『追放者達』、巨大『粘性体』を撃破する
寸前まで掲げていた得物に光を纏わせ、目の前の巨大へと振るって見せたアリサの一撃により、冗談みたいに綺麗に真っ二つへと割り裂かれる巨大『粘性体』。
その突然の事態に、後方にて援護を飛ばしながら見守っていた女性陣も、半数をその周辺にもう半数を前衛修練に展開していた従魔達も、反動やダメージが抜けきって漸く動ける様になったガシャンダラ王やヒギンズも、寸前まで彼女を守るべく盾となっていたガリアンも、そして当の真っ二つにされた巨大『粘性体』ですらも、突然の事態に驚愕し、あまりの衝撃的な光景に思わず息を飲んで固まってしまう。
そんな中、男性陣の中では唯一驚愕に染まらずに苦い顔をしているアレスと、女性陣の中で唯一普段の無表情から自慢気なソレへと表情を変化させてるカレン。
かつてパーティーを組んでいた過去を持つ彼らは、当然の様に彼女が使った剣聖の専用スキルである『断空』も目にした事があり、その威力や効果も実に良く知っていた。
…………そう、その最上級の天職を産まれ持って与えられた『選ばれし者』とそうでない者との差を、自らと同じ境地に在る者が居ると言う安堵感を、それぞれが胸に抱き続けていたのだ。
とは言え、そんな事はソレには関係無い、とばかりに両断された右側の傷口の表面を蠢かせ、体液の流出を止めると共に触手を伸ばして再び一つに再生しようと試みる巨大『粘性体』。
ソレを目の当たりにし、折角与えた大ダメージ(推定)が無駄になる!?と急いでどうにか止めるべく飛び出そうとする男性陣と、焦りを含んだ声を挙げる後衛の女性陣。
……しかし、そんな中でも、アレスとカレンの二人だけは慌てる事はせず、落ち着きを払ったままに次の行動に繋げるべくカレンは魔力を集中させて高め、アレスは腰のポーチに移していたポーションを取り出して手元に準備しつつ、何時でも駆け出せる様に腰を落としておく。
そして、巨大『粘性体』が伸ばした触手が分かたれた半分へと接触し、再び一つになろうとしたその時。
まるで、今も体液を垂れ流しにしているただのゼリー状の肉の塊になっているハズの半分に、再び一つにになる事を拒まれているかの様に伸ばされた触手が弾かれてしまう。
元々同じ身体であったハズなのに、何故……?
そんな疑問からか、もしくはただ単に弾かれた事が衝撃的であったからかは定かではないが、ソレは目の前に敵が迫ってきている事も、身動きする事すらも最早忘れてしまっているらしく、まるで出来ていた事が出来ずにむきになっている子供の様に、何度も何度も同じ様に触手を伸ばしてもう半分へと触れるが、その度にやはり触手は弾かれて一つに合体する事を妨げられてしまう。
目の前に広がる光景に唖然としながらも、それでも勝機と見た前衛組は、取り敢えず何が起きているのかについては置いておく事にしてこれ幸いと次々に襲い掛かって行く。
両者の対極的な姿を目の当たりにして、その光景を作り出した張本人であるアリサは、得物を振り下ろした姿勢を崩す事無く全身から噴水の様に出血しながらもその口許に笑みを浮かべる。
「…………はっ!あの野郎、傷が治らなくてアタフタしてやがる。
当然だろうがよ?仮にも剣聖にだけ許された奥義にして、『切断』の概念を部分的かつ強引に具現化させた『断空』を喰らったんだぞ?
傷口丸ごと廃棄して再生する位するならともかく、切り離された部分を取り込んでなんて程度の中途半端な再生なんざ、発動すらする訳がねぇだろうがよ!ザマァ見やがれってんだ!
…………あぁ、クソッ!でも、この反動は何回やってもなれねぇなぁ……超痛ぇ……」
「……だろうと思ったよ。
……でも、良くやった。後はこっちで片付けておくから、休んでおけ」
「…………っ!!
