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『追放者達』、魔王軍幹部と激突する・5

 



「…………えぇ、マジかよそれ……!?」




 敵と対峙したままの状態で、さも『勘弁して欲しい』と言わんばかりの様子にて呟きを溢すアレス。



 その視線は目の前にて得物として振るってくる腕を構えて自らもアレスと斬り結びつつ、もう片方の腕で周囲に展開させている御自慢の『機巧騎士団(マキアリッター)』を操作して絶えずアレスへと殺到させて行くゴライアスへと固定されており、端から見れば彼は目も向けずに襲い来る騎士団を斬り伏せている様に写っており、事情を知る者からすればさぞ爽快感を得る様な場面になっている事だろう。



 ……しかし、そんな光景を作り出している当の本人の表情にはその『爽快感』は浮かんでおらず、在るのはただただ何かを憂慮する色のみであり、僅かながらに陰鬱なモノも混ぜられている様に見て取れた。




「………………しっ、しししっ……余程、先程の僚機スルトの発言が、気になっていると見えるな。そんなに、来るハズであった、援軍が待ち遠しかった、か……?」



「……そりゃあ、当然ってモンだろうがよ……!

 最初っから、俺達だけで相手をする必要は無い、って言われて来てたんだから、当てにもしたくなるってモンだろうが!?」




 まるで、金属が擦り合わされた様な声色にて、笑い声と思われる音を発しながら先程こちらにも響いて来て聞こえていた、ヒギンズ達が担当している方からもたらされた情報を受け取った彼へと、嫌味をたっぷりと聞かせて問い掛けて来たゴライアスに対し、アレスはアレスで普段よりもやや乱雑な口調で吐き捨てる様に返して行く。



 雰囲気や表情から、彼の内心で抱いた苛立ちや焦燥感等が感じられる様ではあったが、それでも彼の動作には特に支障は無いらしく、それまでと変わらぬ様子でゴライアスが振るう、ブゥン、と虫の羽音の様な不気味な音を立てている腕と斬り結んで互いに一撃入れたり入れられたりしつつ、絶えず押し寄せる『機巧騎士団(マキアリッター)』を時に斬り飛ばし、時に蹴り飛ばし、時に魔法にて纏めて吹き飛ばしながら戦闘を続けて行く。



 時折、彼目掛けて投擲されるポーションの類いや、彼を取り囲む『機巧騎士団(マキアリッター)』へと目掛けてナタリアの手によって放たれる光の矢、自らも得物を振るって襲い掛かりつつ妨害術をバラ撒くタチアナの存在と、少数ずつながらも確実に数を削りに行っている従魔達の存在に、最初は余裕すら滲ませていたハズのゴライアスは、あまりに『思うように事が進まない現状』に対し、その目も口も無いのっぺらぼうでツルリとした陶器の様にも見える顔に苛立ちを滲ませつつ在った。



 その為か、無機質なパーツによって構成されている身体の各所から、濃霧の中でもある程度分かる程には濃い煙の様なモノを、何時しか周囲へと漏れ出させていた。




「…………あぁ、成る程。

 この霧、お前が発生させてたのか」



「…………何を、今更。どうせ、大方の見当は、着けていた、のだろう……?」



「まぁ、否定はせんよ。

 最初から、妙に魔法の発動に抵抗感みたいなモノが感じられていたし、それに……」




 そこまで言葉を続けたアレスは、とある一点から比較的濃い霧が発生している事に着眼すると、会話の途中で在るにも関わらずに、自然な動作にて腰に装着していたベルトから短剣を一本抜き出し、特にそちらへと意識を傾ける様な素振りも見せずにノーモーションでゴライアスへと投擲して見せる。



 特に『短剣術』や『投擲』と言ったスキルを所持していなくとも、使われている素材が素材である(ドヴェルグに装備の製作を依頼した際に出た端材で出来ている)為に驚異と判断されたのか、それともこの拮抗した状況では些細な損傷も避けるべき、と判断したのかは定かではないが、ソレを回避した事によって一瞬だけとは言えゴライアスの意識がアレスから逸らされる事となった。



 その瞬間、アレスは姿を隠す『ハインド』や気配を悟られない様に隠す『気配遮断』等の、彼にとってはお決まりとなっている幾つかのスキルを同時発動させてその姿を眩まし、足音を隠す『忍び足』や移動速度を上昇させる『瞬歩』等によって音もなく素早く移動してゴライアスの背後へと回ると、恐らくは『傀儡(ゴーレム)』にとっての急所であるコアが在ると思われる胸部に対して、背中から手にした得物の切っ先にて貫かんと突き出して行く!




 ………………が…………





 ……ガキィィィィィィィィイイイインッ!!!!





