『追放者達』、相談する
シーラと別れたアレスは、依頼書を手にした状態にて他の『追放者達』のメンバー達が待つ、併設された酒場のテーブルへと足早に移動して行く。
それまで、他の顔見知りの冒険者や店員とのやり取りに勤しんでいたメンバー達だったが、アレスの様子を目の当たりにするや否や『何か在った』と感付いたらしく、手早く話を切り上げてから周囲に目配せをし、聞き耳を立てている者が居ない事を確認してから彼を手招きする。
そして、席に着くなり何も注文する事も無く手にしていた紙をテーブルへと広げた彼へと向かって問い掛ける視線を集中させるメンバー達へと対し、アレスは簡潔に先の内容を説明して行く。
「……取り敢えず、要点だけ。
俺達に対して『昇格試験』の打診が在った上に、その際の監督役として『栄光の頂き』の名前が上がっているらしい」
「「「「…………っ!?」」」」
「………………へぇ……?」
「『栄光の頂き』と言えば、今の世代で最高と名高い冒険者パーティーの一つだが、同時にオッサンの古巣でもある。
…………ぶっちゃけた話、俺としてはオッサンが語ってくれた昔話に嘘は無いと思っているが、ソレが全てでも無いと思ってる。正直に言えば、当時のパーティーメンバーが何かしらの手段でオッサンを嵌めたんじゃ無いのか、とね」
「…………ふぅん?そう言う根拠って、何か在ったりするのかい?
流石に、何にも無しで元とは言え仲間をそう言う風に言われるのは、オジサンもあんまり気分良くないんだけどなぁ……?」
「……う~ん、証拠、証拠ねぇ……まぁ、そうやって疑う根拠、位なら話せるかな?」
かなり唐突な事態の布告に他のメンバー達が驚いている中、違う意味で反応を示したヒギンズ。
流石に、元とは言え自身が立ち上げたパーティーに対して良くない事を言われては黙っていられなかったらしく、その声には少なくない険が含まれている様にも感じられた。
それに対してアレスは、軽く肩を竦めて見せてから決定な『証拠』では無いが、ソレに準ずる『考察』ならば出来ている、と口にする。
「……まず、俺がそう考えた理由の一つだけど、オッサン本人の人柄、かな?
確かに、力を失って荒れたんだろう。酒にも溺れただろう。薬にも手を出したのだろう。ソコは、否定しないさ。たぶん事実だろうし。
……でも、散々に周囲に迷惑を掛けた上に無銭飲食や暴力沙汰を起こした、なんて事は、今のオッサンを見ている限りだと到底信じられないんだよね。何せ、加入当初はともかくとして、最近は宴会の時とかも普通に酒を口にしているけど、そうなった事もなりそうになった事も、一度も無かったハズだけど?」
「…………確かに、当方も比較的良くヒギンズ殿とは酒杯を交わすが、そこまで深酔いした姿は見た事が無いし、何よりヒギンズ殿は酔いが深まった時には眠くなる口であろう?なれば、そうそう変な飲み方をするか、もしくは妙なモノでも呑まされない限りは、そうはならないハズであるな」
「…………だとしても、最近は偶々そうなってたってだけで、オジサンの本来の酔い方としては昔の方だった、とかは考えなかったのかなぁ?」
「まぁ、それはそれで有り得ない事じゃないだろうけど、今を見てる限りだと自然にそうはならないだろう、ってのが理由の一つさ。
そんで、次の理由だけど、最近の『栄光の頂き』の評判かな?あんまり、あそこについて良い話を聞かないんだよねぇ。最近は特に、ね」
「……あっ!ソレについてはアタシも聞いた事がある!
前はそうでもなかったみたいだけど、最近は依頼人とかにも横柄な態度を取ったり、依頼の失敗・成功に関係無く報酬金を釣り上げたりしてるみたいな話も聞いた覚えが在るよ!
それと、依頼を失敗する事も増えて来た、みたいな話も聞いてるけど、やっぱりコレって無関係じゃ無いんじゃないの?」
「…………いやいや、彼らは何処に出しても恥ずかしくないSランクの冒険者パーティーだよぉ?その分、オジサン達がこなしているソレよりも難易度は高くなって報酬金が跳ね上がるのは当然だし、その時々で体調だとかの要因で依頼の達成が困難になる事が在るのも不思議じゃないんじゃないのかなぁ?」
「…………何やら、先程から古巣を庇う様な発言ばかりですね。
こう言っては失礼かも知れませんが、確かな『そうではない』と否定出来るだけの反証が無い以上、誤魔化している様にも聞こえてしまうのですが……?」
「…………いや、いやいやいや!そんな訳無いって!
