『追放者達』、単眼巨人と決着を着ける
「おら、こいつでも食らっておけ!『撃ち抜き凍れ!『凍結の槍』』!『多重展開』!」
シュドドドドドドドドドンッ!!
がぁぁぁぁぁああああああ!?!?!?
アレスが魔法詠唱に追加したスキル『多重展開』の発動により、一度の詠唱にて無数に発動した『凍結の槍』が単眼巨人へと降り注いて炸裂し、常闇に閉ざされたアンドラス大森林へと苦鳴の咆哮が響き渡る。
通常発動させるよりも多くの魔力を込められたそれらの魔法は、硬い単眼巨人の表皮を貫くだけでなく、着弾した周辺や皮膚の下の肉をその冷気で徐々に蝕んで行く。
しかし、単眼巨人の方もソレを黙って享受するハズも無く、僅かに苦鳴を漏らして動きを止めはしたものの即座に手で付きたった無数の槍を払い落とすと、魔法の発動と同時に飛び込もうとして前へと出て来ていたアレスを迎え撃つべく、手近に生えていた黒樹を一息で引き抜き、自身よりも遥かに小さなアレスを迎撃する為に若干斜めになってはいるが、種類としては横薙ぎと呼んで差し支えは無いであろうスイングにて対抗する。
が、しかし、『追放者達』の誇る盾役がソレを見逃すハズも無く、全身を金属鎧で覆いながらも軽業師にも似た身のこなしにてアレスと単眼巨人の間に飛び込むと、その長身を低く屈めて腰を落として手にした盾の尖った下部を地面へと突き立てると、その場でスイングを完全に受け止める体勢へと移行する。
「行くぞ!『タウント』『フォートレス』『ウォークライ』『不壊の盾』『パリィ』ついでに『フルカウンター』も持って行け!!」
自分を信用して待避行動を取ろうとしていないアレスへと、絶対に攻撃を通すまいと狙いを集中させる『タウント』を使用し、『フォートレス』で頑強さを、同じ様な効果の『ウォークライ』にて筋力と精神力を強化し、その上で攻撃を弾きやすくする『パリィ』と使用者の心が折れない限りは盾が砕ける事が無くなる『不壊の盾』を使用。
その上で、受けきったダメージを倍にして跳ね返す『フルカウンター』まで合わせて発動させたガリアンの構える大盾へと、単眼巨人の振るう即席の大槌が叩き付けられる!!
ドゴグシャッッッッッッッッッッッッ!!!!!
まるで、巨大な金属塊で金属塊を叩き潰した音に水気を足した様な、奇妙な響きを伴った轟音が周囲へと響き渡るが、それから一拍遅れて硬いモノが内側から弾け飛ぶ様な炸裂音と共に怒りと痛みによる咆哮が周囲の闇へと響き渡って行く。
……そう、このぶつかり合いを制したのは、単眼巨人ではなく盾を構えていたガリアンの方だったのだ!
その証拠に、彼が構えた盾は未だに焚き火の光を照り返して輝きを帯続けているが、単眼巨人が振るった黒樹の 大槌はその半ばから無惨にも折れ砕けてしまい、その手元には根本の部分が僅かに残されるばかりであった。
とは言え、幾ら彼が無数のスキルを重ね掛けし、その上で支援術による強化を施されていたとしても、彼の事を仲間達が『人外』だとからかおうとも、彼は多少身体が頑丈なだけの人間に過ぎない。
なので、当然最強種の一角であるジャイアントの一撃を受け止めてしまった彼の身体は、直ぐには身動きする事すら難しい程のダメージを負ってしまう事となる。
そうなると、小癪にも自分の攻撃を邪魔し、その上でダメージを負いながらも受けきって見せた彼に対して単眼巨人が苛立ちを抱かないハズが無く、ガリアンが使用した『フルカウンター』によって少なくは無いダメージを負ったハズの拳を振り上げて、確実に彼の命を粉砕しようと振り下ろして行く!
しかし、ソレを他のメンバー達がむざむざ見逃すハズも無く、後衛からはセレンと、中衛の位置に待機していたヒギンズがそれぞれ動き出す!
「『光よ、弾けよ!『光輝の炸裂』』!」
「オジサンの目の前で、わざわざ仲間死なせる訳が無いでしょうが!?」
がああぁぁぁぁぁああああ!?!?!?
