『追放者達』、無茶振りをされる
ギルドへともたらされた突然の状況と、シーラだけではなく受付ブースに居た全ての受付嬢から異口同音にて告げられた内容を理解しきる事が出来ずに沈黙に支配されるギルドの中、真っ先に動き出したのは意外な事にサイモン達『栄光の頂き』であった。
「……何やら緊急事態みたいだな!
だが、安心したまえ。その依頼、この英雄候補筆頭との呼び名高き『栄光の頂き』が見事に解決して見せよう!
……そして、セレンとヒギンズ。俺達の活躍、その目でとくと見ておくが良いよ!これから所属する事になる、パーティーの勇姿をね!!」
そんな事を言い残し、それまで彼の背後に控えていながらも、手振りや目線等でセレンへと牽制していたり(少なくとも本人達はそのつもりだったらしい)、アレスへと誘いを掛けたりしていたグラニアとモルガナの二人を伴ってギルドの建物から飛び出して行くサイモン。
その後ろ姿は、最高峰たるSランクに相応しいだけの雰囲気が在る様にも感じられたが、つい先程までのやり取りや、あからさまなまでにセレンとヒギンズを引き抜こうとしている言動から、周囲から向けられていた視線としては、肯定的なモノはあまり見受けられる事は無かったのだが。
とは言え、事態はまるで解決していない上に、そもそもの原因すら碌に判明していない状況下に変わりはない為に、受付嬢達も気を取り直して自らが担当している冒険者達へと声を掛け、それぞれで最も適性が高いであろう役割と配置を振り分けて行く。
一方、それらを受けたアレスは、まるっきり他人事として『大変な事になったみたいだなあ~でも、『霧』に『巨人』に『複数の影』って、何かここ最近で耳にしたって言うか、見た覚えの在る情報だなぁ~?』なんて思いつつ、取り敢えずこんな状況ならば依頼を受けることも出来はしないだろう、と判断して目の前のブースから離れて酒場で待機しているハズのメンバーの元へと移動しようと足を踏み出したのだが、それと同時にまたしても背後から声が掛けられる事となる。
「お待ち下さい、アレス様。
アレス様と『追放者達』の皆様にも、今回の緊急依頼にて調査並びに討伐の部門にて参加する様に、との要請が出されております。
どうか、ご協力お願い致します」
「………………はい?
要請?俺達に?何で??」
「…………何で、と言われましても……皆様も、今回要請の対象となっている『高位冒険者』に相当しますし……」
「………………あ、そう言えば、基本的に『高位冒険者』って、Aランクからそう呼ばれるんだったっけか……ヤベェ、心底どうでも良かったから、殆んど忘れてた……」
「……………………一応、皆様も所属している組織の会則ですので、覚えていて下さると有難いです。
……それで、その……参加して、頂けますよね?」
「……え?何で?
散々っぱら、迷惑しか掛けられていないギルドから向けられた命令に、被害ばかりもたらされた実績の在る俺達が、何で従わなきゃならないんです?」
「ですよね~……」
半ば何かを悟っていた様な表情を浮かべながら、まぁそうなるよね、と言わんばかりの口調にて投げ遣りに返答するシーラ。
とは言え、ソレも当然の事だろう。
何せ、今の今まで『騙して悪いが』パターンの依頼を散々振られたり、何だかんだと良い様に使い潰してやろう、と言う思惑が透けて見える様な依頼すらも半ば無理矢理こなさせられて来たのだ。
ソレが原因で少し前にはギルドと距離を置き、これ以上無茶振りを受けるつもりは無い、と言う意思表示を既にしており、それは自ら進んで無用な依頼を弾いていたシーラも承知していたし、何よりアレス本人が、既にギルドに対してその手の奉仕をしてやる意義や必要性を見付けられなくなっている。
有り体に言えば、ギルドの言う事を聞く駒である事に意味を見出だせなくなっているのだ。
それ故に、先の『何で俺達が協力しなくちゃならない訳?』と言う意味を込められた『何で?』と言うセリフが飛び出すと同時に、よもや自分達に対してまで要請を出して来るなんてギルドは何を考えているのかね……?と言う呆れを多大に含んだ態度と雰囲気をアレスは放っている、と言う訳だ。
そして、ソレを承知していながらも、ソレをアレスへと向けて伝えたシーラとしても、どうしても彼らを動かさないとならない理由が在るらしく、済まなさそうな雰囲気を纏いつつもアレスへと食らい付いて行く。
「……アレス様は嫌がるだろうとは分かっていますが、しかし今回の事態は不測に過ぎますので、皆様のお力をお借りする必要が……」
「え~?でも、さっき意気揚々と自称『英雄候補筆頭』と名乗っていた人達が出撃して行ったんだから、俺達が出なくても大丈夫なんじゃないの?