 ……だが、意識も注意も外したハズの必殺のタイミングによる、確殺の一撃であったにも関わらず、その切っ先はゴライアスのコアを貫く事は叶わず、超反応を見せた当人の腕によってギリギリ防がれてしまう。




「…………嘘でしょ……?アレって、防げる様なモノだったっけ……!?」



「そんな!?リーダーのアレが防がれるなんて、本当に打つ手が無くなって来たのです!?」




 これまでアレスが背後に庇う形で立ち回っていて、今はゴライアスを挟んで正面に見る形となっているタチアナとナタリアの二人が、これまで寸前で回避された事は在っても、反応されて防御され、攻撃自体が失敗した事が無かったハズのアレスの暗殺術が防がれてしまった事に、少なくない絶望感が混ぜられた驚愕の声を挙げて行く。


 しかし、当のアレス本人はそれらの声に反応する事は無く、自らの必殺の一撃であったハズの攻撃を防御して見せたゴライアスの反応を、より深く正確に観察していた。



 既に斬り結んだ状態から跳ね退けられて後退しているアレスだが、彼の観察眼は先の一撃の際に、ゴライアスの反応が主に『慌てている』様子ではあったが、『驚いている』感じでも『焦っている』様子でも無かった事に着眼し、やはり自らの予測は正しかったのだろう、と一つの確信を得るに至り、再度彼我の距離を詰めて斬り結び、鍔競り合いの状態へと持ち込みながら口を開く。




「…………やっぱり、そうだ。

 お前、この霧を発生させている理由って、ここまで辿り着くのに派手に目立ちたく無かったから、って言うのもそうなんだろうけど、()()()()()()()()()()()?」



「………………何を、言いたい……?」



「いや、なに。

 どうせお前、この霧発生させてるのがお前なら、この霧が触れているモノか、もしくは一定範囲内のモノならばその動向を把握出来たりだとか、存在その物を感知出来たりするんだろう?

 そうでもないと、さっきの反応が説明出来ないからな!」



「……………………」



「……おっ?図星か?

 こう言う場合、沈黙は肯定と取られるぞ?

 ……そんで、そうやって油断してるから、こう言う事になるんだよ!!」




 ザクッ……!!グリッ!!…………ブツッ!!




「………………がっ!?ば、馬鹿な!?な、何故、そこを……!?」



「そんなモノ、そこに在るだろうと思ってたからに決まってるだろうがよ!!」




 鍔競り合いの状態のままで言葉を交わしていたアレスは、気付かれない様に得物から片手を離すと、腰のベルトに差していた、先の投擲に使ったのとは別の短剣を引き抜くと、自らの身体を使って死角を作り、ゴライアスの脇腹に相当する箇所のパーツの隙間へと切っ先を突き立てると、内部にて刃を捻ってお目当ての部分に損傷を与える事に成功する。



 片や、ソレをやられたゴライアスは、まさか『ソレ』の存在がバレていても、何処に在るのか、はバレていないと思っていたらしく、今回で初めて動揺と苦痛の呻き声を上げる。



 そして、その場で身体をよじってどうにか脇腹の短剣を引き抜き、その勢いに任せてアレスとの鍔競り合いを跳ね退けると、自らのその場から大きく飛び退いて、アレスとも他のメンバーとも等しく距離を取ってから地面へと膝を突く。



 これまでの、幾ら『機巧騎士団(マキアリッター)』を倒されても余裕を感じられる佇まいを崩す事が無かったゴライアスだが、先程の一撃で容易くその余裕は崩されて苦鳴を溢しているだけでなく、その身体から漏れ出て来ていた霧の量があからさまに多く、それこそ()()()()()()()()様になっている風にも見て取れた。




「………………何故、ここに、コレが、霧を発生させる、機能を持ったパーツが在ると、分かった……!?」



「まぁ、何となく?

 さっき霧出してた時に、脇腹周辺が一番濃く発生させてたみたいだったから、何か在るんじゃないのか?と思って鑑定系のスキルで見てみた、ってだけさ。

 実際、何か在る、ってのは分かってたけど、まさか一発でドンピシャだとは思って無かったがね」



「………………くっ、不覚を取った、か……!」



「……さて、お前さん、見たところどうやら俺がソレ壊したせいで霧の制御出来て無い上に、魔力なのかそれともソレ以外の何かを消費して発生させてるみたいだな?大分苦しそうだぞ?

 大分御自慢の『機巧騎士団(マキアリッター)』の数も減って来ている訳だし、そろそろケリを着ける頃合いだとは思わないか?」




 未だに膝を突いて苦鳴を溢すゴライアスに対し、そう言い放つアレス。



 事実として、周囲に展開していた『機巧騎士団(マキアリッター)』も、その半数近くがアレスやタチアナとナタリア及びに従魔達の活躍にて既にスクラップと化しており、自身も機能の一つを潰された上に半ば暴走状態で無理矢理体力を削られている状況に在るにも関わらず、未だに全員が健在である(様に見える)アレス達と比べると、一方的に戦力を半減させられてしまっている様にも見て取れた。



 …………それ故か、もしくは『別の目的』が在ってソレを既に達成していたからかは不明だが、それまで踞っていたゴライアスがスルリと立ち上がると、比較的近くにいたアレスにすら漸く聞こえる程度、と言った声量にて呟きを溢すのであった……。





「………………頃合い、か……」





些か急では在りますが、後数話程度で完結の予定です


最後までお付き合い頂ければ幸いですm(_ _)m



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