『追放者達』、『高み』へと至る
カンタレラ王国の王都アルカンターラが襲撃を受けると言う事件が発生してから、約二月程が経過した頃。
アルカンターラに在る冒険者ギルド本部のロビーに併設された、毎度お馴染みの酒場のとあるテーブルに、五つの影が座っていた。
それぞれ、重武装でフルフェイス型の獣人族、神官服を纏った豊満で美人な森人族、勝ち気な顔をした軽装備な魔人族、槍を抱えた草臥れた中年の外見をした龍人族、小柄で何処か落ち着く雰囲気を持った小人族と言った、欠片も統一感の無い面々であったが、不思議と調和が取れた集団である様な印象を周囲へと与えていた。
そんな五人の座るテーブルへと、近付いて行く影が一つ。
周囲に座る者達からは、またか、と言った類いの呆れの強く滲んだ視線が向けられていた。
何せ、ソコに座るのは皆揃って強者の雰囲気を漂わせつつ、見目も整っている者ばかり。
故に、未だに日が高く登っているとは言え、居る場所が場所であるだけに、頻繁に『一緒に呑めよ』『こっちに来ない?』等の声が掛けられていた。
先の襲撃を発端として、地方から多数の冒険者が稼ぎ時だ、と判断して流入してきた関係上、彼らの事を知らない者や、知っていてもその実力を疑う様な者も多かった、と言う事と、偶々この日は馴染みの冒険者達が出払っていた為に、そんな事になっていた、と言う訳なのだ。
そんな関係上頻繁に声を掛けられ、その上でそれら全てをバッサリと断って来たそのテーブルの集団に、ただの地味な見た目をした人族程度が声を掛けて成功するハズが無い、自分達みたいにバッサリと断られてしまえ!と言ったモノが多く集中していたのだ。
…………しかし、その大多数の予想を裏切る形で、物事は進んでしまう。
そう、まるで予め示し合わせていたかの様な自然さで、その地味な人族がテーブルに着き、尚且つ自分達とは異なる温かく柔らかな口調で迎え入れられ、あまつさえ最も注目を集めていた森人族に手を引かれて席に着いた事によって、周囲は暫しざわめきと怨嗟の呻きとに支配される事となるのであった……。
******
「…………なぁ、何だか今日の酒場騒がしく無いか?
何かしらの催し物でもやってるのか?」
そんな言葉を同じテーブルを囲む他の面々へと漏らすのは、言わずと知れた冒険者パーティー『追放者達』のリーダーであるアレス。
一人受付に行って用事を済ませて来ていた彼は、つい先程まで他のメンバー達が受けていた扱いを知らなかった為に、そんな見当違いな言葉が出て来たのだろう、と判断したメンバー達は、手振りで何も無い、何も無かった、と彼へと告げる。
その事に、訝しむ様な視線を返すアレスであったが、隣に座るセレンも柔らかな微笑みを浮かべたままでいる以上、やはり何事も無かったのだろう、と判断してソレ以上の追及は一先ず止めにして、今回こうしてギルドに呼び出された理由の説明を開始した。
「取り敢えず、前提として聞いて欲しい。
例の魔王軍、その活動が激化し始めた事と、各地で確認された幹部クラスの連中の動向から、ギルドと国は正式に『魔王』の復活、または出現を正式に認めたんだそうだ」
「へぇ?まぁ、ソレが妥当だろうねぇ~」
「うむ、確かにその通りであるな」
「アタシ的にも、最近魔物が強くなって来てる様に感じてたから、やっぱり?ってとは思うんだけどねぇ。
でも、わざわざその程度でアタシ達呼び出す程の事なの?」
「……確かに、そうですね。
一般の方々に混乱を招かない様に、と言う配慮なのかも知れませんが、だからと言って私達を呼び出されても困ると言いますか……」
「なのです!
ここ最近、ギルドから投げられる討伐依頼が多過ぎて、ボクらも結構ヘトヘトなのですよ?
