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『追放者達』、魔王軍幹部と激突する・終

 



「………………頃合い、か……」




 そう、他の誰にも聞こえていなかったであろう声量にて呟きを溢したゴライアスは、少し前までの無機質ながらも滑らかな動作とは異なり、何かを堪えながらどうにか動いている、と言った風な挙動にて立ち上がる。



 ソレを目の当たりにしたアレスも、呼応する形で得物を構え直し、牽制や撹乱の為の魔法や投擲用の短剣等を用意し、油断無く身構える。


 多少ポジションが変わりつつも、アレスを確実に援護しつつ、ゴライアスに対して十字砲火を浴びせる事も可能な位置に在るタチアナとナタリアの二人も、寄ってくる『機巧騎士団(マキアリッター)』の対処を従魔達と共に行いながら、彼と共に行動を起こすべくそちらの動向を注視して行く。



 そして、寸前まで身体から勢い良く吹き出していた霧の一切の噴出を止めてしまうと、アレス達から視線を逸らさずにその場から大きく飛び退いて濃霧の中へと紛れてしまう。




「「「………………はぁ……!?」」」




 唐突過ぎるその行動に、思わず一瞬だけとは言え思考に空白を発生させられてしまうアレス達。



 ソレにより、数拍だけとは言え行動を起こすのが遅れてしまい、ゴライアスが帯同せずに捨て駒とする事にしたらしい『機巧騎士団(マキアリッター)』が、彼らへと目掛けて得物を突き立てんとしながら殺到して来た。



 慌ててそれらの対処に移るアレス達であったが、殺到してくる『機巧騎士団(マキアリッター)』と刃を交えた瞬間に、その目的すらも見誤っていたのだと言う事に気が付く。




「不味い!?こいつら、別段俺達の事を道連れに!とか言うつもりでけしかけられている訳じゃないぞ!?

 こいつらの目的は、俺達の足留めだ!

 ……不味い、不味いぞ!ヒギンズ達が危ない!?」



「ちょっ!?マジで!?

 急がないとヤバいじゃないの!」



「でも、このお人形さん達、ボク達の動きを邪魔する方向に全力を傾けてくれているみたいなので、兎に角時間が掛かるのです!

 しかも、無視して進もうとすると、問答無用で殺しに来るので厄介に過ぎるのですよ!?」



「兎に角急いで処理するぞ!

 幸い、ヤツが霧の発生を止めてるせいか、濃度自体は下がってきてる!晴れるのも時間の問題だ!

 そうすれば、直ぐにでも合流できる!

 だから、一刻も早くこいつらを片付けるんだ!」



「「了解(なのです)!」」







 ******






 襲い掛かって来た『機巧騎士団(マキアリッター)』を処理する事に成功したアレス達は、薄れつつ在った霧の中を急いで移動していた。


 幸いな事に、ゴライアスが適宜動きを修正して戦わせていなかった為か、そこまで手こずる様な事にはならず、その上で誰一人として欠ける事なく切り抜ける事に成功していたのだが、それでもやはり少なくない時間を無駄に取られてしまっている現状、彼らの内心では焦燥感が渦巻いていた。



 少なくとも、戦闘音の類いは未だに聞こえて来ていたので、恐らくはまだ誰かしらは無事でいるハズなのだが、ソレであってもそれぞれのパートナーが向こう側には居る為に、アレス達三人の胸中には無事でいてくれ、と言う願いと、もしかしたら……と言う万が一の事態に対する不安とが横たわっており、ソレが焦りを加速させている様にも見てとれる。



 とは言え、元よりそこまで離れた場所にて戦闘していた訳でも無ければ、彼らが出撃したアルカンターラからもそこまで離れた場所で戦闘を開始した訳でもなかった為に、そうこうしている内に霧の向こう側に巨大な影が透けて見え始める。




「あそこだ!急げ!!」



「言われるまでも無いのです!!」




 勢い良くそう返事を返したナタリアは、額から滴る汗を拭う事もせずにアレスが指差した方向を見据えて手綱を振るい、更に橇を加速させて行く。



 そして、巨大な影の元へと彼らがたどり着いた時には既に、殆んど霧は晴れて来ており、彼らの頭上に聳える血塗れの巨体やその肩に乗る人型だけでなく、巨体から少し離れた場所にて荒い息を立てながら膝を突く仲間達の姿すらも顕なモノとしていた。




「セレン!?ガリアン!?ヒギンズ!?

 お前ら、無事か!?まだ生きてるか!?」



「…………あ、あたたたたっ……大丈夫……じゃないけれど、取り敢えずは無事だよぉ。

 まったく、只でさえオジサン達、単体で強い相手と戦っていたんだから、こっちに増援回させないでよねぇ……」



「それに関しちゃ正直済まんかったが、コレでもこっちはこっちで数で押し潰す、みたいなことされた上に、残りの兵力全投入で足留めされてたんだから仕方無いだろうがよ!?

 …………でも、皆無事で良かったよ。オッサン、セレンの事、守ってくれてたんだろう?」



「……なははははっ、まぁ、バレちゃうよねぇ?

 でも、セレンちゃんみたいに、彼氏持ちの可愛い女の子が傷付くよりも、オジサンみたいなのが傷だらけになる方が、余程マシってモノでしょう?」



「…………いや、ヒギンズ殿、ヒギンズ殿?

 何一人で守りきった、みたいな事言ってくれてるのであるか?

