『追放者達』、報酬の詳細を報告する
取り敢えず依頼の完了の報告だけを済ませ、手早く報酬の支払いを貰い受けた『追放者達』のメンバー六名は、予想外に疲労していた事もあり、手続きの必要なパーティーランクの昇格や報酬の内訳等は後日と言う事にして、その場は一旦解散してそれぞれの宿へと戻って行った。
そして、次の日の昼過ぎ。
彼らの姿は、閑散としたギルドのロビーに再度集まっていた。
「さて、まずは昨日はお疲れ様でした。
まだ疲れも残ってるだろうこのタイミングでまた集めたのは悪いと思ってるけど、こう言う事は早めにやっておかないと不味いだろうから、少しばかり付き合って下され」
「オジサンは別に構わないよ~。
いや~、でも、本当に昨日は疲れたよねぇ~。オジサン、宿に戻ったらそのままベッドに倒れ込んで、朝までグッスリ寝ちゃってたよ。
お陰で起きた時は腹の虫が煩くて煩くて!」
「なら、何か注文するか?こう言う集まっての食事なら、パーティー資金の雑費で差し引いておくから」
「ふむ、なら当方も何か頼むとするかな?
気になってはいたのだが、如何せんタイミングが合わなんだでな」
「じゃあ、ボクも何か頼むのです」
「……アタシは……まだ、良いや……」
「私も飲み物だけで結構です」
未だに眠気の残る顔付きをしているタチアナや、何処か疲れの残っている雰囲気のセレンに配慮してのアレスのセリフにヒギンズが乗っかり、皆一様に明るい雰囲気になって行く。
そして、依頼の張り出される早朝でも、依頼から戻ってくる夕方でも無い真っ昼間と言う時間帯からして、物理的に冒険者が居ない為に閑散としてしまっているギルド併設の酒場へと移動し、暇そうにしていたが為に真っ先に駆け付けて来た給仕の制服を着たお姉さんへと各自で好きに注文する。
殆ど閑古鳥が鳴いている様な状況であった為か、それぞれが頼んだモノが素早く届き、それらが冷めてしまわない内に、と手を付けながらアレスが報告を始める。
「取り敢えず、俺達のパーティーランクと個人ランクは両方とも無事に昇格させる事が出来た。依頼はキチンと片付けた、って事も確認取れたみたいだから、恙無く終える事が出来たよ。
って訳で、昨日預かってたコレらは返しておくよ。ホレ」
昼食がまだだったアレスが、頼んだランチセットのパスタをフォークで巻き取りながら、他のメンバーの元へと預かっていたギルドカードとパーティータグをそれぞれの手元へとスライドさせて行く。
それを、分厚くカットしてまだ中心部分から血が滴る程のレアな焼き加減で焼き上げた、牛に良く似た魔牛の肉のステーキを頬張るガリアンと、アルカンターラ近郊の河川にて採れる新鮮で巨大な川魚を、酒を振り掛けて蒸し焼きにしてから表面に熱した油を掛けてパリパリに仕上げたモノを二本の棒の様な食器にて食べていたヒギンズが、碌にそちらを見る事も無いままに受け止めて見せる。
「……しかし(モグッ!)、これで漸く(ゴリ、ブチッ!)Dランクであるか……(もっしゃもっしゃもっしゃ!)。
最初の昇格で(ギリギリ、ギリッ!)、いきなりアレでは(ガブッ!!)、先が思いやられるな……(もっしゃもっしゃもっしゃ!!)。
……うむ、やはり肉は歯応えが無いと、当方としては食った気分にならぬからな。毎回、と言うつもりは流石に無いが、この位の厚さと堅さが欲しいモノだ。
今まで頼んでいなかったが、ここは当方にとってはアタリであった様だな」
「なはは、流石に今回のは例外だと思うけどなぁ~。
毎回毎回こんな事ばかりだったら流石に身体が持たないし、ギルドの方としてもそんな無茶振りで有能な冒険者使い潰す気は無いだろうから、そこまでアレなのは連続しないんじゃないのかなぁ?
……しかし、流石は獣人族だねぇ、ガリアン君。良くそんな分厚いステーキムシャムシャイケるね?
オジサンも、少し前までイケてたけど、もう歳だからか昼から肉は重くてねぇ。
それに、最近はやけに魚が美味しく感じる様になって来たんだよねぇ。何でだろ?」
外見からは想像も出来ない程に洗練された所作にて無造作に肉を切り分け、只人族からして見れば大き過ぎる程に大きな一切れを口に運んで咀嚼するガリアンと、こちらも無駄に綺麗な動作にて魚を端から骨だけにして行くヒギンズ。
意外にも教養の在る場面を見せる二人に対し、感心した様な表情を見せながら、アレスによってスライドさせられて来たタグとカードを注文したスープを掬う匙を止めないままで受け取るナタリアと、上品にストローでグラスの中身を楽しんでいた手を止めてカードを受け止めるセレン。
「……はぁ~、コレが、EランクのギルドカードとDランクのパーティータグなのです?
