『追放者達』、アンドラス大森林に挑む
突然ですが質問です
ある読者の方から
『行間が広くて読み難い』
との指摘を頂きました
なので
『今までのやり方で良い』
のか
『もっと詰めた方が良い』
のかのご意見を頂ければ有難いですm(_ _)m
「……ここが、アンドラス大森林、か……」
橇に預けていた装備を受け取り、一足先に装着し終えたアレスが目の前の巨木の森を見上げながらそう呟く。
彼の視線の先に在り、これから探索に入る予定のその森は、通常では考えられない異様を周囲へと晒していた。
まず、木々の色が異なる。
通常であれば、樹皮は茶色で葉は緑色をしているハズのここに生えている黒樹と呼ばれるそれらは、その全てが光を吸収する様な漆黒に染まっており、何処か異世界の地であるかの様な錯覚を植え付けて来る。
おまけに、そのサイズも異常だ。
森の外周に生えている木々ですら、他の森では立派な成木として扱われるであろうサイズに達しているにも関わらず、この森に於いてはあくまでも外周に生える『若木』でしかない。
その上、森その物が放つ空気も異質だ。
普通、ある程度は生命を拒絶する事無く受け入れ、それらの息遣いを外部からも感じ取る事が出来る。しかし、この森は足を踏み入れる前からアレス達の事を拒絶し、内部から滲み出てくるハズの生命の息遣いすらも逃してなるものか、と言う断絶の意思すらも感じさせる様な気すらしてくる。
…………しかし……
「……なんだ。思ってたより、大した事は無さそうだな」
そんな、見るからに異様な雰囲気を放つその森を前にし、それらを一身に浴びて尚特に怯む事もなく気の抜けた台詞を放ち、その上で腰に手を当てて鼻をほじるまでして見せるアレス。
しかし、それもそのハズ。
何せ、彼がかつて奴隷として連れ回されていたのは、彼の幼なじみ達が結成したAランクの冒険者パーティーである『連理の翼』。
その行動範囲は各方面の極地にまで及び、過酷な環境には嫌と言う程に経験が在る。
そして、そう言う過酷な土地に生きる魔物は決まって狂暴で凶悪であり、自然と人の立ち寄らない環境へと変化して行く。
当然、当時から奴隷当然に扱われていた彼が、彼を強引に連れ回していた幼なじみ達に守って貰える訳もなく、当たり前の様に半ば放置されていた為、それらの狂暴な魔物達と大立回りを演じる羽目になった過去が在るので、ここまで余裕綽々で佇んでいられる、と言うワケだ。
ついでに言えば、その時の経験が今の彼の強さの一部として定着しているのだが、ソレは彼にとっても思い出したくは無い過去の一部なので、彼が詳しく語る事は無いだろう。
「……うむ、只の森にしては、些か異様な雰囲気よな。
もっとも、だからと言って威圧される程でも無いがな」
「そうですね。多少威圧感は在りますが、だからと言って竦み上がる程でも在りませんし、行動に支障は無いでしょう」
「……まぁ、何となく怖い様な気もするけど、その程度だし大丈夫でしょう?」
「そう、なのです。この子達が頑張ってくれているのに、ボクが脅えるわけには行かないのです!」
「なはは!いやいや、最近の若い子は強いし勇敢だねぇ!
オジサンが君達位の時には、こんな感じの森でもビビって入れやしなかったし、下手すれば腰を抜かしながら小便垂らしていたモノだけどねぇ。
まぁ、今となっちゃあ、大した事は無いみたいだけどねぇ」
そして、奇しくも数多の修羅場を潜り抜けて来たガリアンとヒギンズ。聖女として無数の死に立ち会った経験の在るセレン。命の価値がパン一切れ以下であった貧民街で育ったタチアナ。従魔達の手前怯えた様子を晒せないナタリアと言ったメンバー達も、各自で理由は異なりながらも怯え竦む事もなく冷静にアンドラス大森林の事を観察していた。
僅かに聞こえていたヒギンズの自虐談に苦笑しつつも、内心にて場の雰囲気を弛緩し過ぎない程度に緩めてくれた事に感謝しながら、橇に乗せて来ていた物資の内の自身の割り当てを受け取ってから皆へと号令を下す。
「……良し!じゃあ、全員準備は整ったな!?
なら、あんまり時間を掛けちゃ良くない依頼みたいだから、サクッと行くぞ!
隊列は事前の打ち合わせの通りに、最前衛をガリアンと斥候を兼ねた俺!」
「うむ!承った!」
「その後ろの隊列中央に、タチアナとナタリアと物資運搬役の熊!