 今回のセレン嬢護衛に関しては、当方かなり頑張っていたと思うのであるが?ソレって当方の気のせいなのであるかな?んん?」



「なっはっはっはっ!何の事かなぁ?」



「…………申し訳ありません。

 私が、自衛の手段に乏しいばかりに……」



「こらっ!アンタ達!怪我人同士なんだから、あんまり騒がない!それに、まだ敵の目の前なんだからあんまりふざけてじゃれ合わない!!」



「なのです!それに、セレンさんが済まなさそうにしているのですから、いい加減止めるのです!

 言われて悔しいのでしたから、後でボクが慰めて上げるのですから、今は我慢するのです!男の子なのでしょう!?」




 そんな、殺し合いの最中には似つかわしく無い会話を繰り返して行く『追放者達(アウトレイジ)』のメンバー達であったが、その表情や瞳の光には既に焦りの色や『どうにもならない』と言った絶望感は浮かんでおらず、どちらかと言うと安堵感と言ったモノや、『コレでどうにかなるだろう』『どうにでも出来るハズだ』と言う楽観視にも似た感慨が沸いて来ており、枯渇しかけていた気力が奮い立たされて行くのが感じ取れていた。



 それに対し、そんな彼らの様子を見詰めるゴライアスとスルトの二体。


 片や自らの指揮する『機巧騎士団(マキアリッター)』の殆んどを失った上に、周囲の目を欺く為に必要な機能をほぼ失いつつ在るゴライアスと、片やジャイアント種特有の驚異的な再生能力によって回復しつつ在りながらも、それでも現状周囲を赤く染める程の出血量並びにヒギンズの手による片目の欠損、ガリアンにカウンターを合わせられた事による右腕の粉砕骨折等の重傷となっているスルト。



 未だ本人の戦闘能力は衰えてはいないゴライアスに、負傷も回復しつつあるスルト。


 今ならば疲弊しているアレス達も、容易く捻り潰せる、と言う観念から追撃する為に足を振り上げる。



 …………が、ソレを本人は予想だにしていなかった方向からの待ったが掛かる事となる。




「………………僚機スルト。ここまでだ。当機は撤退を要請したい……」



「…………なんだと?ここで、か?

 勝利は、既に目に見えている状態に在ると言うのに、ソレを擲って逃げ出せ、と?」



「…………肯定。確かに、このまま続ければ、『観察対象』の抹殺は、成し得るだろう。だが、ソレだけだ。

 その後に、当機らは続ける事は、出来ないだろう。アレを見ろ……」



「…………むっ!?

 ……参ったな。流石に、目隠しが無くなれば、アレだけ騒いでおれば、反応もされると言う訳、か……。

 まったく、有象無象共が、鬱陶しい!!」




 ゴライアスに促されて向けた視線の先には、アルカンターラの城門を開いて出撃し始めた騎士団の姿。


 流石に、目隠しとしての役割も果たしていた霧が晴れ、彼らの姿が衆目の元に晒される事になれば国の防衛機能の働き始める事となるのは明確な事実であると言えるだろう。



 ……もっとも、高々六人一パーティーの冒険者であそこまで押せる相手であるのならば、騎士団(自分達)であれば容易く討伐する事が出来る、と言う功名争いによる出撃である事も否定はしきれないのだろうが。




「………………基本的に、万が一は無いだろうが、それでも可能性は、否定出来ない程度には、常につきまとう。

 この状態、当機らが、何の情報も持ち帰らず、ここで討ち取られるのが、最悪の状況だ、と言えると思考する。

 幸い、今ならばまだ、霧による迷彩機能は、完全に故障してはいない。撤退する事くらいならば、まだ可能だ。

 故に、聞きたい。如何する……?」




 そう言われたスルトは、少しの間目をつぶって何やら考え込んでいる様子であったが、どうやら答えは出たらしく、苦い表情を浮かべながら組んでいた腕を解いて行く。




「…………仕方在るまい。ここで特異点に倒されるのならばまだしも、闘争の何たるかを欠片も理解しようとせぬ有象無象共に討たれるのならば、まだ粛清の憂き目に逢う方がマシ、と言うモノか!

 では、去らばだ特異点!次に合い見える際には、貴様と存分に闘争を楽しめる事を願っているぞ!!」



「………………次は、必ず討ち果たす。ヤツの仇は、当機の手で果たす。これは、絶対だ……!」




 バシュッ………………!!!




 そう言い残すと、身体から濃霧を発生させて周囲へと広げて行くゴライアス。



 先のソレと遜色無い程に濃いその霧に、手柄を挙げる事しか考えていなかった騎士団は突入する事を躊躇って外苑で止まってしまい、内部にいたアレス達もソレまでの戦闘による負傷や疲労によって追撃を仕掛ける事が出来ず、ただただ見送る事しか出来ずにいた。



 そして、ゴライアスが置き土産としてばら蒔いて行った霧が晴れたその後には、ソコにいたハズの二体の影は最早無く、周辺に広がる幾つものクレーター染みた大穴と、無数に転がるスクラップと化した『傀儡(ゴーレム)』の残骸のみが残されていたのであった……。




少々スッキリしないかも知れませんが、コレで対魔王軍幹部との戦闘は終了です


次回、魔王軍サイドの話を入れ、その次かもしくは更にその次位で本編は終了となる予定です


最後までお付き合い頂ければ幸いですm(_ _)m



面白い、かも?と思って頂けたのでしたら、ブックマークや評価等にて応援して頂けると励みになりますのでよろしくお願い致しますm(_ _)m

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