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パーティーから追放された万能型暗殺者がエルフの聖女、獣人の盾役、魔人の特化支援術士、小人の従魔士、オッサン槍使いと出会ったのでパーティー組んでみた結果面白い事になりました  作者: 久遠
『追放者達』岩人族の国を救う

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追放せし愚か者達・4

 


 アレス達がスタンピードを制圧し、ガンダルヴァ工匠国の危機を救ってから約一月程が経った頃。



 とある宿の一室にて、ある男が苛立たしげに汗に濡れた髪を掻き上げつつ、それまで事を成していたベッドから降りてテーブルの上の紙を手に取りながら、怒りと苛立ちが混ぜられた独り言を溢す。




「………………クソッ!一体、コレはどうなってやがるって言うんだよ!

 なんで、もう使い物にならないハズのヒギンズばかりが名を上げて、俺達は下り調子なんて事になってやがるんだ……!」




 そんな言葉を溢しながら、何処かやる気が無さそうにも見える中年の龍人族(ドラゴニア)が写る情報誌を握り締め、そのページを乱暴に千切り取って幾度にも引き裂き、無数の紙片へと変えてしまっているのは、元ヒギンズのパーティーメンバーであり、現在冒険者パーティー『栄光の頂き』のリーダーを務めているサイモンその人である。



『教授の儀』にて『魔剣士』の職を授かった彼は、パーティー内のポジションとしては前衛として敵に切り込み、主要な相手を落として戦線を引っ掻き回す事を旨とするアタッカーであり、当然の様に敵からの攻撃を多く受ける為に、未だ全裸のまま空気に晒されているその素肌には幾つもの大きな古傷の痕が見て取れる。



 サイモン本人も、それらの傷痕を自らの力量の証であり、激戦を潜り抜けて来た事の証明である、として事在る毎に周囲へと見せびらかして誇っているが、その実態としてはただ単に被弾がそれだけ多く、そして上手く攻撃を受けられていないと言う事への証左に他ならない。


 現に、同じ様に激戦の真っ只中に突っ込んで行くアレスにはそこまで大きな傷痕は残されていないし、敵の攻撃を真っ正面から受け止めて見せるガリアンにも身体の前面にはともかくとして背中は全くの無傷な状態になっている。彼とは違って、だ。



 …………とは言え、そんな事実は今自ら出した汗やその他の他にも諸々の液体にて身体を汚しながらも、ソレをどうにかする事を忘れて情報誌を床へと叩き付けているサイモンには全くもって関係無く、誰かが指摘したとしても鼻で嗤われるだけであろうが。




「……クソッ!クソッ!クソッ!!

 折角、力を奪って追放し、その後釜に収まったって言うのに、最近はあいつが居た時みたいに簡単に達成出来る依頼が回って来やしない!

 ……ギルドに潜り込ませてある協力者に色々と偽装させて時間を稼いではいるが、ソレもあまり長持ちはしないだろう事は目に見えてる。そろそろ、何かデカイ手柄が無いと不味い……だが、一体どうやって…………ん?」




 自らの爪を噛み締めつつ、滲み出てくる苛立ちのままに部屋の中を全裸のままで行き来していたサイモンであったが、その視線が偶然開かれた情報誌のとある一面を捉える事となる。



 ソコには、『最近昇り調子の『追放者達(アウトレイジ)』、そろそろランク昇格試験を受ける頃合いか!?』との見出しが踊っており、その際の合否判定の予想や、どんな依頼が試験として当てられる事になるのか、と言った下馬評が倩と連ねられていた。



 当然、先に冒険者としての高みであるSランクに至っているサイモンとしては面白くない事ばかり書かれている記事ではあったが、ソコに書かれていた『昇格試験』の文字を目にした途端に、サイモンの目の色が獲物を見付けた肉食獣のソレへと変化して行く。




「…………昇格試験、ねぇ……通例なら、Sランク相当の依頼を完全達成出来るかどうかを、既にソコに至っている冒険者パーティーに現地で見届けて判定させる方式を取る事になる、か……。

 ……仮に、仮に、だ。その監督役のパーティーとして滑り込み、現地でヤツのパーティー内部での評判を貶めつつ、そんなヤツでもこちらならば受け入れる、と言った感じに持ち込めれば、上手い事ヤツを引き戻しつつパーティーの主導権は握り続けられるんじゃないか……?」




 誰も聞いていない事を良いことに、ソレまでの独り言が段々と声量を大きくして行き、半ば大声に近い域にまで達して行く。




「その上で、試験自体は不合格扱いにしつつ、ヤツのパーティーメンバーには個別に声を掛けて『君だけは才能が在る』と囁いてやれば、コロッと靡いて俺の手足として働く様にもなるんじゃないのか!?そうなれば、そいつらからも『いずれ移籍させる時の為の準備に要るんだ』とでも言っておけば幾らでも絞り取れるだろうし、中々良い考えじゃないのか!?

