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『追放者達』、フルフーレ湿地帯の探索を開始する

 


 結局、アレスに言い負かされてから『栄光の頂き』のメンバー達は、彼らに特に何をする訳でも無く時間が過ぎて行く。



 情報を引き出す、と言う観点からすれば、先程の対応は落第以外の何物でも無くこれまでの努力を無駄にした、と暫し落ち込んでいたアレスであったが、メンバー達からの励ましや、助けられた本人でもあるセレンからの感謝の言葉によりどうにか持ち直し、夕暮れも深まりつつある現在は焚き火の側にて包丁を振るって夕食の準備に勤しんでいた。



 通常、今回の様な泊まり掛けになる依頼では、少しでも持ち込む荷物を減らす為に、食料は軽く嵩張らない携帯食品かもしくは干し肉に代表される乾物に限定される。


 それらを現地にて齧って水で押し流すのが主流であり、持ち込んだ小鍋やヤカン等にてふやかしたり煮込んだりして簡単なスープを作ったり、それらにパンやワインを添えたりするとかなり上等なご馳走の部類として認識される様になる。



 当然の如く、『栄光の頂き』の方もそんな感じとなっていたのだが、彼らの視線は火に掛けられて今にも煮こぼれそうな鍋では無く、アレス達が前にしている焚き火に掛けられた普通のサイズの鍋へと向けられていた。



 ……そう、なんとソコには、肉汁が滴る様な肉がたんまりと入れられ、その上で新鮮な根菜がゴロゴロと入れられた、見ているだけで涎が溢れて来そうな程に旨そうなシチューが並々と湛えられていたからだ。



 ソレだけでなく、先程解体を終えたばかりで新鮮その物と言える魔物のステーキがジュウジュウと焼けて行く音を周囲へと響かせ、各自の手元には焼きたてだと一目で判断できる程に表面に張りの在るパンすらも握られている。



 ナタリアの並外れた魔力容量により可能となり、アレスの腕前によって実現された、まるで魔物が出る荒野では無く安全な野原に於けるピクニックの様な光景を目の当たりにして固まっていた『栄光の頂き』は、作業と配膳を終えたアレスが皆と並んで座り、同時に料理へと手を着けた時点で彼らの元へとフラフラと歩み寄ろうとする。



 ……が、直ぐ様得物に手を掛けた状態にて殺気を込めた視線をアレスから向けられてしまい、すごすごと元居た自分達の焚き火の元へと戻されてしまう三人。




 …………こんなハズじゃあ無かったのになぁ……。




 そんなに思いが三人の脳裏を過るが、ソコにアレス達が介在する余地も必然性も無かった為に普通にスルーされ、彼らは煮出し過ぎてえぐ味の出て来た簡易スープを溜め息と共に啜り、持ち込んでいた乾パンに涙を堪えて齧り付くのであった……。






 ******






 その後、懲りずに夜番に立ったセレンへと声を掛けようとして、同じく夜番に立っていたアレスから殺意を向けられたサイモンがすごすごと撤退したり、逆にモルガナとグラニアの二人がアレスのテントへと侵入しようと試みて周囲を警戒していた従魔達に発見され、本気で唸られて必死に撤退する羽目になったりと言う出来事はあったものの、その他に関しては魔物が何度か襲ってきた程度で特に問題なく夜が空けた次の日。



 彼ら『追放者達(アウトレイジ)』は、依頼の対象として指定されていた『不変鉱大亀(アダマスタートル)』を討伐するべく隊列を組んでフルフーレ湿地帯を進んでいた。




「…………しかし、分かってた事では在るけれど、やっぱり歩き難いなぁ、ここ。しかも、足音も足跡も丸分かりなんて、俺に取ってはやり辛いことこの上無いんだよなぁ……」


 ……ペチャッ、……ペチャッ



「…………いや、歩き辛さを言うのであれば、当方の方が大変であるぞ?何せ、この鎧と図体に加えて体重である。見ての通り、足がめり込んでしまって実に歩き難い。

 ソレに、足元が弛んでいる関係上、やはり攻撃を受けた時に踏ん張れないのが面倒であるなぁ……」


 ズブッ!……ズボッ!ズブッ!……ズボッ!



「なははははっ!そう言うところは、二人とも年相応に若いねぇ。一々足場の状態を気にしていたら、勝てる戦いにも勝てなくなっちゃうよぉ?

