『追放者達』、魔王軍幹部と激突する・3
アレスとゴライアスが再び斬り結び、彼目掛けて集中的に攻撃を仕掛けようと殺到するゴライアス操る『機巧騎士団』をタチアナとナタリアが連携して足止めし、ナタリアの従魔達が奮戦する事によって僅かずつながらも数を減らして行くのと同じ頃。
アレスとゴライアスによる『仲間との連携』と『圧倒的な数』とのせめぎ合いが行われている隣の戦場では、こちらは『超人的な連携』と『究極の個』とのせめぎ合いが発生していた。
「…………くくくっ、がはははははっ!
良い、善いぞ!只の小兵、只の羽虫かと思っていたら、思わぬ強者が居たモノだ!
『観察対象』たる『特異点』がゴライアスの方へと行ってしまった以上、先の有象無象の様に欠片も楽しむ事は出来はすまい、と思っていたが、これはとんだ予想外と言うモノよ!
そうれ、次行くぞ!!」
ゴパッ………………ドンッッッッッッッッッッ!!!
まるで神鳴りの如く腹の底に響いて来る様な重低音にて大哄笑し、今正に敵対しているハズの彼らを褒め称えたばかりのその口で、いきなり攻撃を放って行くスルト=ムスペルヘイム。
それまで何度も放たれたその一撃は、言ってしまえば只の『右ストレート』だ。
……しかし、その身長十メルトの異常なまでの巨体であるにも関わらず、普通であれば極度にゆったりもっさりとした動きに見えるハズのその動作を、通常サイズの人間のソレと変わらぬ速度に見える程の高速で行う為に、持ち前の超質量と相まって、只のストレートがさながら彗星か隕石の類いなのかと錯覚する程の破壊力を持ってしまっているのだ。
しかも、その一撃が放たれる予備動作の時点で既に速度は半端無い域にまで到達しているらしく、拳が放たれた直後の時点で既に空気の壁を突き破る際に発生する爆音と共に、周囲へと衝撃波がバラ撒かれているのが見て取れた。
そんな、最早天災にも等しく、文字通り身体の一部にでも掠めただけで、たったソレだけで粉微塵となる程の威力が込められた、文字通りの『必殺』の一撃を、着弾が予測される地点から一歩も動かずに見据える影が一つ。
人間として大柄であり、かつその身体がすっぽりと覆える程の大きさを持つ盾を掲げていはするものの、そもそもスルトと比べてしまえば子供以下、いや…………そもそもの話として、同じ生物としてのステージに立ててはいないだろう程のサイズでしかない様にも見てとれる。
しかし、その人影は、真っ正面からその一撃を受け止めるつもりであるらしく、その場から逃れる事をしようとはせず、両足を地面へと打ち下ろしてからまるで根を生やしたかの様に力強く踏ん張ると、全身の力を込めて手にした盾を掲げ、自らの持つスキルを幾重にも発動させて行く。
そうしている内に、自然と空気との摩擦によって焔を纏う形となったスルトの拳が、盾を掲げる人影の頭上に掛かって影を落とした次の瞬間にはソコへと到達していた。
――――――ッ…………!!!!!
