『追放者達』、目的を達成する
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「…………流石に、ここまでやれば死んだ……よな?」
地面へと倒れ伏し、ピクリとも動かなくなった単眼巨人の後頭部から得物を引き抜きながら、若干自信無さそうに呟くアレス。
本来であれば、幾ら最強種の一角たるジャイアント種の端くれである単眼巨人とは言え、延髄に刃を差し込まれ、その上で大魔導級の中でも指折りの破壊力を持つ『奔流』系を頭蓋の内側に直接放たれれば即死は免れないのだが、目の前で地面に横たわる個体は上位種もかくや、と言う行動を幾つか見せていた為に、万が一の確率にて生存している可能性が在る…………かも知れない。
なので、普段のソレとは打って変わって、こうして言動が何処か自信無さげになってしまっている、と言う事なのだ。
そんな、珍しく自信無さげな彼に対し、そこら辺に落ちていた枝で単眼巨人を突いていたタチアナが若干呆れた様な視線と声色にて告げてくる。
「いや、流石に頭の中燃やし尽くされて無事で居られる訳無いでしょうよ?
それとも、アンタにはコレがゴーレムの類いにでも見えるのかしら?だったらソコの聖女サマにでも見て貰いなさいよ」
「いやいや、流石にソレは無いわ。
と言うかお前さん。良くもそんなに無防備に触れられるモノだね?さっきまで殺し合いしてたって言うのに、少しは怖かったりしないのか?」
「だってもう死んでるでしょう?
なら、もう危なくも怖くも無いでしょうに。
それとも何?アンタまだビビってるとでも言うつもり?自分の手で仕留めておいて?バカじゃないの?」
「こらこら、そこまでにしておきなよ。流石に言い過ぎだって。
オジサンとしては、リーダーの慎重さは良い事だと思うけどなぁ~?それが、選択出来ない優柔不断じゃなくて、仲間を死なせない為の用心深さなんだから尚の事、ねぇ?」
「うむ、そうであるな。当方としても、そやつが確実に死んでいるのかは些か確証が無いのでな。
どうにかして検証する必要は在るのではないかね?」
「ビビり上等なのです!ソレの何が悪いのです?
ボクとしても、コレがまた動き出されると、その時はこの子達の内の誰かが無事では済まなくなる可能性が在る以上は、確実に判定して欲しいのです!」
「まぁまぁ、タチアナ様の言い方が多少乱雑であった事は間違い在りませんが、だからと言ってそんなに責め立てる様な事をする必要は無いでしょう?
それに、生死を判定するだけでしたら、私ならば比較的簡単に判定出来ますよ?」
「あぁ、うん、ごめんね?タチアナちゃん。
オジサンとしては嗜める程度のつもりだったんだけど、どうやらオジサンの言葉が発端になったみたいだから、謝らせてくれないかい?」
「……いや、良いよ。アタシも、言葉遣いが荒かったのは分かってるし。
と言うか、そうやって判定する方法持ってたんだったら、アイツが言い出した時に最初から名乗り出てればこんな事にならずに済んだんじゃないの?」
「ふふふ。ほら、こう言う事は、何も無い時に自ら名乗り出るよりも、必要に駆られた状態で人から頼られた時の方が有り難みが増す、と言うモノでしょう?」
「……お、おぉう……。
別段、そなたの考えを否定はせぬし、例の過去を鑑みればそうなっても不思議では無いかも知れぬが、流石に明け透けに言い過ぎでは在るまいか……?
それで、判定の方は如何するのだ?」
「判別方法、ですか?そんなモノ、こうすれば一目で分かりますよ?
