『追放者達』、鍛冶師と対談する
『連理の翼』と共にガシャンダラ=スィデラス・ガンダルヴァを護送しつつ、未開領域にて発見した謎の建築物を探索・攻略せよ。
そんな依頼を、ガシャンダラ王による『王命』とした下されたアレス達は、表面上は渋々と、内心は非難轟々にて再度未開領域へと突入する為に、武具をメンテナンスに出したり、消費した物資を補給したりと言った諸々の準備を整えて行く。
「…………そこで、あの野郎なんて言いやがったと思うよ!?
あろうことか、俺に『あいつらと一緒に探索してこい』だぞ!?あの時はマジでぶん殴ってやろうかと思ったよ!!」
「……なら、実際に一発噛ましてやれば良かったじゃろうに。
少なくとも、お主ならばその気になれば良いのを入れる事も出来るじゃろうし、ソレを実行しても咎められる心配も無い立場に在るのじゃから、やっておけば良かったであろうよ。少なくとも、こんな風に鬱憤を溜め込んで、爺の仕事場に押し掛けて愚痴を溢すのよりは、余程健全と言うモノであろう?」
「……ぐっ!?
……それは、確かにそうだけど……」
馴染みのドヴェルグに呆れ混じりの声色にて返され、思わず言葉に詰まるアレス。
そして、彼のそんな様子を目の当たりにし、手の施し様も無いわ、と言いたげに鼻息を吐くドヴェルグが居るのは、彼に与えられた鍛冶場の一角だ。
本来、ミョルニルにて待機する予定であったドヴェルグなのだが、アレス達がこのシュピーゲルを最前線として認定し、かつガシャンダラ王が秘密裏かつバランスが崩壊しない程度に調整して戦力をシュピーゲルへと移動させ始めた事に便乗し、こちらへと移動してきていたのだ。
本人曰く、自分は鉄を叩く事しか出来ないし、そう言った仕事は前線の方が多く在るのだからそちらに居た方が良いだろう、との事だ。
そんな事を宣うものだから、それが例え老人であろうが、自らの血縁であろうが、あのガシャンダラ王が『天鎚』の称号を持つ者を遊ばせておくハズも無く、こうして鍛冶場の一角を貸し与えられて諸々の作業に従事していた、と言う訳だ。
ひょんな事からソレを知ったアレスは、そろそろ得物をメンテナンスする必要が在るから、と言う事を口実にしてそこへと突撃を仕掛け、現在に至る、と言う事なのである。
ついでに、と彼がメンバー達から装備を預かって来ていた為に、この鍛冶場には今暫くの間は二人きりとなる。
だから、と言う訳でも無いのだろうし、最初は彼も以前からの付き合いが在ったドヴェルグの顔を見に来る程度のつもりであったのだが、自分の事情を全て把握している相手につい口が弛み、今の様なやり取りをする事になってしまっていたのだ。
「……全く、お主はここぞと言う時に限って、その様に口数が増えよるな。それは、リーダーとしては悪い癖で、仮にもお主の部下に相当するメンバーには見せられては不安を招いて足を掬われかねない状況であると分かっておるのだろうな?」
「…………ぐむぅ……」
「まぁ、分かっておるから、こうして儂の様な無関係で口を滑らせないであろう者に対して愚痴っておるのであろうが、ソレはあまり良い傾向でも無いとも理解しておくのじゃぞ?
秘密主義にならざるを得ないのは理解出来るが、ソレはソレで仲間内に不和をもたらすからの。自分達はそんなに信用ならないのか!と言った具合にな」
「………………いや、別段俺はそうやって説教受けに来た訳じゃ無いんだが……」
「なら、慰められに来たつもりであったか?