超質量を持った物体が、異常なまでの速度にて高硬度を誇る物体へと衝突した事により、最早可聴域を通りこした爆音は衝撃波へとその姿を変貌させて周囲の濃霧を切り裂きながら広がって行き、周囲には何かが鳴り響いているにも関わらず何も聞こえない、と言う奇妙な状態が発生する。
当然、そんな攻撃が降り注いだ地点が平常のままで居られるハズが無く、まるで宙から大型の隕石が飛来したかの様に地面は抉れ、周囲へと土砂が飛び散ってもうもうと土煙を巻き起こし、衝撃波にて濃霧が吹き飛ばされているにも関わらず、人影の在った中心点を覆い隠してしまっていた。
……普通に考えれば、そんな被害が出ている様な場所に立っていた人影が、無事で居られるハズが無い。
良くて四肢欠損か、もしくは悪い意味で打ち所が良くて即死している、と言うのが大方の見識となる事は、まず間違いが無いだろう。
…………だが、その大方の予想に反する形で、その人影は立ち込めていた土煙の向こう側から、五体満足の状態にて姿を顕にする。
確かに、その人影は重傷を負っている。
人としての形を残している以上、手にしていた盾で防御する事に成功したのだろうが、それでも全身を覆っていた鎧の隙間の各所からは噴水の如く血が吹き出しているし、良く見てみれば膝や肘と言った関節部分の形状がおかしくなっているのが見てとれるだろう。
受けた衝撃が大き過ぎて、鎧や装備は耐えられても、その中身の肉体までは耐えられなかった、と言う事だ。
……しかし、そんな状態に在ったとしても、その人影は、『追放者達』の盾役をその身で預かるガリアンは、その両の足で地面に立ち、その両の腕で盾を掲げた状態でスルトの拳を確かに受け止めていた。
その瞳は肉体が訴える苦痛や危険信号によって歪められ、それらをまだ受けなくてはならない、と言う事に恐怖心すら抱いている様子では在ったが、未だにその漢の心は揺らいでおらず、仲間を庇い、守り、守護する為の盾としての役割を放棄しようとはしていなかった。
そんな彼の様子に、嬉しそうな様子で破顔して見せるスルトへと、その足元からまた別の影が飛び掛かって行く。
その影は、スルトの大木の様な足をほぼ垂直に駆け登り、あっと言う間に膝、腿、下腹部と登り詰めて行く。
当然、スルトの方もソレには気付いているらしく、ガリアンへと突き出していた右拳を引き戻し、まるで蚊でも叩くかの様な動作にて自らの身体に掌を振り下ろして行く。
一発一発が広範囲に渡るだけでなく、振り下ろされた際に発生する衝撃波と振動によって簡単に振り落とされてしまいそうなモノではあったのだが、どうにか回避に回避を重ねた上で驚異的なバランス感覚と手足のしがみつきによって、一度たりとも止まる事なく腹部、胸部と登って行く。
そして、幾度と無く繰り返される叩き落としの悉くを回避して見せたその影は、目的地であった首もとへと到着するや否や、それまで振るう事をして来なかった得物を抜き放ち、縦横無尽に近くに在るモノ全てに対して攻撃を仕掛けて行く。
流石に、自らの肩に自らの頭と同じ様なサイズの存在が乗り掛かってきて暴れられてしまうと、スルトにとっても無視できる様な状況では無くなるらしく、それまでよりも叩き落としてやる!と言う意思が動作に強く感じられる様になる。
そして、その人影、もとい槍を縦横無尽に振り回していたヒギンズが、とうとう急所の一つである首もとの動脈へと槍の穂先を突き入れるのと同時に、とうとうスルトの手によって捉えられてしまう事となる。
流れる様に肩から外され、そのまま握り潰さんとする勢いにて握り締められてから地面へと目掛けて投げ捨てられるヒギンズ。
流石の彼とは言えども、超筋力による圧搾と地面への高速での激突と言う二種類の大ダメージを食らってしまっては一溜まりも無く、文字通りの『重傷』で『虫の息』の状態へと叩き落とされてしまう。
……しかし、そこまでされていてもなお、その瞳からは闘志の焔が消え去る事は無く、口許には戦闘の愉悦によって刻まれた笑みが浮かんでおり、砕かれて明後日の方向を向いてしまっている手足のままで立ち上がり、戦闘を続けようともがいて見せていた。
そんな二人の様子に、浮かべていた笑みを更に深めて行くスルト。
先の『栄光の頂き』や、その前の諸々の様に、威勢の良い事を口にしていながらも、その実一撃下しただけで粉砕されてしまう様な弱卒では無く、自らの意思で立ち続け、戦い続けようとする彼らの存在は、正しくスルトにとっての福音として感じられる程のモノであったのだから。
そんな彼らへと、更に後方から回復魔法が降り注ぎ、何かの奇術でも見せられているかの様に、二人の負傷が時を巻き戻している様にみるみる間に治療されて行く。
治療が開始されてからほんの数秒程度で全快となった二人は、自らが埋まり掛けていたクレーターから飛び出ると、周囲に無数に空いている同じ様なクレーターに足を取られない様にしながら、更に笑みを深めて拳を固めるスルトに向かって進んで行くのであった……。
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