何せ、ギルドで正式に認定されている『最高峰冒険者』なんだから、俺達の出る幕何て無いでしょ?」
「……実は、皆様ならばもうお察しだとは思いますが、彼ら『栄光の頂き』には様々な疑惑が囁かれております。
素行は元としましても、その実力も達成できている依頼の傾向から鑑みますと、些か現在のランクに留まらせておくのはどうかと……と言う話も出ていまして。
かつて実績として挙げられていたモノの殆んどは、現在アレス様率いる『追放者達』に所属されているヒギンズ様が活躍なさっていた時のモノが殆んどでありまして、彼らだけでは今回の様に未知の事態に対して万全に対応出来るのか、と言われますと、些か不安が残ると言いますか……」
「…………つまり、変にやる気を出している連中の実力が怪しいから、俺達に出ていって尻拭いして来い、と?
ふざけてるんですかね?ほぼほぼ馬鹿にしているでしょ?
と言うか、ここはアルカンターラですよ?王国の首都にして、ギルドの本部も置かれてる大都市ですよ?
何で俺達に回して来るんです?他に、幾らでも適正者が居るでしょう?それこそ、何でも言うこと聞いてくれる様な、使い勝手の良い駒が」
「…………私としましても、こんな話は断りたかったのですが、タイミングが悪く、最近このアルカンターラで出回っている噂の検証の為に、高位の冒険者達の殆んどが出払っておりまして……」
「じゃあ、国の騎士団やら軍隊やらに話を振って下さいよ。
幾ら他国からの侵略や、貴族同士での領土を巡っての争いを納めるのが主な役割とは言え、普段からして横柄な態度で威張り散らし、魔物が出ても碌に対処すらせずに俺達冒険者に投げてくれるんだから、こう言う時こそ働いてもらうべきじゃないんですか?」
「…………私もそう思うのですが、騎士団の方からは『冒険者に先に対処して貰い、ある程度実態を把握してから戦力を投入する予定である』と言って動こうとはせず、結局ギルドに対して依頼として発注されてしまった様子でして……」
「…………で、結局冒険者が最前線でドンパチして、世間的な功績は騎士団がかっ拐って行く予定になっている、と?
その上で、何が起きても比較的安全かつまともに対処できそうなのが俺達位だから、取り敢えず行ってこい、と?
……随分と、ふざけた事を抜かしてくれるよね」
「…………申し訳ございません。
ですが、流石にこればかりは、状況的にも弾く訳にも行かず、一王都民としましても、皆様に行って頂けるのでしたら非常に安心できるのですが……難しいでしょうか……?」
懇願される様な形にてそう告げられた、告げられてしまったアレスは、腕を組んで天井を仰ぎ、溜め息を溢しつつ頭を掻きながら視線を床へと落とし、暫しの間そうして固まっていた後、シーラへと視線を戻してから指を二本立てて見せる。
「…………条件が二つ。
一つ、どんな結果になったとしても、ギルドは俺達に対してランクを昇格する事を含めた報酬を『確実に』支払う事。これは、どんな誤魔化しにも俺達は応じるつもりは無い、と言う事を肝に銘じて於いて貰わないと困る事になる。どちらが、とは言わないがな。
二つ、俺達がやるのはあくまでも調査と様子見だけ。倒せる様なら俺達だけで片付けるが、そうでなければ無理には倒しに行くつもりは無い。精々、やっても時間稼ぎ位だ。
その二つを呑むのであれば、俺個人の考えとしては受けてやっても構わないと思っている。どうする?」
「…………少々、お待ち下さい。
……………………確認、取れました!
ギルドマスターから、直々に言質も取れました!よって、アレス様率いる『追放者達』には、条件に出されたモノを含めた望むものを支給する、との事です!
また、予定では例の噂の検証に出ていた高位の冒険者達も、もう少ししたら帰還する事になっておりますので、そちらが戻り次第合流させるとの事です!」
「…………ふむ?なら、受けても構わないかな?
取り敢えず、仲間に伝えて来るよ。
……今度こそ、約束は違えないで下さいよ?今度こそ、ね?」
そんな言葉を、シーラ越しに指示していた『誰かさん』へと投げ掛けながら、アレスは酒場で待機している仲間達の元へと、ほぼ独断で決まってしまった現状について説明する為に進んで行くのであった……。
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