『追放者達』、事後報告を受ける
依頼を受けた『追放者達』のメンバー達が、依頼人でも在ったガシャンダラ王と冒険者パーティー『連理の翼』の二人組と協力してスタンピードの原因と思われる魔物を討伐してから数日の後。
『追放者達』のリーダーであるアレスは、このガンダルヴァ工匠国の国王でもあり、彼と個人的に友宜を結ぶ間柄でもあるガシャンダラ王に内密に呼び出され、ガンダルヴァの首都であるミョルニル中枢に設けられた秘密の隠し部屋へと赴いていた。
「よう、来たぞ。
それで?わざわざクソ忙しい中こうして呼び出した、って事は、ソレなりに用事があるんだろ?何があった?」
「いや、なに。
こちらも事後処理が一段落してな。そろそろ、事の顛末を説明しても良かろうよ、と思ってな。己も、一応は知っておきたい内容であろう?」
「…………まぁ、否定はしないさ。否定は、な」
そう言って肩を竦めるアレスに対し、まるで『仕方の無いヤツだ』と言わんばかりの表情にて目尻を緩めながら、以前と同じく用意されていた酒宴のジョッキを一息で飲み干すガシャンダラ王。
そして、空になったジョッキをテーブルへと置いてから、まず始めに、とばかりに例の巨大『粘性体』を撃破した場面から語り始める。
「取り敢えず、確認も兼ねて例のデカブツを倒した処から始めるが、ソコは己も覚えておるであろう?」
「あぁ、ソレは当然な。
俺達が協力してアレに止めを刺したは良いけど、その後に未開領域から大量に『粘性体』を含めた魔物が湧き出て来たのはビビったよなぁ……」
「……うむ、デカブツを倒し終えた処で気が抜けていた、と言う事も在ろうが、アレは完全に不意を突かれた形であったからなぁ……」
「おまけに、俺達もアレの相手で手一杯だった事も在って、大概が体力的にも魔力的にも結構ギリギリになってたからなぁ。
まぁ、そうやって油断していた処に、近隣に在った最大の脅威が消失した、って事がトリガーになってスタンピードが発生するとも、ソレの行き先に俺達がドンピシャで居る羽目になるとも思ってなかったからなぁ……」
「まぁ、ソレもどうにかなった訳であるから、こうして我らは生きて酒を煽っている訳だがな!がはははははっ!!」
「…………良く言うよ……」
豪快に笑って見せるガシャンダラ王に対し、ジトリとした視線を向けるアレス。
その視線には、確実に何かしらをガシャンダラ王が仕込んでいたのだ、と言うある種の『確信』を持っている様な強さが滲んでいる様でもあった。
そんな彼の視線に圧された訳でもないのだろうが、雰囲気的に何か言わなければならない、と判断してか、少々慌てた様子にて口を開く。
「……お、おいおい、何やら穏やかでは無い雰囲気だが、一体何を言うのだ?」
「はっ!どの口で、そんな事抜かしやがるよ?
あの時、アレを片付けた後に発生したスタンピード。アレは、俺達だけじゃあどうにもならなかった。万全ならともかく、あの消耗した状態ではとてもじゃないが対処できなかっただろうよ。
それは、覆し様の無い事実だ。
……なのに、俺達はこうして生きてここに居る。何でだかは、お前さんが一番良く知っているんじゃないのか?」
「…………そ、それは……!」
「……あぁ、そうだな。
偶々、お前さんが対原因用に準備し、かつシュピーゲル付近にまで進ませた状態で伏せていた精鋭部隊が、偶然アレ用に呼び出したタイミングで俺達がスタンピードに遭遇し、その上で運良く俺達が押し負けて飲み込まれる寸前に間に合った為にこうして生きていられる訳だが、少し都合が良すぎるとは思わないか?
主に、俺達に対して恩を一番高く売れるタイミングで、お前さんの部下であるこの国の部隊が到着した、って処が特に、さぁ?」
「………………」
「……黙りは肯定と見なすが、別に構わないんだろう?」
アレスからの詰問に、額から冷や汗を流しながら視線を逸らすガシャンダラ王。
そんな彼の様子から、自らの直感が正しかったのだろう、と言う事を確信するアレス。
そんな彼は、その巨体と言っても良いであろう体躯を縮めながら冷や汗を流し、彼と視線を合わせまいとしているガシャンダラ王へと向かって呆れは滲んでいながらも、怒気の類いは含まれてはいない声色にて再び口を開く。
「…………はぁ、別にそこまで怒ってる訳じゃねえから、そんなこの世の終わりみたいな顔してんなよ。
仮にも一国の王様だろうが。あんまり、情けない姿晒してくれるなよ?」
「…………良い、のか……?
