六魔将、会合にて現状を把握する
カンタレラ王国の首都であるアルカンターラが、魔族を名乗る存在に襲撃された、と言う報が各国を駆け巡り、それぞれの国が独自にそれらが本当の事なのかを探り始めたのと同じ頃。
人里から遠く離れ、人智を超越した魔物が跋扈する『未開領域』と呼ばれる地の更に奥に存在する城に、六つの影が再び集まっていた。
「…………さて、では、皆集まった事ですし、今回の報告をお願い出来ますか?スルトさん、ゴライアスさん」
「………………了承、した……」
「……うむ、良かろう」
その内、かつての会合にてアルカルダと呼ばれていた、顔色の悪い青年の外見をした者が、同じ円卓に着く無機質な人型と巨大な影へとそう声を掛ける。
言わずもがなかも知れないが、各国が血眼になって存在証明をしようとしている、アルカンターラを襲撃した魔族当人達だ。
彼らが『観察対象』として指定していたアレス達と交戦し、両者共に軽くはない痛手を負ってこうして撤退してきた訳だが、片やゴライアスは脇腹の部分のパーツが不自然に欠けている様に見えるがソレ以外は至って普通な様子である。
恐らくは、既に破損したパーツを交換したのか、もしくは取り外して修理している最中、と言った処なのだろう。
もう片方のスルトに至っては、ヒギンズ達との交戦によって欠損していたハズの片目や、破壊されていたハズの腕も既に完全に回復しているらしく、決着が付けられなかった事を不満そうにしながらも何処か愉しそうにしている様子が印象的であった。
そんな二人は、この会合に於いて議長の様なポジションに収まっているアルカルダの言葉に異を唱える様な事はせず、今回の襲撃によって得られた情報を口にして行く。
「………………では、まず当機から「の前に、ちょっと良いよな?」……」
……が、求めに応じて口を開こうとしていたゴライアスの言葉に、横合いから乱暴な口調で『待った』が掛けられる。
それにより、ゴライアスとスルトがそちらへと視線を向けると、ソコには据えられた椅子に足を組ながら座り、膝に肘を立てて不機嫌そうな表情と動作を隠そうともしていない、人型の獅子が二体の事を睨み付けていた。
「…………なぁ、アルカルダ。俺の思い違いか?
確かこいつら、他の連中には『掟を守れ』って散々腹しつこく言い募ってくれてたよな?
なのに、なんでまだこいつら生きてる訳だ?『敵前逃亡は自害』じゃなかったんですかねぇ~!?」
「………………それは、了承して、いる。しかし、此度は、情報共有こそが、最重要と判断、した。
故に、当機の自害は、この後に決行する。
また、此度の撤退、提案したのは当機。
よって、共に撤退せざるを得なくなった、僚機スルトに罪は無い。
引き続き、六魔将として活動、する事を推奨する……」
「……あ゛ぁ゛ん!?テメェ、自分の時だけ調子良いこと言ってくれんじゃねぇかよ、おぉん!?
『掟は絶対。須く順守せよ』じゃなかったのかよあ゛ぁ゛!?
おまけに、任せられてた任務はものの見事に失敗してくれてんだから、オルクん時みてぇに情け掛ける必要はねぇよなぁ!?」
「…………随分と吠えるな?レオルクスよ。
実際に戦った訳でもない貴様が、知った様な口を聞かない方が良いぞ……?」
「…………へぇ?聞いたら、何だって言うつもりだ?あ?
唯一の利点と長所を生かす事すら碌に出来ねぇ木偶の坊が、デカい口叩かねぇでくんねぇかなぁ?無駄にムカつくからさぁ……!」
「………………貴様、そんなに潰されたいか……!?」
煽る様にしてゴライアスとスルトの二体に対して食って掛かるレオルクスと、そんなレオルクスに対して殺意すら覗かせて見せるゴライアスとスルト。
他に円卓に着いているモノを見やってみれば、オルクは静観を決め込み、テンツィアは面白そうにニヤニヤとした笑みを口許に浮かべるのみで仲裁しようとする素振りすらも見せようとしていない。
そんな三体によって醸し出されている一触即発の空気中、ただ一人だけソレをどうにか出来てしまうだけの実力を持った存在が、まるで爆発でも起きたかの様な大音量にて手を叩いて場の空気を一変させる。
「……はい、そこまで!
レオルクスさん?彼らは、自分達が生き恥を晒してでも、彼ら『観察対象』についての情報を持ち帰ろうとしてくれていたんですよ?
その重要さが理解出来ない貴方では無いですよねぇ?
それに、今彼らが討ち取られる事になっていれば、その身体を使って作られた強力な装備が人間達の間に流通する事になります。そうなれば、今後にどれだけの影響が出るのかも、貴方なら理解出来ますよねぇ?」
「…………そりゃあ、そうだけどよ……」
「それに、スルトさん、ゴライアスさんも、もう少し控えて下さいね?
