『追放者達』、絡まれる
「…………って訳で、現地で不合格認定食らった上に、討伐対象だった魔物の所有権も主張してくれていたから、そのまま置いて先に帰って来た、って訳ですよ」
「…………それは、また、御愁傷様と言いますか、お疲れ様でした、と言う他に無いかと……」
そう言って、痛ましそうな視線を彼へと目掛けて送ってくるのは、ほぼほぼアレス達『追放者達』の専属受付嬢と化してしまっている、いつもお決まりのシーラその人。
そして、彼らがこのアルカンターラの冒険者ギルド本部に顔を出して直接報告をしている『現在』は、あのフルフーレ湿地帯での戦闘を行った日の翌日となっている。
結局、あの後橇を飛ばして一路アルカンターラを目指した『追放者達』一行は、あまり時間を掛けずに目的地へと到着する事に成功していた。
しかし、あまり時間を掛けずに済んでいた、とは言え時刻は既に夕刻へと足を踏み入れていた上に、アレスを始めとした前衛組や従魔達はその全身を、何が混ざっていたのか定かではないような泥で汚してしまっていた為に、こうしてギルドへの報告を翌日に回す事となってしまっていたのだ。
とは言え、依頼先からの帰還翌日に報告、となれば冒険者としてはまだ早く勤勉な方になるので、特に問題も気兼ねも無くこうしてアレスも報告がてらに訪れている、と言う訳なのだ。
「……しかし、残念でしたね。
幾ら規定上制限は無いとは言え、一度不合格判定を受けてしまえばその分『次』の監督役からの印象は悪くなり易いですので、合格の道は遠退いたと言えるかも知れません」
「まぁ、それは仕方がないし、別に気にしてもいないんで大丈夫ですよ」
「…………と、言われますと?」
「いや、別段俺達が『Sランク』を目指していたのって、何か重要な目的が在ったり、そこに到達しないと無し得ない様な事がしたかったから目指していた訳では無くて、ただ単に冒険者としての最高峰だから目指していた、ってだけですからね?」
「…………え?そうだったんですか?」
「そうだったんです」
意外そうに、驚愕の声を挙げるシーラに対してアレスは、何て事は無い、と言わんばかりの様子にて軽く応えると同時に頷いてすら見せる。
「別に、一部の本当に特殊な依頼とかは実際にSランクまで上がって無いと受けられないみたいですけど、それ以外の普通の依頼ならAランクのままでもSランクの依頼は受けられるんですから、別段困りはしないんじゃないのかなぁ?とね。
それに、俺達って最低限仲間達でワイワイやりながら生活していけるだけの報酬さえ在ればそれで満足なんで、別段高額依頼じゃないと~だとか、指名依頼で名声を~だとか、そう言うのには興味ないんである意味丁度良かったんじゃないですかね?」
「…………え、えぇ~……?
……あの、それは流石に、冒険者としてはちょっとアレな考え方ではないかと……」
「まぁ、否定はしないよ?否定は。
別段、俺達も、もっと上が在るなら目指す事は吝かでは無いし、未だにSランクを目指しているのに変わりはないしね。
ただ単に、今回無理に試験に合格しなくても、その内また打診される事になるんじゃないの?これまでのアレコレを考えると、ね?」
「…………は、はは……普通に有り得そうで嫌ですね……」
「でしょう?」
そんなやり取りを挟み、じゃあ取り敢えず何か良い依頼は無いですかね?とアレスが続けようとした正にその時。
「見付けたぞ!こんな処にいたのか!?
さぁ、早く俺達と一緒に来るんだ!!」
そんな余裕を無くした大声が、ギルドの入り口を乱暴に開け放つ音と共にアレスの耳へと響いて来た。
あからさまに厄介事の臭いがプンプンしていた為に、敢えて振り返る様な事はせず、我関せずを貫こうと中断されていたシーラとのやり取りを続けようとするアレス。
しかし、彼の目の前にいるシーラの視線は彼の背後へとチラチラと頻りに向けられており、かつ背後から迫りつつある覚えの在る気配と乱暴な足音に嫌な予感が極まった為に、あんな脅しを掛けておいて今さら何の用なのか……と呆れを多分に含んだ溜め息を漏らしながら、その場で反転して背後に立とうとしていた相手へと相対する。
「…………で、そんなに殺気立って騒がしくして、一体何の用ですかね?
俺達には、もう用事は無いハズでしょう?違いますか、サイモンさん?」
既に不合格の通知を突き付け、その上で脅しを掛けて来たにも関わらず、それらを丸っと蹴られた状態に在ると言うのにこれ以上何をするつもりだ?
