『栄光の頂き』、誘いをバッサリと切り捨てられる
「……さて!俺達の移動速度のせいでは在るが、既に夕刻に掛かりつつある!
だから、取り敢えず試験自体は急ぎのモノでは無いし、対象の『不変鉱大亀』も大きく行動域を変化させる様な魔物でも無いから探索は明日に回して、今日はこのまま夜営するとしようか!」
アレスから受けた衝撃をどうにか自己暗示によって受け流したサイモンは、山と積まれてい魔物の死体から幾らか素材を採取してから、気を取り直す様にして自らに『この場に於ける最上位者は俺自身だ!』と言い聞かせてから、この場にいる全員に向かって声を張り上げる。
先程彼が口にした通りに、既に太陽は中天を大きく通りすぎて傾きつつあり、今から対象である『不変鉱大亀』が確認されているフルフーレ湿地帯の奥へと進む場合、確実に途中で時間切れとなって夜闇に覆われる事となってしまう。
流石に、その甲羅の頑強さと発生の希少さによってSランク指定を受けている『不変鉱大亀』とは言え、夜闇に紛れた状態にて仮にもSランク指定を受けている魔物を相手取るのは自殺行為と言える。
基本的に冒険者は朝から探索を始め、目標が居ると思わしき場所には昼辺りに到着する様に調節し、夕方辺りになる前には安全な場所へと退避する、と言ったタイムワークが半ば習性として定着しているのだ。
……とは言え、アレス達『追放者達』だけであれば、とっくの昔に探索を開始する事も出来ていたのだが、やはり自分達の面子を保つためにもソコには触れないで行くつもりである様子だ。
一方、そうして遅れて来た上にいきなり場を仕切り始めたサイモンに対して訝しむ視線を送る『追放者達』。
彼は元より、監督役である『栄光の頂き』が遅れてきていた事から、既に当日での探索は難しいだろう、と判断を下していた為に、サイモンが号令を掛けた時には既に各自でテントを張り始めていただけでなく、フルフーレ湿地帯とは逆方向の荒野側に薪を拾いに行く者、竈を設えて煮炊きに備える者、と言った風に役割分担した上で行動を起こしていた。
ランクが高いからと言っても、別段只の監督役でしか無いのだから馴れ合う必要なんて在るのか?そもそもそうやって馴れ合いが発生するのは不味いのでは?と言うか自分達で使う分のテントだとかをさっさと用意するべきじゃないのか?もしかして全部こっちに押し付けるつもりじゃないだろうな?
そんな、心の声が聞こえて来そうな視線を向けられ、思わずたじろぐサイモン。
しかし、そこで尻込みしていては全盛期のヒギンズを嵌めてその名声と財産を奪取しようと考えられるハズも無く、自らの野望の為にもそれらの視線に気付かないフリをしながら口を開く。
「取り敢えず、先に夜間の見張り番の順を決めてしまわないか?
俺としては、こちらの人数に合わせて三交代位に調整する関係上、『追放者達』は二人一組になってくれると有難いな!後は前衛・後衛のバランスも取れる様な組み合わせにしておいてくれると、なお良いんだがどうだろうか?
それと、有事の指揮権をハッキリさせておく為にも、俺とそっちのリーダーとは別の組にしておく方が良いと思うんだけどどうかな?何も反対が無ければ、ソレで行こうと思うけどソレで大丈夫かな?」
提案、と言う形を取ってはいるものの、ほぼ確定事項を通達する様に強い言葉を使って行くサイモン。
ソレに対し、元より夜番についての事をどうするつもりなのか、と言う疑問をアレス達も持ってはいた為に、特に反論する事も不満を口にする事も無いままに頷く事で肯定の意を露にして行く。
ソレに合わせて、じゃあ組み合わせを決めようか、と『追放者達』の間にて話題が挙げられた段階にて、サイモンがセレンの元へと歩み寄り、その肩へと手を伸ばしながら再度口を開く。
「……やぁ、セレンさん……だったね?
俺の事はもう知ってるだろうから単刀直入に言わせて貰うけど、夜番の組み合わせ一緒にならないかい?
俺個人として、君にとても興味が在るんだ。ソレに、今まで俺がしてきた冒険に関しても色々と話して上げられると思うんだけど、どうかな?