…………へ、へへっ……何だ、こうやって誉められるのって、こんなに、嬉しかったんだな……オレ、バカだなぁ……」
そして、背後から迫る極大の高位魔法に追走する形で駆け込んで来たアレスが、彼女とすれ違い様に用意していたポーションを投げ付ける形で使用すると同時に、労いの言葉を投げ掛けてから目の前の巨大『粘性体』へと目掛けて突き進んで行く。
一方、そうして久方ぶりに彼からの労いの言葉を受け、些か乱雑ながらも労る行動を受けた為に、そう言った行為を受けた場合に得られる歓喜を改めて実感すると同時に、それらを自らの手で捨て去った自分達の行為をも改めて実感し、胸の痛みを感じながら目尻に涙を浮かべて行く。
そんな彼女の前方では、それまで触手を伸ばして再び一つに再生しようとしていた巨大『粘性体』と、ソレに取り付いて自らに対して注意が向けられないのを良いことに、縦横無尽に暴れまわる前衛組と従魔達の姿が。
……しかし、何時まで経っても合体出来ない事に焦れたのか、それともそうは出来ない、と言う事を理解したからかは定かではないが、どうやらソレは『合体しての再生』を諦めて、分かたれた半分を『吸収しての再生』に切り替えたらしく、伸ばしていた触手を肉塊に突き刺すと、ソコから吸い取る様にして吸収を始めて行く。
それにより、ほぼ真ん中から両断された関係で断面から覗いていた巨大な魔核の周辺にも新たな肉の盛り上がりが発生し始めると同時に、それまで前衛組が削っていた分の肉も再生を始めてしまう。
故に、と言う訳でもないのだろうが、前衛として取り付いていた面々もその攻撃の手を早めて行くが、精々自らが傷付けている部分の損傷を維持する程度でしか無く、他の部分は徐々にでは在るが修復する速度の方が勝っている様子であり、そう遠くない内に完全に修復されてしまうだろう、と絶望感に満ちた予想が各自の胸の内に立てられてしまった正にその時であった。
彼らの頭上を覆い隠し、それまで降り注いで来ていた陽光を遮る程に巨大な『何か』が現れたのは。
異変に気付いた面々が、思わず攻撃の手を止めて背後を振り返り、天を仰ぐ。
するとソコには、未だに淡く燐光を放つ魔法陣を背後に背負いながらも、ほぼ完結した事象としてその姿を確立させようとしている、真っ赤な焔を纏った巨大な岩石に見える物体が鎮座していた。
魔奥級複数属性混合魔法『星落とし』。
相手の頭上に土属性魔法にて巨岩を生成し、そこに火属性を添付した上で重力魔法によって加速して撃ち出すと言った、手順を説明すれば至極簡単そうにも思える魔法。
……しかし、そもそもの話としてまず二属性を操れないと弾である巨岩が作れなかったり、元々『重力魔法』自体が属性魔法では無い独立した系統の魔法であるが故に習得が困難で、更に言えばそれらを実行するに足るだけの魔力を持ち合わせ、かつそれらを寸毫の狂いも無く制御出来る者と言えば『賢者』の天職を授かった者位であるが為に、ほぼ賢者専用のモノと化している魔法の一つである。
そんな、トンでも威力が勢揃いしている魔奥級の中でも超級の大魔法を、特に合図が在った訳でもないのに放たれてしまった前衛達は、突然味方を巻き込む様な形で危険な魔法を発動させてくれやがったカレンに対して口々に罵声を挙げつつも、着弾地点と思わしき(と言うよりもソコしか無い、と言うべきか)巨大『粘性体』から必死の形相にて退避して行く。
当然、ソレも『星落とし』の発動は察知出来ていた様子だが、その巨大過ぎる程に巨大な身体は咄嗟に動かす事には全くもって向いていないために回避する事は不可能と判断したのか、直撃して来るであろう上部により多くの触手を生やして幾重にも重ね織り、ゼリー状とは言え即席の防壁を生成して行く。
それから然程間を置く事無く『星落とし』が完成し、展開されていた魔法陣から勢い良く真っ赤に燃え盛った巨岩がソレへと目掛けて降り注ぐ!
対して、巨大『粘性体』の方も、絶えず内側から触手を新たに生やしては重ねて行き、着弾前から延々と防壁を厚くする事に余念を置かず、ひたすらに分厚く作り上げて行く。
斯くして、灼熱の巨岩が肉の防壁へと激突し、周囲に衝撃波が広がって行く。
それと同時に巨岩に秘められていた威力が解放され、ソレが展開していた防壁の殆どがそれによって吹き飛ばされただけでなく、辛うじて残された防壁も、巨岩が纏っていた焔によってもたらされた赤熱によってジュウジュウと音を立てながら灼かれて行く。
更に、巨岩その物の重量が、吹き飛ばされ灼かれた事によって脆くなっていた防壁へと重くのし掛かり、今にも巨大『粘性体』その物を押し潰さんとしているかの様に圧迫して行く!
……しかし、次の瞬間には、ソレまでの倍近い触手が突然ソレの身体から生え出して来て、脆くなっていた防壁に食い込む巨岩を覆う様にして巻き付くと、灼かれて千切れて行くのに構う事無く締め上げ始め、最後には触手の圧力によって締め砕いてしまう。
その姿を良く良く見てみると、元の小山程在った身体の殆どを触手の生成へと回したお陰でそんな事が可能になったらしく、身体の大きさもかなり縮小されて今では大きめな象程度の体積にまで減ってしまっており、人の背丈程も在る魔核はソレを守るハズの肉が足りなくなってしまっているからか、一部とは言え露出して空気に直接晒されてしまっている様にも見て取れた。
だが、先の『星落とし』を砕く為に伸ばされた無数の触手がその周囲を蠢いており、とても近付いて魔核を攻撃する事が可能な雰囲気には見え無い上に、そもそもの話として『星落とし』が落下した衝撃を避ける為に前衛達は後退して避難していた為に、容易に攻撃できる様な距離に居なかった、と言う事も在るかも知れない。
その上、生やしていた触手の幾らかを肉体へと戻して防御を固め始めただけでなく、周囲の地面やその他の諸々を取り込んで吸収して失った肉体を再生させようとする動きを見せ始めた事により、メンバー達の胸中にて『万事休す、か……』と言った諦感にも似た感情が伝播し始める。
が、時を同じくして各種スキルを限界まで行使し、姿を隠した状態にて『星落とし』の衝撃波すらその場で耐えきって見せたアレスが、触手の隙間を縫って剥き出しになっていた魔核へと歩み寄ると、特に躊躇う事も無く手にしていた得物を無造作に魔核へと突き立てる。
その段に至って漸く他のメンバー達も、ソレもアレスの存在に気が付いたらしく、メンバー達は呆気に取られながら彼を指差し、ソレはまるで動揺しているかにも見える様に触手を震わせながら彼へと向けるも、それが届くよりも前に力尽きたらしく勢いを失って地面へと崩れ落ち、形を保つ力を失って地面へとその身体を広げてしまう事になるのでった……。
取り敢えずボス戦はここまで
オチが呆気無い?細かい事は良いんだよぉ!?
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