『追放者達』、帰還する
『追放者達』が依頼を受けてアンドラス大森林へと出立した次の日の昼過ぎ。
彼らの姿は、再び首都であるアルカンターラに在る西の外壁門に在った。
「……ほい、コレで手続きは終了だ。
しかし、やっぱり依頼は失敗だったみたいだな?
まぁ、まだEランクのパーティーじゃあ良くある事だから、あんまり気を落とさない様にしておけよ!」
「……あん?あんた、どっかで俺達と会ってたっけか?」
「いやいや!昨日お前さん達の外出手続きしたの俺だっただろうよ?」
「…………あぁ、そう言えば、その様な記憶も在る様な……無い様な……?」
「ですが、依頼に失敗した、とは?流石に失礼に過ぎるのでは無いでしょうか?」
「いやいや!昨日の今日で戻って来た上に、その土汚れ埃まみれな服装に、疲れきった表情を見れば分かるだろうよ!?
それに、行き先として告げてたのが例の『黒き還らずの森』なんだから、そりゃ失敗したんだろうな、と判断するさ!」
「そんなの、分からないじゃないのよ!」
「いやいやいや、お嬢ちゃん。依頼を成功させて来た冒険者ってのは、もっと溌剌とした表情をしてるモノだぞ?お前さん達みたいに、疲れきってウンザリした顔してるのは、大概依頼に失敗した冒険者って相場が決まってるんだよ。
それに、受けてた依頼が討伐にしろ採取にしろ、それらの成果物を持っていないじゃないか。なら、失敗したんだろうな、って判断されても仕方無いだろうに?」
「それだけじゃ、分からないのですよ?アイテムボックスのスキルが在る以上、そちらに詰め込んでいるかも知れないのです。それに、荷物ならこうしてキチンと牽いているのですよ?」
「そうそう、そうやって、一方的な視点で決め付けるのは、オジサンあんまり関心しないなぁ」
「はいはい、それは俺の勝手だろう?そもそも、アイテムボックスを得る為には前提として魔法系のスキルが必要だろう?
ソレを習得出来るのが、全体のどれだけの割合だと思ってるんだい?その上で魔力量も多くないとそもそも意味がないんだから、ソレを可能性として考えるだけ無駄ってモノさ。
そら、もう通って良いぞ!次は、もう少しやり方を考えるんだな!ははははははっ!!」
「…………行こう。この手の輩は、自分の信じたい事しか信じないから、説明してやるだけ無駄だろうさ」
アレスの誘導により、手続きをしていた衛兵の哄笑を背にしながら通用門から離れて行く『追放者達』のメンバー達。
そんな彼らの姿は、確かに埃や土や返り血で所々汚れており、その顔色にも色濃く疲労が刻まれている。
しかし、そうなっているにも関わらず、本人達には特段目立った負傷は見当たらない上に、足取りも確りとしているし、何より良く良く見てみれば、依頼に失敗した者特有の徒労感を抱いていない事が分かっただろう。
とは言え、疲れているのは事実。
何せ、あの雑魚ラッシュは行きだけのモノかと思っていたのだ。
その為に、単眼巨人の死体は最も魔力量の多いセレンが、その他の素材に関しては橇に積み込んで残りをアレスとタチアナがアイテムボックスに詰め込んでいた。
なので、基本的に魔法による範囲攻撃や支援の類いを殆ど受けられなかった為に、彼らはこうして疲弊したまま汚れたまま、となっていると言う訳だ。
それが原因で、先程は依頼が失敗したのだろう、と勘違いされた訳なのだがどのみち彼らは以前からソレ以上に劣悪な環境にてストレスに晒されていた。その為、あの程度の嘲笑ならば欠片も響いていないし効いてもいない。
それに、もう少しすればギルドの方から人の往来が途絶えていた原因が排除されたとの報告がなされ、その際に障害を排除したパーティーが何処のパーティーなのかを知るハズなのでその際にどんな反応を見せるのか楽しみですらあったりする。
とは言え、さっさと余計な荷物は下ろして休みたいのも事実。
なので、疲労により口数を少なくしながら一路ギルドを目指して進む『追放者達』一行。
