『追放者達』、伸ばされた手を振り払う
「………………おい!!『追放者達』って連中は何処のどいつだ!?
この世界を魔王の手から救う為に、『異世界』からの召喚に応じてやった『勇者』である俺様の仲間にしてやるって言ってるんだ!
ありがたく思ってさっさと出てこいよ!!」
ギルドの扉を乱暴に蹴り開けた様な音と共に、祝いの席に無粋な怒鳴り声が響き渡る。
気分良く乾杯し、ソレを飲み干した直後であったアレス達は、まるで聞いた覚えの無い声と、そうして乱雑かつ傲慢に呼び捨てにされなければならない覚えが誰一人として無かった為に、直ぐ様に声を挙げて存在をアピールする様な事はせず、取り敢えず視線を送ってその乱入者の確認を行って行く。
……パッと見た限りでは、かなり歳若く見える。ソレこそ、成人の儀を執り行えるかどうか、と言った処だろう。
身長は……大体1.6から1.7メルトの間、と言った処だろうか?比較的、小柄と言えば小柄だ。少なくとも、アレスよりは小さいだろう。
外見としては、黒髪黒目、と言う処まではアレスと一緒だが、地味ながらも整っている、と形容出来るアレスとは異なり、不健康な痩せかたをしていて筋肉はそこまで発達している様子もない上に脂っぽい髪質をしているからか、そこまで見目が良い、とは言えないだろう。
もっとも、内心から滲み出る卑屈さや尊大さと言った、普通ならば相反するであろう要素が強く感じられてしまっている為に、そうでなかったとしてもあまりに関係無かったかも知れないが。
そんな、総評すれば『不健康そうで生意気な雰囲気を隠そうともしていない尊大なガキ』と言った名も知らないソイツ(別段自己紹介された訳でもないのでそう言うしかない)に対して呆れた様な視線を向けていたアレス達であったが、一通りロビーと酒場の中を見回したソイツが真っ直ぐに自分達の方へと向かって来た為に、僅かながらに意外の念を抱いてしまう。
最初から『追放者達』が俺達の事だと知っていた?
いや、流石にそれならば、入り口で叫ぶ様な事はしないだろう。
なら、装備等を見て俺達が目当ての冒険者だと判断した?
しかし、彼らの装備は素人目に見てそこまで派手な装飾を施されたモノでは無く、どちらかと言えば寧ろ地味な方だろう。そんな、優れた本質を見抜く事が出来る様な審美眼が在る様にはとてもでは無いが見えないし、そんなモノが在るのならばやはりあの様な行動には出ないだろう。
なら、一体何が……?と訝しんでいると、件のソイツは既に彼らが座っているテーブルの近くまで来ており、特に断りを入れる様な事もせず無遠慮かつ乱暴にテーブルへと手を突くと、視線をセレンやタチアナ、ナタリアと言った女性陣へと固定しながら唐突に口を開く。
「おい!さっきから呼んでるんだから、さっさと返事をしろよ!!
お前ら冒険者にとって、最高の名誉で常に求めてるって話の、勇者の仲間、って称号をくれてやるって言ってるんだぞ!?ありがたく思えよ!!
……まぁ、とは言っても、今一役に立たなさそうな男は要らないや。この先に邪魔になるだけだろうし、俺様の活躍を見て俺様に惚れる予定の女共に横恋慕されてもウザいからな。
と言う訳だから、取り敢えずこの爆乳を堪能させて貰おう「……おい、クソガキ。今すぐ、その汚ならしい手を俺の女から引っ込めろ。でないと、腕処か首を失くす事になるぞ?」…………ひっ!?」
感性を疑う数々の言葉の羅列に続き、あまつさえアレス達の存在を否定しながら女性陣へと手を出そうとする目の前のソイツに対して堪忍袋の緒が切れたアレスは、不躾にセレンへと伸ばされようとしていたソイツの腕を遮る形で得物を差し込み、絶対零度の声色と殺気を貫かんばかりの勢いで投射して、無理矢理にその下劣な口を閉じさせてしまう。
ソイツにして見れば、自身が主張して然るべき事を口にしていただけなのにも関わらず、突然殺気と共に凶器を突き付けられてしまった為か、その顔には直前までの意味不明なまでの自信は消失し、ただただ目の前に突き付けられた自らの死への予感と恐怖に震えて腰を抜かすのみであった。
それでも、ソイツにも何かしらの矜持が在ったのか、それとも周囲から向けられている嘲笑と見下している視線が我慢出来なかったのかは不明だが、床へとへたり込んだ状態にて、得物をしまって恋人たるセレンの肩を抱き寄せているアレスの事を指差しながら、まるで聞き分けの無い子供が挙げる様な喚き声を周囲へと撒き散らして行く。
「…………お、お前!?ふざけるなよ!?
お前、今何をしたのか分かってるのか!?この世界を救う為に、わざわざこの国が行った『異世界からの召喚』に応じてやった『勇者』たる俺様、但馬 鹿之助様だぞ!?
つまり、今ここに居やがるお前らなんかよりも余程存在としての格が違う、重要度が違う存在なんだよ!?
