『追放者達』、単眼巨人と遭遇する
今回少々短め
取り敢えず今まで通りにやってみます
「……まったく、さっきは散々な目に在ったぜ……」
「……まぁ、そう言うな。
幾ら予想外の事とは言え、愚痴ってどうにかなる事でも無かろう。
とは言え、当方としても、そう言いたくなる気持ちは分からぬでも無いが、な……」
「……なはは、いや~、でも本当に、さっきのは酷かったよねぇ。
まさか、あんなにも雑魚ばかりワラワラと出てくるなんて、オジサンも思ってなかったよ。お陰で、精神的にグッタリしちゃったねぇ。
ここで一杯やれたら気分も良くなるんだろうけど、流石に無理だし無い物ねだりはするモノじゃないしねぇ……」
「そいつは、面倒事を片付けて帰ったらな。
……っと、さて、そろそろ良いかな?」
「うむ、こちらも良さそうだ。
ヒギンズ殿、そちらはどうか?」
「こっちもバッチリだよぉ~」
焚き火を囲い、テントを背にしながら、火に掛けた鍋やフライパンをかき混ぜるアレス、ガリアン、ヒギンズ。
彼らの周囲には、解体された魔物の残骸や素材が山盛りに積まれており、そこが少し前まで戦場であった事を如実に物語っていた。
……何故、彼らがそんな処で夜営の準備を整え、三人だけで焚き火を囲っているのか。
それは、至極単純な理由から。
そう、純粋に、時間が掛かり過ぎてしまったから、と言う事だ。
まだ早朝と言っても良い時間帯にアルカンターラを出立し、昼前にはこのアンドラス大森林に到着していたアレス達『追放者達』だったが、入って早々に小鬼や豚鬼と言った魔物の群れに襲われてしまい、予想以上に時間を取られてしまったのだ。
大した強さは無い癖に、それでいて数だけは大量に居たので対処するのに時間が掛かり、そこから目的であった単眼巨人の捜索を開始したものの、案の定発見するよりも先に日暮れが始まる時間帯になってしまったので、こうして夜営を始めている、と言う事だ。
そして、現在夕食を野郎共にて調理中、と言う事だ。腹が減っては戦は出来ぬ。補給は大事、超大事。
ちなみに、何故野郎共が作っているのか、と言うと、それは別段女性陣が皆揃いも揃って料理下手、と言う訳ではない。
セレンも、かつては教会にて修道女としての修行を積んでいたし、その一環にて料理も一応作れる様にはなっている。
タチアナも、貧民街にて生き延びていた事もあり、旨く作れるか、と言われれば微妙だが、食えないモノは作らない。
そして新入りのナタリアも、稼ぎがよろしくない期間が長かった事もあってか、一通り作るだけならどうにかなる、と言う程度の腕前は持っているらしい。
なら、何故女性陣が手を出していないのか?と言えば、それは彼らの背後に張られているテントに答えが在る。
そう、実は女性陣はお着替えの途中なのだ。
危険の多い場所にて何を!?と言いたくもなるかも知れないが、先程の戦いにて返り血やら何やらで装束が汚れてしまっていた為に、着替えざるを得なくなっている、と言う理由なのだから仕方無い。
一方、あまりそう言う事に頓着しない野郎共は、別段まだ着替える程でも無いだろう、との判断から、取り敢えず手空きな時間を持て余すのは勿体無いと言う事で、こうして半ば勝手に調理を始めていた、と言うのが真実だったりする。
もっとも、男料理であるが為に、割りと大雑把かつ肉中心の品しか並んでいないので、女性陣には少しばかりキツいかも知れないが。
そうして、夕食が完成すると同時にテントの中から着替えを終えた女性陣が顔を出し、各自で料理を取り分けて雑談を交えながら、危険地帯に居るとは思えない程和やかに腹を満たして行く。
当然、その間も周囲の警戒は怠らない。
哨戒に出ているナタリアの従魔達も、今は交代で夜営の地点まで下がって来てナタリアの手から餌を貰っているが、それでも同時に二頭以上が下がってくる事は無かったので、恐らくは彼らも自分達の仕事の重要性と言うモノを理解していると言う事なのだろう。
その証拠に、今回は哨戒役では無く純粋な運搬役として同行している熊は狼達とは異なり、今日はここから大きく動く事は無いから、と引いていた橇を外されて身軽になった身体で夕食を堪能した後、張られているテントの近くまで移動してから地面に横たわり、微かに鼾を周囲へと響かせている。
もちろん、アレスも複数のスキルを発動させて周囲の気配を常に探っているし、ガリアンはその嗅覚と聴覚で、ヒギンズは長年の活動にて培われた第六感にて周囲を常に探っていた。
……だから、だろうか。
それらの哨戒網に何一つ触れる事も無く、寧ろ何も触れなかったから、と言う理由から突如としてアレスとヒギンズがほぼ食べ終えていた膝の上の皿を撥ね飛ばしながら立ち上がり、周囲へと直接的に視線を配り始める。
それに一拍遅れてガリアンが得物に手を掛けながら立ち上がり、横になっていたハズの熊もその場で起き上がって焚き火の灯りの届く範囲外へと唸りつつ牙を剥き出しにして精一杯威嚇し始める。
そこに至って、漸く残りのメンバーと狼達も異常に気が付いたのか、俄に周囲が騒がしくなり始める。
「……まったく、油断した。まさか、ここまで近付かれるまで気付けないなんて、な……」
「いやいや、流石にこの体制で抜いてくるのであれば、それは認めざるを得ないであろうよ。
まぁ、甘く見ていた、と言う事を否定は出来ぬがな」
「いや~、ごめんねぇ?オジサン、単眼巨人なら以前は腐るほど狩ってたから、どうせ近付けば気付けるだろうなぁ、程度にしか思ってなかったから、完全に油断しちゃってたよ。
……まさか、スキルの類いまで使って、音と気配と姿まで隠して見せるなんて、やっぱりコレってそう言う事なのかなぁ……?」
「やはり、腐っても最強種たるジャイアントの一角、と言う事ですか。
まさか、上位種でも無いと言うのに、平然とスキルを使いこなすなんて……」
「…………いや、そうやってスキル使って隠れてた相手に、なんでアンタ達って気付けるのよ……?」
「……普通は無理だと思うのですよ?少なくとも、ボクもこの子達も、直前まで分からなかったのです……」
そして、彼らが揃って見詰める先に在る巨木の上方。
灯りにされている焚き火の光が届くギリギリの範囲。最早梢と呼んでも差し支えは無いであろう地点に、突如として複数の太い『何か』が絡み付く。
……それは、形だけで言えば『人の指』にも似ている様にも見えるが、太さや長さと言った要素は欠片も似ている部分が存在していなかった。
そして、その丸太の様な指に続き、岩盤を思わせる手の甲と思わしき部分と、巨木を連想させる腕と見られる部分が続き、最後には総体としては人のソレに近しいながらも、青みの強い体表と一つのみが上方に嵌まり込み、殺意と食欲に彩られ欲望のままに行動せんとしている単眼巨人の目の下を横に過る傷が刻まれた顔が、彼らの遥か上空に出現するのであった。
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