……それに、その後も……」
「……すみませんが、お断りさせて頂きます」
「……なっ……!?」
セレンの肩に回そうと伸ばしていた手をするりと回避され、その上で表情にも拒絶の色を浮かべられた状態にて、誤解の介在する隙すらも残されずにバッサリと断られてしまったサイモンは、思ってもいなかった反応に思わず、と言った呟きを溢してしまう。
彼の想定では、特に躊躇う様な事も無く、素直に了承して来るハズであり、その後夜番の間に適当に言いくるめてテントの中まで……と言う流れまで予定していただけに、その衝撃は計り知れないモノであったのだろう。
それ故に、二人の元へと近付く足音がしていた事にも、ソレに気付いたセレンがそれまで強張らせていた表情を一転させ、満面の笑みを浮かべてそちらへと駆け出した事にも気付く事に一拍遅れ、彼女を呼び止める事すら出来ずに見送る事となってしまう。
そして、彼女が駆け寄る事で庇護を求めた相手は、彼にとって最悪な事に、つい先程自らを上回る腕前の持ち主である、と言う可能性を見出だしてしまった存在であった。
「…………俺の、パーティーメンバーに、何かご用ですか?」
未だにセレンが去った方向へと手を伸ばし続けていたサイモンに、誰が聞いたとしても友好的な響きが含まれてはいない声色と、殺気すらも感じさせる佇まいにてアレスが問い掛ける。
片手は既に得物の柄へと掛けられていて、その上でもう片方の手にてセレンの肩へと抱き回して自らの身体にて隠す様な形で庇っており、見るからにサイモンの事を警戒している、と言う事が見て取れた。
その上、基本的に温厚で人当たりも良いセレンの事をそこまで怯えさせるとは一体何を彼女にしてくれたのか!?との意思を込めた瞳にて、まるで視線だけで相手を射殺さんとする程に鋭く冷たい視線を彼へと注ぎ込んでいた。
「………もう一度問います。俺の、パーティーメンバーに、何かご用ですか?」
再度放たれたその言葉に込められた殺意や敵意に反応し、反射的に背中の得物に手を掛けてしまったサイモンは、思わず滲み出て来ていた手汗を意識しないようにしてから得物を離し、さも何て事は無かった、と言わんばかりの態度と表情を浮かべてアレスへと言葉を放つ。
「……い、いや、何か誤解が在るみたいだから説明させて貰うけど、ただ単に夜番を一緒の組み合わせでどうかな?と誘っただけなんだけど……彼女の事もよく知りたかったし、前衛の俺と後衛の彼女なら組み合わせも丁度良かったし……!」
「……そうよぉ。ただ単に、彼はあの子に提案していただけなのよぉ。
だから、そんなに怖い顔しないで、ね?
それと、夜番はお姉さんと組んでみない?私は完全後衛型だから、前衛の貴方と組めたら嬉しいのよねぇ」
「そうそう!一々他のパーティーから声を掛けられた程度で目くじら立ててたら、きりが無いし彼女だって息苦しいんじゃないの?
言っちゃあなんだけど、君と彼女の関係って只のパーティーメンバーとリーダーってだけでしょ?頼まれてもいないのにそこまでギチギチに管理するのって、あんまり良くない事だし彼女からの印象も良くないんじゃないのかなって、お姉さん思うけどなぁ~?」
今こそが攻め時、とばかりにサイモンへと加勢するグラニアとモルガナ。
サイモンの、セレンを誘い既成事実を作り上げて行動を縛ろうとしている事を読み取った二人は、自分達の狙いであるアレスをそこから引き剥がして目的に沿う形に落とし込もうとして行動を開始したのだ。
……男にとって、最も厄介な『女性目線での『良くない』と言う意見』にて、言外に『彼女に嫌われたく無ければ引いておいた方が良いよ?』と言い含めて来る二人。
ソコに加え、見目だけは整っているサイモンと来れば、只のパーティーメンバーでしか無ければ気後れして相手を差し出す事になっただろうし、もし付き合っていたとしても、向こうの方が良いのかも……?と思わせてしまった時点で彼らの勝ちであった、とも言えるだろう。
……そう、彼らが、普通のパーティーメンバーでしか無く、かつ浅い付き合いしかしていなかった場合は。
「……そうですか。では仕方無いですね」
「そうかいそうかい!漸く、君も男の見当違いな嫉妬は醜いと理解して「では、夜番は俺達『追放者達』だけで回すので、皆さんは休んで頂いて結構です」…………は?」
「おや?理解できませんでしたか?では、言葉を変えましょう。
……人の恋人に粉掛けようとする様な輩と、ソレを助長する様な事を口にする毒虫と一緒になんて組めないから、こっちだけでやるって言ってるんだよ」
「「「…………なっ!?」」」
セレンの事を抱き締めつつその額に口付けを落として彼女を落ち着かせ、それから得物の鯉口を切ったアレスが放った言葉により、『栄光の頂き』の三人は驚愕の声を漏らして固まってしまう。
一方、そうして抱きすくめられた上で唇にでは無いにしても口付けまでされてしまったセレンは、恥ずかしそうにしながらも女としての幸せそうな笑みを浮かべつつ、周囲へとハートの幻影を振り撒きながら全力でアレスの事を抱き締め返す。
その様子を唖然とした表情にて眺める事しか出来なかったサイモン達『栄光の頂き』は、アレスから追加で投げられた
「……まぁ、良く考えなくても夜番の見張りを一緒にやるのは『馴れ合い』と見られかねないし、そちらもそう言われるのは面倒だろう?
だから、俺達は俺達でやるから、そちらはそちらでやってくれ。好きなように、な」
との言葉で正気に戻るが、その時には既に彼は背を向けており、抱き締めたセレンと連れ立って他のメンバー達が待っている焚き火の側へと歩いて行ってしまったのであった……。
……ある意味ざまぁ?
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