セレンが放った魔法が顔面へと炸裂し、ソレによって産み出された強烈な閃光と直接的な熱によって単眼を焼かれ、ダメージよりも驚愕から咆哮を挙げる単眼巨人。
そして、ソレによって思わず突いてしまった単眼巨人の膝を踏み台とし、顔を抑えている手を目指して飛び上がったヒギンズは、その恐ろしく切れ味の良い槍を振るって当たるを幸いとして縦横無尽に切り傷を量産して行く。
が、流石にそこまでやられれば相手も相応の手段に打って出る、と言うモノだ。
現に、ヒギンズによって与えられたダメージと激痛により意識がまたしても切り替わったのか、再度ジャイアント種特有の超再生能力を使用して半ば無理矢理身体と瞳の損傷を治癒させると、今度は空いている方の腕も使って周囲を大きく薙ぎ払って行く。
それには堪らず後退したヒギンズをその単眼にて捉えた単眼巨人は片膝を地面へと着けて高さの調整を行うと、元々の長さからすれば無いに等しいが、それでも人一人を殴り付けるには十二分な長さが残る黒樹の残骸を、今度は下から上へと掬い上げる様な動作にて、ヒギンズ目掛けて攻撃を仕掛けて行く。
それまでの、大雑把で大振りな攻撃とは違い、最短最速にて振るわれるその攻撃は僅かながらも技術としての片鱗を覗かせているモノであり、ソレに驚いたヒギンズの動作が僅かながらに遅れてしまう。
このままでは直撃してしまう!
そう誰もが思ってしまったタイミングにて、突然単眼巨人の足に横合いから強い衝撃が加わり、ソレによって攻撃の軌道が若干ながらヒギンズから逸れる。
「……っぶね!?
……いや~、本当に助かったよ。有難う、ね……?」
咄嗟に身を捻る事で致命的な一撃を回避したヒギンズは、その切っ掛けを作ってくれた恩人がいる方向へと視線を向けたのだが、その目に写ったのはアレスでもガリアンでも無く、また後衛の女性陣の誰でも無かった。
「「「「「「「「グゥゥゥゥゥゥオォン!!!」」」」」」」」
「ヴゥゥゥゥオオオオオ!!!!」
……そう、ソコに在ったのは、後衛のナタリアの従魔である森林狼八頭と、月紋熊の姿であったのだ。
「……まさか、本当にあの子達であんな事が出来るなんて、思ってもいなかったのです……」
「アタシも、まさか人間以外にも効果が在るなんて思ってなかったから、完全に予想外だったわ……。
動物にも、支援術って効果が在ったのね……」
二人の会話からも察せられる通りに、タチアナがナタリアの従魔達に支援術を掛けて強化を施した結果、九頭掛かりで体勢を崩させただけ、とは言え『体勢を崩させる事は出来る』と言う事実と功績が出来てしまった以上、単眼巨人としても既に無視する事は出来ない存在として認識せざるを得なくなった、と言う事に繋がる。
つまりは、言い方は悪いが囮としての働きをする事が出来る様になった、と言う事だ。
故に、まずは目障りな小物から捻り潰してやろう、と判断した単眼巨人が黒樹の残骸を握ったままの手を伸ばし掛けたその時、その脳裏に
『何か重要な事を見過ごしているのでは無いか?』
と言う疑念が過る。
とは言え、その次の瞬間には即座に否定され、特に動きを止める事無く目の前の小物を挽き肉にせんと手を伸ばし続ける。
盾を持ったヤツは硬かったが、今は動けない。
槍を持ったヤツは強かったが、今は離れている。
杖を持ったヤツは眩しかったが、今は盾も持ったヤツに張り付いている。
妨害してくるヤツと殊更小さいヤツは、放っておいても構わない。
さっき体当たりして邪魔してきた小物共は、今からこうして叩き潰せばそれで良い。
槍を持ったヤツは厄介だが、それだけだ。
一つずつ、順番に潰して行けば良……!?
そこまで考えた単眼巨人は、とある事実を忘却していた事に気が付き愕然とする。
……そうだ。アイツはどうした?
魔法を使って来たヤツ。
剣で斬り着けて来たヤツ!
スキルを最初に見破ったヤツ!!
コイツらの指揮を採っていたハズのヤツ!!!
……何処だ!?何処に居る!?何故居ない!?!?
極大の悪寒に背筋を貫かれながら、既に振るってしまっている拳は止める事が出来ない為に、その一つきりの巨眼をギョロギョロと動かして『残りの一人』の姿を探す単眼巨人。
しかし、そうやって目的の姿を捉えるよりも、ソレを隙と見たヒギンズが飛び込んで来るよりも、回復を終えたガリアンが拳の前へと割り込んで来るよりも先に、後頭部へと突如として生じた冷たい違和感を覚えると同時に全身の力が抜けて前のめりに倒れて行く単眼巨人。
徐々に首から下の感覚が無くなり、呼吸すらも出来ずに意識が朦朧とし始める中、突如として背後から探していたハズの『最後の一人』の声が聞こえて来た。
「……まったく、駄目じゃないか。暗殺者から意識をはずしちゃあ。
まぁ、とは言えコレで終いだ。無駄に抗う事無く素直に死んでおけ!
『灼熱の波頭よ、全てを呑み込め!『業火の奔流』』!」
そんな魔法詠唱と共に生じた圧倒的な熱量を、自らの頭蓋の内に感じながら単眼巨人は意識をこの世界から消失させるのであった。
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