『追放者達』、『栄光の頂き』をやり込める
「いやぁ、危ない場面だったね!まさか、スキルやあんな手を使う個体が居るとは俺も思って居なかったよ!
……でも、幾ら想定外の出来事だったとは言え、あの流れはSランクを目指す者としては良くないなぁ。俺がわざわざ手を出して助けなかったら、下手をしなくても君は今こうして立っては居なかったと思うよ?」
そう、ニヤニヤとした嗤いを口許に浮かべ、あからさまに彼らを見下した様な口振りで告げるのは、この昇格試験に監督役として参加していたサイモンその人だ。
本来、監督役の役割として主なモノとしては、試験を受けているパーティーが不正行為をしないかを見張る、と言うモノだ。
……しかし、それ以外にも、彼らにはもう一つ役割が与えられる事となる。
それは、試験を受けたパーティーが依頼の完遂が難しいと判断されたか、もしくは命に関わる重傷を負う者が出た場合、依頼の対象となっている魔物を代わって討伐する、と言うモノだ。
当然の様に、そうなってしまっては監督役からの印象は最悪に近くなる上に、身の丈以上の依頼を受けた愚か者、とのレッテルを張られかねないので、基本的に試験自体は不合格になる可能性が極端に高まる事となってしまう。
突発的かつ予想外な事態に対しても、素早くまともに対処出来ないのならばSランクを名乗る資格無し、と言う事なのだろう。多分。
……しかし、今回に限っては、恐らくはそこ決まりに託つけての横槍であり、有り体に言えば『妨害』に他ならないだろう。
何せ、先程の状況は、端から見ていれば割りと危機的な状況として写ったかも知れない。ソコを否定するつもりは無い。
……無いのだが、実は危機的な状況として写ったとしても、別段命の危機が在ったのか?と問われればまず間違いなく『否』と言えるだろう。
確かに大怪我を負わされる可能性は高かったが、あのままやっていればソレと同じ程度には勝算が在ったアレスにとって、到底感謝の意を抱く事は有り得ない為に、余計な事をしてくれたサイモンに対しての強烈な殺意と敵意が今にも溢れだして来そうになってしまう。
そんなサイモン達『栄光の頂き』に対して良い感情を向ける様な事は流石に出来無い上に、先程のさも『助けてやったのだから感謝して当然だよな?』と言わんばかりの態度に怒り心頭となっている、と言う訳だ。
しかし、そんなアレスの様子に気付いていないのか、それとも手出しはされないだろう、と高を括っているからかは定かではないが、未だに抜き身の得物を手にしている彼へと無造作に近寄ると、その肩に手を置いて顔を近付け、耳元へと小さな声で囁き始める。
「……さて、こうしてリーダーたる君が無様を晒したお陰で、このパーティー自体の昇格試験の結果が危ぶまれる事となってしまった訳だけど、一体どんな気分だい?ん?」
「…………白々しい。わざと横槍を入れて止めをかっさらって行った癖に、何を抜かしやがる。
で?結局何が言いたい?何が目的なんだ?」
「……さて、何の事だろうね?
ただ、ここからは俺の独り言になるけど、このままじゃあ君達のパーティー『追放者達』を待ち受ける結果は不合格だ。何せ、監督役たる俺に手出しさせちゃったんだから、ね?」
「………………」
「……でも、でも、だよ。もしそんな状況だったとしても、俺が報告せずに黙っていれば、君達は昇格試験に晴れて合格してSランクに至る事が出来るだろねぇ……」
「………………何が言いたい……!」
「ふふっ、独り言だって言ったじゃないか。
でも、敢えてそうなる様に俺に気紛れを起こさせたいのなら、適当なタイミングでヒギンズとセレンの二人をパーティーから追放する必要が在るんじゃないのかなぁ……?
まぁ、その後で、ヒギンズが再び俺のパーティーに加入していたり、セレンが俺のモノになっていたとしても、多分全部偶然だと思うけど、ねぇ?」
「…………成る程、最初から、ソレが狙いだったか……!」
「ふはっ!嵌まった後で気付いた間抜けが、何とでもほざくが良いさ!