そして、ギルドに併設された従魔小屋にナタリアの従魔達を預け、ついでに橇も積んでいた素材を全て下ろしてからギルドへと向かって行く。
主に男性陣にて分割している荷物だが、流石に橇二台分ともなると比較的筋肉質な三人とは言え持ちきれるモノでも無く、比較的嵩張らないモノや軽量なモノを女性陣に任せて入り口のドアを押し開くアレス。
草臥れた格好に疲れきった表情、それでいて全員の背中や手に携えられた山盛りてんこ盛りな素材の数々に、何事かと視線を向けて来ていた他の冒険者達は驚いて目を丸くするか、もしくは無言のままに視線を逸らして行く。
中にはまだ昼間なのにも関わらず酔っ払い、危機管理能力が著しく低下していたが故に彼らへと絡もうとする者も居はしたが、即座に同席していた者達が押し留めた事によって事無きを得ていたりする。
もっとも、今の彼らにそんな無遠慮な輩を上手くあしらってやれる様な余裕は無いし、気に入らなければ殺せば良い、と言えるほどに蛮族な性質をしている訳でもないので、基本的には無視するか、もしくは気絶させて床に転がされる事になるのが精々だろう。
そんな彼らへと、丁度受付業務の為にカウンターへと出ていたシーラが視線を送って来ていたが、取り敢えず荷物を下ろして身軽になりたがっている『追放者達』の面々は、新入りのナタリアとヒギンズが『行かなくても良いのか?』と問う様な視線をアレスへと送るものの、先ずは買い取り用のカウンターへと向かう足を止めずに進んで行く。
「…………取り敢えず、コレら全部買い取りで。
精算は、依頼の完了証の精算と一緒で良いから」
「承りました。では、買い取りに回される素材は全て提出を……って、多!?多すぎるでしょう!?どれだけ在るんですか!?
ちょっ!?誰か査定手伝って!?」
指示された通りに、六人掛かりで運んでいた素材と、セレンの持つ本命以外をアイテムボックスから放出して買い取りカウンターへと積み上げて行く。
流石にそこまでの量だとは思っていなかったらしく、低位の素材とは言え次々に積まれて行くそれらを前にして目を白黒させながら応援を呼んでいた。
そんな買い取りカウンターの様子を尻目に、受付のカウンターへと移動して依頼の受注票を提出するアレス。
「……取り敢えず、依頼に在ったと思われる単眼巨人は討伐してきました。
死体も丸ごと持ち帰って来たので、何処に出せば良いのかだけ指示下さい。あと、報酬は買い取りカウンターの精算と一緒にお願いします……」
「……随分と達成までの時間が短かったり、やけにお疲れのご様子だったらするのは置いておくとしまして、取り敢えず前回と同じく奥の解体部屋までお願い致します。
それと、報酬と単眼巨人の買い取り代金の精算は、あちらの騒ぎの元と一緒にお支払で宜しかったですね?」
「それでお願いします」
「承知致しました。では、こちらにお願い致します」
シーラに誘導されるがままにギルドの奥へと入って行き、そこでセレンのアイテムボックスに収めていた単眼巨人の死体を提出し、設定されていた目標である事を確認してから完了証を受け取る二人。
奥の解体部屋から出て来た時、それまで魔力の殆どを単眼巨人を運搬する事に傾けていたセレンは漸く肩の荷を降ろせた、と言わんばかりに気持ち良さそうに大きく伸びをしながら上機嫌に笑みを浮かべる。
ソレを目の当たりにした冒険者達が、花に寄せられる蝶々の如くフラフラと近付こうとするものの、本人達は誘っているつもりも無く、隣にいるアレスにしても面倒事はゴメンだ、と言う考えしか無かった為に、さっさと買い取りカウンターにて代金を受け取るべく、二人を待っていた他のメンバー達の元へと足早に近付いて行くのであった。
次かその次位にまた閑話入れて次章に移る予定です
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