『追放者達』、槍使いの古巣と顔合わせをする
アレスがパーティーメンバー達を召集し、独自に行っていた調査結果を共有してから早数日。
彼らは、冒険者ギルドにて、とあるパーティーと引き合わされる事となっていた。
「……君らが、冒険者パーティー『追放者達』かい?初めまして、俺が君らの監督役として同行させてもらうSランクパーティー『栄光の頂き』のリーダーを務めているサイモンだ。よろしくお願いするよ!」
「…………どうも、『追放者達』リーダーのアレスです。今回は、よろしくお願いします」
どうにか平静を保っているアレスが、内心では嫌々ながらサイモンが差し出して来た手を握る。
予定の通りにこうして顔を合わせた訳だが、取り敢えずの印象としては、爽やかさを演出したかったのだろうが見下している感が何処と無く透けて見えており、更に握手を交わした際に不必要か迄に力を込められていたりだとか、女性陣(特にセレン)に対して好色な視線を身体のラインに沿わせて舐める様に眺め回したりしていた為に、正直嫌悪感と殺意とが抑えられなくなる寸前まで『高位の冒険者を前にして緊張している若者』を演じてひたすらに表面上を取り繕って行く。
そんなアレスの内心には欠片も気付いた様子は見せず、それどころか既にマウントを取ってランク付けを済ませた様な雰囲気を出しながら、再度口を開くサイモン。
「一応紹介しておくよ。
こっちの二人は俺のパーティーメンバーで、斥候職のモルガナと魔法職のグラニアだ。
共に、Sランクに相応しいだけの力量の持ち主だから、何か不安が在ったら遠慮なく頼ると良いよ。
……特に、君達のパーティーには、攻撃型の魔法職と斥候職が欠けてるみたいだから、なおのこと、ね?」
「…………そうですね。必要な場面が来たら、頼らせて頂くことにします」
どうやら、ギルドに提出してある情報と、全員の装備を見回して判断した職種(斥候と魔法職も兼ねているアレスはパッと見た限りでは軽装の剣士にしか見えない)で断定したらしく、あからさまに『アンバランスだね』と言外に含めた声色と見下した視線の色で告げるサイモンは、普通なら監督役の手を借りればどうなるのか、を理解した上でそう口にする。
そしてアレスはアレスで、それらを全部理解した上で言外に『そんな時が来ればな』と着けた上で、表面上は言葉以外には気付いていない鈍感な若手のリーダーを装って行く。
そうしている内に、相手の中では完全に『自分達(正確には自分?)の方が上』と判定されたのか、さも今しがた気が付いた、と言わんばかりの様子にてヒギンズへと視線を向け、驚愕と歓喜に染まっている、と見せ掛けた表情と動作にて彼へと目掛けて歩み寄る。
「……ヒギンズ?ヒギンズじゃないか!
随分と久し振りだなぁ!元気にしてたかい!?」
「…………やぁ、サイモン。久し振りだねぇ。
オジサンが抜けてから、どれくらいになったんだったっけ?多分、会うのはそれ以来だよねぇ?」
「……そうだね。貴方が抜けてから、もう三年にもなるんだったね。
今は、もう身体の方は大丈夫なのかい?
それに、ここに居るって事は、やっぱりこのパーティーに所属していた、って事で合ってたのかな?」
「まぁ、そんな感じだよぉ。
とは言っても、ある程度戻った、ってだけで君も知ってる全盛期には『遠く及ばない』し、スキルの方もまだまだかなぁ。
このパーティーに居られてるのも、リーダーに偶々拾って貰えたから、って感じだしねぇ……」
「…………へぇ、じゃあ、昔の事は話して無かったりするのかな?あれだけ色々とやらかしてたのに……?」
「…………っ……そ、それは……」
「………………ふぅん?じゃあ、ちょっと二人で話さないかな?積もる話も在るし、何より『今の仲間には聞かれたく無い話』だって在るんだし、ね……?」
「………………あぁ、そう、だねぇ……じゃあ、少し良いかな?リーダー。
彼とは昔馴染みってヤツでねぇ。少し二人で話したいんだけど、行ってきてもよいかなぁ?」
「へぇ、そうだったんだ?知らなかったよ。
まぁ、そう言う話なら、別に構わないよ?そう、長く掛かりはしないんだろう?」
そう言って、快く送り出すフリをするアレスと、済まなさそうにしながらもアレスとアイコンタクトを取って意思の疎通を済ませるヒギンズ。
ソレに気付く様子も見せず、恐らくは彼らに見えない様にしていたつもりなのだろうが、その口元を僅かながらではあったが醜悪な形に歪めたサイモンが、ヒギンズの肩へとその腕を回して耳元へと口を寄せ、万が一にも他には聞かれない様に囁く形で言葉を投げ掛けて行く。