タチアナは支援術で援護を、ナタリアは従魔達で哨戒の手伝いをお願いしたい!熊は……まぁ、適当に怪我しない様に!」
「はいはい、了解」「分かりました!頑張るのです!」「ヴッ!」
「隊列後方に回復要員とセレンと、後方警戒並びに後衛の護衛としてヒギンズ!」
「承知致しました」「はいはい、了解したよぉ」
「取り敢えず、事前にも説明した通り、この資料に寄れば大したモノは目標地点には出てこないみたいだけど、何が起きても不思議では無い場所である以上は警戒は怠らない様に!
自分の油断が仲間を殺す事になると思って当たれ!
では、突入!!」
「「「「「応!!!」」」」」
一通りの指示を終えたアレスの号令により、『追放者達』のメンバー達は若干縦長の隊列を組んでアンドラス大森林、通称『黒き還らずの森』へと突入して行くのであった。
******
黒く暗く闇に閉ざされた森の中、水分の多いモノを切り裂く音と貫く音に叩き潰す音。
何かを吹き飛ばす轟音に、それらを指示する怒号。
そして、雑多な呻き声や鳴き声が、本来であれば碌に視界すら確保出来無いハズの森の中に響き渡る。
「三時方向、敵勢追加!多分小鬼!数それなり!!」
「当方はまだ向かえぬ!悪いが誰か処理を頼む!?」
「『光よ、貫け!『光輝の矢』』!
こちら、片付きました!追加の敵への対処に当たります!!」
「頼んだ!!」
「リ、リーダー!また追加なのです!今度は八時方向から豚鬼なのです!数は……六体!?」
「えぇい、クソッ!?
仕方無い、俺が向かう!こっちは任せた!!」
「任された!アタシだって、これでも普通に戦えるんだからね!!」
「あ~、リーダー?一応報告しておくけどぉ、さっき真後ろの六時方向から銀群狼が来てたから、取り敢えず片付けておいたよぉ。手伝いいるかい?」
「でかした!
こっちは俺が片付けておくから、後衛連中の援護よろしく!」
「はいはい、了解したよぉ」
若干一名のみが余裕を滲ませてはいるものの、他のメンバー達は声を荒げて襲い来る魔物の群れへと対処して行く。
森へと踏み入って暫く経っているとは言え、予想外に絶え間無く襲い掛かってくる魔物の群れに、各自で対処する手一杯になってしまっていた。
その為に、哨戒しているアレスやナタリアからの警告にも、各自の役割として定められたポジションをキープするのは難しく、手が空いた者が順次対処する羽目になってしまっている。
とは言え、ソレは襲撃を仕掛けてくる魔物が手強く、倒す事が出来ないからでは無く…………
「「「「「あぁぁぁあああ!鬱陶しい!!!」」」」」
「次から次に湧いて来やがって、いい加減尽きろ!?」
「黒い害虫では無いのだから、延々と湧き出して来るのはいい加減にせよ!?流石にうざったいわ!!」
「もう、なんでこんなにワラワラと!?」
「あぁ、もう、うざったいうざったいうざったい!!いい加減にしてよね!?」
「こうも数だけ出て来られると、流石に不快なのです!
ボクやこの子達でも倒せる程度なのに、なんで掛かってくるのです!?」
「なはは、確かに、これは飽きて来るよねぇ。
オジサンも、こんな程度の相手じゃ欠片も楽しく無いから、そろそろ飽きて来ちゃったよ……」
……からでは無く、ただ単に数を頼みに畳み掛けて来るだけであったので、飽きてイライラしていたのだった。
こうして彼らへと襲い掛かっている魔物は、数こそ多いがその実力は大した事はなく、彼らにとっては鎧袖一触に振り払えてしまう程度のモノでしか無い。
しかし、その頼りにしている数こそが桁違いに多く、それの対処にこうして苦慮している、と言う訳だ。
……もっとも、ここに生息する魔物が殊更弱い、と言う訳ではなく、むしろ若干ではあれ他の同種よりも強いのだが、彼らにとっては誤差に等しい違いでしかないが、普通はそんな強さの魔物に絶え間無く襲われれはその場で餌にされてしまい、通称の通りに還らずとなる羽目になるのだが。
そうして、最後にはそれまで余裕を見せていたヒギンズでさえ、ウンザリとした表情を隠そうともしなくなった頃、彼らの周囲には無数の魔物達の骸が山の様に積み上げられる事になるのであった。
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