『追放者達』、魔王軍幹部と激突する・1
得物を手にして距離を詰めて行くアレス達『追放者達』一行。
周囲を濃霧に閉ざされた環境に於いて、中途半端に距離を取る事も仲間と離れる事も愚策に過ぎる為に、前衛後衛関係無く、ナタリアの従魔達すらも等しく一塊になって進んで行く。
「……それで、どうするのだ、リーダー?
流石に、あれらをまとめて相手にするのは、当方らでも一苦労では済まぬと思うのであるが?」
「そうそう。それに、あの子達が殺られたって事は、やっぱりあいつら結構ってレベルじゃないくらい強いハズだよぉ?
何せ、アレでも平均的なSランクじゃ相手にはならない程度には、昔オジサンが鍛えておいたんだから、確実にかなり強いハズさぁ。こうして突っ込んでいるって事はちゃんと交戦するつもりなんだろうけど、どうするつもりなんだい?」
「……まぁ、こっちも戦力を分けるしか無いわな。
パッと見た限りだと、あいつらそこまで仲悪い様には見えなかったから、多分連携してくれやがるだろうからな。やっぱり同時に相手にするしか無いだろうよ」
「……ですが、そうするのでしたら、どの様に分けるのでしょうか?」
「そうそう!あんまり偏らせるのも良くないんじゃない?
片方を速攻で落として、って手も使えなくは無いだろうけど、ソレを許してくれる程温い相手じゃ無さそうだけど?」
「なのです!ある程度バランスを取りながらも、それでも両方とも相手を打倒しうる様に分けるのは、かなり難しいと思うのですよ?」
「なに、何も考えが無かったら、そもそもこんな事言い出したりしやしないさ」
そこで一旦言葉を切ったアレスは、霧に包まれて視界が悪い中でも、未だにそれなりに距離が在る事をスキルを駆使して確認してから再度口を開く。
「……取り敢えず、ガリアンとヒギンズの二人は、向こうのデカブツ相手に回ってくれ」
「……うむ。良かろう。
アレからの攻撃に対する、盾としての参加であるな?」
「となると、オジサンは矛役かい?
まぁ、あっちの矢鱈と一杯いる連中を相手にするよりも、ああ言う類いのデカブツ相手にする方が得意なのは本当だからねぇ」
「そう言う事。
ついでに、セレンもそっちで頼む。やっぱり、即死級のダメージを食らう可能性が高いのは、そっちの方だと思うから」
「……了解致しました。
では、残りのタチアナ様とナタリア様とで、あのゴライアスと名乗った『傀儡』の方を担当する、と言う事でよろしいのでしょうか?」
「まぁ、どっちかって言うと、タチアナはそっちに回してやりたい処だったんだけど、やっぱりこっちは数相手にしないとならないからな。援護の手は確保しておきたいんだよ」
「……まぁ、確かにアタシも全体波及出来る様になってるから、こう言う盤面だとそっちの方が有効かしらね」
「ついでに言えば、数の不利はナタリアの弓を使って手数を補えるし、従魔達もいるからどうにかなる……ハズだ。多分な」
「…………いや、そこそんなにアバウトで大丈夫なのです?
まぁ、ボクも言われてみればそんな気もして来たのですし、良く良く考えてみれば、今まで蓄えてきたポーションの類いを投入すれば回復役の真似事も出来なくは無いのですから、言うほどバランスが悪い訳でもないのです?」
「…………ふむ?言われてみれば、確かにその通りな様であるな?
して、リーダー。ぶっちゃけた話、勝ち目はどの程度在ると見ているのであるか?」
「俺達の勝利条件を忘れたか?
俺達は、別段あれらを討伐しなくちゃならない訳じゃないんだ。俺達は、追加の戦力が投入されるまで粘ればそれで良い。
だから、俺達は殺られなければそれで良い。
まぁ、倒せそうなら、倒しきってしまっても構わないだろうけどね?」
そう言いきって肩を竦めるアレスの何処かおどけた様な様子に、思わず呆れの表情を浮かべたり、軽く吹き出して笑いを堪えたりする『追放者達』のメンバー達。
しかし、そのお陰で無意識の内に抱いていた『勝てるのだろうか?』と言った畏れや、強大な存在を前にして覚えていた緊張と言ったモノが解れて行き、結果的に普段と同じだけのパフォーマンスを発揮できるコンディションへと整っていた。
ソレを待っていたのか、はたまた只の偶然かは定かでは無いが、そのやり取りを契機としたかの様に霧の向こう側にて無機的な連携を可能とした軍団と、本人の超越的な能力で戦局を左右する個人と言った両極端な二つの敵戦力が動きを早めた為に、その時点でアレスによって割り振られた通りのパーティーメンバーにて別れて向かって行く。
「…………それで?アンタがこうやって組分けして、わざわざこっちに混ざって来た理由ってなんなのよ?