貴方達は規律を重んじるのは良いですが、だからと言ってソレを他の存在に押し付け過ぎるから、今みたいな事になるのですよ?
貴方達は、もう少し仲間に対して寛容さを見せるべきだと僕は思うんですけどねぇ」
「………………」
「………………しかし、我にも言い分と言うモノが……!」
「…………でしたら、実際に殺し合いでもしますか?
その場合、当然僕も参戦させて頂きますよ?何せ、暫定的に、とは言えこの会合の議長を任されているのですから。
別に良いですよね?陛下が封印された状態で全力が出せないとは言え、それでも貴方達三体程度なら纏めて叩き潰す事くらいはまだ出来ますよ?
寧ろ、やって差し上げましょうか?かつて、貴方達をこの『六魔将』の地位に招いた時と同じ様に、ねぇ?」
「「「………………っ!!!」」」
チロリ、と僅かにアルカルダが覗かせた怒気と殺気に、直前までいきり立っていた三体が強制的に沈黙させられる。
かつて彼らがそれぞれで好き勝手に行動していた時に、スカウトと称して叩きのめされた記憶が甦り、勝手に身体に震えが走り始めて行く。
そんな三体の様子を目の当たりにして満足したのか、覗かせていた諸々を引っ込めて普段通りの微笑みを浮かべると、今度は柔らかく手を叩いて再度注目を集めてから口を開く。
「…………さて、何時までも後ろ向きな事を言っていても始まりません。取り敢えず、建設的な事を話しましょう。
現状、僕達の存在が本格的に人間側にバレてしまっているのは、ほぼ確定事項です。まぁ、そうなる様にお二方を投入したのは僕なので、その辺は別に良いでしょう。
ですが、連中の捜査力では、流石にここを突き止めるまでにはかなりの時間が掛かるハズです。
ですので、ソレまでの間に各自が保持している軍勢を解放し、各国に対して攻撃を開始する予定です。ここまでは良いですか?」
無言で首肯する他五体。
「では、次ですが、彼ら、いや『彼』は『特異点』たる存在でしたか?」
「………………当機が、実際に戦った所感としては、十二分に、その条件を、満たしていたと、思われる。
当機の精査装置にて、スキャンした結果、特に適性の高い職では、無いと出ていたが、そうであるにも関わらず、高いレベルで剣術と魔法、相反する要素を持つ、両スキルを両立させていた事から、恐らくは間違い無い。
それに、あの周辺に、当機らが、危険だと判断、して監視していたモノが、あそこまで集結するのは、偶然とは、言えないだろう。
………………当機らが呼称する『特異点』、かつて人間側が、『勇者』と呼称していた、決戦兵器は、ほぼヤツで間違い無いと思われる……」
「…………あぁ、やっぱりそうでしたか……。
……剣魔両方を高いレベルで使いこなし、かつ重要な人材が自然と集まって行く縁を持ち合わせ、かつ仲間となった者とは硬い絆で結ばれて苦楽を共にする、なんて当時は謳われていましたよねぇ……。
そう言えば、彼からの僕らへの感触ってどんな感じでしたか?」
「………………そう、問われると、応え難いが……当時の様に、絶対に当機らを滅ぼす、と言う使命は、持ち合わせていない、様にも見えはした、な……」
「我の所感としても、同じ様なモノと言えるな。
まぁ、あやつらとの再戦は譲れぬ故に、そこから考えが変わる可能性も否定出来ぬがね」
「…………統括する僕の立場としては、そう言う危険性が高まるのは止めて欲しいんですけどねぇ……」
先程とは打って変わって、スルトの言葉とソレに無言のままで賛同して見せるゴライアスの様子に、円卓へと萎れて見せるアルカルダ。
しかし、何時までもそうはしていられない、と判断してか、倒していた上体を上げ、彼らにとっては珠玉の報せを、人間にとっては最悪に近い情報を口にするのであった……。
「…………まぁ、研究を任せていたオルクさんからは、陛下の復活の目処は既に立っている、と言う報告を受けています。
ならば、次に彼らと当たる時には既に、スルトさんはかつての『焔の巨人』としての姿と力を取り戻しているでしょうし、ゴライアスさんも指揮限界数の解放並びに、かつて幾つもの国を平らげた強大な騎士団を使える様になりますから、そこまで問題にはならないでしょうから、良しとしておくとしますかねぇ。
じゃあ、取り敢えず今日はここまで。次は、陛下が復活されてから、と言う事で」
………………斯くして、人類側の誰一人として気付く事なく、彼らの滅亡までの時計は、また一つ針を進める事となっていたのであった……。
次回、取り敢えず主人公視点に戻って、その次で本編終了の予定です
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