それが分かったんなら、今すぐ床に手を突いて土下座して、俺様の靴を舐めながら命乞いして、その後にその女共差し出してから『仲間にしてください』と泣きながら懇願しやがれ!!
そうしたら、命だけは助けてやるよ!!」
「…………え?嫌だけど?」
「………………はぁっ!?」
延々と自らについての情報を口にしてくれていた自称『勇者』のタジマは、目の前のアレス達が慌てて土下座する姿を予想していたのだろうが、ソレをアッサリとアレスが蹴って見せた事によって逆に驚愕の声を挙げる事となってしまう。
「……何を意外そうにしてやがる?
そもそも、その『勇者』云々については元々俺達に来ていた話だ。当然蹴ったがね。
なら、お前の言う処の『存在の格』とやらは少なくとも同等か、もしくはソレに近しいモノになってるんじゃないのか?」
「………………な、ななななっ……!?」
「それと、さっきから仲間に『してやる』だとか上から目線で喚いてくれちゃってるけど、そもそもなんで俺達がお前程度を仲間にしてやらなくちゃならない訳だ?実力も、観察眼も、頭も足りない様な、お前みたいな役立たずを?冗談だろう?」
「役立たず……っ!?」
「ソレ以外にどう表現しろと?
さっき言ってた事が本当だったとするのなら、確かに稀人として何かしら突出した能力を持っているんだろうけど、そうだったとしても持ってるだけじゃ何の役にも立ちはしないんだぞ?
使用する為の訓練やら、実際に使ってみてのアレコレやらが必要になるし、必然的に慣らして使い物にするのにも莫大な時間が掛かる事になる。
……さて、それらを踏まえた上で聞こうか。今現在、何の力も無い癖に、それでいて気位だけは一丁前で人の女に無遠慮に手を出そうとしてくれてたクソガキを、わざわざ仲間にしてやる必然性って存在するか?ん?」
「……………………え?は?ウソ、だろう……?
ここ、ゲームや小説の中か何かじゃ、無いの……?」
「……その『げーむ』とやらが何か知らんが、取り敢えずここは現実だぞ?
どうせ、俺達を仲間に~とか言うのも、誰かに吹き込まれた結果だろうからな。ぶっちゃけ俺達にはお前の面倒を見なくちゃならない理由も義理も無いから、お前が生きようが死のうが関係無いし興味も無いんだわ。
お分かりかな?」
「………………そん、な……じゃ、じゃあ……俺様は、一体誰を頼りにすれば……!?」
「それこそ知らんし関係無いね。
何せ俺らは『追放者達』。不要だと断じられて捨てられた者の集まりだ。
英雄だ勇者だとか言う事に興味は無いし、なりたいとも思わない。
……もし、そう言う誘い文句で釣りたいんなら、俺達を不要だと断じて追放してくれた連中の方に話を持って行く事だな。
もっとも、半数は既に壊滅して監獄送りにされてるし、一組は国外、一組は離れた場所で活動してるし、残りの一組は首輪嵌められて最前線で贖罪の真っ最中だ。スカウトしに行くつもりなら、精々頑張る事だな」
そう、一方的に言い切ったアレスの瞳は温度を失って冷めきっており、タジマに向ける視線は凡そ同じ人間に向ける様なモノとは思えないモノとなっていた。
そして、アレスの仲間達も、彼と同じ様に、温度を感じる事が出来ない視線をタジマへと向けていた。
その事実に、思わず情けない悲鳴を挙げて後退るタジマの姿を目の当たりにしながらアレスは、誰に向けるでも無くポツリと呟きを溢す……。
「……不要だと切り捨て、その癖して後で『やっぱり必要だった』からと取り戻そうとするなんて、そんな都合の良い事がそうそう罷り通るハズが無いだろうに。バカらしい……」
それに呼応する形で、偶然にもメンバー全員が同時にジョッキやグラスに残された酒を煽って空け、勘定をテーブルの上に置くと、未だに床へとへたり込んだまま彼らを見上げるタジマを置き去りにして、ギルドを後にするのであった……。
……はい、という訳で本編はここまでとなっております
何だか中途半端に思える方も多いかと思いますが、実は連載当初からこの形で終わらせる予定では在ったので別段エタりそうだから無理矢理終わらせた、とか言う事ではないので悪しからずm(_ _)m
一応、この後のこの世界のアレコレだとか、魔王やら主人公やらの行く末等も考えては在るのですが、このまま続けちゃうとタイトルや粗筋の趣旨と異なってくると思うので、続けるとしたら多分別作品として上げる事になるかと思います
最後になりますが、こんな面白いんだかそうでないんだか良く分からない作品に最後まで付き合って下さった読者の皆様に感謝ですm(_ _)m
……誰か、誰か半年以上に渡って最後まで毎日投稿続けて来た事を誉めてくれぃ……(ヽ´ω`)
あ、あと、今回で本編は終了しますが、以前読者リクエストとして書いた『愚か者達の末路』の『連理の翼』『引き裂く鋭呀』『栄光の頂き』バージョンを投稿する予定なので取り敢えずは連載中にしたままにしておきます
なので、ブックマーク等はそのままにしておいて頂けるとありがたいですm(_ _)m
以上、作者でした(^^)