もしそうだと言うのなら、あの聖女の嬢ちゃんの巨乳にでも顔を埋めて慰めて貰えば良かろうよ。そうでないと言うのなら、お主は年長者に対して愚痴を溢した段階で、既に助言を求めて来ておると言う何よりの証左であろうよ」
「………………ぐ、ぐむぅ……!?」
正論過ぎる程の正論を返されてしまい、言葉に詰まるアレス。
比較的弁が立ち、ソレによって『連理の翼』に所属していた時には周囲からの敵意を和らげつつ味方を作っていたりしたのだが、今回は舌の根が錆び付いてしまった様に押し黙り、殆んど一方的に言われるがまま、と言う状態になってしまっていた。
思わず黙りを決め込んでしまうアレスを横目に、ドヴェルグは本来の仕事として持ち込まれた彼らの装備を解体し、損耗具合を確認してから手直しとして打ち直したり、部品を取り替えたりして彼らが命を預ける武具を少しでも万全の状態へと近付ける様に整備して行く。
暫しの間、鍛冶場は沈黙が支配し、響くのは金属同士がぶつかり合う甲高い音のみ。
時折、刃を砥石で研ぎ上げる澄んだ高音や、革を裁つ音が響きはするものの、それでも二人が口を開く事は無く、ただ黙々と作業が進められて行く。
そして、一通りの手入れが終えられ、数々の武具が元の形と輝きを取り戻した状態となった段階で、手の汚れをボロ布で拭いながら黙りを決め込んでいたアレスへと向けて言葉を投げる。
「…………それで?結局の処として、お主はどうしたいのだ?
どうせ、何かしらの答えは既に出ておるのだろう?」
「…………だが、そんな事を言っていられる場合じゃあ……」
「そんな場合だから、であろうよ?
そもその作戦、肝心要はお主らであろう?なれば、その要望が通らぬハズが、通されぬハズが無かろうよ。余程の無茶でなければ、と言う前提が在るがな」
「………………」
「まぁ、ここにこうして来ておると言う事は、既にお主の中で答えは固まっておるのであろう?なれば、ソレを彼の青二才にぶつけてやれば良い。
何せ、国の大事を押し付けておるのだ。流石に否やは在るまいよ」
「………………本当に、良いのかな……?」
「何を考えておるのかは、儂も知らん。が、どうせお主の事であれば、そこまで他人を巻き込む様な事にはならんであろう?なれば、好きにすれば良かろう」
「…………そう、か……。
なら、少し我が儘言ってみるとするよ。
話聞いてくれて有難う。ちょっと行ってくる!」
「ほっ!どうせ儂は話を聞いただけに過ぎぬ。感謝される筋合いも特には無いわい!
…………気張れよ。お主に先立たれてしまえば、また儂の人生から張り合いが喪われるでのう」
そう言って、さも『さっさと行け』と言わんばかりの態度にて背を向けて手を振るドヴェルグと、ソレに無言のままで頷いてから並べられた武具をアイテムボックスに収納して足早に鍛冶場を後にする。
そして、その足でガシャンダラ王が居る場所まで移動すると、手短に挨拶を交わしてからこんな事を口にする。
「…………例の作戦、承諾しても良い。
だが、その前に一つ条件が在る。それは、ソレだけは呑んで貰いたい」
「…………ほう?己がそう口にすると言う事は、それ相応に重大で、かつ重要な事なのであろうな?」
「あぁ、俺にとっては、それ相応に重大な事柄だ。
少なくとも、コレが果たされない限りは、俺達は安心してお前を同行させる事は出来ないし、あいつらに背中を預ける事も出来やしない。
だから、コレは絶対だ。コレが果たされない限り、悪いが俺達は作戦には従事出来ない。最悪、俺達だけで突入してどうにかしてくる」
「………………ならば、聞こう。己の望みとは、一体何ぞや?」
「……俺の望みはただ一つ。たった一つだけだ」
そして、アレスはその胸の内側に仕舞い込んでいた望みを口に登らせると、ガシャンダラ王は即座にソレを了承し、速やかに実行される流れとなったのであった……。
アレスの望みとは?
そして、スタンピードには間に合うのか!?
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