『追放者達』、魔王軍幹部と激突する・2
「取り敢えず、タチアナは妨害術よろしく!
主に防御力低下系で!」
「はいはい、了解。
『頑強低下』『五重』『全体波及』!
これで良いわよね?流石に、この数だと魔力切れちゃったから、追加はまた後になるけど別に構わないでしょう?」
「上出来だ!
んじゃ、行ってくるから援護よろしく!」
「はいなのです!精一杯頑張るのです!
君達も、リーダーと一緒に行って頑張ってくるのです!」
「「「「「「「「グルルルルルルルルルッ!!!」」」」」」」」「ヴガァァァァァァァアアアアッ!!!」
初手でタチアナによる防御力低下の妨害術を発動させたアレスが、ナタリアの援護射撃を背にしながら彼女の従魔と共に駆けて行く。
その行き先には、当然の様に霧の奥からその姿を顕にした、ゴライアス率いる騎士の群れ。
どうやら、ある程度は霧の中でもアレス達の同行を把握出来ていたらしく、飛び込んで来た彼らの動きに合わせて慌てる事なく揃った動きにて腰の長剣を抜刀し、盾も合わせて構えて彼らの事を待ち受ける。
…………しかし……
「………………む?これは、どう言う、事だ……?
何やら、感覚がおかしい……?…………まさか……!?」
「そのまさかだよ!取り敢えず、一体!!」
…………ザンッ…………!!
……しかし、気合いと共に放ったアレスの攻撃により、サイモンでは倒しきる事が出来なかった騎士を、未だに一体だけとは言え切り捨てられて行く。
ソレを行ったアレスの得物に一点の曇りも無く、歪みも刃零れも見られる事は無く、例え同じ事を後百回繰り返したとしても、同じ様に凄まじい切れ味を示して見せるであろう事が窺えた。
先のサイモンには成し得なかった事を成し遂げて見せたアレスに対し、忌々しそうでありながら、殺意や怒りと言った様々な感情が織り混ぜられているのであろう視線を、口も眼球すらも無いにも関わらずアレスへと注いで行くゴライアス。
「………………この感覚、さては、妨害術を使ったな?しかも、我が配下たる『機巧騎士団』全てに、ここまで重大な効果を及ぼすとは、余程その支援術師は、腕が良いらしいな……!実に、忌々しい……!」
「……だとさ!良かったな!正当な評価ってヤツを受けられて!」
「だとしても!今この状況では受けたくなかったんだけど!?」
実に忌々しそうな声色にてそう吐き捨てるゴライアスの言葉を、まるで右から来たモノをそのまま左に流して行くかの様に、自然な流れにて当の支援術師であるタチアナへと話題を投げ飛ばすアレスと、そうして唐突に投げ渡されてガチで叫び返すタチアナ。
そんな、取り様によってはコミカルにも見えるやり取りの間にも、アレス達の命を奪わんとして得物を手にした『機巧騎士団』が彼らへと目掛けて殺到して行き、ソレを流れる様な動作にてアレスが捌いて斬り倒す。
そして、彼が次々と騎士達を撃破して行く隙間を縫う様にして、後衛から光の矢が次々に飛来して行き、アレスの隙を突こうとしていた騎士の個体を狙撃して足止めし、そうやって足が止まった個体を時に数体掛かりで従魔達が襲い掛かってその爪や牙にて引き裂いて行動不能へと追い込んで行く。
ゴライアスが目の敵にしているアレスは当然として、彼の周囲をチョロチョロと動き回っている従魔達にすら碌に攻撃を当てる事が出来ず、一方的に撃破された個体を増やして行く事になってしまい、表情も無く声色も無機質であるにも関わらず苛立ちを募らせているのが濃霧を間に挟んでいても、気配や雰囲気と言ったモノからアレス達へと伝わって行く。
その理由の見えない激情に疑問を抱いたアレスは、思わず周囲を攻撃する手を止め、一旦後退してからゴライアスへと問い掛ける言葉を投げる。
「…………処で、なんでまたそんなに俺に対して執着してくれてるんだ?
特に直接の因縁が在った訳じゃないハズだし、特に何もした覚えは無い。何よりこうして直接顔を合わせるのは初めてのハズだし、そこまで恨まれる覚えは無いんだが?」
「………………貴様、本当に、そう思ってそんな事を、口にしてくれている、のか……?
ヤツの、我が配下の血肉を、自らの装備として身に纏い、当機に向かって振るって見せながら、なお『知らぬ』と、そう言うつもりか……!」
「…………あん?配下の血肉を装備として、って…………あ?もしかして、アレか……?」
「………………漸く、漸く思い出したか!
貴様の纏う、その鎧!その刃!全て我が配下の、血肉によって造られしモノだろう!?なれば、なればこそ、決して当機は貴様を許しはしない!
例え、陛下に止められたとしても、最早当機に止まるつもりは、欠片も無い!!
貴様だけは、確実に、当機のこの手で惨殺すると、そう決めている……!!!」
激発した様子にてゴライアスがそう応えると、アレスは漸く思い当たる節が在った、と言わんばかり納得した様子にてゴライアスへと言葉を返す。
……と言うよりも、彼らの『装備に』と言うのであれば、彼らには心当たりは一つしか存在していなかった。
そう、それは、以前依頼を受けて魔物として討伐しに行く事になった『神鉄鋼傀儡』の事だ。
予め聞いていた依頼内容とは異なる相手に苦戦を強いられる羽目になったが、それでも無事に撃破する事に成功したアレス達『追放者達』の装備を強化する事となっていた。
…………彼らの目の前にて激発するゴライアスの種族である『傀儡』と、彼らの装備の素材となっている、と言う点から鑑みるに、恐らくは間違いない事だろう。
先程の口調から察するに、恐らくはそれなりに関係性の深い相手であったのだろう。
あの時戦っていた『神鉄鋼傀儡』は言葉を発していた為に、もしかすると魔族の一体であった可能性もある。
なら、何かしらの友宜を結んでいた可能性も、やつらにその概念が存在するのかは定かでは無いにしても『夫婦』や『恋人』、『友人』と言ったモノに近しい関係性であった可能性も否定しきれはしないかも知れない。
……が、あくまでもソレはソレ、である。
確かに、アレス達が今回ゴライアスが激発している原因を作った事は、間違いないのだろう。それは、動かざる事実だ。
しかし、そもそもの話として、例の『騙して悪いが』の依頼を仕込んだのはゴライアス達魔王軍側であるし、何より現地に『神鉄鋼傀儡』を配置する様に決めたのもゴライアス本人だ。
ソレを、ゴライアス側からすれば『まぐれ』で倒してしまったり、倒した後の残骸を装備の素材として利用する等の行為は、アレス達冒険者にとっては当たり前の権利であり、自らが掛けた命に対する報酬金でも在る為に、彼らからしてみれば責められなければならない様な事はしていない、と言えるだろう。
そんな考えが彼の表情に浮かんでいて、ソレを濃霧越しに察知したからか、更に怒気や殺気と言った諸々の感情を強めて行くゴライアス。
そして、またしても自らの腕を武器としてアレス目掛けて飛び掛かって来ると同時に、周囲に展開させていた『機巧騎士団』を操作して四方八方から取り囲む形で同時に斬りかからせて行く。
ソレを目の当たりにしたアレスは、如何にも『理不尽だ!?』と言いたげな態度と視線を投げ掛けつつ、溜め息を吐きながら得物を構え直して複数の魔法陣を展開させ、自らに迫る驚異を振り払う為に前へと踏み出して行くのであった……。
次回、ヒギンズ達別動隊視点の予定です
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