どのみち、君はもう詰んでいるんだ。選択肢は無いも同然だと思うけど?」
「………………」
「まぁ、俺も鬼じゃないから、返事はアルカンターラに戻るまでにしておいて上げるよ。
良く考えて、答えを出すことだね!」
そう囁いて、まるで慰めるかの様にして肩を叩いてすれ違う様に離れて行くサイモン。
その足の向く方向は、先の話題にも出ていたヒギンズとセレンを含めた『追放者達』のメンバー達が居り、これから何か吹き込みに行くつもりなのだろう事は容易に想像する事が出来た。
そして、ソレをサイモンも予想しており、ソレに危機感を覚えたアレスが慌てて自分を呼び止め、その際に出した致命的なボロを自分で追求してメンバー内部に不信感を植え付け、より引き抜き易くしてやる!と企んでいたのだが、その背後にて彼に見えない様な位置にて、アレスがニヤリと口許を歪めいる事には気付く事が出来ず、企みを完遂する為には必須であった『彼を止める』と言う行動を起こす最後のチャンスを不意にしてしまう。
「……やぁ!さっきは危なかったね!
流石にまだ判断を下す事は出来ないけれど、俺に手出しさせる事態になっちゃったのは手痛いマイナ「おーい!やっぱりダメだってさ!今回の昇格試験、失敗判定だって!」ス……って、ちょっ!?」
『追放者達』のメンバー達へと歩み寄りつつ、一応まだ判定は出来ないが危うい処に在る、と言おうとしていたサイモンの言葉に、彼の背後からアレスが大声で被せて来た。
ソレに驚いて背後へと振り返ると、その時には既にアレスはサイモンの脇をすり抜けて仲間達の元へと歩み寄っており、ソレを止める間も無く昇格試験の結果に対し、サイモンから告げられた事について在ること無いこと関係無く、ソレを『事実』としてメンバー達の間に広めて行く。
「…………なんと?では、特に当方らが助けを求めた訳でもなく、勝手に手を出して来ただけに過ぎないと言うのに、ソレを根拠に試験を不合格にする、と?」
「……しかも、私達でほぼ討伐しかけていた『不変鉱大亀』の所有権も主張なされているのですか……?」
「……おまけに、不合格を取り消して欲しければ、セレンとヒギンズを寄越せ、ねぇ……?」
「既にリーダーと恋人同士になっているセレンさんを故意に傷付けさせ、その隙間に入り込んで良いように動かそうとしていただなんて、同じ女性として許せないのです!」
「…………挙げ句、半ば自分で言い出した事とは言え、一度は追放って形で離脱したオジサンを、オジサンが抜けたから戦力が低下したのだからその責任を取って無理矢理でも戻せ、なんて言っていたなんて、オジサン思っても見なかったなぁ……。
……ねぇ、君達って、何時からそんな風になっちゃったんだい……?」
「「「…………っ!?」」」
途中から何事かと合流していたグラニアとモルガナを含めた『栄光の頂き』の三人が、ヒギンズが放った最後の一言によって表情を強張らせる。
そこに込められていた『哀愁』や『悲嘆』と言った感情は、当時を肌で感じて知っている訳ではないアレス達にも、当時の状況を臨場感タップリに伝えてくれていた。
ソレにより、当事者たる『栄光の頂き』のメンバーはその場で立ち尽くし当時の諸々へと思いを馳せている様子であった為に、アレスは他のメンバー達に対して無言のままに手振りのみにて指示を出すと、ナタリアが出していた橇に全員で乗り込んで従魔達も連結し、出発の合図である手綱を打たせる。
その音にてこちらの世界へと戻って来た『栄光の頂き』のメンバー達が顔を上げるが、その時には既に橇は発進し始めており、慌てて引き留めようとするサイモンに対してアレスは車上から
「じゃあ、取り敢えず昇格試験は不合格で依頼も失敗扱いされるみたいなんで、俺達はこれで失礼させて頂くよ!
ついでに、ソレもあんたらにくれてやるよ。精々、頑張って回収するんだな!あばよ!!」
と言い捨てると、弛んだ地面でも橇が滑って事故が起きない限界の速度まで上昇させ、背後から投げ掛けられる声を丸ごと無視してフルフーレ湿地帯を後にするのであった。
そして、その場には、湿地帯内部へと徒歩で踏み入っていた上に、既にそこまで馬車にも余裕は無く更に言えばそこまでアイテムボックスに割く余裕も無い『栄光の頂き』の一行が、言葉も無くした状態にて巨大な『不変鉱大亀』の死体へと視線を向けるのであった…………。
…………ざまぁ?
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