他人のソレは見た事は在るのですが、こうしてボク個人のモノとして見るのは初めてなのです!
ところで、セレンのその野菜ジュース?みたいなのは何が入っているのです?」
「コレですか?そうですね……。
飲んでみた限りではアプリル(林檎に似た果実)とオルレンジ(オレンジに似た果実)をベースにして、幾つかの葉物野菜を加えている感じだと思います。気になるのでしたら、注文してみますか?」
「じゃあ、後で頼んでみるのです!
……でも、戦闘じゃあなにもしていないボクまで、本当に昇格してしまって良かったのです?
見ていただけでも、あの戦闘が尋常なモノで無かったのは理解出来るのですよ?」
「でしたら、ほぼ荷物の運搬しかしていない私や、支援術を掛けるだけしかしていないタチアナ様もソレに該当するのでは?
私達は、それらの込みでパーティーを組んでいるのですから、気になさらない方がよろしいかと。
……処で、その野菜スープも美味しそうですね?どの様な味付けなのか、お尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「これなのです?基本は塩なのですが、じっくりと煮込まれた野菜の甘味が感じられる一品なのです!中々美味しいのですよ?」
セレンとナタリアは、互いに注文した品が気になるのか、それぞれの感想を聞きあったりしながらも、非戦闘要員としての悩みや考え方を話し合ったりもしていた。
「それで、報酬の方なんだが、取り敢えず依頼自体の報酬として大金貨が一枚支給されてる。
更に、単眼巨人の素材として、武器にも使われる骨が金貨五枚。
防具に使われる皮が大金貨一枚。
討伐証明部位にもなってる角が金貨五枚。
特殊な道具の材料になるらしい眼球が本来なら大金貨二枚……らしいんだが、俺が留めに使った魔法の影響で状態がイマイチらしくてな。済まないがコレは金貨で五枚付けるのが精一杯だそうだ。
最後に、錬金術でポーションとかの材料に使えるらしい内臓と肉で金貨五枚。計大金貨で四枚になるそうだ。
それと、俺達が山程持ち込んだ雑魚の素材だけど、良く出回る素材だけど最近はあまり数が出てなかったアンドラス大森林産のモノだから、って言うことで纏めて大金貨一枚だって。
なので、今回の収益金は計で大金貨五枚になったよ」
「大金貨で五枚とは、かなりの収益ではないか?」
「そうですね。単純に頭割りにしたとしても、一人当たり大金貨一枚近くになりますからね」
「いや~、そんな大金、オジサン久方ぶりに目にしたよ。特に、一回の依頼でそんな額となると、本当に久し振りだなぁ」
「『久し振り』と言う事は、前にも何度か目にしているのです?ボクはこんな大金、初めて見るのですよ!」
「……で、この報酬なんだが、一つ使い途を思い付いているんだけど良いかな?」
「……まぁ、内容に依るがな」
「ですが、多分何を言わんとしているのかは、理解出来ていると思いますよ?」
「オジサンは、別に構いやしないよぉ。リーダーは君なんだから、取り敢えず提案するだけなら余程突拍子も無い事でなければ、言うだけなら大丈夫さぁ」
「提案なのです?何なのですか?」
「いや、前にもチラッと話題に出したヤツなんだけど、このパーティーで家でも借りてみない?って話でね。
以前の報酬をパーティー資金としてプールしておいた分と合わせると、それなりに広めの物件でも借りられそうだったから提案させて貰おうか、とね?
まぁ、男女混合のシェアハウスになっちゃうから、抵抗が在る場合に無理強いするつもりは無いけど、宿代の節約だとか、食費の軽減だとか、従魔を預けなくても良くなるだとかのメリットはそれなりに在ると思うけど、どうする?」
「当方は構わぬよ。まぁ、家事の当番位は決めて貰いたいがね」
「私も構いませんよ。このメンバーであれば無理強いは無いでしょうから、特に抵抗感は在りませんしね」
「……ボクは嬉しい限りなのですが、良いのですか?
新入りのボクにとって、都合の良い事ばかりな気がするのですよ?」
「まぁ、別に良いんじゃないのかい?
オジサンとしては構わないけど、いざ共同生活を始めた途端にオジサンとはやっぱり嫌!とか言われない様に努力はするから、一応嫌な事とかは軽く指摘してくれると有難いかなぁ?」
「まぁ、そこら辺は確実に取り決めるとして、取り敢えず否やは無い、って事で良いか?
良いのなら、ギルド経由で物件の紹介を頼んで来るけど?」
「「「「異議無し(なのです)!!」」」」
そうして、彼ら『追放者達』の絆は深まり、ここアルカンターラに於ける拠点を得る事に決定したのであった。
……なお、この決定の後に、一人寝落ちして報告会に参加していなかったタチアナが『アタシ聞いてないんだけど!?』と騒ぎ立てるのだが、ヒギンズが宥めてみた処一発で機嫌を直して了承する事になるのだが、それはまた別のお話である。
次回、閑話を挟んで次章に移る予定です
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