『追放者達』、『魔族』と相対する
「…………魔族、だと……!?」
目の前の存在が放った言葉に『追放者達』で一番見識の深いヒギンズですらその耳慣れない言葉に首を傾げる中、唯一ガシャンダラ王のみが言葉を震わせながら反応する。
普段は剛毅に吊り上げられている口元が引き絞られ、その眼光は目の前の存在を射抜かんとする程に鋭く力が込められていた。
「……貴様、今『魔族』と、そう言ったのか?
その言葉が持つ意味を、本当に理解して使っているのだろうな?」
「……クククッ、まさか、こうして姿を晒してやってまでいるのに、私の言葉を疑うつもりかね?ただの偶然のハズだ、と。こいつは本当に言葉の意味を理解して使っている訳ではないハズだ、と。この私の姿を目にしてなお、理解を拒んでいると言う事か!最早嗤わずには居られないな!
…………随分と腑抜けた様子だな、かつての同胞にして陛下を裏切りし者共の末裔は、その程度の事ですら説明されねば理解出来ないのかね?」
「…………貴様、何故ソレを……!?」
自称『魔族』が放った言葉により、より一層得物を握る手に力を込めつつ、視線に殺気を滾らせて行くガシャンダラ王。
そんな彼を嘲笑うかの様にニヤニヤと口元を歪める自称『魔族』から視線を逸らし、表情を険しくしているガシャンダラ王へとアレスが問い掛ける。
「……おい!さっきの口振りだと、お前さん何か知ってるんだろ?なら、さっさと吐け!魔族って何だ?裏切り者って何なんだよ!?」
「うるせぇ、ガキは黙ってろ!
世の中、知らなくても良いことってのが在るんだよ!」
「おやおや?もしや知らないのかね?我ら魔族の事を?
まさか、それすらも教えていなかったのかね?本当に、腑抜けた様子だな?あの裏切り者なら、そんな手緩い事はしなかったと心得ているがね?
我ら魔族が、魔物の中から進化の果てに現れる知性持つ特異な存在であることや、ソコにいる『岩人族』と名乗る存在が、かつて我らと同じ主に仕えながら、貴様ら人間側へと寝返った存在を祖とする存在である事すらも、未だに教えて居なかったと言う事なのだろう?本当に、滑稽だな?」
「………………ソレって、マジで……?」
「……………………あぁ、クソッ……!そうだよ、あの野郎の言う通りだ!俺達の祖先は魔族、引いては魔物だ。それは、事実だよ……。
……まったく、教えるつもりなんて無かったって言うのに、余計な真似してくれやがって……!」
「クククッ!ついでに言えば、ソコにいる獣混じりと半端者も、元を辿れば我々の同胞に行き着くのだが、ソレも知らなかったのかね?」
「…………なん、であると……!?
当方も、であるか……!?」
「え、アタシも!?」
思わぬ事実の発露と、ソレによる意外な方向からの流れ弾によってガリアンとタチアナも驚きの声を挙げて行く。
しかし、それらに構うつもりは無い!と言わんばかりの勢いにて一瞬で目の前の『魔族』との距離を詰めると、その手にしていた得物を振りかざし、摩擦で空気が焦げ付きそうな程の勢いにて自称『魔族』へと目掛けて振り下ろす!
……が、当然の様に、少し前に行って見せた通りにガシャンダラ王の刃が届く寸前にて姿をその場から掻き消してしまい、同時に離れた別の場所にてその姿を再び現して行く。
「……クククッ、無駄無駄無駄、無駄だよ!
私自らが設計して造り上げ、大規模魔法陣を基礎に仕込んだこの建物内部限定にはなるるが、自在に空間を行き来する事を可能としているのだ!その程度の攻撃が、当たるハズが無かろうが!」
「……ふっ!だが、その力も逃げるだけにしか使えないのだろう?そうでないのなら、先の奇襲でアレスを落としておかないハズが無いからな!
逃げ回るだけで、我らをどうにか出来るとは思わない事だ!ここを詳しく調べるのは、その後でも構うまい!!」
「クククッ、だとしても、ソレも無駄な未来設計だな。
貴様の予想通りに、確かに私では貴様らを倒すのは不可能だろう。何せ、私は見ての通りに非力な『小鬼』から進化した魔族だ。陛下が封印されてから研究を続けてきはしたが、結局限定空間下での空間転移は可能としても、敵を倒しきる力は終ぞ得られはしなかったからな。
……だが、私が自分で倒せないのであれば、倒せるモノに倒させれば良いだけの話だ!
