『栄光の頂き』の崩壊~破~
「……行くぞ!散々嘗め腐った事を抜かしてくれたこのゴミ共に、俺達の力を思い知らせてやれ!
グラニアは援護しろ!モルガナ、行くぞ!!」
「……えぇ、そうね。
流石に、さっきの物言いは、私にも我慢できる類いのモノじゃなかったみたいだから、もう正体を探ったりする為に手加減してあげられないけど、ソレはしょうがないわよね?」
「そうそう!それに、目の前のウチらじゃなくて、他の何処の馬の骨とも取れない様な奴らの事を見ているだなんで、許せる訳が無いしね!
と言う訳で、先行するよ!あの木偶の坊の足、刈り取ってやる!!」
三人で纏まって飛び出しながらも、その中で一人突出するモルガナ。
元より、斥候職である事から秀でた素早さを持ち合わせているモルガナは、こう言う大型の相手と戦う時には目の前で動き回って注意を引き、その上で頑丈な鋼鉄製のワイヤー等を駆使して相手の足元を引っ掛けたり、足その物を破壊したりする役割を担っていた。
それ故に、目の前に聳える規格外も良い処な存在の足元へと何時もの様に飛び込んで行き、巨体に付き物の『足元の確認のし辛さ』を逆手に取って自分達を虚仮にした事を後悔させてやろう、とほくそ笑んでいた。
……そう、その足元には、目の前の巨体が会話を繰り広げていた相手が存在し、かつその他にも無数の足音が響いて来ていたにも関わらず、それらを丸ごと綺麗に忘れ去って、だ。
であるにも関わらず、謎の『自分が死ぬハズが無い』と言う自信を胸に抱きながら再び周囲を覆い初めていた霧の中へと飛び込んで行き、一路ソレの足元へと駆けて行くモルガナ。
先に位置は確認してあったし、その上であの巨体が動けば直ぐにそうと分かるハズなので、先手は楽々取れるハズの見通しであった。
…………だが……
「…………え?ちょっと、何こいつら……!?」
……ガシャッ!……ガシャッ!……ガシャッ!……ガシャッ!
……だが、そうして霧に飛び込んで行ったその先に待ち構えていたのは、こちらへと向かって進んで来る無数の人影であった。
「……おい!どうした!?一体何が……って、なんだこいつら!?」
「……ちょっと、私達以外には、まだ到着してもいないハズなのに、なんでこんなに人数が……!?
しかも、これ、私達の方を狙っているみたいに見えるんだけど……!?」
モルガナの声に追随する形で霧の中へと足を踏み入れたサイモンとグラニアも、彼女が戸惑いの声を挙げた光景を目の当たりにして同じ様に声を挙げる。
霧で大幅に制限されていはするものの、その視界を埋め尽くす程数の人影が、揃いの鎧を纏って長剣と盾とを手にした姿を目の当たりにすれば当然の反応かも知れないが、彼らの視界を埋め尽くすそれらには幾つか不自然な点も見受けられた。
…………そう、その動きは何処かぎこちなく、まるで人形か何かが空から垂らされた糸にて操られて歩いている様な、そんな不自然なぎこちなさが感じられる動作であったのだ。
「………………僚機、スルトにのみ注目、されては些か困る。それでは、当機が連れてきた『機巧騎士団』の、出番が少なくなってしまう。それでは、些か当機が詰まらぬからな……」
なんて言葉を投げ掛けながら、不自然な歩みのままに進んで来る無数の人影の群れの中心にて姿を現したのは、無機質なパーツをより集めて人型に仕上げた、正しく典型的な『傀儡』その物と言った姿をした存在であった。
人と同じく二足二腕一頭の直立した姿勢にて立っており、顔こそはツルリとした白い陶器の様なモノで目も耳も確認出来はしていないが、それでも彼ら『栄光の頂き』にはソレから視線が向けられているのを嫌と言う程にハッキリと感じ取る事が出来ていた。
冷徹な研究者、と言った風に、まるで彼らの事を丸裸にして全ての秘密を赤裸々に暴き尽くしてしまおう、としているかの様にも見える様子にて、正しく彼らを『観察』しているのであった。
そんなソレから向けられる視線に、思わず身震いする三人であったが、ソレの放った言葉が正しければ、周囲に展開されている不気味な騎士団の指揮を取っているのはソレであるらしい。
ならば、わざわざ指揮官が姿を見せてくれたのだから、ソレを狙ってはならないと言う道理は無い!と言わんばかりに、それまで感じていた未知の存在に対する警戒感や威圧感と言った、身体が発してくれていた危険信号を丸ごと無視し、下がるモルガナと入れ替わる形でサイモンが得物を手に飛び出して行き、グラニアがその後ろで魔法を展開して行く。
「…………はっ!残念だったな!俺達の力を見たかったから出てきたんだろうが、指揮官が前線に出てくるんじゃねぇよ!