 ……それに、そろそろパーティーに回復役と運搬役が欲しいと思っていたんだ。ついでに、支援役が居ても構いはしないし、やっぱりこいつも引き込んで喰っちまっても構わないよな?

 そろそろあいつらにも飽きて来たってのもそうだけど、あの乳は別格だからな!アレは、俺みたいな才気溢れる男にこそ相応しい!寧ろ、今は別の野郎に貸してやってるだけなんだから、そろそろ正当な持ち主である俺に返して貰っても構わないよな!うんうん!!」




 他に聞いている者が居れば正気を疑われる事間違いない内容を、全裸のままで股間をいきり立たせながら垂れ流しにするサイモンの視線は、拾い上げた情報誌に載せられていた一人の森人族(エルフ)の姿絵に固定されており、その表情は早くもだらしなく弛められている。



 既にその脳内では姿の人物が他のパーティーメンバーを振り切って自らの前に立っており、その輝かんばかりの相貌を仄かに赤く染めながらしなだれ掛かって愛の言葉を囁いて来ている光景が浮かんでいるらしく、その両手は相手の一部分をまさぐり回す事を想像してか実に気持ち悪くワキワキと動かされていた。



 そして、一頻り妄想の中で楽しんだ後、これからどう動けば自らの望みの通りになるのかを考えながら、新たに追加された汚れも纏めて落とすべく、部屋に備え付けられた風呂へと向かって歩いて行くのであった……。






 ******






『栄光の頂き』のリーダーたるサイモンが、その下衆な妄想を爆発させていたのとほぼ同時刻。



 人類の生息圏から遠く離れ、最早『秘境』と呼ぶ他に無い様な場所の奥地に存在する未開領域に不自然に造られた建築物の一角にて、複数の影が集まっていた。




「…………さて、では言い訳を聞こうか?『オルク=ボルグ』」



「……クククッ、はてさて、言い訳とは一体何に関してのモノなのかね?」



「はっ!惚けてんじゃねぇよ!

 忘れたとは言わせねぇぜ?テメェ、人間ごときに負けて逃げ延びて来たそうじゃねぇか!」



「そうよぉ。もしかして貴方忘れてるかも知れないけどぉ、ワタシ達の絶対の掟でしょう?

『人間に負けたモノ、人間から逃げたモノ。等しく魔族足り得ぬ弱者として粛清すべし』って。

 魔王陛下が定められた絶対のルールよぉ?」



「…………敗れ、落ち延びたのなら、仕方無い。早々に、自害せよ……」



「……まぁ、オルクさんの事情も分からないでも無いですが、我々は一応は幹部としての立場に在ります。

 例え、貴方がその地位に固執して居なかったとしても、最初は地位に就く事にすら難色を示していたとしても、陛下の復活までかなりの進歩を見せていたとしても、ソコは絶対的なルールとして定まってしまっています。

 ですので、結構強引に誘った手前いい辛いのですけど、最低限言い訳位はして頂かないと、僕としても助け船は出せないんですよねぇ」




 発言をした影の姿はそれぞれ、背丈が十メルト程も在る巨人、白衣を着た小鬼、筋骨隆々な人形の獅子、扇情的で豊満な肉体と翼に尻尾を携えた美女、文字通り無機質なパーツで構成された人形、異様に青白い肌と赤い瞳を持つ柔和な雰囲気の青年となっている。



 そんな彼らが発する圧力は、既に常人ならば発狂死していても不思議ではない程度まで高まっていたのだが、そんな事は関係無い、と言わんばかりに涼しい様子で白衣の小鬼は受け流して行く。




「別段、私は負けてはいませんがね?