 それに、ちょ~っとばっかり鍛練が足りないんじゃ無いのかなぁ~?」


 パシャッ、パシャッ、パシャッ、パシャッ



「…………いや、さらっと人間離れした技を披露しないで貰えませんかね?」



「何をどうやったら、このドロドロにぬかるんでいる泥地を、そんな浅い水溜まりを通り抜けるのと同じ様な感覚で歩けるのであるか……?」



「そうかなぁ?慣れれば、大体こんなモノだと思うんだけどぉ?」




 前衛として男性陣は、足元の弛さに文句を溢しつつ、普段であれば殆んど立てる事は無かった足音をバシャバシャと立てながら、少々間隔を広めに取って進んで行く。




「……分かっていた事でしたが、やっぱり皆様大変そうですね……」



「まぁ、でも仕方無いんじゃないの?

 場所との相性が悪い、なんて事は、結構あるって聞くけど?

 ……でも、野郎共の体重が重すぎた、って可能性は否定出来ないけど?最近、ヒギンズのお腹触るとちょっと柔らかいんだよねぇ~」



「……なのです?それは、むしろ普通の事なんじゃないのですか?

 あ!でも、ガリアンさんも結構柔らかいのですよ?基本筋肉のハズなのに、何故か揉むと柔らかいのです!」



「……なる、程……?確かに、良く鍛えられた筋肉は、柔軟性を兼ね揃えるので柔らかくなる、と聞いた事もあります。

 ……ですが、どうやらアレス様は鍛えられても筋肉が膨れない体質らしく、まるで束ねて引き絞られた様な素敵な肉体をされておりますので。触っても、柔らかい、と言った感じではありませんでした。

 まぁ、そんな引き締められた腕とお身体にて抱き締めて頂きますと、まるでアレス様に包まれているような感覚を覚えますので、私は大好きなのですが♪」



「あ!それ、ボクも結構分かるかもなのです!

 こう……ガリアンさんの大きくて柔らかい毛で覆われている身体に包まれていると、ボクの存在その物を肯定して守ってくれているみたいに感じるのです!」



「…………アタシの場合、ヒギンズって鱗在るから抱き締められるとちょっと擦れてチクチクするしちょっと冷たいんだよねぇ。

 ……まぁ、火照ってる時にそう言うのが肌に当たると、結構ひんやりして気持ち良かったりするけど……って、はっ!?」



((…………ニヤニヤ、ニヤニヤニヤ))



「ちょっ!まっ!?今の無し!忘れて!?忘れなさいよ!?!?」




 後衛の女性陣は、ナタリアの従魔達が弛い地面に頑張って爪を立ててゆっくりと曳いている橇へと乗り込み、一応は周囲を警戒しつつ得物を手にしていながらも、その実としては女性が三人集まった段階で宿命的に決定付けられている姦しい会話を繰り広げ、とてもワイワイと賑やかで和やかな雰囲気を醸し出していた。



 一見、とてもでは無いが依頼による探索を行っている風にはとても見えはしない一行。


 しかし、そうして和気藹々と湿地帯を進みながらも、ガリアンや従魔達と鼻や耳によって常に周囲は探られているし、アレスやヒギンズと言ったそれらの感覚器に頼らない、気配を直接的に感じ取る事を得意としている面子によって警戒網も敷かれているので、ある意味探索隊として隊伍を組んで行進しているよりも遥かに安全かつ多くの情報を収集する事が出来ていたりするのだ。



 おまけに、橇に乗っていて普段の仕事が少ないタチアナ(ナタリアは運転役、セレンはいざと言う時の回復と防御役)が、簡単なモノとは言え手書きで地図も作成している為に、迷う様な事も無く討伐対象である『不変鉱大亀(アダマスタートル)』がいるとされている場所を目指して一路奥へ奥へと進んで行く『追放者達(アウトレイジ)』。



 そんな彼らの後を着いて行くかの様にして、足元を泥だらけにしつつ湿地帯に生息する魔物を蹴散らしながら進んで行く『栄光の頂き』のメンバー達。


 その表情には深く『嫉妬』や『敵愾心』と言ったモノが刻まれており、どうにかしてアレス達の足を引っ張れないか?と画策している事が容易に見て取れた。



 彼の頭の中では、セレンが自分を拒絶してアレスにすり寄っているのはあくまでも彼女の中ではアレスが最も強い男であるからだろう。ならば、そんなアレスよりも自分の方が凄いのだ、と言う事を分かり易い形で示してやれば、後は自ずと自分の方へと意識を向けてくる様になるハズだ!との自分勝手極まりなく、かつ独善的で何の根拠も無い考えが正当なモノとして扱われ、揺るぎ無い真理として勝手に定着されてしまう。



 それに従い、自らを最も良く見せ付けられるタイミングを求めつつ、振られた仕事を完遂する為にアレス達を追って奥へと踏み入って行くのであった。




 …………そして、探索を開始してから数時間の後。


 彼らは、目的であった『不変鉱大亀(アダマスタートル)』を無事に発見する事となるのであった……。





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[良い点] 祝二百話おめでとう
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