己の事だから、てっきり大暴れして我の首を狙いに来るモノとばかり……」
「……お前さんが一体俺の事を何だと思っているのかは後でじっくり聞き出すとして、別段俺だって何だろうと構わず噛み付く狂犬って訳じゃ無いんだから、ある程度の理解くらいは示すさね。
どうせアレだろう?あそこで敢えて自軍に横殴りさせる事で、原因を討ち取ったのは外部から雇い入れた冒険者だが、スタンピードその物を静めたのは我々である!って事を国内外に喧伝させる為だろう?」
「…………はぁ、己にはお見通し、と言う訳か。
概ね、その通りよ。確かに我らが原因たるデカブツを討ち取りはしたものの、それまでスタンピードの被害から各所を守り続けて来たのは軍であるし、ここは我らの国だ。
流石に、我と友宜を結ぶ己がいたとしても、手柄を全てそちらに持っていかれては納得せぬ者も多くてな。
とは言え、先のアレはあくまでも偶然だからな?偶々、原因を究明出来たが故に戦力の集中を!と号を下して出撃させた後、あちらに到着したのがあのタイミングであった、と言うだけだからな?別段、ああなるのを狙っていた訳ではないからな?な!?」
「分かってるって言ってるだろうに!?
……そんな事より、さっさと続きを話せよ。俺達も、大本はどうにかなった、とは聞いているけど、他の処はどうなった、とかは聞いてないんだから」
「うむ、そうだな。
取り敢えず、やはりアレが今回のスタンピードが発生した原因で、かつ各地へと魔物を供給していた供給元であった事が判明している。ソレに伴って、各地での掃討作戦が展開中だ。
だが、一番厄介で我らと相性の悪かった『粘性体』は既に今居る分以上には増えないであろう事は分かっておるし、己らのお陰で倒し方も確立されている。だから、と言う訳でもないが、そう遠くない内に完全に掃討され尽くされる事になるだろうよ」
「ふぅん?じゃあ、被害の類いなんかは大した事は無かったのかね?」
「まぁ、追加のモノに関して言えば、確かに大した事は無かった様子だな。
それに、被害云々を言うのであれば、此度のスタンピードにて我らの手の内に転がり込んで来た大量の素材がもたらすであろう富を鑑みれば、恐らくそうしない内にスタンピードが発生する前と変わらぬ程度にまでは戻せるだろうよ」
「…………ほほう?なら、最初は被災地だからとある程度は辞退しようかとも思っていたけど、そんな事なら俺達に対して支払われる報酬にも、当然割り増し料金で色を着けてくれるんだろう?」
「うむ、ソレは当然だな。
と言うよりは寧ろ、報酬金に関してはアレが遺した魔核を売却して得られた分の資金を渡してしまっても我は良いと思っているのだが、如何せん今はそこまで先立つモノが無くってなぁ……」
「まぁ、その辺は現金化出来てからで良いよ。
どうせ、踏み倒そうなんて思ってないだろう?」
「やった後が怖いからな。
…………我は今でも覚えている。一度だけ、たった一度だけ酒場の支払いを己に押し付けただけなのに、その勘定を己に渡すまで毎晩毎晩寝ている耳元で恨み節を延々と囁かれる羽目になったのだから、な……どれだけの見張りを立てようと、直接護衛を部屋の内側に配置しようと必ず現れて同じ様に囁いてくれた故に、当初は気が狂うかと思ったぞ……?」
「アレはバカスカ飲み食いした挙げ句に、金欠に近かった俺に勘定を押し付けたお前が悪い。
それで?『報酬金に関しては』なんて枕詞を付けるって事は、他にも何かくれるのか?」
「爵位でもやろうか?」
「んな面倒臭そうなモノなんざ要らねぇよ」
「冗談だ。
取り敢えず、今回の功績を持ってして、正式に冒険者ギルドに対して己らのパーティーである『追放者達』を『Sランク』へと昇格させる様に打診しておく。
己ら程の実力が在れば、むしろAランク程度に留まっている方が損失が多いだろうからな」
「…………願っても無い事だが、本当に良いのか?」
「良い良い。国を救う手助けをしてくれた友に報いるためだ。この程度の骨は折ってやるさ」
「……なら、頼んだ。
何せ、ソレは俺達の目標の一つでも在るからな」
「……ふっ!なら、目標への第一段階が成された事に、乾杯でもするか?」
「……あぁ、そうだな。乾杯でもするか!」
そうして二人は手にしたジョッキをぶつけ合い、互いに腕を交差させて組んだ状態でソレを飲み干すと、揃って笑顔で空になったジョッキをテーブルへと叩き付け、声を揃えて笑うのであった。
取り敢えず今章の本編はここまで
次にお決まりの閑話を挟んで次章(最終章予定)に入ります
そこまでお付き合い頂ければ幸いですm(_ _)m
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