さっさと吐いちゃいなさい」
「………………あれ?気付かれてた?」
「当然でしょ?アンタと組んで、どれだけ過ぎたと思ってるのよ?」
二手に別れる直前に、別行動となるヒギンズ達へと支援術を限界まで重ね掛けして能力を強化していたタチアナが、彼らが完全に別れて巨大な気配の方へと近付いて行くのを確認してからアレスの方へと向き直ってそう問い質す。
ソレに対してアレスも、まさか気付かれていたとは思っていなかった、と言わんばかりの態度にて目を丸くしながら返答しつつ、牽制として幾つかの魔法を眼前に迫りつつあった軍団の中腹辺へと、凡その目測並びに大雑把な勘によって叩き込んで行く。
「…………確かに、そうやって指摘されれば、こう言った対多数の戦場にとっての最適解として、リーダーよりもヒギンズさんの方が適している様に思えるのです。
どっちかって言うと、本来ならああ言う『超強い個人』なんてリーダーが一番やり易い相手になるんじゃないのです?」
「そうそう。
いつもみたいに、他のメンバーの派手な行動を目眩ましにしてアッサリと暗殺決めるのかと思っていたら、何かと理屈つけてこっちに来てたからね。
普段からして、不合理的な事は決してしようとしないアンタが、わざわざ不得手なハズのこっちを選んで、だよ?
なら、何かしらの事情か理由が在るからだ、と思うのは当然じゃない?」
「…………まぁ、確かに理由が在ったと言えば在ったけど、別段そんなに大した事じゃ無いぞ?
……ただ単に、こっちの敵さんが俺の事をご指名らしかったから、向こうに行こうとすると多分形振り構わず合流されて、その後でえらい目に合わされそうな予感がしてたから、って感じかね?」
「………………ご指名、なのです……?」
「あぁ、そう。
例の名乗りの時から感じてたんだけど、ソレ以降ずーっとへばり付く様な粘着質な視線を送ってくれていたんでね。流石に、無視しきれ無かった、って訳だよ。
視線の種類的に考えると、冗談抜きにさっき言ったみたいな事もされそうだったし、現に今も似たような事してくれてるから、ね!」
ガキィィィィィイイイイン!!!
言い終えると同時に、手にしていた抜き身の得物を振るうアレス。
その先には、指揮官であるハズにも関わらず、自らの指揮する軍団その物を背後へと置き去りにしながら単機で駆けて来たゴライアスが、その無機質な指先まで揃えて刃の様に整えた腕をアレスへと目掛けて振り抜こうとしていた。
空中にてぶつかり合い、周囲へと派手に金属音を響かせる両者。
追撃として、空いていた左手を大きく広げ、その指先から僅かに光を反射する極細の糸の様なモノを射出し始めるゴライアスに対し、アレスはアレスで複数の魔法陣を展開して周囲へと牽制の意味合いも込めて魔法を発動させながら、ゴライアスの左手から糸が放たれるよりも先にその胴体を蹴り飛ばし、半ば無理矢理かつ運良く、その糸が縦横無尽に走って霧を切り裂いて行く範疇から仲間達と共に脱出する事に成功する。
ソレに対し、冷や汗を拭う仕草を見せながらもその口許には余裕が滲んでいる笑みを浮かべて口笛を吹くアレスと、そんな彼を眼球が在るのかすらも怪しい処だが文字の通りに『穴が開く』程に強く視線を集中させて行くゴライアス。
両者は暫しの間、特に問答を繰り広げる様な事はせずに対峙したまま動かずにいたのだが、ゴライアスの背後から無数の足音が迫りつつあった為に一度大きく飛び退いて集団の中へと紛れ込むと、『栄光の頂き』のメンバー達を痛め付けた時と同じ様に燐光を宿した指先を掲げながら、複雑に空中にて動かし始めて見せるのであった。
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