませんよ?
でも、そこまで入れ込む様な教えでも無いんじゃ?現に、俺と同じ様に学んでいても、結局身に付かなかったみたいな奴等も居ますんでね」
「……そう、でしたね……」
半ば自虐として溢した言葉に、セレンは悼ましそうな表情を浮かべて俯いてしまう。
その痛みを堪える様な雰囲気は、彼女に対して近寄り難い神聖な雰囲気を纏っている様にも感じさせる。
一瞬、そうなったセレンの姿に視線を奪われてしまったアレスだったが、次の瞬間には自身でも良く分からない気まずさに襲われてしまい、近くにいたガリアンに後を頼んで逃げ出す様に受付カウンターの方へと向かって行く。
背中にセレンからの視線を感じながらも、その意味合いを量りかねている彼は振り返る事無くカウンターへと向かうと、そこで業務を行っていたシーラの姿を発見し、若干早足になりながら空いたブースへと滑り込むと、書き留めていたメモ用紙を見せながら物件を探している事を彼女へと告げる。
「……って訳で、適当な物件探しているんですけど、何かオススメのヤツをギルドで管理してたりしませんかね?」
「……確かに、冒険者ギルドの提供するサービスの中に、ギルドが所有しているか、もしくは優先権を所持している物件を冒険者の方に紹介・仲介する、と言う事をしてはいるので可能か不可能かで言えば可能ですが、予算はどの程度になる予定ですか?
分割払い等も出来ますが、流石にある程度の頭金は不可欠ですし、現在のランクでの稼ぎでは払いきれるかどうか……」
「……あれ?シーラさんなら、俺達がどれくらい稼いでるか把握してるんじゃなかったですか?
なら、俺達がその気になってたら、この位は出せる、って事も把握してましたよね?」
アレスが懐から皮の小袋を取り出し、その口を緩める。
するとソコには、一般的に良く出回っているモノよりも一回り大きな、黄金の輝きを宿した硬貨が何枚も納められていた。
その輝きを目にした受付嬢のシーラは、まさかそんな金額を持ち歩いているとは思っていなかったらしく、黄金の輝きに目を魅せられる事はせずに口許をひきつらせていた。
「……まさか、今までの稼ぎの殆どを貯蓄なされていたのですか?」
「そのまさかですけど、なにか?」
「…………アレだけの金額をこの短期間に稼いでおいて、豪遊する事も無く、装備を新調する事も無く、ただただ貯めておいたなんて、普通の冒険者なら有り得ませんよ?他の皆さんは納得されていたのですか?」
「まぁ、ほぼ全財産である事は否定しませんが、一応皆で話し合って納得し合った上での行動ですよ?
それと、冒険者は刹那的な生き方をしがち、だと言う事は否定しませんが、だからと言って全員が全員そうとも限らないでしょう?
で、どうなんですか?物件、紹介して貰えますか?」
「………………承りました。条件はこちらのメモに在る通りで良いのですよね?
でしたら、取り敢えず合致する物件が無いか調べてみますので、少々お時間を頂いてもよろしいでしょうか?」
「了解です。
では、お願いしますね?」
そんなやり取りを挟み、シーラと別れるアレス。
正直、言い出しっぺのアレスも、直ぐには見付かりはしないだろう、とこの時は思っていたのだ。
何せ、アレだけ色々と条件を盛り込んだのだから、全てが一致する様な物件なんて早々無いだろうし、精々がある程度一致した物件から選ぶ事になるのだろうな、と思っていた。
それに、ソレが見付かるまで一月位は掛かるだろうな、ともこの時は思っていたのだ。
……しかし、そんな彼の予想を裏切る形で、彼らが求めていた知らせが翌日ギルドからもたらされるのであった。
…………ギルド曰く
『求めていた条件に、全て合致する物件を確保してある。それを、相場よりも良心的な値段にて売却する準備も在る。
……但し、その物件は昔から『呪われている』と言われている本物の曰く付きなのでソコの対処はそちらでされるべし』
と言う知らせが……。
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