 確かに、実験場の一つは奪われ、試作品も失う事になりました。また、当初の狙いだった裏切り者達の国も潰す事は叶いませんでしたね。

 ですが、あくまでも失ったのは旧式の実験場一つとプロトタイプの試作品でしかありませんし、国も潰す事こそは叶いませんでしたが、早々に大きな動きが出来ない程度の損壊は与えられています。

 ほぼ確実に、()()()()()()()に国として参戦する事は叶わないでしょう。これらは、功績としては充分なのでは?」



「…………手柄の話をしているのでは無い、面子の話をしているのだ!」



「…………はぁ、その犬も喰わない『面子』の問題で、私を殺しますか?

 別段構いはしませんが、ソレで陛下の復活が早まるのでしたら、どうぞご自由に?

 ちなみに、私が居なくなれば、私の計算では陛下の復活の目処を立てるまで後軽く百年近く掛かるハズですが、それでも構わないのでしょう?

 今回は召集に応じなかったドラゴンは静観を決め込む様子ですが、ソレで仕掛けて戦力が足りるのだと言い切れるのでしたら、ご自由にどうぞ」



「………………くっ!小兵の分際で……!?」



「……はい、そこまで!オルクさんも『スルト』さんも、今回はここまでにしておきましょう?

 オルクさんの処分は、功罪相殺でお咎め無し、って事でよいですね?」




 皮肉そうに口許を歪める小鬼に対し、眼光だけで相手を押し潰せそうな程の圧力を放つ巨人。



 そんな二体の間に、青年が仲裁として割って入る。




「えぇ、私は別に構いませんよ」



「…………ふん!『アルカルダ』殿の取り成しに、感謝する事だな」




 すると、元より相手にしていなかった小鬼はともかくとして、巨人の方もアッサリと引き下がり、双方ともに元いた位置へと戻って行く。



 そんな二つの影を見送りながら苦笑いを浮かべていた青年だったが、ふと思い出した様に小鬼へと問い掛ける。




「……そう言えば、オルクさんは例の『観察対象』に接触したのですよね?その時に、マーキングも済ませた、とか?」



「えぇ、まぁ。

 私ではどうにも出来なさそうでしたので、取り敢えず不意を打ってマーキングだけはしておいたので、現在地であれば道具を使えば探れますが?」



「…………『観察対象』と言えば、我が配下を撃破せしモノ、か……」



「えぇ、普通なら倒せなかったハズの『ゴライアス』さんの配下を下した故に、会議で『観察対象』指定を着けていた彼らです。

 …………しかし、そうなると彼らに僕らの事がバレちゃいましたか……言動を鑑みるに、そこまで積極的に敵対したり関わって来そうに無かったので『観察』で留めていましたが、やっぱり始末しちゃった方が良いですかねぇ……でも、例の試作品って総合力で見ると僕ら幹部とドッコイ位は在るって話でしたから、そうなると人選が難しいですねぇ……」




 そこで一旦黙り込んでしまう青年だったが、何処か『もうこれで良いか?』とでも言いたげな投げ遣りにも近い表情にて顔を上げると、目の前の影二つに言葉を投げ掛ける。




「下手に手出しして完璧に敵対されると面倒なので放置……と行きたい処ですが、やはり無視しきれる程度の戦力でも無さそうなので、ここはサパッと殺ってしまいましょう。

 ですが、相手は幹部に匹敵する程の試作品を倒してしまった実績が在ります。なので、戦力の逐次投入なんて阿呆の極みをするつもりも無いのでここは豪勢に幹部を二体程投入しようかと思います。

 と言う訳で、スルトさん、ゴライアスさん、お願い出来ますか?」



「おいおい!そう言う役目は、俺だろうがよ!?」



「人間の男相手ならぁ、やっぱりワタシの出番じゃないのぉ?」



「『レオルクス』さんと『テンツィア』さんはまた後で、ですよ。

 どうせまだ『勇者』になりうる相手は見付かっていないのですから、そちらが判明し次第投入させて貰うので我慢して下さいね?

 ……それで、どうですか?受けて貰えます?」



「…………良かろう。この『スルト=ムスペルヘイム』が、奴等を踏み潰してやろうぞ!」



「……了承した。『ゴライアス=マリオネッター』、出撃する」



「はい、ではよろしくお願いします。

 くれぐれも、バラバラに仕掛けて各個撃破されました、なんて醜態は晒さないで下さいよ?お願いですからね?」





 そんなやり取りを挟み、それぞれで解散して行く影。



 ……これにより、これまで歴史の闇に潜んでいたモノ達が、とうとう表舞台に大々的に干渉し始める事となったのであった……。




取り敢えず、予告の通りに今章はここまで

次回から次章に移ります



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