流石に、そこまでされてはアレスやガリアンにも聞き取る事は出来ず、僅かに向けた視線にて『無理だった』と結果を知らせあっていると、それまでサイモンの背後に隠れる様にして立っていた『栄光の頂き』の残り二人であるグラニアとモルガナが、その口元に艶の混じった笑みを浮かべながらアレスへと急速かつ必要以上の距離感にて近付いて来る。
突然の出来事に、思わず身構えそうになるアレスとセレンであったが、彼らの実力の一端たりともこの場で掴ませるのはあまり好ましくは無さそうであった為に、アレスは反射的に構築しかけていた魔法陣の構成を分からない様に霧散させつつ得物から手を離し、セレンも咄嗟に撒き散らしかけた殺気や敵意と言った感情を引っ込めて表情を取り繕う。
そんな彼らの努力(?)の甲斐在ってか、途中で一瞬だけ怪訝そうな表情をされはしたものの、それ以外には特に訝しむ様な様子を見せずにアレスの元へと辿り着くと、その肩にしなだれかかったり、腕を取って抱き込んだりしながら彼の耳元へと口を寄せ、誘うように囁きかけ始める。
「……ねぇ、アナタ?聞いてるわよ?若手の中でも中々に有望株なんですって?」
「そうそう、ウチも知ってるよ?ギルドでも話題で、最近は特に評判が良い『追放者達』と、そのリーダーのお話は、さ?」
「…………は、はぁ、それが、何か……?」
二人ともに、見た目だけならば『美人』と評しても不足は無いだけの容姿とスタイルをしている為に、恐らくは若手で女慣れしていないならばこうなるだろう、と言う反応を演技として示しながら、わざと『緊張から来る吃り』を再現してやると、まるで獲物が掛かった、と言わんばかりの鋭い眼光を一瞬浮かべ、気配の中に獰猛な肉食獣を彷彿とさせるモノを紛れさせながら再度口を開く。
「実は、さ……リーダーのサイモンはああしてさも『自分は高ランクの冒険者なんだぞ!』って顔と振る舞いをしているけど、結構このパーティーって上から目を付けられちゃってるみたいなのよねぇ。
最近、無茶な依頼を受けては失敗したり、現地では見当違いな指示を出したりで、もう滅茶苦茶なのよぉ」
「だから、さ……ウチらそろそろこのパーティーに見切りを着けて、他の処に移ろうかなぁ、とか二人で考えてた訳なんだよねぇ。
で、そこに丁度良く、ギルドからの評価も良くて、実績も申し分無くて、更に名声も十二分に高まってる君達みたいな若手のパーティーと遭遇したって訳なのよ。
……ここまで言えば、もう察してくれても良いと、お姉さん思うんだけど?」
「…………え、えぇっと、それはつまり……俺達『追放者達』に移籍したい、と言う申請だと思えば良いんですかね……?」
「えぇ、そう言う事。察しの良い子は好きよぉ?
特に、若くて実力の在る様な子は、と・く・に♪」
「君達はポジション的に足りてない処に、それぞれ優秀な斥候職と魔法職を入れられて、お姉さん達は今後とも安定して冒険者を続けられる。良い取引だと思わない?
……あ・と、もし君が望むんだったら、お姉さん達が『色々と』教えてあげようか?こう見えて、二人とも結構経験豊富だから、そこら辺の女じゃ嫌がる様な事でも、君がしたいことなら何でもやらせて上げちゃうよ?それこそ、な・ん・で・も、ね♪」
「………………はひぃっ!?」
「……ふふふっ、真っ赤になっちゃって、カ・ワ・イ・イ!
……でも、何も分からない内に直ぐに応えを、とは言えないから、取り敢えず今回の試験の最中に私達を観て決めてくれれば、ソレで十分よぉ。
まぁ、私としては、良い返事が貰える事を期待しているけど、ね?」
そう言い残し、ヒギンズとの会話を終えて身体を離したサイモンがこちらへと向かって来るのを確認した二人は素早くアレスから身体を離す。
その際に、流し目と投げキッスを漏れ無く寄越す事を忘れずに行ってくれたのだが、正直二人はアレスの好みからは外れているし、何よりそれまでの顔を赤らめたり身体を固めたりと言った行動は演技でしか無いので、靡くハズも無い。
……無いのだし、ソレも承知しているハズなのだが、背後にて悋気を爆発させて笑顔のままどす黒いオーラを醸し出している恋人を、どう宥めるべきかの方が余程アレスの頭を悩ませる事となってしまったのは、言うまでも無いだろう……。
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