オジサンだって、あそこに思うところが無い訳じゃないんだからね?そこの処は、あんまり勘違いしないで欲しいんだけど!?」
「……ヒギンズさんにそんなつもりは無いのかも知れないのですが、やっぱり庇っている様に聞こえるのです。
何かしら、心当たりでも在ったりするのですか?」
「………………」
「……まぁ、まだ詳しく調べた訳じゃないからどうとも言えないけど、理由として挙げるモノの最たる一つとしては、やっぱり実例かな?
何せ、今まで俺達を追放してくれた連中の中に、まともな理由と原因で追放かましてくれて、その後も恙無く評判や実績を保てていたヤツなんて居なかっただろう?」
「「「「確かに!?」」」」
「…………嫌なタイミングで声が揃った処に突っ込みたい処だけど、実績が実績だけにオジサンも否定出来ないんだけど!?」
アレスが根拠として挙げた『負の実績』とも呼べるその指摘に、過去に碌でもない体験をしている他のメンバー達は声を揃えてその意見を指示し、指摘されているヒギンズも反証する事が出来ずに頭を抱えてテーブルへと項垂れる。
そんな彼の背中を労る様に撫でるタチアナは、事の発端たるアレスに対して『何て事してくれてんのよ!』と言った視線を向けてくるが、当のアレスがソレに取り合わずに涼しい顔をしている事と、止めを刺す事になった最後のやり取りに自分も参加していた事から、ソレ以上の追求を続ける事も出来ずにヒギンズを慰める事に注力して行く。
幾ら恋人関係に在るとは言え、草臥れた中年男性を慰めると言った作業を行っているハズなのに、何故か良い笑顔(慈しみと愛しさの混在する『母』と『女』の感情が同在している?顔)で彼の背中を何故か艶やかさを感じる手付きにて撫でているタチアナを尻目に、今後の方針を決めるべく再度アレスが口を開く。
「……取り敢えず、シーラさんの口振りだとコレは受けざるを得ないみたいなんで受ける事は必須とするにしても、その他はどうする?
やっぱり、依頼に載ってる対象や現地の下調べは当然しておくとしても、どんな事が起きるのか、監督役としてつく『栄光の頂き』の連中がどんなアクションを見せてくるのか、そこら辺の予想と対応についてある程度打ち合わせしておきたいんだけど?」
「……うむ、取り敢えず、この依頼書を見る限りでは、対象は『不変鉱大亀』であるか。出発地点として設定されているのは……ここアルカンターラで、目的地は南方の『フルフーレ湿地帯』であるな。
……あそこは、地面がぬかるんでいる上に、小さな毒虫が多く出る土地でもあるし、何より湿気が多いのが不快な場所であるな」
「その土地の性質のせいでしょうか?
背中の甲羅に蓄える『硬すぎる』事で有名な『不変鉱』が比較的容易かつ大量に採れる事から、発見し次第狩られる事が多い『不変鉱大亀』がこうして討伐対象となると言う事は、あまり行く冒険者が居なくて発見が遅れた、と言うことなのでしょうか?」
「地面が弛いとなると、ボクの橇も使えなさそうなのはちょっと面倒なのです。
やっぱり、虫除けの類いも沢山用意して置いた方がよいのです?」
「虫除けもそうだけど、何かされる可能性も高いと見ておいた方が良いだろうな。
特に、セレンは美人さんだしあのパーティーに欠けてるポジションでもある。何かしら手出しされる可能性は、否定出来ないと思う。多分だけど。
それと、ポジションが足らない、って点からだともしかするとガリアンだとかナタリアとかにも声を掛けられるかも知れないから、取り敢えずそうなったら報告よろしく。
……まぁ、自らの意思で誘いに乗る、って言うなら止めはしないけど、その場合はスパッとパーティー抜けてからにしてくれよ?」
冗談めかして溢された最後の一言に、そんな事する訳無いだろうが!とそれぞれの言葉で抗議するメンバー達と、ソレを眺めて微笑ましくしながらも何処か苦々しい感情を覚えてしまうヒギンズと、そんな彼の背中を励ます様に撫で擦るタチアナ。
多少やり取りにゴタゴタが紛れ込みはしたものの、取り敢えず『完全には信頼しない』『まずは警戒して当たる』と決定した『追放者達』は、その日の依頼を受ける事を諦めて昇格試験の受諾を了承し、依頼の期日迄に情報を集める事に決定したのであった……。
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