死ねや!『飛刃斬・極』!!」
「せめて後方に隠れていれば違ったかも知れないのに、むざむざ出て来たからこうなるのよ!残念だったわね!
『雷光よ!全てを打ち砕く、天からの鉄槌よ!我が呼び声に応えてその力を振るい、我が眼前の敵を粉砕せよ!『降り注ぐ天雷』』!!」
…………ザッ、ザザザザザザンッ!ピカッ!ドガッシャーーーーーーーンッ!!!
前へと飛び出したサイモンが、自身が所持しているスキルの中でも特に強力であり、アレスから獲物を横取りする時にも使っていた、自身の攻撃を文字通り『飛ばす』事が出来る様になる『飛刃斬』を昇格させた事により、一度の攻撃にて複数の斬撃を飛ばせる様になっているスキル(技名は自身で考えて使っている。別に叫ぶ必要は欠片もない)にて、未だに彼らへと向けて無機質な視線を向けてくるソレへと向かって無数の斬撃を展開して行く。
更に、ソレに追随する形にて、魔力の消耗は激しいながらもその破壊力と放った際の速度は全属性中随一を誇る雷属性の魔法の内、上空に発生させた雷雲から無数の稲妻を降り注がせる『降り注ぐ天雷』を展開し発動させるグラニア。
近接と見せ掛けての遠距離からの全方位攻撃に、それを防げたとしても破壊力抜群かつ防御不可能な稲妻が頭上から降り注いで来る。
対大型並びに、対強敵としての彼ら『栄光の頂き』に於ける基本戦術にして、絶対の自信を持つ必殺の展開だ。
今まで、準備段階で気付かれて妨害されてしまったり、そもそも斬撃や雷属性に対して耐性が在ったりする相手防がれてしまう、と言う事態を除いて一度発動すれば耐えられたモノは居なかった、正しく『必殺』の連携技だ。
……そう、必殺の連携技『だった』のだ。
「……はっ!どうだこの野郎!俺達の事を見下してくれやがったお礼だ!
ご自慢の騎士団も、全く持って役に立ちやしなかったな!」
「……ふぅ。取り敢えず、これでアレに関してはもう大丈夫ね。
直撃したハズだからもう死んだだろうし、そうでなかったとしても暫くは動けなくなっているハズだから、あっちのデカブツに専念出来る様に「………………ふむ?この程度、かね……?」…………えっ?」
「…………聞こえなかった、のかね?では、当機はもう一度問おう。諸君ら敵機からの攻撃は、この程度なのかね?と……」
…………そう、彼らが放った無数の斬撃を、降り注ぐ雷を防ぐ様子すらも見せず、またその場から動く事もせずに受けきって見せたゴライアスが、まるで何事も無かったかの様な声色にて、彼らへと問い掛けて来る、その時までは。
身体についていた土埃と煤とを手で払っているゴライアスの姿を、呆然と眺める事しか出来ないサイモン達『栄光の頂き』。
自分達の必殺の連携技が、何の労力も無しに防ぎきられてしまった、と言う衝撃が、彼らの心と思考に致命的な空白を作り出してしまっていた。
しかし、彼らの事情なんぞ知った事ではない、と言わんばかりに再び彼らへと視線を向け直したゴライアスが、その両手と思われる部位をおもむろに掲げ、まるで何かを操る様に空中にて複雑に動かして見せる。
「………………さて、追撃が無い、と言う事は、諸君らの攻撃は、先のモノで終了と言う事で、良いと判断させて貰う。では、次は当機の番だ。我が配下たる、『機巧騎士団』の試運転の相手、務めて貰おうか……?」
その言葉を契機に、それまで不自然な動作にて歩いているだけであった騎士鎧を纏った無数の人影は、突然滑らかな動作にて彼らを取り囲む様な陣形を組むと、腰に差していた長剣を揃った動作にて抜き放ち、切っ先を彼らへと向けて一斉に飛び掛かって行くのであった……。
取り敢えず、『栄光の頂き』編は次で終える予定となっております
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