そう、貴様らの目の前にいる、コイツの様な存在に、な!!」
当たらないのならば当たるまで攻撃すれば良い、とでも言わんばかりの勢いにて再度ガシャンダラ王が突撃しようとした瞬間、またしても嘲笑うかの様に口元を歪めた自称『小鬼の魔族』は、その場から転移して逃げる事もせずにパチンッ!と指を鳴らして見せる。
……すると、今にも踏み出そうとしていたガシャンダラ王や、そのサポートに入るべきか、それとも彼を止めてもっと喋らせるべきかで悩んで即座には動けなくなっていたアレス達『追放者達』の耳に、予想だにしていなかった方向から、何か硬質的なモノにひび割れが入った様な『ピシッ!』と言う音が聞こえて来る。
油が切れて錆び付いたブリキの人形の様な動きにて、断続的にピシリッ、ピシピシリッ!と音の聞こえて来る方向へとアレスが視線を動かすと、その先には案の定例の巨大な『粘性体』が収まっているガラスケースが存在しており、信じたくない事実としてその一部に罅が入っており、現在進行形にて徐々にとは言え広がっているのが容易に見て取れた。
何かしらの衝撃を受けたからか、もしくはそう言う仕掛けを予め施していたからか不明だが、それまで大人しくしていたハズの巨大『粘性体』は自らそのケースから外に這い出ようとしているらしく、盛んに蠕動を繰り返して頻りにその形状を変化させ、表面を波打たせている。
その光景に呆気を取られて固まるアレス達へと、追撃を下す様にして自称『小鬼の魔族』の笑声が叩きつけられて行く。
「クククッ!驚きのあまり声も出ないか?
まぁ、ソレも当然だろう。何せ、この『試験体α』は外に放していた『量産体α』のベースとなった存在だ。
製作過程にて付与する事に成功した、『量産体α』が持ちうる以上の強力な物理耐性に、周囲から素材を補給出来る限り量産体αを生産し続ける事が可能な能力を持ち、魔法にすらある程度の耐性を持つコイツの相手を是非とも務めてはくれないかね?
あぁ、拒否するならば、ソレはそれで構わんよ?そうなった場合、この『試験体α』が外にいる『量産体α』や新たに生産する『量産体α』を統率し、近隣の国家を食い荒らす事になるだろうが、君らには欠片も関係の無い事だろうからな。そう言うのは、君ら人間の特異分野だっただろう?」
「……なっ!?と言う事は、今回のスタンピードも!?」
「ふむ、私が原因だろうな。正確に言えば、この『試験体α』だろうが、ね。
まぁ、とは言え私自身はこれ以上君達と戦うつもりは無いのでね。当然ながら避難させて頂くよ。
ちなみに言っておくと、私はここと同じ仕組みを敷いてある場所にならば同じく空間転移を可能としているから、どうにかして『試験体α』から逃げつつ私を探し出して始末を着けよう、等とは思わない方が良いぞ?やるだけ無駄だからな」
「なっ!待て、逃げるな!?」
「クククッ、逃げるなと言われて足を止める阿呆が居るハズが無いだろうに。
さて、では私はコレにて失礼させて頂こうか。
だが、その前に君らは二度と耳にする事は無いだろうが、一応名乗っておくとしようか。
……私は『オルク=ボルグ』。かつてこの地上を支配していた魔王陛下に仕えし魔族の一人にして、魔王軍の幹部に名を列ねるモノだ。覚えてくれなくても結構だがね」
そう言い残して空間転移を発動させ、一瞬にてその姿を掻き消してしまうオルク=ボルグ。
次の瞬間には、それまでヤツが居た場所に無数の遠隔攻撃が突き刺さり、万が一そのまま残っていたとしても確実に蜂の巣にされていただろう数の攻撃によって床が破壊されてしまう。
ヤツが去り際に残して行った新たな情報に愕然としつつも、どうにかして呑み込もうとしていたアレス達の背後から、更にガラスケースのひび割れが広がって行く思わず耳を塞ぎたくなる音が彼らの耳に届いて来る。
そして、その次の瞬間には甲高いガラスの破砕音が周囲へと響き渡り、密閉空間から解放された事も相まって、その身体を半ば津波と化して周囲へと流出させて行くのであった……。
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