『神よ。敬虔なる貴方の子らに、負いし傷を癒す奇跡を授けたまえ!『天の奇跡による治癒』』!」
突然セレンによって発動された回復魔法の光が、地面に横たわる単眼巨人へと降り注ぐ。
通常であれば、その光を身に受ける事で負っていた負傷が治癒して行き、目に見えて傷の類いは無くなって行くのだが……目の前の単眼巨人の体表に残る傷の数々はその光を浴びても消える事無く残り続けていた。
それにより、満足した様に頷くセレンと感心した様子のヒギンズ。
額に手を当てて首を振り、完全に予想外の行動であった、と言わんばかりの仕草を見せるガリアンと、苦笑を浮かべながらも、それならば確かに、と納得した様子を見せるナタリア。
そして、何故そんな事をして、何故これで判定出来るのか?と首を傾げるアレスとタチアナの二人、と言った三者三様の反応を見せる『追放者達』のメンバー達。
アレスとタチアナを除いた他の四名は、今回の行動の意味を理解している様子だったが、当の二人はイマイチ要領が掴めていないらしく、揃って首を傾げて不思議そうな表情を隠そうともしていなかった。
そんな二人を、セレンとヒギンズの二人は可愛らしいモノでも眺める様な視線を送り、ナタリアは二人の真似をして首を傾げる従魔達を眺めてニコニコとしている。
なので、説明するのは自分しか居ない、と判断したガリアンが、頭痛を堪える様にしながら二人に向かって口を開く。
「……一応確認しておくが、そなたらは回復魔法で死者の復活が出来ない理由を知っておるか?」
「……あん?そんなの、既に魂が身体から離れてしまっている、もしくは生命としての様相を維持出来ない程に魂にダメージが入ってるからで、魂の姿を元にして身体を再生させる回復魔法では復活させる事は出来ない…………って、なんだ、そう言う事か!」
「……え?アンタ、今の質問で理解出来たの?」
「一応は?多分だけど。
アレだろう?生きてるならば、回復魔法が効いて傷が癒える。そうでないか、もしくは魂が著しく損傷する程のダメージを負っていれば、回復魔法が効かないから死んでいる、もしくはそれに準ずる状態になっている、って事だろ?」
「ふふふっ、大正解です!良く出来ました!お姉さんが花丸上げちゃいますね♪」
そう言って、嬉しそうに微笑みながら、やけに若々しい動作にて喜びを顕にするセレン。
そんな彼女に対し、若干の戸惑いが見え隠れするが、それでも誉められた事は嬉しいのか、少々の照れを滲ませた笑みを浮かべてセレンへの返事とするアレス。
すると、何故か顔を赤らめながら視線を逸らし、その上で服の上からでもハッキリと分かる程の豊満な胸を抑えて身震いするセレン。
ソレを見たタチアナとナタリアは何かに気が付いたらしく、素早く二人揃ってセレンへと近付くと何かを彼女の耳元にて囁き掛けた。
それにより、一際大きくセレンの肩が葉ね上がり、ナタリアとタチアナは揃いも揃ってニヤニヤとした笑みを浮かべ、まるで面白そうなオモチャを発見した子供の様な、好物を目の前にした犬の様なキラキラと輝く瞳にて彼女を見詰めつつ、時折何かを囁きながら軽く指でつついたりしてじゃれ合いを始めて行く。
「……うんうん、仲良き事は美しいねぇ~」
「……どうであろうな。少なくとも、姦しい話題を提供する為の生け贄にリーダーが選ばれたのは間違い在るまいよ……」
「…………いや、え、いったい何が……?
同じ様な事をしても、あいつらとは反応が違い過ぎて戸惑うんだけど、誰か説明してくれないか……?」
そんな三人の様子に、ヒギンズは娘とその友人達を見守る父親や祖父の様な優しさに溢れた視線を。
ガリアンは溜め息と共に、こんな場所で理解不能だ、と言わんばかりのジトッとした呆れの視線を。
アレスは若干混乱しつつも、彼をこき使っていた幼なじみ達とは全く異なる女性らしい反応に、僅かな戸惑いと共に胸の高まりを感じながら同性の二人に助けを求めるかの様な視線を向ける。
そんな風にふざけたりじゃれ合いながらも口許には既に達成感から来る微笑みを一様に浮かべていた六人を、この一帯で発生していた魔物が掃討された事で暇になったナタリアの従魔の森林狼と月紋熊達のみが、焚き火の縁に集まって寝転がりつつ緩く尻尾を振りながら見詰めて行くのであった。
斯くしてアンドラス大森林に於ける『追放者達』の任務は達成され、多少騒々しい上に女性陣のテントの内部は姦しくなりながらも、彼らにとっての初めての夜は更けて行くのであった。
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