これじゃあ、幾ら『Sランク』に昇格していたとしても、あんまり嬉しく無いのです!」
「あぁ、その件なんだが、結論から言えば取り敢えず俺達『追放者達』は正式に『Sランク』への昇格が認定されたよ。
それと合わせて、出現した魔王に対抗する為の旗頭として『英雄』認定をする、って話も出ていたな。
まぁ、当然蹴ったけど」
「でしょうね」「であろうな」「まぁ、そうよね」「だろうねぇ~」「なのです!」
聞く人が聞けば衝撃のあまり気絶する事間違い無いであろうアレスの発言を、当然の事としてスルーして行くメンバー達。
とは言え、それも当然と言えば当然の話。
何せ、そもそもの話として、このパーティーを結成した際に彼らで立てた二つの目標。
その内の一つは、今回果たされた『Sランク』への昇格と言うモノであったが、もう一つは『決して『英雄』にはならない』と言うモノだったのだ。
かつて、利用されるだけ利用され、その果てに『もう不要だ』と言われて追放された過去を持つ彼ら。
そんな彼らが、今更になって『必要になったから』『お前しか出来ないのだから』と言われたとしても、そうして担ぎ上げられる事を良しとするハズも無い。
例え、他の冒険者が目指して止まないソレを与えよう、と言われたとしても、強制だから、決定事項だから、とゴリ押しを仕掛けられたとしても、ならばギルドを抜ける、そもそもこの国から出て行く、と言う選択肢を逆に彼から提示されてしまい、どの様な報酬を示しても決して頷こうとしない彼の姿勢に国からの使者も根負けしてしまい、結局認定の話は流れる事となった、と言う訳だ。
……もっとも、その話自体は既に少し前からアレスの処に打診が来ており、その際にバッサリと断りを入れていて、今回呼び出された際には心変わりを期待して、と言った感じで再度提示された形となっていたが、そちらもものの見事に蹴り返された形にて終わってしまっているのだが、それはわざわざ説明する程のモノでも無いし、一部のメンバー(ヒギンズは確定。ガリアンは恐らく)は気付いているらしいので、アレスも口にしたりはしないのだけれども。
「まぁ、例の『英雄』に祭り上げられるのを蹴ったせいで、これまで以上に面倒事を押し付けられる可能性は在るし、会った感じまだ諦めて無さそうな雰囲気だったけど、心配はしなくても大丈夫じゃないの?
ヒギンズにとっては微妙かも知れないけど、俺達が断る事で増える負担は、セレンが蘇生させて余罪が発覚した事で最前線送りになってる『栄光の頂き』の連中に降り掛かるだろうから、俺達は心配はしなくても大丈夫だろうし、ね。
色々と心配事が多いのは分かってるけど、でも今は、取り敢えずは目標を達成出来た事を祝うとしようか!」
「うむ?良いのであるか?
未だに、外は明るいままであるのだが?」
「ガリアン様、そう言いながらジョッキを手になさるのは、些か行動が矛盾しておられると思われますが……?」
「…………そう言いながら、アンタはアンタでバカ度数の酒、瓶で注文してんじゃないのよ……」
「なははははっ!まぁ、そう目くじらを立てなくても良いんじゃないのかなぁ?
今日は、パーティーで決めていた目標を達成出来たお目出度い日なんだから、たまにはこう言うのも良いとオジサン思うんだよねぇ」
「なのです!
良い日には良い仲間と良い酒を、と小人族の諺にも在るのですから、今日位は硬いこと言わずにパーっと呑んじゃうのですよ!」
「よし!じゃあ、行くぞ!
最底辺のどん底から這い上がり、頂きに至ったこの日を祝って!乾杯!!」
「「「「「乾杯!!(なのです!!)」」」」」
ガチャン!!!
アレスの音頭に従って手にしたグラスやジョッキを掲げ、ぶつけ合う『追放者達』のメンバー達。
その表情は一様に笑顔であり、かつ直近にかつての仲間との過去を清算していたヒギンズは、その中でも一際晴々とした笑みを浮かべていた。
そして、六人全員が手にしたグラスやジョッキをその場で煽り、彼らにしては珍しく、日が高い内から開かれた酒宴を楽しんで行くのであった。
バンッッッッッッッッッ!!!
「………………おい!!『追放者達』って連中は何処のどいつだ!
『異世界』から、この世界を救う為に召喚されてやった、俺様の仲間にしてやるって言ってるんだ!ありがたく思って早く出てこいよ!!」
…………その空気の読めない乱入者が現れる、その時までは……。
新キャラ登場……?
次回、最終回
面白い、かも?と思って頂けたのでしたら、ブックマークや評価等にて応援して頂けると励みになりますのでよろしくお願い致しますm(_ _)m