言外にそう含められた、表面上は相手を立てる事すらしている言葉を受けたサイモンは、アレスが浮かべている柔らかな表情とは裏腹に冷たい光を宿した瞳に一瞬で気圧される事となりながらも、既に後が無い、と言う事を理解している者特有のしつこさを全開にして彼へと詰め寄って行く。
「……何の用だって?そんな事決まっているだろう!
君達が、途中で放り投げた依頼の後始末をさせに来たに決まっているだろう!」
「……途中で放り投げた?
それは異な事を言われますね?アレに関しての所有権を主張したのも、アレを倒したのも、俺達の不合格判定を出したのも全て貴方では無いですか。
なら、あの時には既に無関係となっていた俺達が、個別の判断で現地解散しても別段咎められる様な事は無いハズですが?」
「無いハズが無い!
一時的にとは言え、同じ依頼を共にこなしていたのであれば、その間は『仲間になった』と言う事だ!
それならば、最低限仲間の事を思いやって、例え自分達の手に入って来ない分の素材であっても、余裕が在れば運搬するのが常識だろう!?
良いから、さっさと戻るぞ!これは、監督役としての命令だ!」
「だとしても、自分で不必要な横槍を入れて来ておいて、ソレに目を瞑って欲しければ仲間を寄越せ、何て言ってくる相手に協力しようだなんて、一体誰がそんな事思えると?それに、既に試験は終わっているのだから、幾ら監督役とは言え協力しなければならない理由は無いのでは?
更に言えば、命令されなくてはならない理由も俺達には無いのですが、一体何を根拠に『命令だ!』と言われているのか、ご説明頂けますよね?」
「…………ソレに関しては、ただ単に行き違いが在っただけだ!
俺は、あのままでは合格させるのは難しい、と言っただけに過ぎない!それに、アレの所有権を主張した事も無い!
あと、君のパーティーメンバーに関してだが、君の処にいるよりも、俺のパーティーに所属して然るべき場所でその力と才覚を振るう事こそが世の中の為だと思って声を掛けていただけだ!決して、そんな形で強要したりなんてしていない!!
むしろ、そう言う事を無理強いて彼女を自らの手元に置いているのは、君の方こそなんじゃないのか!?」
「おやおや、随分とご自身に都合の良い様に言われますね?
それに、俺に対しても在らぬ疑いを掛けてくれているみたいですが、何を根拠にそう言っているので?」
「そんなモノ、君よりも地位も実力も金も持っていて、その上で顔立ちだって整っている俺からの誘いを断って、未だに君の恋人だなんて事を言っているのだから、明らかに何かしらの行動を強いているに間違い無い!
今ならば、最後の情けとしてパーティー自体は昇格させてやるが、彼女は解放しろ!自由にしてやるんだ!!」
まるで、自身が正義の味方であり、悪に囚われた姫を解放する事を求めているかの様な口調と身振りに、周囲から何事か?と言った視線が集中して行く。
その中には当然、話題にも出ていたセレンやヒギンズのモノも混ざっていたのだが、その温度は当の昔に氷点下を更に下回って凍り付いており、周囲の目が無ければ今すぐにでも目の前の汚物を消毒してやるのに!と、些か物騒な事を言わんばかりの鋭い視線を送っていた。
ついでに言えば、既にアレス達がこのアルカンターラの本部をホームとしている顔見知りの冒険者達に対して、今回の昇格試験のアレコレを吹き込んである為に、幾らSランクの中でも筆頭と言われる立場に在る『栄光の頂き』であったとしても、今回の一件について彼の言葉を肯定的に捉えている者は殆んど見受けられなかった。
狙い通りに行けば、自らを称える声か、もしくは彼らを詰る様な声が周囲から沸き起こるだけでなく、心地好い尊敬の眼差しすらも向けられると思っていたサイモンだったが、そのどれも得る事が出来ず、寧ろ自らを非難するモノが多くなっている事にたじろぎ、その口からは言葉にすらならない感情が外へと漏れ出し始めた正にその時。
またしても突如として冒険者ギルドの扉が乱雑に開け放たれ、急いだ様子の誰か騒がしく駆け込んで来る。
……それとタイミングを同じくして、耳元に嵌めていた魔道具へと手を伸ばしたシーラの表情が強張って行き、飛び込んで来た冒険者と同じくして口を開き、衝撃的な内容を口にするのであった……。
「……た、大変だ!街の、街の外に見たことも無い巨大な影が!?」
「……現在、この場に居られる高位冒険者の皆様に緊急依頼が発令されました。
このアルカンターラの周囲に発生した濃霧と、その中に確認された驚異と思わしき無数の影を調査、撃破せよ、との事です」
急展開?
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